家庭向けの無停電電源装置を構築する

質問:

停電が起きたときでも、Wi-Fi用のルータをはじめとする家電機器を引き続き使用できるようにしたいと思っています。どのような方法が考えられるでしょうか?

How to Build an Uninterruptible Power Supply for Home Devices

回答:

家庭向けの無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)を設計すればよいでしょう。具体的には、車載バッテリをバックアップ電源として使用する方法が考えられます。例えば、Wi-Fiルータ用に12V/5Aの電力を生成する昇降圧コンバータと、コードレス電話用に6.5V/1.5Aの電力を生成する降圧コンバータを用意するとします。それらのコンバータに車載バッテリを接続することで、UPSを実現することができます。

はじめに

現在、世界中の人々の暮らしは先進的な技術を利用することによって成り立っています。それに伴い、電力に対する依存度はますます高まっています。実際、私たちの家庭環境は最先端の技術を駆使することで維持されています。しかし、もしも停電が発生してしまったら、どのような状態になるでしょうか。その場合、私たちの暮らしはかなり原始的なレベルまで劣化してしまうことになりかねません。そこで、本稿ではそのような事態を回避する手段として、家電機器向けのUPSの設計例を紹介します。その設計では、Wi-Fiルータの稼働を維持できるようにすることを目標とします。現在の家庭において、Wi-Fiルータは常に稼働させておきたい非常に重要な要素であるはずだからです。

家庭向けのUPS

早速ですが、図1をご覧ください。これは、上記の目標を達成するために設計した家庭用UPSの回路です。2022年の初頭、世界の平和は大きく損なわれました。そのことも一因となって、多くの国がエネルギー供給の面でも危機に直面することとなりました。図1の回路は、そうした背景から、必要に迫られて設計されたものです。平均的なWi-Fiルータは、再起動に2分以上の時間を要します。電話会議の最中に電力が途切れると、その時間は気が遠くなるほど長く感じられる可能性があります。先進国ゆえの贅沢な悩みのようにも感じられますが、実際、電力の供給量が短時間低下しただけでも大きな問題が発生するおそれがあります。図1の回路は、Wi-Fiのアクセス・ポイント(やその他の家電製品)向けに12V/5Aの電力を供給します。同時に、コードレス電話向けに6.5V/1.5Aの電力を供給することも可能です。これだけの準備があれば、ほとんどのノート型パソコンを対象としてネットワーク通信を維持することができるはずです。

図1. UPSの回路図
図1. UPSの回路図

図1の回路では、バックアップ電源として車載バッテリを使用します。具体的には、廃棄物の回収所から20ポンド(約3300円)で購入してきた中古品を活用します。昇降圧コンバータとしては、4個のスイッチを制御する「LTC3789」を使用しています。これにより、12Vの電源を、入力電圧がそれよりも高くても低くても、非常に優れた効率で供給することができます。同ICの評価キットは、入力電圧が5V~36V、出力が12V/5Aという仕様で設計されています。図1の回路では、同キットを、変更を加えることなくそのまま使用しています。Wi-Fiルータに必要な電流値は1Aです。そのため、同キットを使用すれば、12Vを必要とする他のアプリケーションにも対応できます。

コードレス電話については、6.5V、約600mAの電源が必要でした。これに対応するために選択したのが「LT8608」です。これは、低ノイズ、高効率の降圧コンバータであり、自己消費電流はわずか2.5µAに抑えられています。LTC3789とLT8608の最大入力電圧はそれぞれ38Vと42Vです。そこで、回路において最も高い効率が得られるように、両コンバータを車載バッテリに直接接続することにしました。安価なバッテリ・チャージャの中には、バッテリに正しく接続されておらず、バッテリが充電電流を適切に取り込まない場合には、高電圧を生成してしまうものがあります。つまり、バッテリ・チャージャが回路に適切に接続されていても、バッテリに適切に接続されていない場合には、各電子部品が破損してしまうおそれがあるということです。LTC3789とLT8608は入力電圧範囲が広いので、バッテリ・チャージャが接続されている場合の高電圧の問題が緩和されます。図1の回路は、バッテリ・チャージャが常に接続されている場合でも、そうでない場合でも適切に動作します。但し、換気されていない部屋でバッテリ・チャージャを常に接続しておくと、安全性の問題が発生するかもしれません。これについては、使用するバッテリ・チャージャに依存します。

