電力変換がいまだにコモディティと見なされない理由

適切なパワー・コンバータの選択は、単に最も安価なものを探せばよいという問題でしょうか。結局のところ、電力電圧変換分野における革新は投資に値するものであり、投資は市場で回収できます。こうした革新が製品の品質向上につながるためです。本稿では、低コストのパワー・コンバータに勝る品質を実現したアプリケーションの例をいくつか取り上げて、その概要を示します。

パワー・コンバータは、ほぼすべての電気装置に使われています。これらのコンバータは、現在では個々のアプリケーションの条件に合わせて設計されており、更に何年にもわたって変更が加えられます。現時点でメーカーによる違いはあるのでしょうか。

「コモディティ」とは、メーカーが違っても市場における製品の違いがほとんどなく、原材料価格のようにそれぞれの価格が主に製造コストによって決定され、製品革新のための利益がごくわずかしか含まれていないという事実を特徴とする商品を意味する言葉です。

筆者が半導体分野で電源に関わる仕事を始めた約20年前には、電源業界の大部分で激しい変化が生じていました。アプリケーションの大部分は、リニア・レギュレータ(LDO)から、はるかに効率的なスイッチング・レギュレータへと移行しつつありました。これは主に、スイッチを内蔵したスイッチング・レギュレータICの発展と設計の簡略化によって可能になったもので、これにより、この種のスイッチング・レギュレータ・ソリューションのアプリケーションは大きく進歩しました。現在はアナログ・デバイセズの一部となっているリニア・テクノロジーは、この急激な変化を引き起こす上で重要な役割を果たしました。

この意義深い時期が過ぎると、電源ビジネスではこれ以上の大きな革新は望めないだろうという声がしばしば聞かれるようになり、その後の発展はある1つの方向、つまり低コスト化へ向かう以外にないと予想されていました。

単純な電圧変換だけで十分なアプリケーション

現在でも、単純な電圧変換だけで十分だというアプリケーションは確実に存在します。これらのアプリケーションは、コンスーマ製品向けの非常に安価なスイッチモード電源です。すべからくほぼ同じ技術的特性を備えたパワー・コンバータが広く提供されており、リニア・レギュレータの価格帯は数ユーロセントの範囲に入っています。簡単なスイッチング・レギュレータも同様にそれぞれ数セントで手に入れることができますが、こちらは大きな利点を備えています。例えば、効率がよい、出力電流が大きい、といった点です。

電圧コンバータ市場での差別化

しかし、ほとんどのアプリケーションにおいて、電源分野でこれ以上の革新はないだろうという予想は覆されています。無料サンプルなどの安価な販促品においてさえも、電力変換の品質は決定的な役割を果たします。このことは、現在まで筆者が長年使用してきた販促用ギフトである、車のシガレット・ライター用USB充電アダプタによって示すことができます。このアダプタは2Aまでの充電電流を供給できます。内蔵されたスイッチモード・パワー・コンバータは12Vを5Vに変換し、これら2Aの電流を問題なく生成できます。高出力時の熱損失を減らすために、標準的なスイッチング・レギュレータが使われています。しかし残念ながら、このUSBアダプタを使用すると、カー・ラジオを聞くことができなくなります。コンバータのスイッチング周波数とスイッチング遷移の周波数が強い放射を発生させ、そのためにラジオの受信ができなくなってしまうのです。これは、スイッチング・レギュレータの選択時に、電磁放射よりも価格を低く抑えることに注意が払われた結果です。

もう1つの例がボタン電池を使用する各種の安価なデバイスで、これは短い期間で電池を交換しなければなりません。この場合も、最終製品の品質は電源の品質に直接依存します。

ほとんどのアプリケーションにとっての品質革新

持続的生産と過大な電子的廃棄物の発生防止も考慮に入れると、より高品質の電源製品を開発する必要があります。したがって、ほとんどのアプリケーションでは、まだ電圧レギュレータがコモディティになるには至っていません。以下では、これまで極めて良好な成果を得てきた革新目標をいくつか示します。

変換効率の向上

エネルギーにはお金がかかります。そのお金が、エネルギー供給会社への支払い、電池の購入、あるいは例えば太陽光発電システム用太陽電池の生産などの関連経費など、そのいずれに当てられるかは問題ではありません。この事実により、変換効率はすべての電源にとって重要です。場合によっては、効率が決定的な要素となることもあります。

電圧変換時に生じるエネルギー損失は、システムの温度上昇という新たな問題につながります。ヒート・シンクやファンを追加する必要が生じた場合、これは価格の上昇を招くことになります。また、電子回路の信頼性と耐久性も、通常は動作温度に大きく依存します。

