車載バッテリ電圧を直接DC/DC変換――厳しいEMI規格に適合する3.3V/5V、5A出力の電源回路

はじめに

一般に、車載分野や産業分野のアプリケーションは、厳しい環境で運用されることになります。特に、ノイズの影響を受けやすいアプリケーションの場合、小型、低ノイズ、高効率の降圧レギュレータ(DC/DCコンバータ)が必要になるはずです。そうしたケースでは、DC/DCコントローラICと外付けのパワーMOSFETを組み合わせるのではなく、より小型化が図れる降圧レギュレータ製品がよく選択されます。つまり、パワーMOSFETも集積した1パッケージ/モノリシックの降圧レギュレータ製品が使われるということです。なかでも、AM帯よりもはるかに高い2MHzのスイッチング周波数で動作するモノリシック・レギュレータであれば、外付け部品についても小型のものを選択できます。加えて、最小オン時間(TON)が非常に短い製品であれば、中間レギュレーションを適用することなく、高い入力電圧を直接必要なレベルまで降圧することが可能です。そうすれば、実装スペースの削減と複雑さの軽減を図ることができます。最小オン時間を短くするためには、高いスイッチング周波数での動作に対応するだけでなく、スイッチング損失を効果的に低減しなければなりません。それに向けては、高速のスイッチング・エッジと最小デッドタイムの制御が必要になります。

実装スペースを削減するもう1つの方法は、EMI(電磁干渉)規格と熱に関する要件を満たすために必要になる部品点数を削減することです。残念ながら、降圧レギュレータを単純に小型化すると、これらの要件を満たすのがより難しくなるケースが少なくありません。そこで、本稿では、実装スペースを削減することが可能で、EMI性能と熱性能に優れる最先端のソリューションを紹介します。

特に高い降圧比と高い効率が求められる場合には、スイッチング方式のDC/DCコンバータが使用されます。ただ、同方式のDC/DCコンバータには、スイッチング動作に伴いEMIが生じるという課題が存在します。降圧コンバータでは、スイッチでの高速な電流変化(di/dtが高い)と、ホット・ループ内の寄生インダクタンスに起因して生じるリンギングによってEMIが発生します。

システム設計者が小型で高性能な電源を設計しようとする場合、必ずEMIの問題に直面するはずです。また、設計を行う際には、対立する制約として多くのパラメータを扱わなければなりません。このことから、許される時間内に求められる仕様を満たしつつ設計を完了するためには、大きな妥協を強いられることになるでしょう。

EMI性能の向上

降圧コンバータのEMI性能を高めるためには、ホット・ループからの影響を可能な限り抑えなければなりません。言い換えれば、ホット・ループからの不要な信号を可能な限り低減する必要があります。放射性のEMIを低減する方法は、いくつも存在します。但し、それらのうちの多くは、レギュレータとしての本質的な性能を低下させてしまうという問題を抱えています。

例として、外付けのMOSFETを使用する標準的な降圧コンバータを車載用途に適用するケースを考えます。その場合、車載向けの厳しい放射性EMIの規格を満たすためには、最後の手段として、外付けのゲート抵抗やブースト抵抗、スナバ回路を使用することになるでしょう。それらにより、スイッチング・エッジを緩やかにするということです。こうしたその場しのぎの解決方法を適用すると、降圧コンバータの本質的な特性が犠牲になることが少なくありません。つまり、効率が低下し、部品点数が増え、ソリューションとしてのサイズが大きくなってしまうのです。スイッチング・エッジを緩やかにすると、スイッチング損失とデューティ比損失が増加します。その場合、条件を満たす効率を達成しつつ、EMI規格で定められた放射試験に合格するためには、DC/DCコンバータをより低い周波数(例えば400kHz)で動作させなければなりません。図1に、スイッチング・ノードにおける代表的な電圧波形を示しました。それぞれ、低速、高速のスイッチング・エッジで動作している様子を表しています。この図から容易に推測できるはずですが、スイッチング・エッジが非常に遅い場合には、スイッチング損失が増加します。また、最小デューティ・サイクル(つまり降圧比)も著しく増大してしまい、性能に悪影響が及ぶことは明らかです。

DC/DCコンバータのスイッチング周波数を下げると、インダクタ、出力コンデンサ、入力コンデンサとしてはサイズの大きいものを選択しなければなりません。加えて、伝導性EMIの試験に合格するためには、かさばるπ型フィルタを追加しなければならなくなります。同フィルタに必要なインダクタとコンデンサの値は、スイッチング周波数を下げるほど大きくなります。また、インダクタの定格電流値は、ライン全負荷が小さい場合の最大入力電流よりも大きくなければなりません。つまり、厳しいEMI規格に合格するためには、フロント・エンドに大きなインダクタと複数のコンデンサを付加する必要があるということです。

