バッテリ駆動のシステムで最適な電力変換効率を達成する方法

質問:

バッテリ駆動の機器にパワー・マネージメント・システムは必要ですか?

Designing for Optimal Power Conversion Efficiency in Battery-Powered Systems

回答:

はい。通常、バッテリ駆動の機器には、バッテリを充電するためのチャージャ機能を用意する必要があります。また、その種の機器では、優れた電力変換効率を達成することが非常に重要です。更に、バッテリ用のチャージャだけでなく、パワー・パス・スイッチなども必須の要素となります。本稿では、バッテリ駆動の機器に最適なパワー・マネージメント・システムについて説明します。

はじめに

バッテリからの給電によって動作するシステムは少なくありません。そうしたシステムのほとんどはポータブル機器として使用されます。それ以外に、バッテリは電源の冗長化のためにも活用されます。例えば、商用電源が遮断された際、バックアップ用のバッテリによってシステムに電力を供給するといった具合です。ひと言でポータブル機器といっても、その規模は様々です。電気自動車のような巨大なものもあれば、補聴器のような小さな機器も存在します。ただ、規模の大小に関わらず、バッテリ駆動のすべての機器では電力変換効率が重要な指標になります。電源回路の効率が低いほど、同じ稼働時間を得るために必要なバッテリのサイズは大きくなります。その結果、システムの構築に必要なコストも増大します。また、バッテリからの供給電圧は、その充電状態に応じて変化します。したがって、バッテリからシステムに給電する際には、様々な値の電圧を基に、電子回路に対して最適な値の電圧を生成しなければなりません。つまり、バッテリからの入力電圧を適切な出力電圧にレギュレートするパワー・コンバータが不可欠な要素となります。

今日、バッテリ駆動の機器では、再充電できない1次バッテリではなく、再充電が可能な2次バッテリを採用するケースが非常に増えています。そのため、電源システムにはバッテリ・チャージャを組み込む必要があります。本稿では、バッテリを充電するための様々なアーキテクチャを紹介します。一般的な例も革新的な例も示しますが、いずれにせよ電力変換効率が非常に重要であることに変わりはありません。

図1に、バッテリ駆動のシステムの構成例を示しました。具体的にどのような実装を採用するのかはユース・ケースに応じて異なりますが、図中の主な機能ブロックはどのようなシステムにも存在するはずです。つまり、バッテリ駆動のシステムにおいても、バッテリ以外の何らかの電源が存在することが多いでしょう。また、通常、その電源への接続は切り替えが可能な形になっていなければなりません。例えば、バッテリとは別の電源として、コンセントに接続して使用するACアダプタが使われるケースも少なくないでしょう。その場合、電源ケーブルを引き抜くことが切り替えの処理に相当します。つまり、ケーブルを引き抜くことが、図1のパワー・パス・スイッチ(パワー・スイッチ)をオフに切り替える処理に当たるということです。バッテリに蓄積されるエネルギーは貴重なものです。それが、別の電源に接続された他の回路で消費されることは避けなければなりません。そのため、上記のようなスイッチを使用したパワー・マネージメントが必要になります。図1の例の場合、バッテリとは別の電源が2つ用意されています。つまり、パワー・パス・スイッチにより、電源1、電源2のうちどちらかを選択して使用します。電源2の具体的な例としては、5Vを供給するUSB給電システムなどが想定できます。

図1. バッテリ駆動のシステムの構成
図1. バッテリ駆動のシステムの構成

電源1/電源2から供給される電圧は、バッテリを安全に充電したり、システムに直接給電したりするために使用されます。その際には、それぞれの目的に応じ、適切な電圧に変換する処理を行わなければなりません。なお、電源1/電源2からの給電が停止した場合には、バッテリに蓄積されたエネルギーによってシステムを動作させます。その際には、スイッチング方式を採用した非常に効率の高いパワー・コンバータによってバッテリの電圧を適切な値に変換します。その上で、システムに給電することになります。

