概要
現代の組み込みシステムはますます複雑化しています。それに伴い、従来のマイクロコントローラでは、求められる性能面の要件を満たせないケースが増えてきました。そのような変化を受けて、SoC(System on Chip)をベースとするソリューションが広く使われるようになりました。SoCを採用すれば、マイクロコントローラと比べて、より高い統合度と処理能力が得られるからです。その半面、SoCを使用することが理由となって、特にパワー・マネージメントの面で新たな課題が生じています。本稿では、SoCに対する給電に関して考慮すべき基本的な事柄について解説します。特に、データシートやリファレンス・マニュアルに記載されている重要な情報をどのように解釈して設計に適用すればよいのかに注目します。具体的には、電源の設計に影響を及ぼす5つの重要な事柄について順に説明していきます。そのようなステップ・バイ・ステップの解説により、SoCベースのシステムにパワー・マネージメントIC(PMIC:Power Management IC)を適用するための実践的なガイドを提供します。
はじめに
現代の組み込みシステムは大きな進化を遂げつつあります。先進的なアプリケーションでは、エッジにおけるAIベースの処理や、高度なコネクティビティ(ネットワークに接続する機能)、マルチメディア処理など、より要件の厳しい機能を実現することが求められます。それを受けて、多くの設計者はSoCをベースとするソリューションに注目するようになりました。SoCは、非常に高い集積度を誇るICです。従来のマイクロコントローラと比べると、より多くの機能と高い性能が得られます。しかし、SoCを利用する際には新たな課題に直面することになります。特にパワー・マネージメントについては、設計の面で新たな複雑さに対応しなければなりません。
マイクロコントローラ製品の中には、単一の電源電圧を供給するだけで使用できるものがあります。それに対し、SoCには通常複数種の電源電圧が必要です。また、それぞれの電源レールにおいては、特定の電圧レベル、電流容量、シーケンスの要件、タイミング上の制約に対応しなければなりません。それらの要件を満たせない場合、SoCの動作の信頼性や性能が低下することになります。場合によっては、SoCに恒久的な損傷が生じる可能性もあります。
SoCとは何なのか?
SoCは、コンピュータをはじめとする電子システムに必要なあらゆるコンポーネントを1つのチップに統合したICです。コンポーネントの例としては、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、メモリ・コントローラ、I/O(入出力)インターフェースなどが挙げられます。それに加え、DSP、AI用のアクセラレータ、ワイヤレス通信ユニット(Wi-Fi、Bluetooth®、LTE/5G)などの専用モジュールが集積されることもあります。SoCの開発目的は、コンパクトなフォーム・ファクタで、多様な機能、優れた性能、高い電力効率を実現することです。例えば、モバイル・アプリケーションや組み込みアプリケーションなどに最適なソリューションを提供することを目指して設計されています。
SoCの開発は、1980年代の後半から1990年代の初頭にかけて始まりました。その背景には、より小型で効率の高い電子機器に対するニーズがありました。SoCの初期の用途は組み込みシステムや携帯電話でした。その後、半導体技術が発展するに連れて、SoCはより多機能で高性能なものに進化していきました。今日、SoCは現代の民生用電子機器の基盤になっているとも言えます。例えば、スマートフォン、タブレット端末、スマートウォッチ、医療用機器、スマートテレビ、車載システム、IoT(Internet of Things)デバイスなど、SoCはあらゆる機器で使用されています。
SoCは、先進的な技術環境において極めて重要な役割を果たします。消費電力と物理的なスペースを最小限に抑えつつ、高いレベルの統合度と性能を提供するからです。このような特徴は、可搬型の機器やウェアラブル機器において特に重要な意味を持ちます。そうした機器はバッテリで駆動され、コンパクトなサイズを実現することが不可欠であるからです。また、様々なコンポーネントを統合したSoCを採用すれば、プリント回路基板上の部品点数を削減できます。このことは、設計の簡素化、製造コストの削減、信頼性の向上につながります。
SoCの主な特徴はいくつか挙げられます。例えば、集積度が高い、エネルギー効率に優れる、リアルタイムの処理に対応可能な能力を備える、高度なコネクティビティをサポートするといった具合です。つまり、SoCを採用すれば、高速な処理を実現できる、消費電力を削減できる、システムのサイズを抑えられる、コスト効率を高められるといった数多くのメリットが得られます。加えて、多くのSoCは特定のアプリケーションを念頭に置いて設計されています。また、カスタマイズと最適化を施せるようになっています。そのため、対象となるアプリケーションの性能と効率を大幅に高められます。
PMICとは何なのか?
