BMSの設計の簡素化を図る【Part 2】アクティブ・セル・バランシング用の効率的なソリューション

概要

シンプルさと効率の高さのトレードオフは必ずしも難しいことではありません。優れた設計の多くは、シンプルさと高い効率をバランス良く実現しています。この連載では3回にわたり、バッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システム(以下、BMS)に適用されるアクティブ・セル・バランシング(以下、ACB)について解説しています。その2回目(Part 2)となる本稿では、まず従来のACBソリューションの代表的な例をいくつか紹介します。次に、それらのアプローチの長所を活かして設計した実用的なACBソリューションを紹介します。そのソリューションはよりシンプルなものでありながら、より高い効率を実現します。最後に、バッテリ・セル間のバランシングと同様に、バッテリ・パック間のバランシングが重要である理由を明らかにします。

はじめに

シンプルで効率の高いACBソリューションを設計するというのは、単なるキャッチーなスローガンではありません。ただ、それを実現するのが容易ではないことも事実です。本稿では、まず市場で広く採用されているACBソリューションをいくつか紹介します。それに当たっては、各アプローチの長所と短所の分析結果を示すことにします。その上で、各アプローチの長所を融合して設計した実用的なACBソリューションを提案します。そのソリューションはよりシンプルなものでありながら、より高い効率が得られます。なお、既存のACBソリューションの多くは、主にバッテリ・セル間のバランシングに重点を置いています。しかし、実際にはバッテリ・パック間のバランシングも同様に重要です。このことは、決して見過ごしてはならない事実です。本稿では、この点も強調したいと考えています。

広く使用されている既存のACBソリューション

本連載のPart 1では、BMSにおけるACBの重要性について説明しました。実際、市場にはいくつものACBソリューションが提供されています。ただ、本稿の中ですべてのソリューションを紹介することはできません。そこで本稿では、図1に示す3種類のACBソリューションに注目することにします。これらはいずれも代表的かつ一般的なものだと言えます。各アーキテクチャは、それぞれフライバック回路、マルチインダクタ、スイッチド・キャパシタをベースとしています。また、各ソリューションでは、エネルギーを貯蔵するためのコンポーネントとして異なるものが使用されています。図1を見れば、それぞれトランス、インダクタ、コンデンサを採用していることがわかります。表1は、これら3種のACBソリューションの動作原理、長所、短所についてまとめたものです。

図1. 3種の代表的なACBソリューション。各アーキテクチャは、フライバック回路(左)、マルチインダクタ(中)、スイッチド・キャパシタ(右)をベースとしています。
図1. 3種の代表的なACBソリューション。各アーキテクチャは、フライバック回路(左)、マルチインダクタ(中)、スイッチド・キャパシタ(右)をベースとしています。
表1. 3種のACBソリューションの動作原理、長所、短所
  フライバック回路 マルチインダクタ スイッチド・キャパシタ
動作原理 フライバック回路のアーキテクチャを用いることにより、複数のセルから成るモジュールと個々のセルの間で単方向または 双方向のエネルギー転送を実行します。このアプローチでは、主に絶縁型DC/DCコンバータのトポロジを用いてエネルギーを転送します。 エネルギーを転送するために、n個のセルごとにn - 1個のインダクタと2×(n - 1)個のスイッチを使用します。各スイッチは比較的周波数の高いPWM(パルス幅変調)信号によって駆動します。電流の流れとPWMのデューティ・サイクルはV/L = di/dtという式に従って制御されます。スイッチのオン/オフとインダクタの充放電によって、隣接するセルの間でエネルギーが転送されます。この方法では、主に非絶縁型のDC/DCコンバータのトポロジに基づいてエネルギー転送を実行します。 エネルギーを転送するために、n個のセルごとにn - 1個のコンデンサと4×(n - 1)個のスイッチを使用します。スイッチのオン/オフとコンデンサの充放電によって、隣接するセルの間でエネルギーを転送します。
長所 バランシングにかかる時間が短く、バランシングの効率が高いことを特徴とします。隣接していないセルの間でも迅速に電荷を移動させることができます。 隣接するセルの間でだけ電荷を移動させる場合、この方法を使用すれば比較的高い効率が得られます。制御メカニズムの複雑さは中程度です。 隣接するセルの間でだけ電荷を移動させる場合、この方法を使用すれば比較的高い効率が得られます。制御メカニズムもシンプルです。
短所 制御機構が比較的複雑であり、カスタムのトランスが必要になる可能性が高くなります。 隣接していないセルの間で電荷を移動させるのは困難です。隣接していないセルの間では電荷の移動経路が長くなり、何度も移動を実行すると必然的にエネルギー損失が増大します。 隣接していないセルの間で電荷を移動させるのは困難です。隣接していないセルの間では電荷の移動経路が長くなり、何度も移動を実行すると必然的にエネルギー損失が増大します。また、過度のI2R損失を生じさせることなく、コンデンサによって電力レベルをスケーリングするのも困難です。

