はじめに
複数の異なる電源電圧を使用するシステムの場合、オペアンプの電源は、入力信号が印加されるのと同時かその前に確立されていなければなりません。さもなければ、過電圧やラッチアップによる問題が生じてしまうおそれがあるからです。
しかし、現実のアプリケーションでは、この要件を満たすのが困難なケースがあります。本稿では、さまざまな電源シーケンス(表2)に対するオペアンプの挙動に注目し、起こりうる問題について分析します。そのうえで、いくつかの提案を行います。
電源シーケンスに関する問題の多様性
電源シーケンスに関する問題は、さまざまなシナリオによって生じます。アナログ・デバイセズ(ADI)の顧客の例を挙げてみましょう。そのアプリケーションでは、オペアンプIC「AD8616」をバッファとして使用していました( 図1) 。電源が確立される前の時点では、入力は0Vです。また、負電源は正電源よりも先に投入されます。つまり、負電源は供給されているのに、正電源は供給されていない状態が生じます。
表1は、この条件におけるAD8616の全てのピンの電圧値をまとめたものです。ご覧のように、正電源V+が供給される前は、V+ピンとOUTA/OUTBピンの電圧は負の値になります。このことが即座にオペアンプの損傷につながることはないかもしれません。しかし、これらの信号が、適切に電源が供給されていない他のICの端子に接続されていた場合(例えば、A/Dコンバータが同じV+を使用していて、その電源ピンの通常の最小許容電圧がわずか-0.3Vである場合)、そのICは損傷してしまう可能性があります。同じ問題は、V-よりも先にV+にだけ電源が投入された場合にも生じます。
表2は、電源シーケンスについて考えられる状況をまとめたものです。
表1. AD8616の各ピンの電圧
(V-には-3Vを供給しているが、V+には電圧を供給していない)
ピン1: OUTA |
ピン2: -INA |
ピン3: +INA |
ピン4: V - |
ピン5: +INB |
ピン6: -INB |
ピン7: OUTB |
ピン8: V+ |
-1.627 |
-1.627 |
-0.959 |
-3.000 |
-0.959 |
-1.627 |
-1.627 |
-1.627 |
表2. 電源シーケンスについて考えられる状況
入力 |
V+ |
V- |
アンプの電源の負荷 |
アンプの出力の負荷 |
|
ケース 1 |
フローティング フローティング |
供給する 供給しない |
供給しない 共給する |
なし なし |
なし なし |
ケース 2 |
0 V 0 V |
供給する 供給しない |
供給しない 共給する |
なし なし |
なし なし |
ケース 3 |
正または負 正または負 |
供給する 供給しない |
供給しない 共給する |
なし なし |
なし なし |
ケース 4 |
正または負 正または負 正または負 正または負 |
供給する 供給する 供給しない 供給しない |
供給しない 供給しない 共給する 共給する |
存在する なし 存在する なし |
なし 存在する なし 存在する |
オペアンプが内蔵するESDダイオード
ESD(静電気放電)が原因で過電圧が発生することもあります。ほとんどのオペアンプは、静電気による問題を防ぐためにESD保護用のダイオード(以下、ESDダイオード) を内蔵しています。ESDダイオードは、V+またはV-のいずれかに電圧がかかっていない場合の挙動における鍵になることがあります。
表3. オペアンプが内蔵するダイオードの降下電圧〔V〕
ADA4077 |
ADA4177 |
|
D1 |
0.838 |
不明 |
D2 |
0.845 | 不明 |
D3 |
0.837 | 不明 |
D4 | 0.844 | 不明 |
D5 | 不明 |
不明 |
D6 | 不明 |
不明 |
D7 | 0.841 | 0.849 |
D8 | 0.842 | 0.849 |
また、DMM( デジタル・マルチメーター) を使用してADA4077-2のD5/D6について測定を行う場合、2つの入力端子の間にダイオードが存在しないことにも注目してください。入力電流を±10mAより少なく抑えるために、バックツーバック・ダイオードの手前には2つの抵抗が直列に接続されています。内部の抵抗とバックツーバック・ダイオードは、ベース‐エミッタ間接合のブレークダウンを防ぐために差動入力電圧を±Vs以内に制限する役割を果たします。