バッテリ駆動のシステムに求められる電力効率

バッテリの充電に関して言えば、通常はそこまで高い電力効率が求められるわけではありません。バッテリ駆動のシステムの大半では、バッテリを再充電する際には十分な電力を利用できます。例えば、携帯電話を充電器に接続している場合、ほとんどのユーザはその際の電力効率の正確な値を気にすることはありません。

但し、エナジー・ハーベスティングを利用するバッテリ駆動のシステムでは、充電時の電力効率が重要な意味を持ちます。その効率が高いほど、エナジー・ハーベスタとしては小さなものを使用できるからです。その結果、システムのサイズやコストを削減できる可能性が高まります。

一方、バッテリから放電する場合については、あらゆるバッテリ駆動のシステムにおいて電力変換効率が重要になります。効率が高いほど、同じ稼働時間を得るために必要なバッテリの容量は小さくて済むからです。

電力変換段では、バッテリからの電圧を基に負荷に対して最適な電圧を生成します。その際の効率は、適切に評価しなければなりません。全負荷に対する変換効率は、システムの負荷が公称値のレベルである場合に、どれだけの時間にわたってシステムを動作させられるのかを表す情報になります。ただ、それ以外に軽負荷に対する効率についても検討しなければなりません。多くのシステムでは、負荷が非常に軽い状態における電力変換効率も重要な意味を持つからです。例として、バッテリ駆動の煙感知器について考えてみましょう。その種の機器は、負荷電流の少ない煙感知段が、煙が検知されてアラームが鳴る瞬間まで何年にもわたって動作し続けることになります。アラームの鳴動には多くの電流が必要になりますが、その際の電力効率は、バッテリの交換が必要になるタイミングには大きな影響を及ぼしません。

非常に負荷が軽い場合、電力効率に大きな影響を及ぼすのは自己消費電流(静止電流)IQです。IQが少ないほど、効率の面では有利になります。このIQと、使用するスイッチング方式によって軽負荷に対する効率が決まります。スイッチング方式のパワー・コンバータ製品の中には、軽負荷の場合に高い効率を得るための動作モード(以下、軽負荷モード)を備えているものがあります。図2は、そのモードを有効にした場合と無効にした場合の効率を比較した例です。青色の曲線が軽負荷モードにおける効率、黒色の破線が通常動作モード(固定スイッチング周波数モード)における効率を表しています。多くのパワー・コンバータ製品は、効率を高めるために、軽負荷モードを備えています。一般に軽負荷モードでは、固定スイッチング周波数での動作を停止し、出力電圧が少し低下した場合だけいくつかのスイッチング・パルスを生成するという形で動作します。そのバースト動作以外の時間は、パワー・コンバータの多くの機能が停止し、IQの節約が図られます。軽負荷モードを実現するためのアーキテクチャは、製品ごとに少し異なる可能性があります。ただ、どのようなアーキテクチャであっても、軽負荷時の効率が非常に高くなるという効果が得られるはずです。

図2. 軽負荷モードの効果。ここでは、同モードを備える降圧レギュレータ「ADP2370」を例にとっています。同モードを有効にした場合と、スイッチング周波数を600kHzという固定値にした場合を比較すると、軽負荷に対する電力変換効率に大きな差が出ます。
図2. 軽負荷モードの効果。ここでは、同モードを備える降圧レギュレータ「ADP2370」を例にとっています。同モードを有効にした場合と、スイッチング周波数を600kHzという固定値にした場合を比較すると、軽負荷に対する電力変換効率に大きな差が出ます。

ここで、もう一度図2をご覧ください。2つの動作モードにおいて、出力電流(負荷電流)が1mAの場合の効率にはかなり大きな差があることがわかります。1mAという軽負荷の状態において(100µAという更に軽い負荷においても)軽負荷モードを有効にすると、電力変換効率は約50%になります。一方、同モードを使用することなく、600kHzという固定のスイッチング周波数で動作させた場合には、わずか15%ほどの効率しか得られません。