この回路では、「LTC4416」を使うことによって巧妙な実装を行っています。同ICは、ORing機能(2つの理想ダイオードを模したOR制御機能)を提供するコントローラです。これを使うことにより、主電源とバックアップ電源の間の切り替えを行います。同ICが内蔵する高精度のコンパレータを利用して主電源が停止したことを検出し、外付けのPチャンネルMOSFET(PFET)を4個使うことで、バックアップ電源への切り替えを行います。

同ICの回路を簡素化すると、概念的には2つのダイオードから成るOR回路と同様のものになります。実際にダイオードを使用する場合、2つのダイオードのカソード同士を接続し、主電源とバックアップ電源を各アノードに接続することになります。その回路は、2つの電源のうち電圧の高い方をカソードから出力するだけです。また、ダイオードを介すことから0.6Vの電圧降下が生じます。ダイオードの代わりにPFETを使用し、それらをLTC4416によって適切に制御することで、より効率的な回路を実現できます。図2の回路では、PFETのボディ・ダイオードの電圧降下を測定します。それが閾値を超えたらPFETはオンになり、ボディ・ダイオードが短絡した状態になります。電圧降下の値が負になると、PFETは駆動されなくなり、ボディ・ダイオードによって逆向きの電流が遮断されます。つまり、順方向の電圧降下が小さく、逆方向の電流を遮断する理想ダイオードが構成されるということです。

図2. LTC4416の利用例(その1)。2つのPFETを使ってORing機能を実現しています。
図2. LTC4416の利用例(その1)。2つのPFETを使ってORing機能を実現しています。

図2の回路では、各PFETのボディ・ダイオードは入力から出力に向かって接続されていることになります。そして、ボディ・ダイオードは一方の入力電圧が他方よりも600mV以上高くなると導通します。つまり、バックアップ電源の電圧が主電源の電圧よりも高い場合、負荷に対する電力はバックアップ電源から供給されることになります。このような動作は望ましくありません。PFETを逆向きにすれば、この問題は解決します。しかし、その場合、出力電圧が入力電圧よりも600mV以上高くなると、ボディ・ダイオードが導通してしまいます。

より良い解決策は、図3に示すように、各パスにそれぞれもう1つのPFETを追加することです。この回路では、2つのボディ・ダイオードの向きが逆になっています。そのため、PFETがオフの場合には双方向にオープン・サーキットになります。つまり、入出力電圧にかかわらず、各チャンネルが隔離されます。

図3. LTC4416の利用例(その2)。PFETを追加することで、双方向の遮断が可能なORing機能を実現しています。
図3. LTC4416の利用例(その2)。PFETを追加することで、双方向の遮断が可能なORing機能を実現しています。

図1の回路は12Vに対応します。それに向けて、当初は抵抗R3として100kΩ、同R1として12.2kΩ(10kΩ + 2.2kΩ)を使用し、11.17Vのスイッチ・オーバー電圧を供給するようLTC4416の評価キット「DC1059A」を改変していました。それにより、目標とする機能は実現できましたが、1つ問題がありました。12Vの主電源が復旧した際、Wi-Fiのアクセス・ポイントが再起動するケースがあることが判明したのです。Wi-Fiのアクセス・ポイントには12Vの電源を正確に供給する必要があります。(11.17Vから12Vへの)電圧のステップにより、ルータ内部の電子回路の動作が乱れてしまっていたのです。この問題を解消するための対策として、R1の値を11.47kΩに変更しました。それにより、スイッチ・オーバー電圧を11.8Vに高め、ステップ・サイズを低減させました。