ここで言うPMICとは、ターゲットとなる用途に特化した高度なパワー・マネージメント用ICのことです。PMICは、現代の電子システムの電力に関する要件に対応して必要な電源を構築できるように設計されます。PMICの主な用途は、スマートフォン、タブレット端末、ノート型PC、ウェアラブル機器、組み込みシステムなどです。これらは、複数のコンポーネントを効率的かつ確実に動作させるために複数種の電圧と電流レベルを必要とする複雑な機器です。これらの機器には、PMICが不可欠だということです。PMICは、電力を分配するための中央のハブとして機能します。具体的には、各サブシステムに適切な量の電力が適切なタイミングで供給されるように制御を実施します。それだけでなく、エネルギーの使用量を最適化し、バッテリの寿命を延ばしつつ、発熱を抑えることに貢献します。
PMICには様々な機能が統合されます。例えば、降圧コンバータ、昇圧コンバータ、LDO(低ドロップアウト)レギュレータ、バッテリ用のチャージャやモニタ、電源の起動/遮断シーケンスを制御する機能、熱を管理するための機能、障害から保護するための機能などが集積されます。このようなレベルの統合が図られていることから、PMICを採用すれば、基板上の実装スペースの削減、設計の簡素化、システム全体の信頼性の向上といったメリットが得られます。
様々なパワー・マネージメント機能を統合するという考え方は、1980年代の後半から1990年代の初頭にかけて注目を集めるようになりました。つまり、初期の携帯電話やノート型PCのような可搬型電子機器の普及が進んだ時期と重なります。当初、パワー・マネージメントはディスクリート構成で実現されていました。しかし、そのアプローチでは、回路が非常にかさばる上に高い効率は得られませんでした。半導体技術が進化したことを受け、多くのICメーカーはそれらの機能を単一のチップに統合する取り組みを進めました。その結果、第1世代のPMICが誕生しました。時が経つにつれ、PMICはより高度な電源アーキテクチャをサポートするようになりました。現在では、低消費電力の設計を実現したい場合、PMICが提供する高度な機能が標準的に使用されるようになりました。代表的な機能としては、ダイナミック電圧スケーリング(DVS:Dynamic Voltage Scaling)やインテリジェントなパワー・ゲーティングなどが挙げられます。
繰り返しになりますが、PMICは現代のエレクトロニクス機器の基盤です。PMICを採用すれば、より小型のバッテリでより長い時間にわたって機器を動作させることができます。また、熱負荷をより効果的に管理し、エネルギー効率に関する厳格な基準を満たすことが可能になります。特に、バッテリ駆動の小型機器では、1mWの消費電力や1mmのサイズが大きな意味を持ちます。そうしたアプリケーションにおいて、PMICは極めて重要な役割を果たします。
ディスクリート構成のパワー・マネージメント・ソリューションでは、特定の機能を実現するいくつかのコンポーネントを組み合わせて使用します。例えば、降圧コンバータ、LDOレギュレータ、バッテリ・チャージャ、保護用回路などを組み合わせるといった具合です。このアプローチには1つの長所があります。それは、機器の仕様に対して最適なコンポーネントを柔軟に選択できるというものです。しかし、実際には多くのデメリットも生じます。例えば基板面積が拡大したり、設計の複雑さが増したり、熱と電磁干渉(EMI)の管理の難易度が高まったりします。それとは対照的に、複数の機能を備えるPMICを採用すれば、基板面積の大幅な削減、設計プロセスの簡素化、システム全体の効率の向上を実現できます。ここで図1をご覧ください。これは、パワー・マネージメント・ソリューションを実装した状態を表す概念図です。(左)は、従来のディスクリート構成のパワー・マネージメント・ソリューションを表しています。一方、(右)に示したのはPMICをベースとするソリューションの例です。両者を比較すれば、集積度の高いPMICがもたらす大きなメリットを実感できるでしょう。