熱すぎるのも冷たすぎるのも、ちょうどいいのかもしれない*

質問:

絶対最大温度と絶対最小温度は、電圧定格や 電流定格と同じように絶対なのでしょうか?

RAQ:  Issue 31

回答:

まったくそんなことはありません。ICメーカーは温度定格の範囲外でのデバイスの使用を保証するわけにいきませんが、限界を超えるとICが突然機能しなくなるわけではありません。定格外の温度でICを使用することに決めたら、エンジニアのほうでICがどれくらい正しく機能するか、動作が一貫しているかを自分で判断しなければなりません。

一般的に役に立つ目安があります。約185~200℃の温度(正確な値はプロセス次第です)では、リーク電流の増加とゲインの減少のためにシリコンICの挙動が予想不可能なものになり、ドーパント拡散が加速するために寿命は数百(せいぜい良くても数千)時間までになってしまいます。このような温度でも、ドリルヘッドの計測機器などのアプリケーションでは通常ICが使用されています。この場合、性能が低下したり寿命が短縮してもかまわないからです。ただし、これよりやや高い温度では稼働寿命が短すぎて役に立たなくなってしまうこともあります。

極低温では、キャリアの移動が減少するためにデバイスの機能は最終的に停止してしまいますが、回路によっては仕様の範囲外の50K°未満の温度でも機能します。

基本的な物理特性だけが制限要因ではありません。設計上の理由によって、ある温度範囲の性能を向上させるためにそれ以外の温度での誤動作はやむをえないと妥協することがあります。たとえば、温度センサーIC「AD590」は起動していれば液体窒素の中でも機能し、その後冷えていきますが、最初から77K°では起動しません。

さらに微妙な影響が性能の最適化によって生じます。商用グレード(0~70℃)のデバイスはこの温度範囲で精度がきわめて良好ですが、この範囲を外れると大きく乱れます。他方、同じデバイスでも軍用グレード(-55~+155℃)の製品は、異なるトリミング・アルゴリズムを利用していたり、場合によっては回路設計も若干異なるため、もっと広い温度範囲で精度の低下はごくわずかです。グレードの違いはテストの差だけではない場合があります。

そのほか、パッケージ材料がシリコンより前に故障する場合があること、そして熱衝撃の影響という2つの問題があります。ゆっくり冷却されるのであればAD590が77K°でも機能するといっても、液体窒素の中に突然放り込まれたら過渡的な高い熱機械ストレスに耐えられないでしょう。

デバイスをその仕様規定された温度範囲外で使用する唯一の方法は、テストにテストを重ねることです。これによって、標準外の温度が複数の異なるロットで製造されたデバイスの動作にどのような影響を与えるかを理解することができます。想定できるかぎりあらゆる場合についてチェックしてください[1]。ICメーカーがあなたの役に立つこともあれば、そうでないこともあるでしょうが、おそらく規定温度外の動作については何の保証もしてくれないでしょう。

* 『The Goldilocks Enigma』 (Paul Davies著、ISBN 0547053584)
[1]「自分の思い込みをチェックしなさい。実際、自分の思い込みを入口でチェックするのです。」―『Barrayar』(Lois McMaster Bujold 著、ISBN 2290313157)。

 


 

 

著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。