例えば、スイッチング周波数が2MHzよりはるかに低い400kHzである場合、サイズの大きいインダクタとコンデンサを使用しなければなりません。加えて、車載用途に求められる伝導性EMI規格を満たすためには、EMI用のフィルタのインダクタとコンデンサとしても比較的大きなものを使用する必要があります。その理由の1つは、400kHzの基本周波数だけでなく、1.8MHzまでのすべての高調波を減衰させなければならないからです。2MHzのスイッチング周波数で動作するDC/DCコンバータであれば、このような問題は発生しません。図2は、スイッチング周波数が異なる2つの電源回路の実装面積を比較するためのものです。スイッチング周波数がそれぞれ400kHz、2MHzの場合の部品の配置例を示しています。

放射性EMIを低減するための最後の手段としては、シールドが挙げられるでしょう。但し、システム内にはシールドを配置できるだけのスペースが既に残っていない可能性があります。そうすると、機械設計と試験を再度実施し直さなければなりません。

車載アプリケーションの場合、AM帯を避けつつソリューションのサイズを抑えるためには、2MHz以上のスイッチング周波数を選択することが望ましいと言えます。AM帯を避ければ、必要なのはより高い周波数のノイズとスイッチングに伴うリンギングを確実に最小化することだけです。高いスイッチング周波数を採用すると、残念ながら30MHz~1GHzの放射性EMIは増加します。

アナログ・デバイセズは、Power by Linear製品の1つとしてSilent Switcher®技術を適用したDC/DCコンバータを提供しています。それらの製品は、高速かつクリーンなスイッチング・エッジで動作します。そうした製品を採用することで、EMIを低減することが可能になります。

 

図1. スイッチング・エッジの例。スイッチング・エッジが低速である場合、スイッチング損失とデューティ比損失が増大します。
図1. スイッチング・エッジの例。スイッチング・エッジが低速である場合、スイッチング損失とデューティ比損失が増大します。
図2. 実装面積の比較。スイッチング周波数がそれぞれ400kHz、2MHzの場合の例です。
図2. 実装面積の比較。スイッチング周波数がそれぞれ400kHz、2MHzの場合の例です。

ここで、EMIの低減に有効な一般的な技術を紹介しておきます。それはスペクトラム拡散周波数変調(SSFM:Spread spectrum frequency modulation)です。SSFMでは、システム・クロックを既知の範囲内でディザリングし、EMIのエネルギーを周波数帯域全体に分散させるということが行われます。多くの場合、スイッチング周波数はAM帯(530kHz~1.8MHzなど)の範囲外になるように選択されます。しかし、スイッチングに伴う高調波が十分に低減されていない場合、AM帯において車載EMI規格の厳しい要件を満たせない可能性があります。SSFMを適用すれば、AM帯(あるいは他の帯域内)のEMIを大幅に低減することができます。

 

図3. LT8636を使用して構成した電源回路。5.7V~42V入力、5V/5A出力の降圧コンバータです。7Aのピーク電流に対応します。SSFMモードで動作させることにより、極めて高いEMI性能を達成することができます。
図3. LT8636を使用して構成した電源回路。5.7V~42V入力、5V/5A出力の降圧コンバータです。7Aのピーク電流に対応します。SSFMモードで動作させることにより、極めて高いEMI性能を達成することができます。

LT8636」は、Silent Switcherを採用したモノリシック型の降圧コンバータです。入力は12V、出力は5V/5A、スイッチング周波数は2MHzで、高い効率と非常に優れたEMI性能を実現します。この製品を採用した電源回路の例を図3に示しました。また、図4には、同ICを採用した電源回路の伝導性EMIと放射性EMIの測定結果を示しました。これらの測定結果は、同ICのデモ用ボードを使用し、14V入力、5V/5A出力という条件で取得したものです。フロント・エンドに付加した小さなインダクタとセラミック・コンデンサは、伝導性EMIのフィルタリングに役立ちます。フェライト・ビーズとセラミック・コンデンサは、放射性EMIの低減に貢献します。Silent Switcherを適用した製品の特徴でもありますが、LT8636は2つの入力ピンと2つのグラウンド・ピンを備えています。各入力ピンとグラウンド・ピンの間には、小さなセラミック・コンデンサを配置しています。Silent Switcherは、ホット・ループの面積を最小限に抑えつつ、更にホット・ループを分割することによって高周波ノイズを相殺する技術です。

