サーミスタをベースとする温度計測システム【Part 1】 設計上の課題、回路の構成

はじめに

この記事では、2回にわたりサーミスタをベースとする温度計測システムの設計について解説します。今回(Part 1)は、その種のシステムを設計する際に直面する課題について説明します。次に、温度センサーとして測温抵抗体(RTD:Resistance Temperature Detector)を使用する場合との比較を行います。続いて、サーミスタ製品の選択方法や、回路構成に応じて生じるトレードオフについて解説を加えます。更に、このアプリケーション分野におけるシグマ・デルタ方式のA/Dコンバータ(ΣΔ ADC)の重要性について説明します。なお、Part 2では、サーミスタ・ベースの計測システムを最適化する方法とその評価方法について詳しく説明する予定です。

サーミスタとRTDの比較

筆者らは、以前「RTDをベースとする温度計測システムの最適な設計」という記事を執筆しました。その中で説明したように、RTDというのは温度の関数として値が変化する抵抗の一種です。サーミスタも、それと同様の振る舞いを示します。両者の違いは、RTDが正の温度係数しか持たないのに対し、サーミスタは正、負のいずれの温度係数でも持つことができる点にあります。温度係数が負のサーミスタはNTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスタと呼ばれます。NTCサーミスタでは、温度が上昇すると抵抗値が減少します。一方、温度係数が正のサーミスタは、PTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタと呼ばれます。こちらは温度が上昇すると抵抗値が増加します。

図1. サーミスタとRTDの温度特性
図1. サーミスタとRTDの温度特性

図1に、一般的なNTC/PTCサーミスタとRTDの温度特性を示しました。RTDは、温度に対してほぼ線形の特性を示します。一方、サーミスタはRTDと比べると非線形(指数関数的)な特性を示します。また、RTDは、サーミスタよりもはるかに広い温度範囲(一般に-200°C~850°C)をカバーします。RTDの温度特性は標準曲線として公開されており、それに基づいて使用することができます。それに対し、サーミスタの温度特性はメーカーによって異なります(詳細は後述)。

一般的なサーミスタは、セラミック、ポリマー、半導体(通常は金属酸化物)などの複合材料によって形成されます。それに対し、RTDは純粋な金属(白金、ニッケル、銅など)で形成されます。RTDと比較すると、サーミスタは非常に小さく安価ですが、それほど堅牢なものではありません。サーミスタを使用すれば、RTDを使う場合よりも温度の変化をはるかに速く検出することができます。したがって、フィードバックも高速になります。このような特徴から、サーミスタは、低コスト、小型、高速(応答が速い)、高感度が求められるアプリケーションでよく使用されます。具体的には、電子機器の監視、家庭やビルの制御、科学実験室、民生/産業分野で熱電対に適用される冷接点補償など、対象とする温度範囲が限られる用途に適しています。

温度を精密に計測する必要があるアプリケーションでは、ほとんどの場合、PTCサーミスタではなくNTCサーミスタが使用されます。PTCサーミスタの中には、過電流の入力に対する保護回路や安全性の高いアプリケーションを実現するためのリセッタブル・ヒューズとして使用されるものがあります。PTCサーミスタのより詳細な抵抗‐温度曲線を見ると、温度がキュリー点に達するまでは抵抗値が非常に低いNTC動作を示すことがわかります。キュリー点を超えると、数°Cの変化で数桁にも達する抵抗値の急激な上昇が生じます。そのため、PTCサーミスタが過電流にさらされると、キュリー点を超えた時点で大量の自己発熱が発生します。それに伴い、抵抗値が急激に増大するため、システムに入力される電流が減少して損傷の発生を防ぐことができます。PTCサーミスタのキュリー点は、通常60°Cから120°Cの間に存在します。そのため、広い温度範囲を対象とするアプリケーションには適していません。以下では、通常は-80°C~150°Cの温度を測定/監視できるNTCサーミスタに焦点を絞ることにします。NTCサーミスタ製品としては、25°Cにおける公称抵抗値が数Ωから10MΩのものが提供されています。図1に示したように、1°Cあたりの抵抗値の変化は、RTDと比べるとサーミスタの方が大きくなります。サーミスタは感度が高く抵抗値が大きいので、RTDを使用する場合と比べてフロント・エンド回路をはるかにシンプルに構成できます。サーミスタを使用する場合、シンプルな2線式の構成を採用することが可能です。リード線の抵抗値を補償するために3線式/4線式の特殊な配線構成を採用するといった工夫は必要ありません。

