オペアンプにおける性能と消費電力のトレードオフ

多くのアプリケーションでは、性能を高めつつ消費電力を抑えることがより重要になっています。特にバッテリ駆動の携帯型機器においては、その傾向が顕著です。IoT(Internet of Things)、インダストリ4.0、デジタル化が推し進められている現在、人々の日々の生活はそうした携帯型機器によって支えられています。実際、医療分野におけるバイタル・サインの監視や産業分野におけるマシン/システムの状態監視など、広範なアプリケーションで、より性能が高くより消費電力の少ない機器が必要とされています。また、スマートフォンやウェアラブル機器といった一般消費者向けの製品でも、より高い性能と最大限のバッテリ寿命が求められるようになっています。

バッテリによって供給できるエネルギーの量には限りがあります。そのため、アクティブ・モードにおける消費電力を最小限に抑えて機器の稼働時間を最長化できる効率の高いコンポーネントが必要になります。機器の消費電力を抑えれば、少ないバッテリ容量でより長い稼働時間を実現できるだけでなく、サイズ、重量、コストを削減することも可能になります。加えて、消費電力は温度管理にも影響を及ぼします。その観点からも、より効率的なコンポーネントに対するニーズは高まっています。温度を管理するには、そのためのスペースが必要になります。生成される熱の量を抑制できれば、そのスペースを縮小することができます。このような背景から、低消費電力あるいは超低消費電力(ULP:Ultralow Power)のコンポーネントが数多く提供されるようになりました。本稿では、そうしたデバイスのうちオペアンプに焦点を絞ることにします。

性能と消費電力のトレードオフ

オペアンプ製品を適切に選択するためには、その消費電力に関連するトレードオフについて検討する必要があります。

通常、オペアンプの消費電力を抑えると、帯域幅が狭くなります。ただ、その度合いは、各製品が採用しているアーキテクチャや、安定性に関する要件に依存します。一般に、寄生容量や寄生インダクタンスが大きければ、帯域幅は狭くなります。例えば、トランスインピーダンス・アンプ(電流帰還アンプ)の場合、精度は高いとは言えませんが、比較的広い帯域幅が得られます。消費電力あたりの帯域幅は、ちょっとした工夫を施すことによって改善できます。

一般に、ゲイン帯域幅(GBW)は次の式で表されます。

366176-数式-1

ここで、Gmはトランスコンダクタンスです。つまりは出力電流と入力電圧の比(IOUT/VIN)です。Cは、オペアンプが内蔵する補償容量です。

帯域幅を広げるための典型的な手法は、バイアス電流の量を増やすことです。そうすると、消費電力は増えるものの、Gmが増大します。しかし、ここでは消費電力を抑えることを条件としているので、この方法を採用することはできません。

補償容量を付加したオペアンプには、ドミナント・ポール(Dominant Pole)が設定されているはずです。したがって、理論上、負荷容量は帯域幅には影響を与えません。

一般に、オペアンプの物理的特性が許す限り、容量値が小さいほど帯域幅は広くなります。しかし、その場合には安定性が低下します。通常、安定性はノイズ・ゲインを下げれば改善されます。しかし、ノイズ・ゲインが低いと、大きな容量性の負荷を駆動することができません。