PMICは、ウェアラブル機器のようなスペースに制約のあるアプリケーションにとって特に有用なものです。そうしたアプリケーションでは、小型化を図るだけでなく、消費電力を削減したり、効率的に電源シーケンスを制御したりすることも重要になります。PMICであれば、そうしたニーズにも応えられます。また、多くのPMICは、電力の監視機能、障害に対する保護を実現する機能、通信用のインターフェースといった高度な機能を備えています。ディスクリート構成のパワー・マネージメント・ソリューションでそれらの機能を実現しようとすると、非常に多くの回路を追加しなければなりません。ディスクリート構成のソリューションは、高度にカスタマイズされたシステムや大電力を扱うシステムに適している可能性があります。それに対し、PMICは最新の小型電子システムに対し、より効率的で信頼性の高いアプローチを提供します。
通常、PMICは電力用のインターフェースと通信用のインターフェースを使用してSoCに接続されます。それにより、効率的かつ協調的な給電が実現されます。PMICは降圧コンバータやLDOレギュレータなどを内蔵しています。それらは、SoCが備えるコア、I/O、メモリなどに様々な値の電源電圧と電流を供給する役割を果たします。各電源レールは、SoCに用意された個々の電源入力ピンに直接接続されます。また、多くのPMICは、I2CやSPI(Serial Peripheral Interface)などのデジタル・インターフェースを介してSoCと通信します。それにより、SoCはPMICの機能を制御したり監視したりします。例えば、電源レールのイネーブル/ディスエーブル制御、出力電圧の調整、障害用のレジスタやステータス用のレジスタの値の読み出し、起動時/遮断時の電源シーケンスの制御などを実現できます。図2は、PMICとSoCの間の一般的なインターフェースを表したものです。これを見れば、電源の経路と通信の経路が存在することがわかります。このような緊密な連携手法により、高い信頼性/効率を確保した状態でSoCを動作させることが可能になります。このことは、モバイル機器やウェアラブル機器など、消費電力の削減が強く求められるアプリケーションにおいて非常に重要です。
PMICでSoCに給電する際に考慮すべき重要な項目
PMICによってSoCに給電する場合に信頼性と効率を確保するためには、いくつかの重要な項目について慎重に検討する必要があります。通常、それらの項目についてはSoCのデータシートまたはリファレンス・マニュアルに記載されています。それらのドキュメントを参照すれば、SoCの電気的な要件と機能的な要件を把握できます。給電用の堅牢なアーキテクチャを設計するためには、以下に示す5つの項目について理解することが不可欠です。
- 電圧に関する要件:コア、I/O、ペリフェラルの電源ドメインについて理解する必要があります。
- 必要な電流量:各電源レールのピーク電流と平均電流を見積もります。
- 電源シーケンスの制御:電源を投入/遮断する際の適切な順序を決定します。
- タイミングに関する制約:電源レール間の遅延とランプ時間を管理します。
- 電源に関するモード/遷移:エネルギー効率を高めるために、電源の動的な状態遷移を活用します。
PMICを利用してSoCに給電する場合には、高い信頼性と効率が得られるようにアーキテクチャを設計しなければなりません。そのためには、明確かつ実用的な手法を身につける必要があります。以下では、上に挙げた5つの事柄について順に説明していきます。そのガイドを読破すれば、アーキテクチャの設計手法の枠組みを理解できるはずです。初めてSoCを使用して設計を行う場合にも、既存のアプローチを改良する場合にも、このガイドは電源の設計について理解する上で大いに役に立つでしょう。
電圧に関する要件
SoCには必ず複数の電源ドメインが存在します。例えば、コア・ロジック、I/Oインターフェース、アナログ・ブロック、メモリなどには、値の異なる電源電圧を供給しなければなりません。通常、それらの電圧については、データシートの「Recommended Operating Conditions(推奨動作条件)」、「Power Supply Requirements(電源の要件)」といったセクションで規定されています。例えば、以下のような電源電圧が必要になります。