ADA4177については、堅牢性を高めるために過電圧保護(OVP:Over Voltage Protection)用のセル(以下、OVPセル)も内蔵しています。このOVPセルは、ESDダイオードとバックツーバック・ダイオードの手前に配置されています。そのため、DMMによって各ダイオードについて測定を行うのは困難です。なお、ADA4177の出力側のESDダイオードについては測定が可能です。
評価用の設定
オペアンプについて測定を行うために、図3の回路を使用しました。チャンネルAとチャンネルBはいずれもバッファとして構成しています。チャンネルBの非反転入力は100kΩの抵抗を介してグラウンドに接続しています。V+に電圧を供給せず、V-に電圧を供給するか、V+に電圧を供給してV-には電圧を供給しない状態にし、電圧計と電流計を使って入力および電源に関連する値を測定します。得られた値について分析を行うことで、電流の経路を明らかにすることができます。
【ケース1】入力がフローティング
表4は、入力がフローティングで電源の1つに電圧が供給されていない場合の測定結果をまとめたものです。V-に電圧を供給してV+には供給していない場合、V+ピンには負の電圧が現れます。V+に電圧を供給してV-に供給しない場合には、V-ピンに正の電圧が現れます。
ADA4077-2とADA4177-2の測定結果はよく似ています。入力ピンでも電源ピンでも大きな電流は観測されていません。この結果から、入力がフローティングの場合、オペアンプは電源が供給されていなくても安全な状態にあると言えます。
【ケース2】入力が接地されている
表5に示したのは、入力が接地されている場合の測定結果です。IB+の負の値は、+INピンからの電流が流れていることを表しています。この点に注意してください。IOUTの負の値は、-INピンから電流が流れることを表しています。
表4. ADA4077-2/ADA4177-2の評価結果(入力はフローティング)
条件 |
V+〔V〕 |
V-〔V〕 |
ISY+〔mA〕 |
ISY-〔mA〕 |
IB+〔mA〕 |
IOUT[mA] |
IN [V] |
OUT [V] |
|
ADA4077-2 |
V+/V-ともに供給 | 15 | -15 |
1.02 | 1.01 | -0.00005 | 0.00007 | 0.001 | -0.008 |
V+には供給しない | -13.1 | -15 | 0 | 0.12 | -0.00001 | 0.001 | -13.73 | -14.42 | |
V-には供給しない | 15 | 13.06 | 0.15 | 0 | -0.00001 | 0.001 | 12.93 | 13.62 | |
ADA4177-2 |
V+/V-ともに供給 | 15 | -15 |
0.98 | 0.96 | -0.00001 | 0.00002 | 0 | 0.001 |
V+には供給しない | -14.26 | -15 | 0 | 0.14 | -0.00002 | 0.00137 | -13.77 | -13.78 | |
V-には供給しない | 15 | 12.96 | 0.14 | 0 | -0.00001 | -0.00039 | 12.26 | 12.31 |
表5. ADA4077-2/ADA4177-2の評価結果(入力は接地)
条件 |
V+〔V〕 |
V-〔V〕 |
ISY+ [mA] |
ISY- [mA] |
IB+ [ mA] |
IOUT [mA] |
IN [V] |
OUT [V] |
|
ADA4077-2 |
V+/V-ともに供給 | 15 | -15 |
1.01 | 1 | -0.00005 | 0.00001 | 0 | -0.019 |
V+には供給しない | -0.846 | -15 | 0 | 2.30 | 2.300 | -1.60 | -0.017 | -2.68 | |
V-には供給しない | 15 | 0.847 | 1.78 | 0 | -1.758 | 1.064 | 0.12 | 2.116 | |
ADA4177-2 |
V+/V-ともに供給 | 15 | -15 |
0.98 | 0.96 | -0.00001 | 0.00002 | 0 | 0 |
V+には供給しない | -11.99 | -15 | 0 | 9.3 | 9.300 | -0.200 | -0.068 | -11.98 | |
V-には供給しない | 15 | 1.848 | 1.84 | 0 | -1.823 | 0.067 | 0.013 | 1.851 |
一例として、ADA4077-2のV+に電圧が供給されていない場合を見てみると、V+はESDダイオードによってVINの電圧に制限されていることがわかります。
- VINはE SDダイオードを介してV+に接続されている。そのため、VINが0Vの時、V+は-0.846Vとなっている
