フォールドバック電流制限回路を内蔵したHot Swap回路の解析

信頼できるアナログ回路は、能動制御ICと受動部品がパラメータ許容誤差範囲内で適正に動作することを保証します。Hot Swap回路が正常に動作するには、多くのパラメータの最小値および最大値をすべての部品のデータシートから収集する必要があります。これらのことから、さまざまな容量性負荷に対するHot Swap回路の動作を知っておくことが必要です。この記事では、フォールドバック電流制限特性を持つHot Swap回路について重要な容量性負荷をどのように計算するかを示します。

概要

図1に示すようなHot Swap 回路の場合、重要なパラメータは動作電圧(VOPER)、最大電流制限値(ILIMIT)、タイマ期間(T)、および最大出力電圧スルーレート(SO)で、最後のパラメータはHot Swap回路が無負荷で動作を開始するときに生じます。これらのパラメータは、負荷要件、電源の制限事項、MOSFETのドレイン/ソース間オン抵抗(RDS(ON))、およびその安全動作領域(SOA)に基づいて最初に選択します。

図1.(a)Hot Swap回路の主な機能部品と(b)フォールドバック特性の線形近似

図1.(a)Hot Swap回路の主な機能部品と(b)フォールドバック特性の線形近似

スルーイング時に、MOSFETはソース・フォロワとして動作するので、最大出力電圧スルーレート(SO)はGATEピンのスルーレート(SG)と同じで、回路部品(ゲート電流をゲート/グランド間容量で割った値)で定義され、電源投入時トランジェントに強く影響されます。タイマ期間(T)は、フォルトが発生するまでに、HotSwap回路が電流制限モードで動作可能な時間です。正常な電源投入時トランジェントとは、フォルトが発生しないトランジェントです。

回路パラメータのすべての変化にわたって正常に動作するという問題は、電流制限値(ILIMIT)が一定の回路の場合は比較的簡単です。一定の電流制限値での純粋な容量性負荷のパラメータの時間Tに対する関係は、次のとおりです。

数式 1

RC負荷の場合、負荷の容量成分に対して許容される超過電流を定義して、適切な負荷容量を選択するのは簡単です。

Hot Swap回路を使用して負荷を充電する場合は、解を求める必要がある次の2つの共通した問題があります。

  • 電源投入時トランジェントが正常になる最大の純粋な容量性負荷。
  • 電源投入時トランジェントが正常になる最大の容量性負荷。これは抵抗性負荷(RL)に並列に加わることがあります。

フォールドバック特性の線形近似を図1bに示します。これは以下の検討事項のすべてで使用されます。この特性の主な点は次のとおりです。

  • 動作電圧はVOPERです。
  • 出力電圧が0 ≤ VOUT ≤ VINIT のときの初期電流制限値はIINITです。

この電流制限値は出力電圧がVLIMIT(A点)に達するまで持続し、その後電流制限値は直線的に増加します。この増加は出力電圧がVFIX(B点)に達するまで続きます。B点以降、電流制限値は一定(ILIMIT = 一定)です。電圧VFIXはVOPERより低い値です。

図1bに示す、出力電圧の関数としての電流制限値は、異なる出力電圧レベルに対応する3つの異なる式で表現されます(以下を参照)。

数式 2

図1b に表示されているパラメータの値、タイマ期間Tの値、およびスルーレートSOは、許容誤差と合わせてすべて既知であり、以下の解で使用されます。一部の回路では、突入時トランジェントの影響を無視できるほどスルーレートSOが高く、他の回路では突入時トランジェントの影響が顕著です。前述の2つの負荷は、スルーレートがこれらの2つの事例の場合には解くことができます。

最大の純粋な容量性負荷の計算

Hot Swap 回路について知るための1つの重要なパラメータは、回路がフォルトなしで正常に起動することができる最大の純粋な容量性負荷です。

2つの重要な容量性負荷であるCNO_FLTおよびCFLTについて検討します。CNO_FLTは、回路パラメータの任意の可能な組み合わせに対して、フォルトを発生することなく、回路が電源投入時トランジェントをクリアする最大の容量性負荷です。CFLTは、電源投入時トランジェントが常に失敗し、フォルトが発生する最小の容量性負荷です。これらのことから、容量性負荷の範囲を3つのグループに分けることができます。電源投入時トランジェントは、0からCNO_FLTまでの容量性負荷では正常です。CFLTより大きな負荷では起動は失敗します。CNO_FLT からCFLTまでの負荷については、電源投入時トランジェントを予測できません。