- コア電圧(VDDCORE):CPUと内部ロジックが使用する電源電圧です。多くの場合、電源電圧の中では最も低い値(0.8V~1.2Vなど)になります。
- I/O電圧(VDDIO):I /Oインターフェースが使用する電源電圧です。一般的な値は1.8V、2.5V、3.3Vなどです。
- アナログ電圧(VDDA):A/Dコンバータ(ADC)やフェーズ・ロック・ループ(PLL)など、アナログ・ ペリフェラルが使用する電源電圧です。アナログ回路用の電源電圧は、低ノイズで安定していなければなりません。
【PMICを選択するためのヒント】
上記の電圧を効率的に生成するには、LDOレギュレータまたは降圧コンバータを使用します。
必要な電流量
各電源レールからは、平均的な需要やピークの需要に対応して必要な量の電流を供給する必要があります。多くのデータシートでは「Electrical Characteristics(電気的特性)」のセクションに、ピーク電流と平均電流の値が記載されています。あるいは、SoCベンダーが提供する電力モデリング・ツールを使用してそれらの値を見積もることも可能です。
- ピーク電流:SoCの起動時またはSoCを高性能モードで動作させる場合に必要になる電流です。
- 平均電流:電源の規模を決定したり、熱設計を行ったりする際に役立ちます。
【PMICを選択するためのヒント】
電流量を見積もる際には、負荷の変動と将来に向けた拡張性を考慮し、常に20%~30%程度のマージンを確保してください。
電源シーケンスの制御
多くのSoCでは、複数の電源レールを特定の順序でオン/オフする必要があります。その目的は、ラッチアップ、供給電圧の一時的な低下/停止、デバイスの損傷を回避することです。通常、電源シーケンスについては、データシートの「Power-Up/Down Sequence(電源の投入/遮断シーケンス)」のセクションに記載されています。
- 一般的な順序:コア電圧→アナログ電圧→I/O電圧の順に投入します。
- 依存関係:一部のペリフェラルやメモリ・インターフェースは、同期をとった状態で起動する必要があります。
【PMICを選択するためのヒント】
電源シーケンスの制御を自動化するには、シーケンサ機能を内蔵したPMICまたは電源用のシーケンサICを使用します。
タイミングに関する制約
電源シーケンスの制御に加えて、レール間のタイミングの制御も重要です。これには以下の要素が関連します。
- ランプ時間:目標とするレベルに電圧が到達するまでの時間。
- 遅延時間:別の電源レールを有効にするまでに確保すべき最小待機時間。
- ホールド時間:次のステージが開始するまでに電源レールを安定した状態で維持しておかなければならない時間。
【PMICを選択するためのヒント】
データシートに記載されたタイミング図を確認し、プログラマブルなPMICまたはマイクロコントローラのGPIO(General Purpose Input/Output)を使用して遅延の微調整を行います。
電源に関するモード/遷移
最新のSoCは、エネルギー効率を最適化するために電源に関する複数のモードをサポートしています。例えば、アクティブ・モード、アイドル・モード、スリープ・モード、ディープ・スリープ・モードなどです。モードによっては、通常とは異なる電圧レベルが必要になることがあります。あるいは、特定のレールのイネーブル/ディスエーブル制御が必要になるかもしれません。
- ダイナミック電圧スケーリング(DVS):ワークロードに基づいてコア電圧の値を調整します。
- パワー・ゲーティング:消費電力を削減するために未使用のブロックをオフにします。
【PMICを選択するためのヒント】
I2C/SPIまたはGPIOを介した動的制御をサポートするPMICを選択します。それにより、電源の状態の円滑な遷移を実現できます。
PMICはどこで使用されるのか、なぜ重要なのか?
