概要
バッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システム(以下、BMS)を設計する際には、簡素な構成で高い効率を実現することが目標になるケースが多いでしょう。本稿では、「シンプルがいちばん」を原則として掲げつつ、BMSで使用される効率の高いアクティブ・セル・バランシング機能について詳しく解説します。
はじめに
アクティブ・セル・バランシング(以下、ACB)のソリューションについては、次のように考えている方もいるのではないでしょうか。すなわち、複雑かつ高コストのソリューションか、コストは手ごろではあるものの効率が低いソリューションの2種類しか存在しないと。そのように考える人が必ずしも偏見に満ちているというわけではありません。むしろ、客観的で公平な評価を下している人だと言えるかもしれません。なぜなら、市場に提供されている数多くのソリューションは、上記のうちどちらかに当てはまることが多いからです。
本連載では、3回にわたりACBについて詳しく解説します。各回の概要は以下のようになります。
- Part 1:BMSの適用対象となるバッテリ・パックに対し、セルの容量のミスマッチとインピーダンスのミスマッチが及ぼす影響について解説します。
- Part 2:ACBを実現するための従来のソリューションをいくつか紹介します。その上で、従来の設計が複雑であった理由と高い効率を達成できなかった理由について分析します。また、セル間のバランシングだけでなく、パック間のバランシングが重要である理由も明らかにします。
- Part 3:ACBを実現するシンプルで高効率の回路を紹介します。そのプロトタイプの設計や、使用するアルゴリズム、GUI(Graphical User Interface)、バランシング性能の評価結果などについて詳しく説明します。
以上のような形で、基本的な概念から詳細な分析へと話を進めていきます。それを通して、BMSやACBにかかわる専門家や技術者だけでなく、単なる好奇心で本連載を読み始めた方も、有益な知見や学びを得ることができるはずです。
セルのミスマッチがバッテリ・パックに及ぼす影響
通常、BMSの適用対象となるバッテリ・パックは、複数のセルを直列に接続する形で構成されます。それにより高い電圧を生成するということです。そうした高電圧のバッテリ・パックは、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、高電圧に対応する蓄電システム、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)などの電力源として使用されます。バッテリ・パックでは、直列に接続されるすべてのセルの性能/条件が完全に一致していることが理想です。すなわち、セルの電圧、内部インピーダンス、充電状態(SoC:State of Charge)、健全性(SoH:State of Health)、動作温度といったパラメータの値がすべて等しければ理想的な状態が得られます。
ただ、実際にはそのような状態にはなりません。メーカーがセルを製造した段階では、ロット内のすべてのセルの仕様や性能は概ね同等です。しかし、実使用が始まると、個々のセルの経年劣化に伴い差異が生じます。その差異を生み出す要因としては、負荷、使用環境の温度/湿度、充電回数などが挙げられます。
一般的に言えば、セル間の性能の差が小さい場合、バッテリ・パックの正常な振る舞いが妨げられることはありません。つまり、特別な配慮は必要ないと言えます。しかし、セル間の性能の差が大きくなると、バッテリ・パックの振る舞いに問題が生じます。そのため、性能の差の影響を緩和するための措置が不可欠になります。以下では、セル間の顕著な性能の差のことを、セルのミスマッチと呼ぶことにします。
セルの容量のミスマッチ
ここで図1をご覧ください。バッテリ・パックに含まれる標準的なセル(健全なセル)と比べて、いくつかのセルの容量が著しく少ないとしましょう。それら容量の少ないセルは弱いセルと呼ばれます。弱いセルの存在は、充電時にも放電時にも問題の発生につながります。バッテリ・パックを充電している際、弱いセルは健全なセルと比べてより速くフル電圧に達します。つまり、他のセルよりも先に満充電の状態になるということです。ここで、それらのセルは大きなバッテリ・パックの一部として直列に接続されています。そのため、弱いセルが満充電になっても充電電流が自動的に停止することはありません。したがって、弱いセルが満充電になったらその時点で直ちにバッテリ・パック全体の充電プロセスを停止する必要があります。つまり、弱いセルが過充電の状態になるリスクを回避しなければならないということです。過充電が生じると、弱いセルだけでなくバッテリ・パック全体に危険が及ぶおそれがあります。