LT8636では、EMI性能を高めるためにSSFMモードで動作するように設定することができます。この回路では、そのための設定として、SYNC/MODEピンにINTVCCピンを接続しています。それにより、三角波周波数変調が適用され、実際に使用されるスイッチング周波数が変化します。LT8636では、スイッチング周波数はRTピンによって設定します。SSFMモードでは、その設定値よりも約20%高い値までスイッチング周波数が変化します。例えば、RTピンによってスイッチング周波数を2MHzに設定した場合、SSFMモードでは、実際のスイッチング周波数が2MHzから2.4MHzまで3kHz刻みで変化します。

伝導性EMIの測定結果から明らかなように、SSFMモードでは、ピークの高調波エネルギーが周波数軸に対して広く拡散されています。その結果、各高調波のピーク振幅が低減されていることがわかります。SSFMによって、ノイズは少なくとも20dBμV/m低減されています。また、放射性EMIの測定結果を見ても、SSFMによってノイズが低減されていることがわかります。LT8636を使って構成した電源回路は、入力側に単純なEMI用フィルタを付加するだけで、車載向けのEMI規格(CISPR 25のクラス5)で定められた値を満たすということです。

図4. LT8636のEMI性能。CISPR 25で定められた伝導性EMI/放射性EMIの測定結果を示しています。SSFMモードを適用することにより、EMI性能が向上することがわかります。
図4. LT8636のEMI性能。CISPR 25で定められた伝導性EMI/放射性EMIの測定結果を示しています。SSFMモードを適用することにより、EMI性能が向上することがわかります。

全負荷範囲にわたる高い効率

車載向け電子機器の数は、増加の一途をたどっています。ほとんどの機器では、設計を繰り返すごとに、より多くの電流を必要とするようになります。アクティブな負荷に非常に多くの電流を供給しなければならない場合には、負荷が重い場合の効率と適切な温度管理を重視しなければなりません。動作の堅牢性は、温度管理にかかっていると言ってもよいでしょう。熱の発生をうまく抑えなければ、大きなコストが生じる設計上の重大な問題に発展するかもしれません。

また、バッテリの寿命は、主に軽負荷時/無負荷時の自己消費電流によって決まります。そのため、システム設計者は、軽負荷時の効率についても気を配る必要があります。実際、軽負荷時の効率は、重負荷時の効率と同じくらい重要だとも言えるのです。システム・レベルの設計と同様に、ICの設計においても、全負荷時の効率、無負荷時の自己消費電流、軽負荷時の効率の間のトレードオフに対処する必要があります。

全負荷時に高い効率を得るためには、MOSFET、特に下側のMOSFETのオン抵抗RDS(ON)を最小化する必要があります。それは簡単なことであるように思われるかもしれません。しかし、トランジスタのオン抵抗を下げるということは、通常は容量値も大きくなるということを意味します。それに伴い、スイッチング損失やゲート駆動損失が増加すると共に、チップ・サイズとコストも増大します。モノリシック型のDC/DCコンバータであるLT8636は、そうした課題に対処しつつ、オン抵抗も非常に小さく抑えたMOSFETを内蔵しています。そのため、全負荷の条件下でも、非常に高い効率を実現できます。LT8636は、ヒート・シンクを使用しない自然空冷の条件下において、連続で5A、ピークで7Aの最大出力電流に対応できます。そのため、堅牢性の高い設計を容易に実現できます。

LT8636では、低リップルのBurst Mode®で動作させることにより、軽負荷時の効率を高めることができます。このモードでは、出力電圧のリップルと入力静止電流を最小限に抑えつつ、出力コンデンサによって所望の出力電圧までの充電が行われます。短いパルスによって電流が出力コンデンサに供給され、その後、比較的長いスリープ期間が続き、制御回路(ロジック回路)のほとんどがシャットダウンされるという形で動作します。

軽負荷時の効率を高めるという観点からは、より値の大きいインダクタを使用する方が有利に働きます。なぜなら、短いパルス期間に、より多くのエネルギーを出力に供給することができ、DC/DCコンバータが各パルス間のスリープ・モードに長くとどまることが可能になるからです。パルスの間隔を最大化し、各短パルスのスイッチング損失を最小化することにより、LT8636をはじめとする当社製品では、自己消費電流を2.5μA程度までに抑えることができます。市場に供給されている代表的な製品は静止電流が数十μA~数百μA程度なので、効率向上の観点からは非常に優れていると言えます。

