標準的なレギュレータを使って、非常に低い電圧を生成する

質問:

数百mVのレベルの低いDC電源電圧を生成したいと考えています。何か良い方法はありませんか?

RAQ Issue: 181

回答:

DC/DCコンバータに対する帰還電圧を生成する抵抗分圧回路を、正のDC電圧でバイアスしてください。それだけで低い電源電圧を得ることができます。

ここ数年の間に、ICの電源電圧は着実に低下しています。なぜなら、マイクロコントローラ、CPU、DSPといったデジタル回路に使われる幾何学的な構造のサイズが縮小しているからです。また、計測分野のアプリケーションでは、低い電源電圧が必要となるケースがあります。

長年にわたり、多くのリニア・レギュレータ/スイッチング・レギュレータでは、帰還電圧として約1.2Vが使われてきました。レギュレータICが内蔵するバンド・ギャップ回路によって生成される電圧が約1.2Vであるからです。この電圧により、外付けの抵抗分圧器によって設定可能な最小電圧が決まっていました。しかし、最近のレギュレータICでは、ほとんどの場合、0.8V、0.6V、更には0.5Vの出力電圧を生成できるようになっています。言い換えると、内蔵電圧リファレンスがこのような低い電圧を生成できるように設計されているということです。図1に示したのは、そのようなDC/DCコントローラIC「LTC3822」を使用して構成したスイッチング・レギュレータの例です。同ICは、0.6Vの電圧リファレンスを内蔵しており、0.6Vの帰還電圧を使用して動作します。

図1. LTC3822を使って構成したスイッチング・レギュレータ。0.6Vという低い出力電圧を生成できます。
図1. LTC3822を使って構成したスイッチング・レギュレータ。0.6Vという低い出力電圧を生成できます。

図1の回路では、0.6Vまでの電圧を出力することができます。0.6V未満の電源電圧が必要な場合には、この回路をそのまま使用することはできません。

しかし、ちょっとした工夫を施せば、スイッチング・レギュレータ/リニア・レギュレータによって帰還電圧よりも低い電圧を生成することができます。図2に、その方法を適用した回路を示しました。この回路では、正のDCバイアス電圧(以下、バイアス電圧)を抵抗分圧器に印加しています。それにより、出力電圧の調整が可能になります。バイアス電圧は、LDO(低ドロップアウト)レギュレータや電圧リファレンスによって得ることができます。図2のように回路を構成すると、抵抗分圧器には図1の場合とは逆方向に電流IFBが流れます。つまり、外付けの電圧リファレンスから抵抗分圧器を介して出力電圧の方向に電流が流れるということです。

以下の式は、ICの帰還電圧VFB、出力電圧VOUT、バイアス電圧VOFFSET、抵抗分圧器を構成する抵抗R1、同R2の関係を表しています。

数式 1

R1とR2については、両者の合計値が100kΩ~500kΩになるように選択するとよいでしょう。それにより、IFBの値を適切に保つことができます。つまり、電力効率の観点からは十分に少なく、敏感な帰還パスに対する過度なノイズ結合を防ぐという観点からは十分に多い状態に設定できるということです。

図2. 0.6V未満の出力電圧が得られるよう改変したスイッチング・レギュレータ。図1の回路に変更を加え、抵抗分圧器にバイアス電圧を印加しています。
図2. 0.6V未満の出力電圧が得られるよう改変したスイッチング・レギュレータ。図1の回路に変更を加え、抵抗分圧器にバイアス電圧を印加しています。

一般的には、この方法を使うことで目的は達成できるはずです。すなわち、標準的なスイッチング・レギュレータIC/リニア・レギュレータICを使用して、それらの製品の最小出力電圧よりも低い電圧を生成することが可能になるでしょう。但し、検討すべき事柄がいくつかあります。まず、バイアス電圧を生成する電圧リファレンスICは、DC/DCコンバータが起動する前に動作している必要があります。バイアス電圧が0Vになっていたり、インピーダンスが高かったりすると、DC/DCコンバータは過度に高い電圧を生成してしまうかもしれません。その結果、負荷である回路が破損してしまうおそれがあります。

最悪のシナリオとして、スイッチング・レギュレータが起動していない状態でバイアス電圧が印加され、抵抗分圧器に流れる電流IFBによって、設定電圧を超える電圧まで出力コンデンサが充電されるケースが考えられます。この状況は、負荷のインピーダンスが非常に高い場合に生じる可能性があります。これを避けるために、負荷のインピーダンスは最小限に抑える必要があるかもしれません。

抵抗分圧器に印加するバイアス電圧(図2では1V)の精度は、生成される電源電圧の精度に直接的に影響を及ぼします。したがって、特にクリーンでリップルの小さいバイアス電圧を印加する必要があります。

加えて、すべてのレギュレータICがこの種の動作に適しているというわけではありません。例えば、レギュレータICが内蔵する電流検出アンプの測定範囲が、高い電圧での動作にしか対応していないことがあります。更に、高い入力電圧から非常に低い電圧を生成するためには、デューティ・サイクルをかなり小さく設定しなければなりません。この点にも注意が必要です。その場合、最小オン時間が短いスイッチング・レギュレータICを選択し、低いスイッチング周波数で動作させるとよいかもしれません。

図3. LTspiceで作成した回路図。同シミュレータを使用すれば、回路の初期テストを実施できます。
図3. LTspiceで作成した回路図。同シミュレータを使用すれば、回路の初期テストを実施できます。

レギュレータICを、メーカーが定めた規定値よりも低い出力電圧で動作させる場合には、シミュレータを使用して初期確認を行うとよいでしょう。例えば、アナログ・デバイセズのLTspice®を使用するといった具合です。図3は、同シミュレータを使用して作成した回路図です。LTC3822を使用する標準的な回路に、バイアス電圧を印加するための電圧源を追加しています。LTC3822のデータシートを見ると、0.6V以上の出力電圧の生成に適していると記載されています。しかし、図3のような回路を構成すれば200mVの出力電圧が得られます。バイアス電圧に相当する電圧源V2は、実際にはLDOレギュレータ/電圧リファレンスを使うことで実装できます。本稿で紹介した方法を適用した回路を構成し、その回路の徹底的なテストを行うことで、0.6V以下といった低い出力電圧を得ることが可能になります。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学でマイクロエレクトロニクスについて学びました。2001年にパワー・マネージメント事業の分野で働き始め、アリゾナ州フェニックスで4年間にわたってスイッチング電源を担当したほか、さまざまなアプリケーション分野の業務に携わってきました。2009年にADIに入社し、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでパワー・マネージメントのフィールド・アプリケーション・エンジニアとして従事しています。