先述したように、ほとんどのスマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル機器はPMICを搭載しています。また、ノート型PCや薄型軽量PC(ウルトラブック)、車載電子機器、IoT機器、産業用機器、医療用機器でもPMICが使用されています。
スマートフォンやタブレット端末において、PMICは、機器全体にわたる効率的かつ安全でインテリジェントな電力分配を実現する役割を果たします。それらのモバイル機器は、複数のサブシステムを備える高度に統合されたシステムです。サブシステムの例としては、CPU、GPU、メモリ、ディスプレイ、カメラ、ワイヤレス通信ユニット(Wi-Fi、Bluetooth、LTE/5G)、センサー、ストレージなどが挙げられます。各サブシステムの電力については、それぞれに異なる要件が存在します。PMICは、そうした多様な要件に対応しながらリアルタイムに管理を実施する役割を担います。
医療用機器におけるPMICの役割
ここでは、PMICの用途の中でも特に医療用機器に注目することにします。医療用機器において、PMICは、複数の電圧レールの調整、バッテリの充電とバックアップ・システムの管理、電源の変動や障害が発生した際の継続的な動作の維持を実現します。医療分野では、血糖値用のモニタ機器や携帯型の心電計など、可搬型の機器やウェアラブル機器が数多く利用されています。それらの機器において、PMICは、充電式バッテリからの電力を管理し、エネルギーの消費量を最適化し、バッテリの寿命を延ばすことに貢献します。それだけでなく、消費電力を抑えた状態でも各種の機器が安全に動作することを保証します。
また、医療分野では、超音波診断装置、患者を対象とするモニタリング機器、MRI(磁気共鳴画像法)装置といったより複雑なシステムも使用されます。それらのシステムにおいて、PMICはメインの制御基板に実装されます。その状態で、アナログ・フロント・エンド、プロセッサ、メモリ、通信モジュールに正確な電圧を供給する役割を担います。加えて、多くのシステムでは、誤動作やデータの損失を防ぐために、様々なサブシステムの電源を特定の順で投入/遮断する電源シーケンスの制御が必要になります。PMICは、プログラマブル・ロジックまたはシステムのマイクロコントローラ/プロセッサからの制御信号に基づいて、その電源シーケンスを自動的に処理します。
更に、医療分野では、冗長化された安全機能を備えるPMICがよく使用されます。安全機能の例としては、過電圧保護(OVP:Overvoltage Protection)、低電圧ロックアウト(UVLO:Undervoltage Lockout)、過電流保護(OCP:Overcurrent Protection)、サーマル・シャットダウンなどが挙げられます。繊細な電子機器の損傷を防ぎ、患者の安全を確保するためには、これらの機能が不可欠だということです。埋め込み型またはウェアラブル型の機器では、超低消費電力のPMICが使用されます。なかには、ワイヤレスの充電や体温/動きを基に電力を生成するエナジー・ハーベスティング用のインターフェースを備えているものもあります。
上述したように、通常、PMICは医療用機器のメインの基板に実装されます。それらのPMICは、医療環境で求められる特定の電力プロファイルやIEC 60601などの規格を満たすように選定されます。また、カスタム設計されたPMICが使用されるケースも少なくありません。コンパクトなサイズと高い統合度により、PMICは基板面積の削減とシステムの信頼性の向上に貢献します。これらは医療用機器の設計において非常に重要な要素です。
PMICの主な長所
ここで、PMICが備える長所についてまとめておきます。
- 効率:PMICは電力の変換と分配を最適化し、エネルギーの損失と発熱を抑えます。バッテリ駆動の機器では、バッテリの寿命を最大化することが極めて重要になります。そのため、PMICによる効率の向上は非常に大きな意味を持ちます。
- 集積度:PMICのダイには、電圧レギュレータ、バッテリ・チャージャ、電源用のシーケンサなど、複数の電源機能が集積されます。そのため、PMICを採用すれば部品点数を削減できます。このことは、基板上のスペースの節約、設計の簡素化、システム全体のコストの削減につながります。