図5は、LT8636を使用して車載アプリケーション向けに構成した電源回路の効率を示したものです。12Vの入力から3.8V/5Aの出力を得るという条件下で、高い効率を実現できることがわかります。この回路は、非常に高い効率を得るために400kHzで動作させています。インダクタとしては、10μHの「XAL7050-103」を使用しています。出力電流が4mA(軽負荷)~5A(重負荷)の範囲で、90%を上回る効率を達成しています。1A出力時には、96%というピーク効率に達します。

図5. LT8636における負荷と効率の関係(その1)。400kHzのスイッチング周波数で動作させ、インダクタとしてはXAL7050-103を使用しています。12V入力、3.8V/5A出力の場合の効率を示しました。
図5. LT8636における負荷と効率の関係(その1)。400kHzのスイッチング周波数で動作させ、インダクタとしてはXAL7050-103を使用しています。12V入力、3.8V/5A出力の場合の効率を示しました。

図6に、LT8636を2MHzのスイッチング周波数で動作させた場合の効率を示しました。LT8636が内蔵するレギュレータは、BIASピンを介して5Vの出力から電力の供給を受けることにより、消費電力を最小限に抑えています。13.5V入力、5V出力の場合の全負荷効率は92%で、ピーク効率は95%に達します。5V出力の場合、30mAまでの軽負荷時にも89%以上の効率を維持できます。インダクタとしては「XEL6060-222」を使用しており、比較的小型のソリューションによって重負荷時と軽負荷時の両方に対して効率を最適化できます。軽負荷時の効率は、より大きなインダクタを使用することで90%以上に高めることも可能です。抵抗分圧器で構成した帰還パスに流れる電流は、負荷電流として出力に現れますが、その値も最小限に抑えています。

図6. LT8636における負荷と効率の関係(その2)。2MHzのスイッチング周波数で動作させ、インダクタとしてはXEL6060-222を使用しています。13.5V入力、5V/3.3V出力の場合の効率を示しました。
図6. LT8636における負荷と効率の関係(その2)。2MHzのスイッチング周波数で動作させ、インダクタとしてはXEL6060-222を使用しています。13.5V入力、5V/3.3V出力の場合の効率を示しました。

図7のグラフは、デューティ比と温度上昇の関係を示したものです。13.5V入力、自然空冷、室温、4Aの固定負荷と4Aのパルス負荷が存在する状態(計8Aのパルス負荷)で、デューティ比を10%(2.5ミリ秒)として動作させた場合の熱性能を表しています。ご覧のように、2MHzのスイッチング周波数、40Wのパルス電力という条件でも、LT8636のパッケージ温度は40°C未満に維持されます。そのため、短時間であれば、ファンやヒート・シンクを使用しなくても、8A出力まで安全に動作させられます。これは、優れた熱性能を発揮するパッケージング技術(3mm×4mmのLQFN)と、高い周波数におけるLT8636の高い効率によって実現されます。グラフだけでなく、熱画像も併せて示しておきました。

図7. デューティ比と温度上昇の関係。13.5V入力、5V出力、4Aの固定負荷と4Aのパルス負荷、10%のデューティ比という条件における温度上昇の様子をグラフとして示しました。グラフの下に熱画像も示しておきました。
図7. デューティ比と温度上昇の関係。13.5V入力、5V出力、4Aの固定負荷と4Aのパルス負荷、10%のデューティ比という条件における温度上昇の様子をグラフとして示しました。グラフの下に熱画像も示しておきました。

高いスイッチング周波数による小型化

車載アプリケーションでは、実装スペースがますます貴重になっています。ボードの面積は、非常に高価なものだと表現することもできるでしょう。それに応じて、電源回路の小型化を図ることは必須となっています。先述したように、DC/DCコンバータでは、スイッチング周波数を高めることで、コンデンサやインダクタとしてより小型のものを使用することが可能になります。また、2MHzより高い(あるいは400kHzより低い)スイッチング周波数を採用することにより、AM帯の外側に基本波が存在する状態を作ることができます。ここでは、一般的な400kHzの設計と2MHzの設計を比較してみましょう。スイッチング周波数を400kHzの5倍の2MHzに設定すれば、インダクタとコンデンサの値を1/5に低減できます。一見、スイッチング周波数を高めるのは、簡単なことであるかのように感じられます。実際、高い周波数で動作が可能なICはいくつも存在します。しかし、高い周波数で動作させると固有のトレードオフが生じるので、それらの製品をどのようなアプリケーションにも適用できるとは限りません。

