質問:
以前のRAQに、シリコンICの動作は-55~+155°の温度範囲で保証されているが、それよりもう少し広い範囲でも動作する(保証はできないが)と書かれていました。では、シリコンの範囲外の温度を測定するにはどうすればよいでしょうか?
回答:
精巧なオーブン温度測定装置がありさえすれば、アルフレッド王は農家のおかみさんのパンを黒焦げにさせずに済んだでしょう。西暦880年といえども、そのこつさえ知っていたら王様も熱電対を作れたかもしれません。広範囲の温度を測定できる非常にシンプルなデバイスとして、熱電対があります。
材質が異なる2つの導体を温度が異なる2つのポイントで接合すると、その接合によって形成されたループに起電力(emf)が生じます。このemfは温度差の関数であり※1、2300°Cほどまでの高温や、数ケルビンという低温も測定することができます。接合点(ジャンクション)の一方の温度は測定対象となり、もう一方のジャンクション(測定される温度より高温の場合であっても「コールド」ジャンクション(冷接点)と呼ばれることがよくあります)はリファレンス温度になります(昔は、0°Cのリファレンスのために氷と水を混ぜたものがよく使われました)。
材質が異なる2本のワイヤはシンプルであり、一般的に安価でもあるため※2、熱電対は広い分野で利用されています。リファレンスが一般に室温の±10°C以内で、それほど高精度の測定値が必要ない場合は、コールド・ジャンクション補償のない熱電対がごくふつうに測定に使用されています。たとえば、ボイラーのフレーム・センサーなどがそうです。
高精度の温度測定が必要な場合は、コールド・ジャンクションの周りの温度を既知のリファレンス温度に維持しなければなりません。ただ、氷はどこでも手に入るわけではないので、不便です。しかし、コールド・ジャンクションの周辺の温度が常にわかっていれば、一定の温度である必要はありません。コールド・ジャンクションの温度が-55 ~+155°Cの範囲を出ることはまずないので、シリコン・センサー(半導体温度センサー)で測定することもできます。こうして、emfとコールド・ジャンクション温度を使用すれば、測定対象である「ホット」ジャンクションの温度を計算することができます。
この「コールド・ジャンクション補償」はデジタル・コントローラ(マイクロ・プロセッサ等)で実行できますが、コールド・ジャンクション・センサー、熱電対アンプ、補償回路を集積したシンプルなアナログ・チップもあります。 AD594 /AD595、 AD8494 /AD8495 /AD8496 /AD8497 などの回路がそうです。アルフレッド王にもこのようなチップがあったら、最高のパンが焼きあがっていたことでしょう。
※1 この関数はおおよそ5 ~ 13次の多項式関数ですが、熱電対のタイプによっては特定の範囲で単純な比例が成立するものもあります。
※2 例外的に高価な熱電対としては、プラチナ(B、R、S)および金鉄/クロメルの熱電対などがあります。