- 信頼性:多くのPMICには、OVP、OCP、サーマル・シャットダウンなどの保護用機能が組み込まれています。それらの機能により、機器の耐久性と安全性が向上します。このことは、医療用システムや車載システムといったミッション・クリティカルなアプリケーションにとって特に重要です。
- カスタマイズ性:多くのPMICは、システムの電力に関する特定の要件に応じて構成(コンフィギュレーション)できるようになっています。あるいは、カスタム設計のPMICによって要件に対応することも可能です。そうしたカスタマイズ性により、性能の微調整、より優れた熱管理、メインのプロセッサやSoCとのシームレスな統合を実現できます。
PMICのその他の機能
一部のPMICはバッテリ管理(バッテリ・マネージメント)機能を備えています。つまり、バッテリの充電/放電、状態の監視、保護などの機能を利用できるということです。また、スリープ・モードや低消費電力モードにおけるPMICの消費電力は非常に少なく抑えられます。PMICをそれらのモードに設定すれば、システムがアイドル・モード/スタンバイ・モードにあるときの消費電力を削減できます。
ウェアラブル技術は、急速な進化を遂げています。そうしたなか、シームレスなユーザ・エクスペリエンスを提供するためには、高い電力効率、コンパクトな設計、機能の統合が不可欠です。アナログ・デバイセズは、ウェアラブル機器に特有の要求を満たすように設計された数多くのPMICを提供しています。高度に統合された多様なPMICによって、ウェアラブル機器が直面する課題の解決に取り組んでいます。
スマートウォッチ、ヘルス・モニタリング機器、フィットネス・トラッカなど、医療/ヘルスケアの分野では様々な機器が使用されます。そうしたあらゆる機器に向けて、アナログ・デバイセズのPMICソリューションは、統合度、効率、性能を完璧なバランスで提供します。各PMICは、基板面積の最小化、バッテリ寿命の延伸、システム設計の簡素化を実現できるように設計されています。これらは、あらゆるウェアラブル機器に不可欠な要素です。表1にアナログ・デバイセズの代表的なPMICの概要を示しました。
| 品番 | 主な機能 | 代表的なアプリケーション |
| MAX77658 | 2×LDO、3×昇降圧、アナログ・マルチプレクサ、バッテリ・チャージャ | スマートウォッチ |
| MAX20345 | 3×降圧、2×LDO、2×ロード・スイッチ、昇降圧、バッテリ・チャージャ | バイタル・サインの監視(VSM)に用いるウェアラブル機器 |
| MAX20360 | 3×降圧、昇降圧、2×LDO、昇圧、ハプティック・ドライバ、バッテリ・チャージャ | ウェアラブルなフィットネス・トラッカ |
まとめ
SoC用の電源システムは、単に電圧を供給できればよいというものではありません。SoCへの給電は、システムの安定性、性能、効率に直接影響を及ぼすプロセスです。そのプロセスは、綿密に調整されたものでなければなりません。高度なアプリケーションでは、よりシンプルなマイクロコントローラがSoCに置き換えられるようになりました。それに伴い、SoCの電源に関する要件について理解するのは、すべての組み込み設計者にとって不可欠なことになりました。
SoCのデータシートを参照し、電圧に関する要件、必要な電流量、電源シーケンスの制御、タイミングに関する制約、電源に関するモード/遷移という5つの主要な事柄について確認してください。それにより、技術的な仕様を満たすだけでなく、長期的な信頼性と拡張性を考慮した電源のアーキテクチャを構築できます。PMICを採用した設計では、上記のプロセスを簡素化できます。また、多様な機能をコンパクトなフットプリントで利用できるようになります。そうした機能の例としては、プログラマブルなシーケンス機能、DVS、障害に対する保護機能などが挙げられます。
ウェアラブル機器、産業用オートメーション機器、エッジ・コンピューティング向けの機器など、最新の機器が次々と生み出されています。どのような機器を設計する場合でも、電源に関する基礎を身につけておくことが重要です。それにより、非常に複雑なSoCベースのシステムにも自信を持って取り組むことができます。スマートな給電を実現することで、自身が担当する設計を輝くものにしてください。