電力変換に関する課題

先述したとおり、バッテリ駆動のシステムでは電力変換効率が非常に重要な指標になります。その種のシステムでは、既存のあらゆる種類のトポロジを利用できます。なかでも、非常に広く採用されているのが、4つのスイッチを制御する昇降圧コンバータ(以下、4スイッチ昇降圧コンバータ)です。多くのシステムは3.3Vの電源電圧を必要とします。その電圧は、1個のリチウム・イオン・バッテリ・セルによって得ることができます。そのセルの公称電圧(満充電の状態の電圧)は3.6Vです。ただ、完全放電の状態に近づくと、その電圧は2.8V~3.0Vまで低下します。システムの稼働時間を最大限に引き延ばすには、バッテリからのエネルギーを最大限に活用しなければなりません。3.3Vを使用するシステムの場合、リチウム・イオン・バッテリが満充電の状態のときには3.6Vから3.3Vへの降圧処理が必要になります。一方、バッテリが完全放電の状態に近づいたら、2.8Vから3.3Vへの昇圧処理を行わなければなりません。この両方の要件に対応するためのものが昇降圧コンバータです。昇降圧コンバータとしては様々な方式のものが実用化されています。そのトポロジの例としては、トランスをベースとするフライバック・コンバータ、2個のインダクタを使用するSEPIC(Single Ended Primary Inductor Converter)、4スイッチ昇降圧コンバータなどが挙げられます。ただ、多くの場合、4スイッチ昇降圧コンバータが選択されることになるでしょう。一般的には、他の2つのトポロジと比べて高い電力変換効率が得られるからです。

図3は、4スイッチ昇降圧コンバータのトポロジを概念レベルで示したものです。

図3. 4スイッチ昇降圧コンバータのトポロジ。「LT3154」などの製品がこの種のトポロジを採用しています。
図3. 4スイッチ昇降圧コンバータのトポロジ。「LT3154」などの製品がこの種のトポロジを採用しています。

なお、昇降圧のトポロジを不要にする方法も存在します。それは、1つではなく、2つのリチウム・イオン・バッテリ・セルを直列で使用するというものです。その場合、シンプルな降圧コンバータを使用するだけで済みます。但し、2つ目のセルに対応するための追加の労力とコストが必要になります。1つのセルを充電する場合と比べて、2つのセルを充電する方がやや難易度が高くなるからです。2つのセルを直列で使用する場合、得られる最大電圧は7.2Vになります。一方、IC製品の多くは、最大5.5Vに対応するプロセスで製造されます。したがって、7.2Vの最大電圧に対応するためには、より高い電圧に耐えられるプロセスで製造されたパワー・コンバータ製品が必要になります。このことはさほど大きな問題だとは言えません。しかし、パワー・コンバータICに関するコストが少し増える可能性があります。

適切なバッテリ・チャージャの選択

市場には、非常に多くのバッテリ・チャージャICが提供されています。それらのICは、バッテリを安全に再充電できるように、供給する電圧と電流を管理します。バッテリ・チャージャICを選択する際には、まずリニア方式のチャージャとスイッチング方式のチャージャのうちどちらを使用するのかを決定しなければなりません。

リニア方式のチャージャというのは、リニア・レギュレータのようなものです。降圧の処理しか実現できず、入力電流と出力電流はほぼ同じ値になります。例として、完全放電に近づいたバッテリの電圧が0.8Vで、利用可能なシステムの電圧が3.3Vであるケースを考えます。その場合、リニア・チャージャによって2.5Vの降圧を実現しなければなりません。充電電流が1Aであるとすると、リニア・チャージャによって2.5Wの電力が消費され、熱として放散されることになります。この条件であれば、許容できるケースもあるでしょう。しかし、利用可能なシステムの電圧が12Vであったとしたらどうなるでしょうか。その場合、降圧に伴って11.2Wの電力が消費されることになります。このことから、リニア・チャージャが妥当な選択肢になるのは次のようなアプリケーションに限られます。すなわち、充電電流が少なく、システムの電圧とバッテリの電圧が近い場合です。