表1に、RTD、NTC/PTCサーミスタの特徴についてまとめました。

表1. サーミスタとRTDの比較
パラメータ NTCサーミスタ PTCサーミスタ RTD
温度範囲 -80°C~300°C 60°C~120°C –200°C~850°C
温度係数
直線性 指数関数 指数関数 ほぼ線形
感度
応答時間 高速 高速 低速
励起 必要 必要 必要
自己発熱 あり あり あり
配線構成 2線式 2線式 2/3/4線式
コスト 安価~中程度 安価 中程度~高価
サイズ

サーミスタによる温度計測に伴う課題

サーミスタ・ベースの温度計測を高い精度で正確に行うにはどうすればよいのでしょうか。そのためには、高精度のシグナル・コンディショニング回路とADCに加え、線形化と補償の処理が必要になります。図2に示したシグナル・チェーンは、シンプルで簡素なもののように見えます。しかし、実際にはシステムの基板全体のサイズ、コスト、性能にも影響を及ぼす複雑な要因が絡んでいます。アナログ・デバイセズは、「AD7124-4/AD7124-8」をはじめとする高精度のADC製品を数多く提供しています。それらの製品は、アプリケーションに必要なビルディング・ブロックのほとんどを内蔵しています。そのため、温度計測システムの設計に適用すれば複数のメリットを得ることができます。但し、サーミスタをベースとする温度計測システムを設計/最適化する際には、様々な課題に直面することになるはずです。

図2. NTCサーミスタを使用する温度計測システムの標準的なシグナル・チェーン
図2. NTCサーミスタを使用する温度計測システムの標準的なシグナル・チェーン

具体的には、以下のような状況、疑問に対処する必要があるでしょう。

  • 市場には多種多様なサーミスタ製品が提供されています。
  • 個々のアプリケーションに最適なものを選択するにはどうすればよいのでしょうか?
  • RTDと同じく、サーミスタは受動デバイスです。そのため、電気的な出力を能動的に生成することはありません。サーミスタに励起電流/励起電圧を印加することにより、微小な電流が流れて電圧が発生します。それらの値を基に抵抗値を測定します。
  • 励起電流/励起電圧の値は、どのようにして決定すればよいのでしょうか?
  • サーミスタ向けのシグナル・コンディショニングはどのように行うのが適切なのでしょうか?
  • ADCをはじめとするビルディング・ブロックをそれぞれの仕様の範囲内で使用できるようにするには、上記の変数をどのように調整すればよいのでしょうか?
  • システム内で複数のサーミスタを使用する場合、どのように接続すればよいのでしょう? また、異なるサーミスタの間で何らかのブロックを共有することは可能なのでしょうか? そうしたことによって、システム全体の性能にはどのような影響が及ぶのでしょう?
  • サーミスタに関する大きな関心事としては、非線形な応答とシステムの精度が挙げられます。
  • 設計上、予想される誤差はどの程度になるのでしょうか?
  • 目標とする性能を達成するには、線形化と補償の手法としてどのようなものを使用すればよいのでしょうか?