- 電流経路については次のようになる。まず、図4の赤色で示される経路に沿って、グラウンド( +IN)からV+に0.7mAの電流が流れる。また、グラウンド(+IN)から内部抵抗、D5、-INとOUTの間の帰還パスを通って1.6mAの電流が出力端子に流れる。最終的に2つの電流(0.7mAと1.6mA)が合流して-15Vに向かって流れてグラウンド(+IN)に戻る
ADA4177-2もADA4077-2も同様の測定結果になります。ADA4177-2が内蔵するD1は、ラテラル型PNPトランジスタのエミッタ、ベースによって実現されています。このトランジスタは過電圧によって生じる電流をV+からV-に逃がします。図4 のADA4177の回路では、V+からV-に戻る9.1mAの電流に帰還パスの0.2mAの電流が加わり、-15Vに対する9.3mAの電流となってグラウンドに戻ります。
ADA4077-2でもADA4177-2でも、入力ピンと電源ピンに大きな電流は流れていません( 表5) 。これらのオペアンプでは、ゲインが1で+INが接地されている場合、どのような電源シーケンスであっても問題は生じません。
【ケース3】入力電圧が印加されている
ここでは、電源の1 つに電圧が供給されていない状態で、+IN端子に正または負の電圧(10Vまたは-10V)を印加します。その結果は表6のようになりますが、ご覧のように大きな電流は発生していません。したがって、これらのオペアンプでは、ゲインが1 で+INが接地されている場合、どのような電源シーケンスであっても短時間は耐えることができます。
電流経路についてはケース2(入力が0V)の場合と同様です(図5)。
表6. ADA4077-2/ADA4177-2の評価結果(入力に正負の電圧を印加)
条件 |
V+〔V〕 |
V-〔V〕 |
ISY+ [mA] |
ISY- [mA] |
IB+ [mA] |
IOUT [mA] |
IN [V] |
OUT [V] |
|
ADA4077-2 |
V+/V-ともに供給 | 15 | -15 |
1.03 | 1.01 | 0.00098 | -0.00003 | 10 | 9.97 |
V+には供給しない、入力は正電圧 | 9.14 | -15 | 0 | 2.4 | 2.396 | -1.653 | 9.99 | 7.3 | |
V+には供給しない、入力は負電圧 | -10.83 | -15 | 0 | 2.41 | 2.308 | -1.651 | -10.02 | -12.66 | |
V-には供給しない、入力は正電圧 | 15 | 10.83 | 1.81 | 0 | -1.689 | 1.055 | 10.02 | 12.09 | |
V-には供給しない、入力は負電 | 15 | -9.15 | 1.77 | 0 | -1.759 | 1.031 | -9.99 |
-7.88 | |
ADA4177-2 |
V+/V-ともに供給 | 15 | -15 |
1.02 | 1 | -0.00099 | -0.00009 | 9.99 | 9.97 |
V+には供給しない、入力は正電圧 | -9.09 |
-15 |
0 | 8.86 | 8.866 | -0.113 |
9.92 | -9.06 |
|
V+には供給しない、入力は負電圧 | -12.33 |
-15 |
0 | 4.31 | 4.18 | -0.039 |
-10.02 |
-12.32 |
|
V-には供給しない、入力は正電 | 15 | 11.42 | 1.33 | 0 | -1.2 | 0.056 | 9.99 | 11.43 | |
V-には供給しない、入力は負電圧 | 15 | -8.33 | 1.51 | 0 | -1.492 | 0.062 | -9.97 | -8.32 |
【ケース4】入力電圧が印加されていて、電源/出力に負荷がある
現実のアプリケーションでは、アンプ回路は他の回路と共に使用されます。例えば、オペアンプの出力によって負荷を駆動する場合もありますし、オペアンプに供給される電源が他の回路に電源を供給していることもあります。そうした場合に問題が生じる可能性があります。
ここでは、出力とグラウンドの間、または電圧を供給していない電源ピンとグラウンドの間に、47Ωの抵抗を接続して評価しました。表7に示したのがADA4077の評価結果です。少し濃い網掛けをしたところは多くの電流が流れていることがわかります。V+に電圧が供給されていない場合、3つの状況でリスクが生じる可能性があります。