例えば、降圧比の高いアプリケーションでスイッチング周波数を高めるには、最小オン時間を短縮しなければなりません。VOUT= TON×fSW×VINという式に基づけば、スイッチング周波数が2MHzの場合、24Vの入力から3.3Vの出力を得るには、上側のパワー・スイッチ(MOSFET)は約50ナノ秒のオン時間TONで動作する必要があります。パワー・スイッチがこの短いオン時間に対応できない場合に、レギュレートされた低い出力を維持するには、パルスをスキップしなければなりません。これは本質的に、スイッチング周波数を高くするという目標に反しています。つまり、パルスのスキップによる等価的なスイッチング周波数がAM帯に位置する可能性が高くなるということです。多くのパワー・スイッチの最小オン時間は、75ナノ秒以上と規定されています。そのため、高い降圧比においてパルスのスキップを避けるには、400kHzという低いスイッチング周波数で動作させる必要があります。それに対し、LT8636の上側のMOSFETは、30ナノ秒の最小オン時間に対応します。そのため、2MHzのスイッチング周波数を採用した場合でも、高いVINを直接低いVOUTに変換することができます。

一般に、スイッチング周波数を高めるとスイッチング損失が増大します。これも大きな課題の1つです。スイッチングに関連する損失には、パワー・スイッチのターン・オン損失、ターン・オフ損失、ゲート駆動損失があります。これらの値は、いずれもスイッチング周波数にほぼ比例します。ただ、これらの損失は、スイッチのターン・オン時間/ターン・オフ時間を短縮する(高速化する)ことによって改善できます。LT8636の場合、MOSFETのターン・オン/ターン・オフは5V/ナノ秒未満と高速です。そのため、デッドタイムとダイオード時間(diode time)を最小化でき、高いスイッチング周波数で動作させても、スイッチング損失を少なく抑えられます。

LT8636は、パワーMOSFETを集積したモノリシック型のICであり、必要な回路をすべて内蔵しています。パッケージは3mm×4mmのLQFNです。そのため、最小の実装面積で電源回路を構成できます。パッケージの下部には、大きな露出グラウンド・パッドが設けられており、非常に低い熱抵抗(26°C /W)でプリント基板に熱を逃がすことが可能です。そのため、放熱機構を追加することなく使用できる可能性があります。なお、このパッケージは、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)に準拠して設計されています。図3に示したように、高いスイッチング周波数で動作させる場合でも、単純なフィルタによって放射性EMIに容易に対処できます。これは、ホット・ループの面積を削減するSilent Switcher技術の効果によるものです。

まとめ

車載アプリケーションでは、小型かつ高性能の電源回路が求められます。DC/DCコンバータ用のICを慎重に選択することで、よくあるトレードオフを回避しつつ、そうした電源回路を構成することが可能になります。つまり、高い効率、高いスイッチング周波数、高いEMI性能を達成できるということです。本稿では、そうした小型の電源回路の設計例を紹介しました。その回路では、DC/DCコンバータICとしてLT8636を使用しています。同製品は、3mm×4mmのLQFNパッケージを採用したモノリシック型の降圧コンバータです。42Vの入力を基に、連続で5A、ピークで7Aの出力電流を得ることができます。Silent Switcher技術が適用されていることがこの製品の特徴の1つです。具体的には、2本のVINピンがIC上に対称的に配置されており、ホット・ループを分割して磁界を相殺できるようになっています。その結果、放射性のEMIが抑制されます。また、同期設計を採用すると共に、スイッチング・エッジの高速化を図ることで、重負荷時の効率を高めています。更に、低リップルのBurst Modeで動作させれば、軽負荷時にも高い効率を得ることができます。

LT8636は、3.4V~42Vの入力範囲、低ドロップアウトの変換にも対応します。そのため、自動車のクランキングやロード・ダンプの状態にも適切に対処できます。車載アプリケーションを担当するシステム設計者は、電源の小型化を図る際に多くのトレードオフに直面することになります。本稿で紹介した設計を採用すれば、そうしたトレードオフを回避しつつ、あらゆる性能目標を達成することができます。

Zhongming Ye

Zhongming Ye

Zhongming Yeは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州サンタクララ)でパワー製品を担当するアプリケーション・エンジニア・マネージャーです。2009年にLinear Technology(現在はアナログ・デバイセズの傘下)に入社して以来、降圧/昇圧/フライバック/フォワード型コンバータを含む様々な製品のアプリケーション・サポートを担当しています。車載、医療、産業の各分野を対象とし、効率/出力密度/EMI性能に優れるパワー・コンバータやレギュレータなどのパワー・マネージメント製品に取り組んでいます。それ以前は、Intersilに3年間勤務し、絶縁型パワー製品向けのPWMコントローラを担当していました。カナダのキングストンにあるクイーンズ大学で電気工学の博士号を取得しています。IEEE Power ElectronicsSocietyのシニア・メンバーを務めていました。