機能的絶縁によるグラウンド・ループの解消でデータ伝送エラーを抑制

本稿ではグラウンド・ループがどのように発生するのかを説明し、さらにグラウンド・ループを解消するためにガルバニック絶縁がどのように使われてきたかについて解説します。

長距離のデータ伝送では問題発生の可能性が高くなります。グラウンド・ループは干渉源となって、グラウンドとどちらかの伝送端の間にノイズ電圧を発生させる可能性があります。さらにこの電圧が十分に大きい場合は、レシーバー側でデータ・エラーを引き起こすこともあります。本稿ではグラウンド・ループがどのように発生するのかを説明し、さらにグラウンド・ループを解消するためにガルバニック絶縁がどのように使われてきたかについて解説します。本稿ではUSBとの関連の中でグラウンド・ループについて解説していきますが、RS-232、RS-485、CANといった他のインターフェースもグラウンド・ループの影響を受けやすいインターフェースです(AN-375、AN-740、AN-770を参照)。ここでは、これらのインターフェースを絶縁する動機としてグラウンド・ループの解消に焦点を当てていますが、絶縁を必要とする電気回路の保護やオペレータの安全など、考慮すべき重要な項目は他にもあります。これらについての詳細は、Ottの文献、AN-375、AN-740、AN-770、およびAN-727に記載されています(「参考資料」を参照)。

グラウンド・ループとは、その名が示唆するように、回路間にある複数の接地経路によってそのシステムの接地系統内に生じる物理的なループです。これらの接地経路は、大きいループ・アンテナとして動作することで環境からのノイズを拾い、接地システム内に電流を発生させることがあります。AC電源からの50Hz/60Hzの磁界は、グラウンド・ループが拾うノイズの一般的な発生源です。同じように、分散型接地システムでも、1箇所の発生源からの接地電圧ノイズによって、グラウンド・ループに接地電流が流れることがあります。グラウンドはインピーダンスが小さいので、多くの場合、ノイズ電流の値が大きくなります。数百ミリボルトのノイズによって数アンペアの電流がグラウンド・ループに流れることもあります。

一般的なデータ伝送経路においてグラウンド・ループ干渉がどのように発生し得るのかについての例を、図1に示します。デバイス#1は、デバイス#2が受け取るシングルエンド信号を駆動します。信号線は、どちらか一方のデバイスで接地されます。例えば、同軸ケーブルのシールドを接地接続とすることができます。これらのデバイスのグラウンド間には、その電源の安全グラウンドを通じた2番目の低インピーダンス経路接続点があります。これら2つの接地接続は大きなループを形成し、これが近くの干渉源の磁界からノイズ電圧を拾います。この干渉はデバイス#2から見た信号品質を低下させて、伝送を妨害します。

図1. 一般的なデータ伝送経路におけるグラウンド・ループ干渉

図1. 一般的なデータ伝送経路におけるグラウンド・ループ干渉

設計者は、使用する接地位置を1箇所にすることによってグラウンド・ループが形成されないように注意する必要がありますが、一部のインターフェースでは、トランシーバー間に複数の接地接続を設けなければならないことがあります。この接地接続は、トランスミッタからレシーバーへの情報の流れを維持しながら遮断する必要があります。言葉を変えると、これら2つのデバイスを電気的に絶縁する必要があります。

グラウンド・ループを解消するために考えられる方法の1つは、図2に示すようにフォトカプラを使用することです。デバイス#1はフォトカプラのLEDを駆動し、LEDはフォトトランジスタに電流を流します。ケーブルを通じた接地接続が取り除かれたことによってデバイス#1とデバイス#2の間にはノイズ電流が流れなくなり、情報は光によって伝達されます。

図2.

図2.

このアプローチには性能的な制約があり、インターフェースの複雑さも増します。インターフェースの光学的絶縁は複雑になりがちで、高価な上にかなりのボード・スペースを必要とします。フォトカプラにはかなりの伝搬遅延があるので、有効なのは低速信号の場合に限られます。また、複数のフォトカプラを使用した場合は、LEDとプルアップ抵抗の消費電力がかなり大きくなる可能性があります。デジタル・アイソレーション技術を使用すると、インターフェースの性能に関して妥協をすることなくグラウンド・ループを解消できるほか、シンプルなアプリケーション回路ではコンポーネント数を比較的少なく抑えることができます。デジタル・アイソレータは非光学的アイソレータで、CMOSインターフェースICを使用し、容量性結合や磁気的結合を通じて情報を伝達します(Ott)。

USBケーブルを使ってAC電源を使用する2つのデバイスを接続すると、グラウンド・ループが生じて、バスを通じた通信を妨げる可能性があります。USBによる通信は1対の双方向差動ペア(図3のD+とD-)を通じて行われます。ホスト・デバイスは、バスを制御してペリフェラルと通信を行います。データ・パケットの方向性は、制御信号ではなくUSBプロトコルを通じて確立されます。ホスト・デバイスは、ペリフェラルに電源とグラウンドを提供します。このUSBケーブルのグラウンド接続と、ホストおよびペリフェラルの安全グラウンドがグラウンド・ループを形成し、それによってホストのグラウンド電位とペリフェラルのグラウンド電位に差が生じて、通信の信頼性が低下する可能性があります(AN-375とAN-727を参照)。

図3.