以下では、これらの課題について詳しく説明した上で、問題の解決方法を示します。それを通して、この種のシステムを設計する際の作業負荷をより軽減するためのアドバイスを提供します。

サーミスタ製品の選択方法

現在、市場には多種多様なNTCサーミスタ製品が提供されています。そのため、個々のアプリケーションに最適な製品を選択するのは容易なことではありません。サーミスタの仕様は、公称値によって示されます。それは25°Cにおける抵抗値であることに注意しなければなりません。例えば、「10kΩのサーミスタ」と言った場合、それは25°Cにおける公称の抵抗値が10kΩの製品だということになります。サーミスタ製品の公称抵抗値には数Ω~10MΩもの幅があります。公称抵抗値が低い(10kΩ以下)製品の場合、通常は-50°C~70°Cといった低い温度範囲に対応しています。一方、公称抵抗値が高い製品の場合、300°Cまでといった高い温度に対応しているはずです。

サーミスタは金属酸化物を材料として製造されます。その形状には、ビーズ型、ディスク型、SMD(表面実装デバイス)型といったものがあります。ビーズ型のサーミスタは、内部を保護するためにエポキシ樹脂でコーティングされているかガラス封止されています。エポキシ樹脂でコーティングされたビーズ型のサーミスタ、ディスク型のサーミスタ、SMD型のサーミスタは150°Cまでの温度に適しています。一方、ガラス封止されたビーズ型のサーミスタは高い温度の測定に使用できます。どのようなコーティング/パッケージングも、腐食を防止する役割を果たします。サーミスタ製品の中には、過酷な環境に対する堅牢性を強化するためにハウジングが追加されたものもあります。ビーズ型のサーミスタは、ディスク型/SMD型のサーミスタと比べて応答時間が高速です。但し、ビーズ型の製品はそれほど堅牢ではありません。このように、サーミスタ製品には様々な種類があります。そのため、最終アプリケーションの稼働環境(サーミスタの配備環境)によって、どれが最適であるかは異なります。サーミスタの長期安定性は、材料やパッケージ、構造に左右されます。例えば、エポキシ樹脂でコーティングされたNTCサーミスタでは1年に0.2°Cの変化が生じます。一方、気密封止された製品であれば1年でわずか0.02°Cの変化しか生じません。

サーミスタ製品の精度は様々です。標準的な製品の場合、精度は0.5°C~1.5°C程度となります。また、サーミスタの公称抵抗値とベータ値(25°Cと50°C /85°Cの関係を表す定数。詳細は後述)には許容誤差があります。なお、サーミスタ製品のベータ値はメーカーによって異なります。例えば、同じ10kΩのNTCサーミスタであっても、メーカーが異なればベータ値も異なるということです。高い精度が求められるシステムでは、「OMEGA 44xxx」のような製品を採用するとよいでしょう。このシリーズの製品は、0°C~70°Cの温度範囲で0.1°Cまたは0.2°Cの精度を達成します。測定温度範囲とその温度範囲で必要とされる精度によって、どの製品がアプリケーションに適しているのかを判断します。なお、OMEGA 44xxxの製品は、精度が高いものほど価格も高くなります。

以上のようなことから、どのサーミスタ製品を使用するのかは、以下の条件に応じて決定するとよいでしょう。

  • 測定温度範囲
  • 必要な精度
  • サーミスタを使用する環境
  • 長期安定性

線形化:ベータ値とスタインハート・ハート式

一般に、抵抗値から摂氏温度への変換を行う際にはベータ値を使用します。ベータ値は、2つの温度ポイントに対応する各抵抗値がわかれば以下の式によって算出できます。

数式 1

ここで、各変数の意味は以下のとおりです。

RT1:温度1における抵抗値

RT2:温度2における抵抗値

T1:温度1(単位はK)

T2:温度2(単位はK)

通常、サーミスタのデータシートには、以下の2種類の条件におけるベータ値が記載されています。

  • 2 つの温度が 25°Cと 50°C
  • 2 つの温度が 25°Cと 85°C

設計を行う際には、実際に対象とする温度範囲と近い方のベータ値を使用します。ほとんどのサーミスタのデータシートには、ベータ値の他に、25°Cにおける抵抗値の許容誤差とベータ値の許容誤差が記載されています。