非常に低出力のもの(エナジー・ハーベスティングや電池駆動アプリケーションなど)から高出力のもの(kWレンジの電源ユニットなど)まで、効率の向上は基本的にすべての電力変換にとっての革新目標です。20年前のスイッチング・レギュレータでは85%の変換効率は十分なものだったかもしれませんが、今日の多くのアプリケーションでは93%の効率でも十分とは言えません。近い将来にこの傾向が終わる、ということはなさそうです。100%の変換効率実現は容易ではないと思われますが、今後も目標であり続けるでしょう。効率100%の電圧変換では、いかなる損失も生じません。

効率を向上させるまでには、いくつもの革新の余地があります。その1つが「オン」状態におけるスイッチの抵抗を示すRDS(ON)とスイッチのゲート容量を減らすことです。スイッチング遷移の速度を上げることもできます。これはスイッチング損失を小さくします。これらの改善の多くは、GaNやSiCなどの新しいスイッチ技術によって実現されます。

もう1つのオプションは、例えばインダクタやコンデンサといった受動部品の損失を減らすことです。

分かり易いこれらの小さな改善とは別に、スイッチング・レギュレータのトポロジに関わる別のアプローチもあります。LTC7821ハイブリッド・コンバータは、その一例です。このデバイスでは、電源電圧を低電圧に変換する際に非常に高い効率を実現するために、チャージ・ポンプと降圧コンバータを組み合わせています。出力電流20Aで48Vから12Vへ変換する場合は、500kHzのスイッチング周波数で97.3%の変換効率を実現できます。市販の標準的なシリコンMOSFETを使って、240Wの出力電力が生成されます。このハイブリッド降圧変換の概念を図1に示します。チャージ・ポンプが極めて効率的に動作し、更に電源電圧が既に半分になっているため下流側の降圧コンバータを最適な電圧範囲で使用できるので、損失は非常に小さくなります。

図1 特定のアプリケーションで特に高い変換効率を実現するハイブリッド・スイッチング・レギュレータ・トポロジ

電磁両立性の改善

重要な革新が実現されつつある2つめの領域は、電磁両立性(EMC)です。これは、電気回路に関する承認を得るための重要な前提条件です。スイッチング・レギュレータには常に電磁エミッションが伴います。エミッションは、すべてのスイッチング・レギュレータに見られるパルス電流を通じて生成され、スイッチング周波数とスイッチング遷移速度に依存します。使用する電源の放射エミッションと伝導エミッションは、電子回路の他の部分に機能上の問題を引き起こす可能性もあります。したがって、発生する干渉を減らすことが極めて重要です。

フィルタ追加の必要性を減らすための革新が推進されています。スイッチング・レギュレータの干渉が小さいということは、フィルタやシールド部品の追加によるコストを削減できることを意味します。したがって、改善されたスイッチング・レギュレータICが広く用いられています。

ここ数年間における非常に大きな革新の1つが、アナログ・デバイセズのSilent Switcher®コンセプトです。この技術は、対称パルス電流のバランシングやボンディング・ワイヤの廃止といった様々な効果的手法を通じて、スイッチング・レギュレータ回路の放射エミッションを大幅に減らします。この概念を図2に示します。この革新的技術は、様々なスイッチング・レギュレータ・トポロジで使用できます。図2は、降圧コンバータ・トポロジのパルス電流と、それによる磁界を示しています。これらの磁界は対称配置によって2つの部分に分けられており、それぞれの方向が逆なので、大部分が相殺されます。

 

図2 降圧スイッチング・レギュレータのパルス電流と、Silent Switcherトポロジを通じた生成パルス磁界の相殺

EMCのシミュレーション

認証を受けたテスト機関でのEMI測定には高いコストがかかります。既に開発済みのハードウェアに変更を加える場合も、コストがかかります。したがって、電圧変換回路の設計におけるもう1つの重要な柱は、アナログ・デバイセズのLTpowerCAD®などのツールによるEMCの最適化です。開発プロセス中のEMC最適化を可能にするシミュレーション・ツールの使用は、大きな可能性を秘めています。図3に、LTpowerCAD開発環境の一部であるEMI Filter Designerを示します。このツールを使用すればスイッチング・レギュレータの伝導エミッションを計算でき、干渉が大きすぎることが分かった場合でも、フィルタを設計して対策を講じることができます。