それ以外のアプリケーションでは、スイッチング方式のチャージャを選択すべきでしょう。実際、市場に提供されているバッテリ・チャージャICの大半はスイッチング方式を採用しています。それらは古典的なSMPS(Switch-mode Power Supply)製品の一種ですが、バッテリの充電に適した機能も搭載しています。まず、それらの製品は定電圧または定電流によって充電を行うための機能を備えています。なかには、その両方に対応するものもあります。また、ほとんどの製品は、安全に充電を行うための特殊な機能も備えています。その一例としては、接続されたバッテリに欠陥があるか否かを検出するためのタイマー機能が挙げられます。それ以外に、温度センサーを利用して充電中のバッテリの温度を制限し、様々な状況における熱暴走を回避するための機能を備えている製品も存在します。更に、システムに接続されているバッテリが正規品であるか否かを監視する機能も、より一般的なものになりつつあります。この機能は、バッテリ・パックとバッテリ・チャージャの間の安全性を確保するために提供されています。

図4は、アナログ・デバイセズが提供する「MAX77985」の概要を簡素化して示したものです。この製品は、スイッチング方式の降圧バッテリ・チャージャです。スタンドアロン型の製品であり、バッテリ・チャージャの機能とパワー・パス・スイッチの機能を備えています。先述したように、パワー・パス・スイッチの機能は、バッテリ駆動のほとんどのシステムで必須です。バッテリが完全に充電されたら入力電圧レールをバッテリから切り離し、同レールに接続されている他の回路でバッテリのエネルギーが消費されることを防ぎます。また、このソリューションは、デジタル・インターフェースとしてI2Cをサポートしています。このインターフェースは、チャージャICの一部の設定を変更したり、テレメトリ機能を実現したりするために使用できます。また、バッテリ・チャージャの柔軟性をできるだけ高めることに利用することが可能です。同インターフェースを介して、バッテリの様々な種類やサイズに応じた設定を行えるようになっています。

図4. MAX77985の概要
図4. MAX77985の概要

MAX77985は数多くの機能を備えていますが、特に注目していただきたいのはパワー・パス・スイッチです。このスイッチは、バッテリを充電するための降圧モードだけに対応するのではありません。バッテリの電圧を、それよりも高いシステム電圧に昇圧するためにも利用できます。このICは、システム向けのパワー・コンバータに、純粋なバッテリ・チャージャを組み合わせたものだと表現することもできるでしょう。

バッテリ駆動のシステムには、多くの異なる電気的機能が必要です。基本的な機能だけを提供するIC製品もあれば、必要になるほとんどの機能を集積した高度なIC製品も存在します。後者の製品はシステム・レベルのPMIC(Power Management IC)とも呼べるものであり、バッテリ駆動のシステムで特に広く採用されています。このことにはいくつかの理由があります。バッテリ駆動のシステムの多くは、どちらかと言えば小型なものです。そのため、システムで使用するソリューションとしても、コンパクトなものが求められます。これが1つ目の理由です。また、複数のICから成るソリューションの場合、各ICで自己消費電流が発生することになります。ICをオン/オフする際には必ずある程度の電力が消費されます。これが徐々にバッテリを消耗させる原因になります。種類の異なるいくつかのICを統合する形で実現されたPMICを採用すれば、ほとんどの場合、システム全体として見た場合の自己消費電流は削減されます。

最近では、大容量のリチウム・イオン・バッテリが提供されるようになりました。その結果、バッテリ駆動のシステムを取り巻く環境はここ20年ほどで様変わりしました。そうしたバッテリの充放電を効率的に行うために、数多くのIC製品が提供されています。バッテリの実現方法については、現在でも非常に多くの研究が行われています。その主な目的は、重量/体積あたりの容量を増加させることや、安全性を維持しつつ充電速度を高めることなどです。そうしたバッテリの進化に追随するには、その充放電を管理するICについても常にイノベーションを推し進めていく必要があります。

著者

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーション・エンジニアとして、パワー・マネージメント・ソリューションの導入に携わりました。その間、アリゾナ州フェニックス(米国)で4年間にわたりスイッチング電源に取り組んだ経験も有しています。2009年にはアナログ・デバイセズに入社。製品ラインや欧州のテクニカル・サポートを担当するなど、様々なポジションで業務に携わってきました。