状況1:入力が1 0V、OUTの負荷が4 7Ωの時、出力は1.373Vになる。オペアンプの出力ピンから23mAの電流が流れる時(図6を参照)、その電流経路は次のようになっている:
- 入力信号源から30.2mAの電流が流れる
- 24mAの電流がD1を通ってV+に流れ、6.2mAの電流がD5と帰還パスを通ってOUTに流れる
- V+からの24mAの電流はV-に向かう1mAとOUTに向かう23mAに分かれる
- 29.2mAの電流が4 7 Ωの負荷を通ってグラウンドに流れる
このような多くの電流は制限する必要があります。そこで+INに1 k Ωの抵抗を追加し、入力電流を6.8mAに減少させます。
状況2:入力が1 0V、V+の負荷が4 7Ωの時、1 7 0mAの電流がADA4077-2に流れ込む( 図7) 。その電流が、V+ピンから、電源に接続された4 7 Ω の負荷に流れる。170mAの電流は内部のダイオードを焼損させ、チップに損傷を与える。この場合も+INに1 k Ωの抵抗を追加することによって、入力電流を8.9mAまで減らすことができる。
表7. ADA4077の評価結果(出力ピンまたは電圧が供給されていない電源ピンに負荷を接続)
ADA4077-2 | 条件 |
IN [V] | V+〔V〕 |
V-〔V〕 |
ISY+ [mA] |
ISY- [mA] |
IB+ [mA] |
IOUT [mA] |
OUT [V] |
V+には供給しない |
出力またはV+に負荷なし、入力は正電圧 | 9.99 | 9.14 | -15 |
0 | 2.4 | 2.396 | -1.653 | 7.3 |
出力とグラウンドの間に47Ωの負荷 | 9.98 | 8.77 | -15 | 0 | 1.00 | 30.22 | -6.174 | 1.373 | |
出力とグラウンドの間に47Ωの負荷、入力に1kΩ | 9.98 | 2.389 | -15 | 0 | 0.76 | 6.828 | -2.104 | 0.284 | |
V+とグラウンドの間に47Ωの負荷 | 9.59 | 8.01 | -15 | 170 | 5.05 | 175 | -5.0 | 6.06 | |
V+とグラウンドの間に47Ωの負荷、入力に1kΩ | 9.94 | 0.295 | -15 | 6.27 | 2.69 | 8.96 | -2.69 | -1.876 | |
出力またはV+に負荷なし、入力は負電圧 | -10.02 | -10.83 | -15 | 0 | 2.41 | 2.308 | -1.651 | -12.66 | |
出力とグラウンドの間に47Ωの負荷 | -9.97 | -3.226 | -15 | 0 | 48.6 | -4.65 | 4.885 | -2.501 | |
出力とグラウンドの間に47Ωの負荷、入力に1kΩ | -10.02 | -10.83 | -15 | 0 | 14.30 | 2.284 | -1.629 | -0.563 |
状況3:入力が負電圧(- 1 0V)で、OUTの負荷が4 7 Ω の時、チップ内部には48mAの電流が流れる(図8)。それにより48mA×(-2.5V+15V)=0.6Wの電力が消費される。ADA4077-2の熱抵抗θ J A が158℃/Wであることを考慮すると、ジャンクション温度は周囲温度よりも94. 8℃高くなる。2チャンネルで使用する場合や、負荷が重い場合には、ジャンクション温度は150℃より高くなり、チップが破壊してしまう可能性がある
I電流制限抵抗は入力側ではなく、出力側に追加する
V+に電圧が供給されており、V-に供給されていない場合にも同じ現象が起きる。電流を制限するために外付けの抵抗を追加することによって、回路の堅牢性が向上する
ADA4177-2については、状況3のみが当てはまります。大きな負電圧入力と出力側の重い負荷が同時に存在し、さらにV+に電圧が供給されていない場合には、チップを介して53mAの電流が流れます。その結果、消費電力の増加によってジャンクション温度が上昇します(図9)。これについても、出力に1kΩの抵抗を追加することでリスクを回避することができます。
堅牢性については、ADA4177-2の方がADA4077-2よりも優れています。高い精度と堅牢性の両方が求められるアプリケーションには、ADA4177-2の方が適しています。
電源シーケンスに対する他のオペアンプの挙動
オペアンプでは、ダイオード、抵抗、OVPセルの構成は製品ごとにさまざまです。OVPセルを内蔵していないオペアンプもあれば、バックツーバック・ダイオードを備えていないオペアンプも存在します。構成が異なれば、電源の1つに電圧が供給されていない場合の挙動も異なります。また、オペアンプ本体の設計の違いにより挙動が異なる場合もあります。