図3. スイッチング・レギュレータ回路の伝導エミッションを簡単に計算できるLTpowerCADツール

高スイッチング周波数と高速制御ループ

電源におけるもう1つの傾向は、スイッチング周波数が非常に高くなりつつあることです。これは、低コストで省スペースの回路の実現を可能にします。インダクタンスと容量の値を小さくできれば、電源出力の電圧リップルが同じ場合、より安価なインダクタとコンデンサを使用できます。LTC3311は、この種の最新スイッチング・レギュレータICの一例です。これは、アナログ・デバイセズのSilent Switcherプラットフォームが提供する降圧スイッチング・レギュレータです。以上に述べたスイッチング周波数が高いという利点は、LTC33xxスイッチング・レギュレータ・ファミリ内で10MHzまで拡大可能ですが、この利点の他に、非常に高速の制御ループを実装することもできます。

制御ループが高速であるということは、負荷が動的に変化したとしても、出力電圧に生じる電圧変動はわずかな値に止まることを意味します。特にFPGAでは、負荷のトランジェントが大きい場合でも、電源電圧が狭いレギュレーション範囲から外れないことが求められます。これを確実なものとする方法の1つが、様々な高品質の出力コンデンサを加えることですが、より簡潔で低コストの方法は、スイッチング・レギュレータICを高いスイッチング周波数で使用し、結果的に制御ループの帯域幅を広くすることです。

スイッチング・レギュレータIC革新のコストは、コンデンサにかかるコストを削減することによって賄われます。

高い集積度と使い易さ

非常に多くの革新が生まれつつある4つめの領域は、電源回路全体の高い集積度です。その最初のステップは、複数のスイッチング・レギュレータを1つのICハウジングに組み込むことです。これらの製品は、しばしばパワー・マネージメント集積回路(PMIC)と呼ばれます。これらはボード上のスペースを節約し、大量に供給されるパワー・マネージメントASICとして、あるいはカタログ製品のような一般的アプリケーション向けの汎用PMICソリューションとして提供されます。ADP5014は広く使われている電源構成要素であり、例えばFPGA用として使われます。図4に、この種のPMICモジュールを使用してFPGAに電力を供給する回路を示します。

図4 4つの異なる出力電圧を持つ高集積化スイッチング・レギュレータとしてADP5014を使用した例

高集積化に加えて、モジュールは非常に使い易いものとなっています。1つのモジュールにはスイッチング・レギュレータ回路のほぼすべてが1つのハウジングに組み込まれています。通常は入力コンデンサと出力コンデンサだけが外付けで、インダクタを含む回路の残り部分はすべて組み込まれています。したがって、外付けの受動部品を選択する必要がなくなり、モジュールをメイン・ボード上にそのままハンダ付けするだけで、必要な電圧を高い信頼性で生成することができます。μModule®を選択すれば、ほぼあらゆるアプリケーションに適したモジュールが得られます。現在のところ、約200種類の電源モジュールが提供されています。

既に最適化されているμModuleは、複雑な電源条件を満たすのに特に適しています。例えば、LTM4700降圧スイッチング・レギュレータは100Aまでの出力電流を供給できます。このような大電流時でも信頼できる動作を保証できるように、特別なハウジングが最適な放熱を実現しています。多くのμModuleは、ハウジングの一部として組み込まれたインダクタがヒート・シンクと同様に熱を周囲の空気中に放出するよう設計されているので、ボードが吸収する必要があるのは、電源から伝わってくる少量の余分な熱だけです。これは、高出力電源の設計を大幅に簡略化します。

μModuleによる革新技術を利用すれば、過熱するおそれのない、アプリケーションに合わせて最適化された使い易い小型回路を作り出すことができます。以上に述べたすべてのことがコストを削減し、様々なアプリケーション分野においてこの製品グループが非常に多く用いられる理由になっています。さらなる革新の可能性は依然として高いままです。

電源分野では更に多くの革新が可能

電源に関する条件は、A/Dコンバータ、アナログ・フロント・エンド、マイクロコントローラ、FPGAなどの電気的負荷の発展に合わせて、常に変更されています。必要とされる電圧が低下を続ける一方で、必要な電流は増加し続けています。その結果、標準的なスイッチング・レギュレータでは、もはや将来の要求に応えることができなくなると見込まれています。以上のことから、電源にはまだ大きな革新の可能性があること、そしてコモディティ化、つまり汎用品的な方向へのシフトが見通せないことの理由を説明することができます。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalはドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスを専攻しました。2001年にパワー・マネージメント分野の仕事に就き、アリゾナ州フェニックスでの4年間にわたるスイッチモード電源業務への従事を含め、様々なアプリケーション分野を担当しています。2009年にアナログ・デバイセズに入社し、現在はミュンヘンにあるアナログ・デバイセズのパワー・マネージメント担当フィールド・アプリケーション・エンジニアです。