よりスマートな設計アプローチにより、ACB回路を簡素化する

Part 1で触れましたが、従来のACBソリューションは次のようなものになりがちでした。すなわち、複雑かつ高コストのソリューションか、シンプルで費用対効果は高いものの効率が低いソリューションのうちいずれかです。本稿で探求する重要な課題は、ACB回路の設計を十分にシンプルに保ちながら、優れた効率を達成することです。

ACBの設計上の要件を再度評価する

現在のバッテリの製造技術は、非常に高度なものになりました。また、品質管理のためにはより厳格なプロセスが適用されています。そのため、個々のセルの性能は一般的に非常に安定しています。同一の仕様で同じメーカー製のセルについては、特にその傾向が顕著です。ただ、電気自動車(EV)やエネルギー貯蔵システム(ESS:Energy Storage System)などのユーザに個々のセルが直接販売されることはほとんどありません。まずは、専門のメーカーが同じ仕様の新品のセルを複数個組み合わせることで中電圧から高電圧に対応するバッテリ・パックを製造します。それらが、EVやESSのメーカーなどに販売されます。

新たに組み立てられたバッテリ・パックについては、内部のセルが同等かつ一貫性のある性能を備えていることが期待されるでしょう。しかし、新しいバッテリ・パックを初めて使用する前のタイミングで、個々のセルの電圧と充電状態(SoC:State of Charge)がパック全体にわたって同等であるとは限りません。この点には注意が必要です。バッテリ・パックを組み立てる際には、必ずしも製造直後のセルが使用されるとは限りません。また、組み立て済みのパックが出荷された後、長い時間が経過してから実際に使用されるというケースもあります。以上のような理由から、パック内の個々のセルの状態はそれぞれに異なります。

個々のセルでも組み立て済みのバッテリ・パックでも、長期間の保管や長時間にわたる輸送(以下、保管/輸送)を経るとセル間の電圧やSOCの不均衡が生じやすくなります。これは珍しいことではありません。新品または比較的新しいバッテリ・パックを保管/輸送したとします。その後、不均衡の兆候が現れたとしても、必ずしもセルの性能にミスマッチがあるとは限りません。実際、各セルは依然として非常によく似た特性を保っている可能性があります。ただ、保管/輸送の後も各セルの性能が同等であったとしても、セルの電圧やSOCのレベルも同等であるとは限りません。この点を正しく理解しておくことが重要です。

このような理由から、保管/輸送されたバッテリ・パック(セル)を使用する際には、事前にACBまたはパッシブ・セル・バランシング(以下、PCB)の処理を実行することが推奨されます。

保管/輸送のシナリオ以外にもう1つ注目すべき状況があります。バッテリ・パックを一定の期間にわたって使用した結果、充電と放電のサイクル数がある程度増加したとします。その場合、そのパックが最初に組み立てられたときと比較すると、各セルの性能の差が拡大している可能性があります。

蓄電システムの容量は継続的に増大しています。また、個々のセルの容量も320Ah、600Ahと増えており、1000Ahのものも開発されています。かつて主流だったのは320Ahのセルです。現在では600Ahのセルが標準になりつつあります。将来的には1000Ahのセルも一般的になるでしょう。一部のメーカーは、既にこのような大容量のセルの量産体制を整えています。

大容量のバッテリ・パックの中には、ACB機能を備えていないものや、PCBだけを採用しているものがあります。その場合、セル間の初期のわずかな不均衡が、時間が経過するにつれて徐々に大きなミスマッチへと進展する可能性があります。この現象は、バランシング能力の限界と、長期間の充放電サイクルによる累積的な影響によって生じます。最終的に、このようなセルのミスマッチは、バッテリ・パックを使用している際の容量の大幅な低下や安全上のリスク(過充電や過放電など)につながる可能性があります。