低消費電力のオペアンプ製品を使用する場合には、もう1つのトレードオフに直面します。一般に、その種の製品は電圧ノイズが大きいというものです。通常、オペアンプの入力換算電圧ノイズは、広帯域にわたるトータルの出力ノイズに影響を及ぼす最大の要因になります。その支配的な要素は、抵抗ノイズである可能性があります。通常、トータルのノイズに最も大きな影響を及ぼすのは、入力段のノイズ源です(例えば、トランジスタのコレクタではショット・ノイズ、ドレインでは熱ノイズが生じます)。また、1/fノイズ(フリッカ・ノイズ)の大きさはアーキテクチャによって異なります。加えて、同ノイズの大きさは、コンポーネントの材料の特殊な欠陥といった要因にも左右されます。更に、1/fノイズはコンポーネントのサイズにも大きく依存します。一方、電流ノイズは消費電力が少ないほど小さくなります。とはいえ、低消費電力のオペアンプにおいても、電流ノイズは無視できない要素です(特にバイポーラ製品の場合)。1/f領域では、1/f電流ノイズが、出力におけるトータルの1/fノイズに影響を及ぼす最大の要因になる可能性があります。他にも、歪み性能やドリフトに関連してトレードオフが発生します。一般に、低消費電力のオペアンプでは全高調波歪み(THD)が大きくなります。バイポーラのオペアンプの場合、電源電流を削減すると、電流ノイズと同様に入力バイアス電流とオフセット電流が低下します。オペアンプのもう1つの重要な特性が、オフセット電圧です。通常、オフセット電圧は、入力側のコンポーネントの適応動作に依存します。そのため、消費電力を削減してもオフセット性能が大きく損なわれることはありません。すなわち、オフセット電圧とそのドリフトは、消費電力に依存して変動することはありません。また、外部回路と帰還抵抗(RF)もオペアンプの性能に影響を及ぼします。抵抗値が高いほど動的電力とTHDは低下しますが、出力ノイズと、バイアス電流に伴う影響は大きくなります。

消費電力を削減する手段として、スタンバイ機能やスリープ機能を備えるオペアンプ製品も数多く存在します。それらにより、使用していない主要な回路の動作を停止し、必要になったときだけ有効にするということが行えます。また、通常は、オペアンプ製品の消費電力が少ないほど起動時間は長くなります。表1は、ここまでに紹介したトレードオフについてまとめたものです。

表1. 低消費電力のオペアンプで生じるトレードオフ
  消費電力 ↓ 帰還抵抗(RF)↑
望ましい影響 電流ノイズ ↓
バイアス電流のドリフト ↓
オフセット電流のドリフト ↓
動的電力↓
高い周波数におけるTHD ↓
好ましくない影響 帯域幅 ↓
電圧ノイズ ↑
高い周波数におけるTHD ↑
起動時間 ↑
駆動電力 ↓
出力ノイズ ↑
バイアス電流に対する影響 ↑
特に影響しない
オフセット電圧のドリフト  

ADA4945-1」は、バイポーラの差動アンプです。この製品では、上述した特性のバランスが適切に調整されています。DCオフセットとそのドリフトが小さく、動的性能に優れているので、A/Dコンバータ用のドライバとしての用途に適しています。つまり、高い分解能と優れた性能が求められるデータ・アクイジション・システムや信号処理システムに非常に適しているということです。図1に、分解能が20ビットのADC「AD4022」をADA4945-1によって駆動する場合の回路例を示しました。ADA4945-1は複数のパワー・モードを備えているので、各種のADCに対して性能と消費電力のトレードオフを最適化することができます。例えば、サンプル・レートが高い「AD4020」と組み合わせる場合には、ADA4945-1をフル・パワー・モードで使用するべきです。一方、「AD4021」やAD4022のようなサンプル・レートが低いADCと組み合わせる場合、ADA4945-1はロー・パワー・モードで使用しても構いません。

図1. ADA4945-1とAD4022を組み合わせた回路。分解能の高いデータ・アクイジション・システム向けに、簡素なシグナル・チェーンを構成することができます。

図1. ADA4945-1とAD4022を組み合わせた回路。分解能の高いデータ・アクイジション・システム向けに、簡素なシグナル・チェーンを構成することができます。

Thomas Brand

Thomas Brand

Thomas Brand。2015年、修士論文作成の一環で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始。卒業後、アナログ・デバイセズのトレイニー・プログラムを受講。2017年、フィールド・アプリケーション・エンジニアとなる。中央ヨーロッパの産業分野の大型顧客をサポートすると共に、工業用イーサネットの分野を専門とする。モースバッハ産学連携州立大学で電気工学を専攻後、コンスタンツ応用科学大学で国際セールスの修士課程を修了。