以下のHot Swap回路パラメータは、許容誤差ありで最初に定義できます。それは、VINIT、VFIX、IINIT、ILIMIT、Tです。

図1bおよび式(1-3)に示す関数ILOAD(VOUT)には、電流制限値について異なる3つの領域があります。スルーレート(SO)が原因で、(タイマ期間Tが期限切れになる前に)回路がこれらの動作領域のいずれかで電流制限モードを終了することがあります。あるいは、スルーレートが影響しないことがあります(つまり、SOが非常に高速な場合です)。これらのシナリオ(トランジェント)のそれぞれを任意のHot Swap回路について解析することが必要です。それぞれについて以下に説明します。トランジェントによっては、ワーストケースのパラメータの分析表現を見つけることができます。

ただし、一般解または汎用解は数値形式で求められることがあります。

ケース1:SOによる電流制限が発生しない場合

自然なスルーレートSOが十分に高速なので、関数ILOAD(VOUT)の3つの部分すべてで、動作点が電流制限モード内に保持されると想定します。

トランジェントの第1段階では、電流はIINITであり、時間t1の間に出力電圧は0からVINITまで直線的に上昇します。容量性負荷CLOAD1は、次のように表現できます。

数式 3

トランジェントの第2 段階では、出力電圧がVINIT からVFIXまで増加するので、電流は(2)に従ってIINIT からILIMITまで直線的に増加します。時間t2は、この段階の時間を表し、出力電圧がVFIX に達すると完了します。VFIX は、抵抗分割器を適切に選択することにより、通常は(0.5 ~0.9)VOPERに設定されます(この電圧はVOPERより低くする必要があります)

時間の関数としての出力電圧は、次のようになります。

数式 4

式(2)を式(5)に代入すると、次の式が得られます。

数式 5

または、

数式 6

これにより、次の1階微分方程式が導かれます。

数式 7

初期条件は次のとおりです。

数式 8

式(8)によるVOUT(t) の記述範囲は、第2段階の開始時点(t = 0)から、電流制限値が最大値ILIMITに達する時刻t2までです。

式(8)の解は次のとおりです。

数式 9

時刻t2での出力電圧はVFIXなので、

数式 10

時間間隔t2は次のとおりです。

数式 11

3 番目の式は、VFIX からある中間レベルのVINTERIMまでの時間間隔t3 の間、CLOAD1が電流ILIMITによりどのように充電されるかを記述します。ここで、中間レベルの電圧は、動作点が電流制限モードを終了する電圧で、理由はMOSFETの相互コンダクタンスが3極管領域で低下するからです。この領域に入ると、正常な起動が保証されますが、入手が困難なMOSFETパラメータが必要となる可能性もあるので、この領域が始まる点を解くのは困難です。この領域は通常狭いので、CLOAD1 がVFIX からVOPERまでILIMITで充電されると仮定してこの領域の記述を簡略化することには意味があります。この場合、時間の式は次のとおりです。

数式 12

(4)によると、次のようになります。

数式 13

T = t1 + t2 + t3であることを考慮に入れると、容量性負荷は次のように表現できます。

数式 14

式(15)のCLOAD1 の最小値は、TMIN、VINIT_MAX、IINIT_MIN、およびVFIX_MAXによって求められます。後続のCNO_FLTの式には、同じパラメータ制限値を使用する必要があります。

このタイプの起動トランジェントを図2に示します。

図2.(ケース1)純粋な容量性負荷。動作点は第3領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値はILIMITです。

図2.(ケース1)純粋な容量性負荷。動作点は第3領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値はILIMITです。

この場合の出力電圧スルーレートは、以下の範囲に収まります。

数式 15

ケース2:SOがA点で電流を制限する場合

スルーレートSOの制限が原因で、動作点が電流制限モードを終了するのが正確に図1のA点である場合、容量性負荷CLOAD2は次のように表現できます。

数式 16

CLOAD2は、IINIT_MIN、TMIN、およびVINIT_MAXのときに最小になります。

この場合の出力電圧スルーレートの最大値は次式で表されることに注意してください。

数式 17

動作点が電流制限モードに存在しているとき、この値は一定です。

このトランジェントを図3に示します。

図3.(ケース2)SOが制限された純粋な容量性負荷(自然な出力電圧スルーレート)。動作点は第1領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値はIINITです。

図3.(ケース2)SOが制限された純粋な容量性負荷(自然な出力電圧スルーレート)。動作点は第1領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値はIINITです。

ケース3:SOがB点で電流を制限する場合

動作点がB点で電流制限モードを終了する場合、CLOAD3の分析表現を生成するには、出力電圧がVFIX に到達したときにちょうど電流制限モードが終了すると仮定します。電流制限モードでの全動作期間(T)には、2つの時間間隔t1およびt2が含まれます。(14)によると、t1は次のようになります。