ACBの2つの重要な役割

バッテリ・パック内のセルに生じるミスマッチは避けられない問題です。それに対処するために、ACBはバッテリ・パック内で主に以下に示す2つの役割を果たします。

  • 予防機能:重大なミスマッチが生じていないバッテリ・パックでは、各セルの状態は良好で、性能の差も最小限に抑えられているはずです。この場合、ACBにかかる負荷は比較的軽微だと言えます。ACBをセルの状態を監視する医師に例えると、定期的な検査を行うだけで済むということです。このようなシンプルな監視を実施することで、性能の差の拡大を防ぐか遅らせることができます。それにより、セルのミスマッチが発生する可能性を最小限に抑えられます。結果として、バッテリ・パックの寿命を効果的に延ばすことが可能になります。
  • 補正機能:バッテリ・パック内には、弱い(容量が少ない)セルや不健全な(インピーダンスが他のセルよりも著しく高い)セルが存在することがあります。その場合、ACBは弱いセル、不健全なセル、健全(標準的)なセルの間で電荷を再分配します。そのためには、ACBが備える高い柔軟性、多くのバランシング電流、高いバランシング速度を活用します。それにより、セルのミスマッチの影響を受けるバッテリ・パックの寿命を最大化します。つまり、過充電や過放電のリスクを低減しながら、安全で安定した使用状態を維持します。より重要なのは、セルのミスマッチがバッテリ・パックの容量の低下に及ぼす影響を最小限に抑えることです。この段階では、ACBは外科医のように機能します。つまり、セルのミスマッチの問題を軽減し、バッテリ・パックの寿命を延ばすために懸命に働きます。

設計を簡素化する理由、その方法

図1に示した3種のACBソリューションは、既に広く受け入れられ、各種の用途に適用されています。では、なぜACB回路の設計の簡素化を追求する必要があるのでしょうか。3種のソリューションや本稿では取り上げていない他のソリューションは、いずれも既に確立された効果的なものです。しかし、それらには依然として大きな改善の余地があります。そのため、改善を図ることを考えるべきなのです。本稿では、簡素化と効率の向上という方向性で改善を進めることに焦点を絞っています。

より詳しく言えば、本稿の主な目的は、既存のACBソリューションの分析を実施し、それぞれの長所を活かしながら、よりシンプルでより効率の高い実用的なACBソリューションを開発することです。

まず、フライバック回路を使用する絶縁型のアーキテクチャについて考えてみます。このアーキテクチャでは、特に隣接していないセル間のバランシングが必要な場合に高い効率が得られます。この点では、明らかに他の方法よりも優れています。一方、マルチインダクタを用いるACBとスイッチド・キャパシタを用いるACBを使用すれば、隣接するセル間のバランシングにおいて優れた効率を得ることができます。また、簡素な制御ロジックによって安定した動作が得られ、ロバスト(堅牢性が高い)な性能が実現されます。

以上のことから考えると、簡素化されたACBソリューションで高い効率を得るためには、フライバック回路をベースとするアーキテクチャを基盤にすべきです。しかし、フライバック回路をベースとするACBにはトランスが必要になります。通常、多くのトランスを使用すると、コストの増大、システムの大型化、制御ロジックの複雑化といった問題が生じます。したがって、簡素化された設計を目指す場合、使用するトランスの数を最小限に抑えつつ高い効率を維持することが重要になります。非常に単純に考えれば、バッテリ・パック内のすべてのセルが単一のフライバック回路とトランスを共有するように設計すればよいということになります。

しかし、ハードウェアを簡素化し、トランスの数を減らすだけでは不十分です。それに加えて、制御用のロジックと動作の戦略を簡素化する必要があります。ACBはシステム・レベルのソリューションです。その設計に当たっては、ハードウェアによってエネルギーの転送機能を実現するために使用するICやコンポーネントについて吟味しなければなりません。それだけでなく、バランシングの戦略、つまりシステムのソフトウェアに含まれるACB用のアルゴリズムの設計にも細心の注意を払う必要があります。

一般に、バランシング用のアルゴリズムの設計は、サポートするハードウェアのアーキテクチャによって異なるものになります。バランシング用のハードウェアの設計を簡素化したら、それに応じてアルゴリズム設計の複雑さも軽減しなければなりません。このことは、引き続き取り組むべき重要な課題です。

ACBの設計の簡素化を図る

本稿では、上で説明した概念に基づき、図2に示す回路を提案します。このACB回路は、シンプルでありながら高い効率が得られる優れたソリューションです。このACB回路の設計は、16セルのバッテリ・パックを対象としています。そのために、1つのトランスを使用するフライバック回路を2組用意しています。1つはセル間のバランシングに使用し、もう1つはパック間のバランシングに使用します。

図2. 簡素化されたACBソリューションの回路。「LT8306」、「LT8309」、「ADP1612」、「MAX7312」、「MAX32670」、「ADBMS6830B」を使用しています。
図2. 簡素化されたACBソリューションの回路。「LT8306」、「LT8309」、「ADP1612」、「MAX7312」、「MAX32670」、「ADBMS6830B」を使用しています。

セル間のバランシングを実行する部分では、16個のセルがフライバックをベースとする単一の電源回路を共有しています。スイッチのマトリックスを使用し、バランシング回路を異なるセルに選択的に接続することにより、同じハードウェア・リソースを時分割で共有できるようにしています。この設計はシンプルかつ洗練されたものであり、複雑さを回避しつつ、高い効率とロバストな性能を得ることができます。このアプローチはACB回路の設計に大きなメリットをもたらします。

