カテゴリ5(Cat-5)のシールドなしツイスト・ペア(UTP)ケーブルは低価格の割に性能が悪くないことから、この数年間で利用が増えてきました。このタイプのケーブルはKVM(キーボード/ビデオ/マウス)ネットワークに使用されており、4つのツイスト・ペアのうちの3つがRGB(赤、緑、青)ビデオ信号を送信します。高品位テレビ(HDTV)がますます普及する中で、最大30mの長距離接続が必要になる場合、このタイプのケーブルが安価なソリューションとして利用されています。
Cat-5 UTPケーブルは経済性を考慮したものであるため、接続距離が長くなると性能が急速に劣化します。この記事では、約75MHzの帯域幅が必要な1080p HDTV信号を最大30mのケーブルで伝送する際の伝送損失を低減するソリューションを2つ紹介します。
図1は、30mケーブルの周波数に対する振幅特性を示しています。75MHz時の損失は約6dBであることから、送信前か受信後に6dBの高周波ゲインを加える必要があります。
表1に、最新のHDTV標準と条件を示します。高品位ブルーレイ・プレーヤは1080p 16:9 HDTVを使用します。必要なビデオ帯域幅は定義されていませんが、75MHzあれば高品位の画像が得られます。
表1:一般的なビデオ分解能と帯域幅ビデオ標準 | 水平分解能 | 垂直分解能 | フレーム・レート | ピクセル・レート | 想定ビデオ帯域幅 |
ピクセル数/ライン | ライン数/フレーム | Hz | Mp/s | MHz | |
720p, 16:9 HDTV | 1280 | 720 | 60 | 57.6 | 30 |
1080i, 16:9 HDTV | 1920 | 1080 | 30 | 64.8 | 32 |
1080p, 16:9 HDTV | 1920 | 1080 | 24/30 | 51.8/64.8 | 32 |
1080p, 16:9 HDTV | 1920 | 1080 | 60 | 130 | 75 |
プリエンファシス
図2の回路は、プリエンファシス機能付きのAD8148ドライバ・ボードを使用しており、30mのCat-5 UTPケーブルの高域減衰を補償します。レシーバ側のAD8145ボードは、ゲイン設定が2で、イコライゼーションなしで使用します。
図3は、プリエンファシス回路を示しています。AD8148差動アンプは内部でゲイン4(12dB)に設定されます。RCネットワークがゲイン全体を制御し、低域のゲイン2から始まって、徐々に高域のゲイン4まで増加します(図4を参照)。
考え方としては、ドライバのプリエンファシス機能を使って高域でのケーブルによる減衰を補おうというものです。レシーバの帯域幅が100MHz以上のフラットなものであれば、ケーブルの出力にレシーバを追加してもその帯域幅には影響しません。これは、ゲイン2に設定されたAD8145に当てはまります。図5は、6dBゲインの変動が100MHzまで1dB以内に収まっている(フラットな状態である)ことを示しており、Cat-5ケーブルが1080p HDTVの送信に対応できることがわかります。
この回路の性能を10m、20m、30mのケーブルについてテストしました。5m未満の短いケーブルが必要な場合は、短距離に対応できるドライバであるため、プリエンファシス機能なしで使用できます。
イコライザ
図6の回路は、プリエンファシス機能なしのAD8148とイコライゼーション付きのAD8143レシーバを使用しています。考え方は同じです。長いケーブルによる高周波減衰は、高周波の信号ゲインを大きくすることで防ぐ必要があります。AD8148ドライバはゲイン4に設定され、AD8143レシーバは低周波でゲイン1、高周波でゲイン2に設定されます。
図7は、低域ゲインを1に、高域ゲインを2に設定するイコライザ回路です(図8を参照)。2MHz未満では0.5dBのゲインですが、50MHzで約6dBになります。
30mケーブルを接続した後、振幅は80MHzまで1dB以内のフラットな状態を維持し、余裕をもって1080p HDTVに対応することができます。図9は、40MHzでゲインがピーク(約2dB)になることを示しています。このときに高域信号がやや強くなりますが、画面には気が付くほどの影響はありません。
入出力の終端を考慮すると、ゲイン4が必要になります。AD8143はゲイン1に設定されるため、ドライバ側でゲイン4の設定にし、しかも100MHz以上のフラットなバンドにしなければなりません。AD8148ドライバはゲイン4で約500MHzまでフラットな応答を提供し、1080p HDTVアプリケーションのレシーバをサポートできます。
結論
HD対応の安価なケーブルに対する需要は、高品質画像に対する需要の高まりとともに増大しています。Cat-5 UTPケーブルは最適な代替ソリューションになります。提案した長距離ニーズに対応する2つのソリューションは、プリエンファシス機能なしのAD8148ドライバにAD8145またはAD8143のレシーバを使用すれば短距離ケーブル用に容易に変換することができます。どの場合も、提案したソリューションではドライバの入力からレシーバの出力まで常にユニティ・ゲインを維持し、内部ゲインのみで入出力端末の損失を補償します。これらのスタンドアロン・ソリューションにより、市販されている高価なケーブルの代わりに安価なCat-5ケーブルを使用してHD送信ができるようになります。
参考資料
* Jonathan Pearson著「Adjustable Cable Equalizer Combines Wideband Differential Receiver with Analog Switches」 Analog Dialogue, Volume 38-07, July 2004.
* Budak著「Passive and Active Network Analysis and Synthesis」 Houghton Mifflin, 1974年