例えば、「ADA4084-2」は電流制限抵抗やOVPセルは内蔵していません。しかし、電源およびバックツーバック・ダイオードに接続されたESDダイオードは備えています。表9と図10は、V+に電圧が供給されておらず、入力が10Vの場合の挙動をまとめたものです。ADA4084の挙動と電流経路は、(ケース3として示した)ADA4077-2/ADA4177-2の場合と似ています。しかし、ADA4084は電流を制限するための内部抵抗とOVPセルを備えていないので、60mAもの電流が流れ、損傷に至る可能性があります。
表8. ADA4177の評価結果(出力または電源に負荷を接続)
ADA4177-2 | 条件 |
IN [V] | V+〔V〕 |
V-〔V〕 |
ISY+ [mA] |
ISY- [mA] |
IB+ [mA] |
IOUT [mA] |
OUT [V] |
V+には供給しない |
出力またはV+はフローティング、入力は負電圧 | -10.02 |
-12.33 | -15 |
0 | 4.31 | 4.18 | -0.039 | -12.32 |
出力とグラウンドの間に47Ωの負荷 | -9.97 | -3.218 | -15 | 0 | 51.53 | -2.473 | 2.632 | -2.543 | |
出力とグラウンドの間に47Ωの負荷、入力に1kΩ | -10 | -10.4 | -15 | 0 | 9.10 | -0.003 | 0.147 | -0.428 |
表9. ADA4084-2の評価結果(V+には電圧を供給しない。入力は10V)
ADA4084-2 | 条件 |
V+〔V〕 |
V-〔V〕 |
I+ [mA] |
I- [mA] |
IB+ [mA] |
IOUT [mA] |
IN [V] | OUT [V] |
V+/V-ともに供給 | 15 | -15 |
1.38 | 1.37 | -0.001 | -0.0001 | 10 | 9.98 | |
V+には供給しない、入力は正電圧 | 8.71 | -15 | 0 | 60.1 | 60.102 | -51.89 | 9.56 | 7.99 |
システム・アプリケーションでは、異なるオペアンプ、異なるトポロジー(非反転増幅、反転増幅、差動増幅など)、異なる負荷、異なる外部接続で実装が行われます。電源の1つに電圧が供給されない状況が発生する場合には、そのリスクについて評価する必要があります。本稿で示した評価用回路(図2)、電流経路の解析方法、潜在的なリスクの評価方法をぜひ活用してください。
まとめ
過電圧やラッチアップの問題を回避するためには、オペアンプの複数の電源を同時に確立する必要があります。一般的なガイドラインは以下のようになります。
- 電源の投入シーケンスにおいては、電源が確立されてから入力に信号を印加する
- 電源の遮断シーケンスにおいては、入力信号を停めてから電源を遮断する
実際のアプリケーションでは、これらのガイドラインに従うのが困難なケースもあるかもしれません。特に入力信号が存在する時に問題が起きる可能性が高いので、設計者はそのリスクについて正しく評価する必要があります。効果的な策は、オペアンプの入力電流を、データシートに記載された仕様の範囲内に制限するよう努めることです。複数の電源を同時に供給できないアプリケーションでは、入力側と出力側に電流制限用の抵抗を追加するのが有効な手段になるかもしれません。
本稿では、アナログ・デバイセズの3 種のオペアンプ(ADA4084-2、ADA4077-2、ADA4177-2)について電源に電圧が供給されていない状態での評価結果を示しました。その結果から、抵抗を内蔵しているADA4077-2は非常に堅牢性が高いことがわかります。また、OVPセルを備えるADA4177が最も堅牢性に優れていることもわかりました。電源が供給されないケースが想定されるものの、外付けの電流制限抵抗を加えることができないアプリケーションでは、精度の低下を避けるためにADA4177を使用することをお勧めします。
参考資料
ADA4077 Analog Devices
ADA4177 Analog Devices
Eric Modica、Michael Arkin 共著「過電圧保護機能を集積化したロバストなオペアンプ」Analog Dialogue 46-02
Paul Blanchard, Brian Pelletier 共著「ESDダイオードによる電圧クランプ」 Analog Dialogue 49-10
ADA4177とADA4077の詳細については、各製品のページとデータシートをご覧ください。