多くのA/Dコンバータ(ADC)は、差動電圧(Vpp)またはシングル・エンド電圧(Vp)のフル・スケール入力範囲(FSR)を持つものとして定義されます。これは、ADCがプラス側アナログ入力とマイナス側アナログ入力の間で測定される電圧をサンプリングするからです。しかし、多くのシステム設計者が本当に知る必要があるのは、入力が飽和に達する前に、ADCがどれだけの入力電力(dBm)を扱えるのかということです。
ADCのフル・スケール入力は、デジタル出力への変換時に信号がクリップされるまでに、そのコンバータに入力することのできる最大信号振幅です。フル・スケール時には、出力はそのADCの最小コードと最大コードを使用します。一部のシステムでは、有効入力フル・スケールのできるだけ多くの部分を使うことによってADCのダイナミック・レンジを最大限まで広げることを追求しますが、飽和したADCには歪みが生じ、データの性能も悪くなります。
ADCの中には様々な入力インピーダンス値を選択できるものもありますが、ほとんどのADCでは値が固定されています。ADC入力をその最大値まで駆動するために必要な入力電力は、このインピーダンスと入力電圧によって決まります。ADCの入力インピーダンスが分かれば、ADCのデータシートに記載されているフル・スケール電圧をdBm単位の電力に変換することができます。以下にその計算例を示します。
次のADCのフル・スケール入力電力(dBm)はいくつでしょうか。
ADCフル・スケール範囲 = 1.0Vpp = 0.5Vp = 0.3535Vrms
ADCの入力インピーダンス(Rin) = 50Ω
信号電力 = ((Vrms2)/Rin)(ワット単位の信号電力)
= 10 x log(((Vrms2)/Rin) x 1000mW/Watt)
P(dBm) = 10 x log((Vrms2)/Rin) + 30dBm
= 10 x log((0.3535)2/50) + 30dBm = 3.978dBm
dBm単位で表される電力値は様々な用途に使用でき、計算も容易です。このADCの場合、-1dBのフル・スケール信号には2.978dBmの入力電力が必要です(3.978dBm – 1dB)。周波数領域のFFTではdB単位で信号電力が表されます。したがって、ADC入力でサンプリングされる信号電力(dBm単位)は、フル・スケール範囲の電力からFFTの基本波信号ビン電力を減じることによって簡単に決定できます。ADCへのACカップリング信号は、ADCのコモンモード電圧(Vcm)付近が中央値になります。これにより、ADCがクリッピングなしで確実に最大信号電力を実現できるようになります。

図1 - フル・スケール信号はADCの最小および最大コードに達しており、これより大きい電力の信号は入力を飽和させて、デジタル変換出力がクリップされます。dBm単位の電力は既知のフル・スケール電圧と入力インピーダンス(この図では50Ω)から計算できます。