コードレス電話の内部回路は、電源電圧のステップに対してはるかに高い耐性を備えていました。そのため、抵抗R15の値は32kΩ(22kΩ + 10kΩ)に設定し、スイッチ・オーバー電圧を5Vとしました。

図4に示したのは、図1の回路の入出力波形です。緑色の線は、LTC4416から常に出力される12Vの電圧を表しています。赤色の線はウォール・キューブ(wall cube)からの12Vの電圧、青色の線は車載バッテリの電圧を表しています。緑色の線には乱れが生じていますが、これはオシロスコープのプローブをDC結合にした場合には観測されません。AC結合に変更すると、12Vの主電源が接続されるタイミング(600ミリ秒)と切断されるタイミング(5.8秒)で乱れが観測されます。皮肉なことに、この回路の出力では、12Vの主電源が接続されているときの方がノイズがはるかに大きくなっています。ウォール・キューブからのノイズの方がLTC3789からのノイズよりも大きいということです。

図4. 図1の回路の入出力波形。主電源(赤色)が切り離されている間は、12Vの出力(緑色)はほとんど乱れません。
図4. 図1の回路の入出力波形。主電源(赤色)が切り離されている間は、12Vの出力(緑色)はほとんど乱れません。

図5に示したのは、UPSの電子回路の外観です。図6には、バッテリを含むUPSの全体像を示しています。

図5. UPSの電子回路
図5. UPSの電子回路
図6. バッテリを含むUPSの全体像
図6. バッテリを含むUPSの全体像

更なる改良

図1のUPS回路を直列に挿入できるようにするためには、ウォール・キューブからのケーブルを切断しなければなりません。より良い解決策としては、次のようなものが考えられます。例えば、340VのDC電圧を車載バッテリから生成し、それを拡張ソケットに供給して、そのソケットにウォール・キューブを差し込むという方法です。すべてのウォール・キューブは整流器を備えているので、その電圧はACでもDCでも構いません。但し、12Vのバッテリから340Vを生成する際に生じる損失と、その電圧をウォール・キューブ内で降圧する際に生じる損失については考慮する必要があります。そうすると、ウォール・キューブからのケーブルを切断しなければならないとはいえ、より低い電圧を使用する回路の方がはるかに効率的だし、よりシンプルな方法だと言えるでしょう。

LTC4416の評価キットには、主電源とバックアップ電源のうちどちらが使用されているのかを示すLEDが含まれています。それらは、筐体の外側に簡単に配置することができました。スイッチ・オーバー機能のテスト向けに、LTC4416のイネーブル・ピンを手作業でローにするためのプッシュ・ボタンを追加すると便利かもしれません。

本稿で紹介した回路については徹底的なテストを実施しました。それにより、優れた性能が得られることが確認できました。扱う電流がより多い場合には、Nチャンネルの理想ダイオード(LTC4416のようなコントローラ)を使用するとよいでしょう。アナログ・デバイセズは、LTC4416以外にも、理想ダイオード製品やホット・スワップ対応製品を数多く提供しています。

まとめ

本稿では、シンプルな家庭用UPSの実現方法を紹介しました。このような回路を用意しておけば、停電が発生した場合でも、各種の家電機器の動作を維持することができます。本稿で紹介した設計に変更を加え、より高性能なMOSFETと大容量のバッテリを使うようにすれば、より大きな電力を出力することが可能になります。そうすれば、より長い時間にわたってバックアップ電源から電力を供給することができます。

Simon Bramble

Simon Bramble

Simon Brambleは、アナログ・デバイセズのスタッフ・エンジニアです。以前はLinear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)でアナログ技術者として業務に従事していました。ロンドンのブルネル大学でアナログ技術とパワー技術を専攻。1991年に電気工学と電子工学の学位を取得しました。