一方、放電時には弱いセルの電圧はより速く低下します。その結果、健全なセルよりも先に完全に放電した状態に達します。その時点で、バッテリ・パック全体の放電プロセスを直ちに停止しなければなりません。つまり、過放電のリスクを回避し、安全性を確保しなければならないということです。ここまでに説明したことから、弱いセルを含むバッテリ・パックには1つの大きな問題が生じることがわかります。それは、全体的な容量の利用率が著しく低下するというものです。この問題を解消するためには、健全なセルを満充電/完全放電できるようにしなければなりません。そのための仕組みがセル・バランシングの機能です。時間の経過と共にセルの充放電サイクルが繰り返されると、弱いセルでは(本来よりも充電回数が多くなることもあり)容量の劣化がより速く進行する傾向があります。それにより、健全なセルに対するミスマッチが更に増大します。
セルのインピーダンスのミスマッチ
セルの容量だけでなく、セルのインピーダンスも非常に重要なパラメータです。パックに含まれる1つのセルのインピーダンスが、健全なセルのインピーダンスと比べて著しく異なっているとします。この状態のことを、インピーダンスのミスマッチが生じていると表現します。各セルのインピーダンスは、各セルの健全性を評価する手段として用いられることもあります。その測定には、電気化学インピーダンス分光法(EIS:Electrochemical Impedance Spectroscopy)などが使用されます。一般に、健全なセルまたは比較的新しいセルのインピーダンスは低い値になります。それに対し、経年劣化したセルや健全性の損なわれたセルのインピーダンスは高くなる傾向があります。ここで図2をご覧ください。これを見れば、インピーダンスのミスマッチがバッテリ・パックの性能に及ぼす影響について直感的に理解できるはずです。
以下では、バッテリ・パック内の特定のセルのインピーダンスが他のセルよりも著しく高い場合、その特定のセルを不健全なセルと呼ぶことにします。図2では、充電時と放電時のセルを、コンデンサと抵抗が直列に接続された回路(モデル)で表しています。それにより、生じる現象を視覚的に表現しています。但し、このモデルによる抽象化は、本稿の議論を進めるためのものであることに注意してください。この方法を使えば、インピーダンスのミスマッチによる影響を視覚化できますが、実際のセルの物理的/電気的な特性を表しているわけではありません。
内部インピーダンスが高い不健全なセルを充電する際には、充電電流が流れることで、より大きな電圧降下が生じます。その場合、すべてのセルの電圧が同じ値になるとすると、不健全なセルに実際に貯蔵されるエネルギー量は他のセルよりも少なくなります。図2に示したように、不健全なセルを充電する際、そのVcell_actualの値は他のセルよりも低くなります。また、不健全なセルでは、インピーダンスに起因する電力損失が他のセルよりも多くなります。そのため、一般的には充電時の温度が高くなります。
では、放電時には何が起きるのでしょうか。その場合、インピーダンスが高いセルでは、所定の放電電流によって、より大きな電圧降下が生じます。そして、消費電力も多くなります。結果として、不健全なセルでは電圧と容量がより速く低下することになります。また、一般的には他のセルと比べて放電時の温度が高くなります。時間の経過に伴い充放電のサイクルが繰り返されると、その高い温度と経年劣化の影響によって不健全なセルのインピーダンスはより速く増大するようになります。その結果、バッテリ・パックにおけるインピーダンスのミスマッチはより深刻な問題として顕在化します。
ここで、容量のミスマッチとインピーダンスのミスマッチについてもう一度振り返ってみてください。これら2つのミスマッチは、セルの不均衡の異なる側面を表しています。しかし、それらによる最終的な影響はかなり似ていることがわかります。容量の少ない弱いセルも、インピーダンスの高い不健全なセルも、バッテリ・パックの使用可能な容量と生成される電圧に影響を及ぼします。弱いセルや不健全なセルを含むバッテリ・パックでは、全体的な容量の利用率が大きく低下し、安全に利用できる時間が著しく短くなります。セルのミスマッチは、バッテリ・パック内の健全なセルの安全性と振る舞いに対し、継続的に悪影響を及ぼす可能性があります。
パッシブか、アクティブか?