また、このソリューションは個々のセル間だけでなく複数のパック間における双方向のバランシングもサポートします。それにより、パック間にも非常に大きな効果がもたらされます。従来のソリューションでは、セル間またはパック間のバランシングを実行するために、独立した外部電源(12V/24Vのバッテリなど)を使用しなければならないケースが少なくありませんでした。それに対し、図2のACB回路はバッテリ・パック自体のエネルギーだけを使用して機能します。これにより、システム全体の効率が向上します。それだけでなく、ハードウェアとソフトウェアの設計の複雑さも軽減されます。

バランシング用アルゴリズムの設計の簡素化については、本連載のPart 3で詳しく説明します。ここでは、そのアルゴリズムにおける2つの重要な原理について説明しておきます。その原理とは、以下に示すようなものです。

  • セル間で真の双方向のバランシングを実施しようとすると、パック内が過度に複雑になります。そのため、バランシング用のアルゴリズムでは中間充電バッファを使用して間接的なバランシングを円滑に行えるようにします。具体的には、パック内の隣接するn個のセルがバッファとして指定されます。その後、セルからバッファへの放電とバッファからセルへの再充電という2段階のプロセスによってバランシングが実現されます。これにより、個々のセル間における双方向の電荷の移動を効果的にエミュレートします。
  • セルからバッファへの放電中、そのエネルギーはバッファのn個のセルに均等に分配されます。一方、バッファからセルへの充電を行う際には、バッファのn個のセルから均等にエネルギーが引き出されてセルに供給されます。

このアプローチでは、高性能のバランシング機能を維持しながらハードウェアのアーキテクチャを簡素化しています。それにより、コスト、効率、実用性の間の最適なトレードオフを実現しています。図2のACB回路は、高度なBMSを実現するための非常に実用的でスケーラブルなソリューションだと言えます。

パック間のバランシングが重要な理由

図2のソリューションに関する解説を続ける前に、パック間のバランシングがなぜ重要なのか、その理由を明らかにしましょう。

BMSとバッテリ・パックで構成されるシステムでは、BMSが動作する際に複数の回路モジュールによって電力が消費されます。つまり、セル・モニタ、絶縁型の通信回路、温度センサー、ACBの回路、PCBの回路などが動作することによって電力が消費されるということです。ここで問題になるのは、異なるBMSの回路の間で消費電力を同一のレベルに維持するのは困難であるということです。仮に、2つのBMSの回路が消費する電力がほぼ同等であるとしましょう。その場合でも、2つのBMSの回路が、異なる数のセルから成るバッテリ・パックを監視するとしたら(これは珍しいことではありません)、状況がより複雑になります(図3)。

そのような場合、セルの数が少ないバッテリ・パックでは、セル・モニタ向けの供給電流(IMONITOR)が増大します。時間が経過するにつれて供給電流の差が蓄積され、2つのバッテリ・パックの間の不均衡はより深刻になります。適切なバランシングが行われない限り、その差によってパック間の容量に大きなミスマッチが生じてしまう可能性があります。このような理由から、パック間のバランシングも重要なのです。

図3. バッテリ・パックの間のミスマッチ
図3. バッテリ・パックの間のミスマッチ

まとめ

本稿では、まず広く使用されているACBソリューションをいくつか紹介しました。続いて、それぞれの長所を活用し、設計の簡素化と効率の向上を実現する、より実用的なソリューションを提案しました。

そのソリューションのシンプルさと効率の高さは強調できるレベルにあります。しかし、現実のアプリケーションで生じるセルのミスマッチを考慮すると、すべてのシナリオに容易に対応できる単一の設計は存在しないことがわかります。この点を認識することが重要です。セルの容量が320Ahから、600Ah、1000Ahへと増大するなか、すべてのシナリオに対応するのはより難しくなります。このような状況下では、バッテリ・パックを導入する前に、バランシングのあらゆる戦略について慎重に評価/検証しなければなりません。

アナログ・デバイセズは、本稿で取り上げたものを含め、あらゆるアーキテクチャのACB回路に対応するソリューションを提供しています。各アーキテクチャには、それぞれに独自の長所、制約、理想的なアプリケーションのシナリオが存在します。システム設計者は、特定のニーズに基づいて最適なソリューションを柔軟に選択できます。

本連載のPart 3では、より実践的な議論を展開します。具体的には、シンプルでありながら効率の高いACB回路のプロトタイプの設計と実装について解説します。

著者

frank zhang

Frank Zhang

Frank Zhangは、アナログ・デバイセズのアプリケーション・エンジニアです。2022年に入社しました。現在はセントラル・アプリケーション・チャイナに所属。バッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システム(BMS)、高精度のシグナル・チェーン、組み込みソフトウェア開発が専門です。2022年に福州大学で電気工学の修士号を取得しました。