OMEGA 44xxxのような高精度のサーミスタ、あるいはサーミスタをベースとする高精度のソリューションを使用する場合には、スタインハート・ハート式によって抵抗値から摂氏温度への変換を行います(以下参照)。

数式 2

ここで、A、B、Cは3種の温度に対応して導出される定数です。また、Rはサーミスタの抵抗値(単位はΩ)、Tは温度(単位はK)です。3つの定数A、B、Cが必要になりますが、これらの値もサーミスタのメーカーから提供されています。3種の温度を使用して定数を求めていることから、それらを使った上式については、線形化を施すことによって誤差を最小限に抑えることができます(線形化を適用後の誤差は通常0.02°C程度)。


電流/電圧による励起

図3は、サーミスタを電流によって励起する方法を示したものです。ご覧のように、励起電流をサーミスタに流すと、同じ電流が高精度の抵抗にも流れます。この抵抗は測定用のリファレンスとして使用します。その値は、サーミスタの最大抵抗値(システムで測定する最低温度に依存)よりも大きくなければなりません。励起電流の値を決定する際にも、サーミスタの最大抵抗値について考慮する必要があります。つまり、サーミスタとリファレンス抵抗の両端に発生する電圧が、常に測定回路にとって許容可能なレベルに抑えなければなりません。励起電流源には、ある程度のヘッドルームまたは出力コンプライアンスが必要です。サーミスタで測定する最低温度における抵抗値が大きい場合、励起電流の値は非常に小さく設定することになります。そのため、高温時にサーミスタの両端に発生する電圧も小さくなります。そのような低いレベルの信号の測定を最適に行えるようにするには、プログラマブル・ゲイン段を適用するとよいでしょう。但し、サーミスタからの信号レベルは温度によって大きく変化します。したがって、ゲインは動的に設定できるようにする必要があります。

図3. 電流によるサーミスタの励起
図3. 電流によるサーミスタの励起

上記の方法については、次のようなバリエーションが考えられます。それは、ゲインの値は固定しておき、励起電流を動的に変化させるというものです。つまり、サーミスタの信号レベルの変化に応じ、サーミスタの両端に発生する電圧が測定回路の入力範囲内に収まるように励起電流の値を動的に変化させるということです。その際には、リファレンス抵抗の両端に発生する電圧も測定回路が許容できるレベルになるようにしなければなりません。どちらの方法でも、高度な制御を行い、サーミスタの両端の電圧を継続的に監視し、測定回路で信号を適切に扱えるようにする必要があります。つまり、これらの方法は使いやすいものだとは言えません。

図4. 電圧によるサーミスタの励起
図4. 電圧によるサーミスタの励起

より優れた方法は、電圧によって励起するというものです(図4)。サーミスタを定電圧で励起すると、サーミスタに流れる電流は、サーミスタの抵抗値が変化することに伴って増減します。この場合の抵抗は、リファレンス抵抗としてではなく、高精度の検出抵抗として使用します。その目的は、サーミスタに流れる電流値を算出し、サーミスタの抵抗値を計算できるようにすることです。励起電圧をADCのリファレンスとしても使用すれば、ゲイン段も不要になります。プロセッサは、サーミスタの両端の電圧を監視し、測定回路が信号レベルに対応できるかどうかを判断して、ゲイン/励起電流の値をどのように調整すべきなのか計算する必要はありません。以下では、基本的にこの方法をベースとして解説を進めます。

サーミスタの抵抗値の範囲、励起の方法

サーミスタの公称抵抗値と抵抗値の範囲が小さい場合には、電圧励起と電流励起のうちどちらの方法を使用しても構いません。その場合、励起電流とゲインの値は固定できるからです。つまり、図3の回路を使用すればよいということになります。この方法には、サーミスタとリファレンス抵抗に流れる電流の値を制御できるという長所があります。そのため、消費電力を抑えたいアプリケーションにも適しています。加えて、サーミスタの自己発熱も最小限に抑えることが可能です。