ここまで、セルのミスマッチについて説明してきました。その内容を踏まえると、BMSにおけるACBとパッシブ・セル・バランシング(以下、PCB)について格段に理解しやすくなります。以下、ACBとPCBについて簡単に説明します。
PCB:一般に、PCBは充電サイクルに機能する散逸的な手法だと言えます。容量が少ない弱いセルでは、所定の充電電流によって電圧がより速く上昇します。弱いセルが満充電の状態に達したら(または近づいたら)、充電電流による余分なエネルギーを直ちに放散させる必要があります。このエネルギーの放散は、発熱と熱管理の問題につながる事象です。しかし、それによって健全なセルをより長い時間にわたって充電できるようになります。最終的には、バッテリ・パックを使用できる時間を延ばすことが可能になるのです。PCBはBMSで広く利用されています。そのため、バッテリ・セルの監視用ICのほとんどはPCBに対応する機能を備えています。
ACB:PCBとは異なり、ACBではトランス、コンデンサ、インダクタを使用することにより、セルの間でエネルギーを移動させます。この手法は充電サイクルと放電サイクルの両方で機能し、電荷を効率的に再分配することを可能にします。
表1に示すように、PCBにもACBにも長所と短所があります。ただ、実際に使用するBMSの設計にどちらの手法を適用するのかは、単に両者の長所と短所を比較することによって決められるものではありません。多くの場合、その選択は対象とするバッテリ・システムの容量と規模に依存することになるでしょう。
| PCB (パッシブ・セル・バランシング) | ACB (アクティブ・セル・バランシング) | |
| 長所 |
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| 短所 |
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一般に、バランシング電流(セルのミスマッチに対処するために流す電流)は、セルの容量の約1%~5%に相当する値に設定されます。例えば、容量が4Ahのリチウム・イオン・バッテリにおいて、バランシングの対象となる電荷量がセルの容量の5%である場合、200mAhの容量を対象として均等化を図ることになります。このケースについて言えば、ACBよりもPCBが適しています。BMSを設計する際には、約1時間でその電荷を放散させられる200mA対応のPCB回路を実装すればよいでしょう。あるいは、100mA対応のPCB回路を使用できるケースもあるはずです。その場合、電荷の放散には2時間を要します。最終的には、セルの監視用ICのバランシング電流の能力とセルの容量に基づいてPCBの戦略を調整することになります。
では、容量が300Ahに達するバッテリについてはどのように考えればよいのでしょうか。その場合、5%のバランシング電流に対応する容量は15Ahに達します。仮に300mAの大電流に対応可能なPCB回路を使用したとしても、バランシングが完了するまでには50時間もかかります。しかも、実際にはもっと長い時間が必要になるはずです。単一セルのチャンネルに対し、長時間にわたって連続的にPCBの機能を適用すると、BMSで使用するICが過熱して破損してしまうおそれがあるからです。
上記のような大容量のバッテリを対象とする場合には、ACBを採用すべきです。例えば、15Aの電流で電荷を移動させられるACB回路を使用すれば、15Ahに相当する不均衡を約1時間で解消できます。電荷を移動させる能力が7.5Aであれば、所要時間は約2時間になります。PCBとは異なり、ACBではエネルギーを無駄に消費するわけではありません。そうではなく、余分なエネルギーは他のセル/パックに再分配されます。そのため、全体的なエネルギー効率が向上します。結果として、BMSにおける熱管理の負担が軽減されます。
まとめ
本稿(Part 1)では、セルの容量のミスマッチとインピーダンスのミスマッチがバッテリ・パックに及ぼす影響について説明しました。また、Part 2、Part 3に向けた下準備として、BMSで使用されるPCBとACBについて解説しました。