数式 18

このトランジェントの2番目の部分では、出力電圧は式(10)に従って変化し、時間間隔t2は次のようになります。

数式 19

さらに、(17)と(18)から次のようになります。

数式 20

式(19)から、CLOAD3の最小値は、TMIN、VINIT_MAX、IINIT_MIN、およびVFIX_MAXを使用して求められます。

この場合の出力電圧スルーレートの範囲は、以下のように定義できます。

数式 21

ケース4:SOがA点とB点の間で電流を制限する場合

出力電圧スルーレートSOがSLOAD1_MIN ≤ SO ≤ SLOAD1_MAXの範囲に収まる場合、電流制限は出力電圧がVFIX に到達する前に(B点の前に)停止します。つまり、出力電圧スルーレートは、時刻t1_4の間は(IINITにより)一定であり、時刻t2_4 の間はSOに等しくなります。以下の方法を推奨します。

出力電圧は時刻t1_4の間に0からVFIXまで上昇します。これは(16)から次のように表現できます。

数式 22

出力電圧VOUT(t2_4)は、特性図1(式2)の第2段階の電圧と等しくなるはずです。

数式 23

(14)のILOAD(t2_4) にSOCLOAD4を代入し、t2_4=T-t1_4であることを考慮して、(14)と(11)の間に等号を置くと、次の式が得られます。

数式 24

CLOAD4が未知のこの超越方程式(21)は、適切な計算ソフトウェア(Mathcad、MATLAB、Mathematica)またはLTspiceを使用して解くことができます。

正常な電源投入時トランジェントを図4に示します。ここでは、スルーレートが最大のときタイマ期間より短い時間、電流が制限されています。その結果、トランジェントは電流制限モードで始まり、スルーレートが制限された動作で突入状態を終了します。

図4.(ケース4)SOが制限された純粋な容量性負荷(自然な出力電圧スルーレート)。動作点は第2領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値は直線的に増加します。

図4.(ケース4)SOが制限された純粋な容量性負荷(自然な出力電圧スルーレート)。動作点は第2領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値は直線的に増加します。

出力電圧スルーレートと事前定義の抵抗性負荷による制限がないときに正常な電源投入時トランジェントを実現するための最大容量性負荷

受動負荷を抵抗性負荷RLとして定義することが可能で、すべてのHot Swap回路パラメータ(VOPER、VFIX、IINIT、ILIMIT、T)が既知の場合は、最大容量性負荷を見つけて正常な電源投入時トランジェントを確実にします。正常な電源投入時トランジェントが完了するのは、電流がILIMITに達した後だけです。理由は、スルーレートが十分に高く、トランジェント全体が電流制限値以内にとどまるからです。

第1段階の微分方程式は次のとおりです。

数式 25

式(22)の解は次のとおりです。

数式 26

第1段階の終了時(t1)に、出力電圧はVINITに等しくなり、次の式が成り立ちます。

数式 27

第2段階の微分方程式は次のとおりです。

数式 28

式(25)の左辺の第1項は、コンデンサを充電する電流で、第2項は抵抗性の電流です。

式(23)の解は、この段階の最初から時刻t2(出力電圧がVFIXに達する時刻)までの出力電圧を表しています。

数式 29

時間間隔t2 は、(26)から、次のようにCLOADの関数として表現できます。

数式 30

第3段階の微分方程式は次のとおりです。

数式 31

出力電圧スルーレート(SO)がトランジェントに影響しないと仮定すると、出力電圧はVOPERまでは(28)に従って変化していると言うことができます。式(28)の解は次のとおりです。

数式 32

この段階の最後には、次式が成り立ちます。

数式 33

また、時刻t3自体を表す等式は次のとおりです。

数式 34

T = t1 + t2 + t3 なので、この場合のCLOADは次のとおりです。

数式 35

この場合の測定結果を図5に示します。

図5.SOの制限がないRC負荷。動作点は第3領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値はILIMITです。

図5.SOの制限がないRC負荷。動作点は第3領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値はILIMITです。

電流が出力電圧スルーレートによって制限され、事前定義の抵抗性負荷が存在するときに、正常な電源投入時トランジェントを実現するための最大容量性負荷

Hot Swap 回路が電流制限モードでどの程度長く動作するかは、出力電圧スルーレート(SO)の値によって定義されます。この事象(電流制限モードの終了)は、トランジェントの3つの段階のどの瞬間にも起こる可能性があります。事前定義のA点およびB点の場合、第3段階の間は前のセクションの式を使用できます。中間点の場合は、「ケース4」で実証された方法と超越方程式を使用することができます。

図6のトランジェントがこの事例を示しており、電流制限領域の第1段階で動作点が電流制限モードを終了する場合です。

図6.SOが制限されたRC負荷。動作点は第1領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値はIINITです。

図6.SOが制限されたRC負荷。動作点は第1領域で電流制限モードを終了します。この領域での電流制限値はIINITです。

まとめ

この記事での導出式と数値解を求める方法は、Hot Swapソリューションの詳細な最適化の基礎としての役割を果たすことができます。

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Vladimir Ostrerov

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Josh Simonson