公称抵抗値が小さいサーミスタに対し、電圧励起を使用しても構いません。但し、サーミスタを流れる電流が多くなりすぎないよう常に注意する必要があります。

公称抵抗値が高く、対応温度範囲が広いサーミスタを使用する場合には、電圧励起を採用する方が実装が容易になります。公称抵抗値が高ければ、電流値も妥当なレベルに収まることが多いでしょう。但し、アプリケーションが対応する温度範囲全体にわたり電流値が許容可能なレベルになるよう注意しなければなりません。

ΣΔ ADCを採用するメリット

サーミスタをベースとする温度計測システムを設計する場合、ΣΔ ADCを採用すればいくつかのメリットを得ることができます。通常、ΣΔ ADCでは、アナログ入力信号のオーバーサンプリングが行われます。そのため、外付けのフィルタに関する要件が最小限に緩和されます。おそらくは、単純なRCフィルタを使用するだけで済むでしょう。また、ΣΔ ADCを採用すれば、フィルタの種類や出力データ・レートについて高い柔軟性が得られます。加えて、ΣΔ ADCが内蔵するデジタル・フィルタを使用すれば、商用電源を使う場合に発生する低周波の干渉成分を除去することも可能です。AD7124-4/AD7124-8は24ビットの製品であり、ピークtoピークの分解能は最大21.7ビットに達します。つまり、これらのADCを採用すれば、非常に高い分解能を活用できるということです。

ΣΔ ADCは、それ以外にも以下に示すような長所を備えています。

  • アナログ入力信号のコモンモード範囲が広い
  • リファレンス入力のコモンモード範囲が広い
  • レシオメトリックな構成に対応できる

また、以下のような機能も内蔵する集積度の高いΣΔ ADC製品も提供されています。

  • PGA(Programmable Gain Amplifier)
  • 内部リファレンス
  • リファレンス入力/アナログ入力用のバッファ
  • キャリブレーション機能

ΣΔ ADCを採用すれば、サーミスタを使用する回路の設計を大幅に簡素化できます。また、BOM(部品表)、システム・コスト、基板面積を削減しつつ、市場投入までにかかる時間を短縮することが可能になります。

以下では、ADCとしてAD7124-4/AD7124-8を採用することを前提として解説を続けます。いずれも、低ノイズ、低消費電力、高精度の製品です。また、PGA、リファレンス、アナログ入力/リファレンス入力用のバッファも内蔵しています。

レシオメトリックな回路の構成

電流励起と電圧励起のうちどちらを使う場合でも、レシオメトリックな構成を採用することが推奨されます。レシオメトリックなシステムでは、リファレンス電圧とサーミスタに対する電圧を同一の励起源から供給します。そのため、励起源に変動があったとしても測定精度に影響が及ぶことはありません。

図5に示したのは、サーミスタと高精度の抵抗RREFに一定の励起電流を供給する場合の例です。この構成では、RREFの両端に発生する電圧がサーミスタによる測定に使用するリファレンス電圧となります。励起電流の誤差は相殺されるので、その精度は高くなくても構いません。安定性が低くても問題は生じにくいでしょう。通常は、電圧励起よりも電流励起を採用した方が望ましい結果が得られることが多いはずです。その方が、感度に対する制御性が優れており、サーミスタが離れた場所にある場合にも優れたノイズ耐性が得られるからです。この種のバイアス手法は、抵抗値の低いRTDやサーミスタを使う場合によく用いられます。一方、抵抗値が高く、感度も高いサーミスタを使用する場合には、温度の変化に対応して発生する信号のレベルが高くなります。そのため、電圧励起を使用するべきです。例えば、10kΩのサーミスタの抵抗は、25℃において10kΩです。NTCサーミスタであれば、-50°Cにおける抵抗値は441.117kΩになります。AD7124-4/AD7124-8から供給できる励起電流の最小値は50µAです。その場合でも、441.117kΩ×50µA = 22Vという電圧が発生することになります。この電圧は明らかに高すぎます。実際、このアプリケーション分野で使用されるほとんどのADCの動作範囲を外れているはずです。また、サーミスタは通常は測定回路の近くに配備されます。そのため、電流励起を用いる場合のノイズ耐性の優位性は活かされません。