図3.

データがダウンストリーム(ペリフェラル)に送られるかアップストリーム(ホスト)に送られるかを示す制御信号がないので、USBポートを絶縁してケーブルの接地接続を無くすことは本質的に困難です。バスを制御するシリアル・インターフェース・エンジン(SIE)の内部信号にアクセスすることなくデータの方向性を決定する唯一の方法は、バス・トランザクションを使用することです。多くの場合、SIEはプロセッサに組み込まれているので、通常、SIEの信号を使用することはできません。

USBを絶縁するために使用できるアプローチはいくつかあります。例えば、D+とD-を絶縁するという課題は、単方向信号を使うシリアル・インターフェース(SPIなど)で制御される外部SIEを使用することによって回避できます。SPIは単方向性なので、絶縁がより容易です。このアプローチを図4に示します。フォトカプラを使用すると、その伝搬遅延によって絶縁型SPIの速度が大きく制限されるので、4チャンネルのデジタル・アイソレータを使用します。外部USBコントローラはそのバッファからデータを送信し、バッファへのデータ入力はSPIインターフェースを通じて行われます。外部SIEはペリフェラルの最大データ・レートでデータを転送しますが、バスの有効データ・レートは、コントローラがSIEのバッファをフル状態に維持する能力によって制限されます。この場合は、デジタル・アイソレータの伝搬遅延がボトルネックとなります。このアプローチは外部SIEを使用するのでその分だけボード・スペースが大きくなり、ペリフェラルのドライバにも変更を加える必要があります。

図4.

図4.

よりシンプルなアプローチは、図5に示すように、ADuM3160シングルチップUSBアイソレータを使ってD+線とD-線を直接絶縁することです。このデジタル・アイソレータを使用する方法では、ホストまたはペリフェラルどちらかのドライバに変更を加える必要があります。そのインターフェース・ロジックはUSBプロトコルによってD+とD-の方向性を決定し、それに応じてドライバを有効にしたり無効にしたりします。2.5kVの絶縁バリアがUSBケーブルを通じた接地接続を遮断して、グラウンド・ループが形成されるのを防ぎます(Cantrell)。

図5.

図5.

有線通信におけるグラウンド・ループのリスクと、グラウンド・ループの解消にガルバニック絶縁が有効であることを示すために、簡単なハードウェア・シミュレーションを考えました。このテスト・セットアップでは、USBケーブルを通じた接続と、ラップトップPCで制御されるUSBハブおよびペリフェラルの電源で、グラウンド・ループが形成されています。このセットアップは、AC電源線から生じる60Hz信号をトランスによって接地線に結合します。これはノイズ源に依存しているので、グラウンド・ループにノイズを発生させる電源線からの磁界と同じです。グラウンド・ループを流れる電流は、可変直列抵抗によって調整可能です。ハブのグラウンドからペリフェラルのグラウンドへの電圧を観察した結果、グラウンド・ループを流れる電流はハブへの通信を阻害するレベルにまで増加しました。シミュレートされたグラウンド・ループ電流のために2つの異なるペリフェラル・デバイスのグラウンド電位がハブのグラウンド電位より高くなり、その差が1Vrmsを超えた時点で、両方のデバイスがハブおよびラップトップとの通信を喪失しました。ADuM3160 USBアイソレータでハブのポートをUSBケーブルを介した接地接続から絶縁して、トランス結合電流が流れないようにしました。これによりPCと両方のペリフェラル間の通信が実質的に回復できました。これは、グラウンド・ループを防ぐためにデジタル・アイソレーションをどのように使用できるかを示しています。

要約すると、グラウンド・ループは有線通信では発生しやすい問題です。デバイス間に複数の接地接続がある場合はそれらがループを形成し、近傍のAC磁界から干渉を拾う可能性があります。さらに、距離が長い場合はグラウンド電位に差が生じる傾向が強く、それによってグラウンド・ループにノイズ電流が発生しやすくなります。いずれの場合もデータ・エラーを招く可能性があります。USBはグラウンド・ループによる干渉を受ける可能性があるインターフェースの一例であり、ディスクリート製品のデジタル・アイソレータを使ってこれを絶縁するのは容易ではありません。グラウンド・ループのハードウェア・シミュレーションは、グラウンド・ループがUSBインターフェースにどのような影響を与えるかについての実例と、USBアイソレータであるADuM3160がどのようにこの状況を改善できるかについての実例を示しました。USB以外のインターフェースにも、グラウンド・ループによる問題が生じる可能性があります。これらのインターフェースを絶縁する方法に関するリソースと、デジタル・アイソレーションについてのより詳しい情報は、www.analog.com/iCouplerに掲載されています。

参考資料

AN-375アプリケーション・ノート、ADM2xxL Family for RS-232 Communications.アナログ・デバイセズ、1994年5月

AN-727 Application Note. RS-485アプリケーションでのiCoupler®アイソレータ アナログ・デバイセズ、2004年6月

AN-770アプリケーション・ノート、iCoupler®絶縁のCANバスでの応用 アナログ・デバイセズ、2005年3月

Ott, Henry.Noise Reduction Techniques in Electronic Systems.Second Edition.Wiley-Interscience.1988