図5. 定電流源を用いた構成
図5. 定電流源を用いた構成

図6に示したのは、NTCサーミスタの両端に電圧を発生させるために、一定の励起電圧を使用する場合の例です。サーミスタと直列に検出抵抗を接続して分圧回路を構成することで、サーミスタの抵抗値が最小の場合に流れる電流を制限しています。検出抵抗RSENSEの値は、公称温度である25°Cにおける出力電圧がリファレンス電圧の中央値に設定されるようにします。つまり、25°Cにおけるサーミスタの抵抗の値と等しくします。10kΩのサーミスタ(25°Cで10kΩの抵抗値を示す)を使用する場合、RSENSEの値は10kΩに設定するということです。温度が変化すると、NTCサーミスタの抵抗値も変化します。その結果、サーミスタの両端の電圧が励起電圧に占める割合も変動します。それにより、NTCサーミスタの抵抗値に比例する出力電圧が生成されます。

図6. 分圧回路を用いた構成
図6. 分圧回路を用いた構成

サーミスタとRSENSEに供給されるリファレンス電圧が、測定に使用するADCのリファレンス電圧と同一であるとします。その場合、レシオメトリックな測定が行えるように回路が構成されていることになります(図7)。つまり、励起電圧源に誤差があってもその影響は排除されます。

図7. サーミスタをベースとするレシオメトリックな構成の測定回路
図7. サーミスタをベースとするレシオメトリックな構成の測定回路

なお、電圧励起の場合に使用する検出抵抗も、電流励起の場合に使用するリファレンス抵抗も、初期の許容誤差とドリフトが小さく抑えられていなければなりません。いずれの変動要因も、システム全体の精度に影響を及ぼすからです。

複数のサーミスタを使用する場合、単一の励起電圧を共用することができます(図8)。但し、その場合、各サーミスタに適用する検出抵抗の精度が高くなければなりません。複数のサーミスタに対応するためのもう1つの方法は、オン抵抗の小さい外付けのマルチプレクサ/スイッチを使用することです。その場合、1個の検出抵抗を複数のサーミスタで共有することができます。この構成を採用する場合、測定時には各サーミスタに対してある程度のセトリング時間を確保する必要があります。

図8. 複数のサーミスタで単一の励起電圧を共用する回路
図8. 複数のサーミスタで単一の励起電圧を共用する回路

まとめ

サーミスタをベースとする温度計測システムを設計する際には、複数の課題に対処する必要があります。例えば、サーミスタ製品の選択、サーミスタの接続方法、部品の選択に関するトレードオフ、ADCの構成などについて考慮しなければなりません。また、様々な変動要因がシステム全体の精度に及ぼす影響について考察する必要もあります。Part 2では、システムの設計とシステム全体の誤差のバジェットを最適化し、目標とする性能を達成する方法について解説します。

Jellenie Rodriguez

Jellenie Rodriguez

Jellenie Rodriguez は、アナログ・デバイセズのアプリケーション・エンジニアです。高精度コンバータ技術グループで、DC測定に使用する高精度のΣΔ ADCを担当。入社は2012年です。2011年にサン・セバスティアン大学レコルトス・デ・カビテで電子工学の学士号を取得しています。

Mary McCarthy

Mary McCarthy

Mary McCarthyは、アナログ・デバイセズのアプリケーション・エンジニアです。1991年に入社し、アイルランドのコークでリニアおよび高精度技術アプリケーション・グループにおいて、高精度シグマデルタ変換を中心に従事しました。1991年、ユニバーシティ・カレッジ・コークで電子および電気工学の学士号を取得して卒業しました。