プロセス・オートメーション向けの完全な通信ソリューション――「fido5000」を活用してインダストリ4.0に備える

インダストリ4.0やIIoT(Industrial Internet of Things)の登場に伴い、産業用のオートメーション技術はデジタル化の方向に大きくシフトしています。その結果、製造現場には大きな変化が訪れようとしています。個々の生産拠点はネットワークで接続され、相互に、あるいは異なる部門間で、更には会社の垣根を越えて通信を行うようになるでしょう。全般的な生産効率は、設備やシステムの状態を監視したり最適化したりすることで大幅に向上するはずです。ただ、そのためには、事業にかかわるすべての機械や人が、絶えず通信を行い、膨大な量のデータや様々なパラメータをやりとりできるようにする必要があります(図1)。

図1. 工場におけるネットワーク接続。事業にかかわる様々な要素が絶えず通信を行います。

図1. 工場におけるネットワーク接続。事業にかかわる様々な要素が絶えず通信を行います。

かつて、ネットワーク接続は比較的単純な方法で実現されていました。その時代には、様々なシステムから得られるアナログ・センサーの信号を中央のコントローラに送信していました。デジタル化の処理は、そのコントローラで行われていました。それに対し、インダストリ4.0の時代には、センサー側でデジタル処理が行われるようになります。この種のセンサーはスマート・センサーと呼ばれています。インテリジェントな機能を備えており、複雑なネットワークのどこにでも組み込むことができます。スマート・センサーを導入することにより、デジタル形式で記録した物理量の情報をネットワーク上で伝送することが可能になります。スマート・センサーでは、測定の対象となるパラメータを実際にセンシングする部分を除き、シグナル・コンディショニング、変換処理、デジタル処理にかかわる大部分の要素が1つのハウジング内に統合されます(図2)。

図2. 単純なアナログ・センサーを置き換えるスマート・センサー。アナログ・シグナル・チェーンからデジタル処理ユニットまでのすべての要素を内蔵します。

図2. 単純なアナログ・センサーを置き換えるスマート・センサー。アナログ・シグナル・チェーンからデジタル処理ユニットまでのすべての要素を内蔵します。

また、多くの場合、スマート・センサーはバス・インターフェースを備えています。測定パラメータの値をデジタル・データに変換することにより、より多くの情報をより高速に送信できます。より堅牢な信号伝送を実現できることも、この方式のメリットの1つです。デジタル信号を伝送するのであれば、信号の変化や干渉の影響を抑制することができます。あるいは、そうした問題を完全に防止することも可能です。更に、理想的なケースでは、バスに対応するセンサーをプラグ&プレイでネットワークに接続し、コントロール・ユニットによって自動検出することができます。1つのセンサーが故障しても、他のセンサーは継続して機能します。

しかし、上述した事柄をすべて実現するのは容易ではありません。そのためには、個々のセンサー/アクチュエータから機械への接続を実現し、最終的にはシステムに到達するネットワークを遍在化させる必要があります。そのネットワークは信頼性が高く、リアルタイム対応のものでなければなりません。産業用のイーサネットは、重要性の高い一連の通信規格として登場しました。従来のフィールド・バスと比較すると、産業用イーサネットには、共用の伝送媒体を使ってより多くのデータを高い効率で同期伝送できるという決定的な優位性があります。また、産業用イーサネットを利用する場合、統一された基準に基づいて通信システムの全体を構築することができます。加えて、標準的なイーサネットに対し、デタミニスティック(確定的)なリアルタイム性を追加することが可能です。

この種のアプリケーション向けに、アナログ・デバイセズは「fido5000」を提供しています。これは、リアルタイム・イーサネットの複数のプロトコル(REM:Real-time Ethernet Multiprotocol)をワンチップでサポートするスイッチICの製品ファミリです。同ファミリの製品は、TSN(Time-Sensitive Networking)に対応する2つのイーサネット・ポートを備えています。これを利用することにより、ライン型、リング型、スター型、冗長化スター型といったネットワーク・トポロジに対応できます。また、同ファミリの製品は、構成が可能なメモリ・バス・インターフェースを介して任意のホスト・プロセッサに接続できます。更に、高い柔軟性を備えており、あらゆる産業用イーサネット・プロトコルに対応可能です。規格は絶えず進化しますが、同製品を採用すれば、将来も有効に活用できるように設計を行うことができます。

本稿では、fido5000のメリットを活用した例として、ドイツ フルダを拠点とするJUMOの製品を例にとります。JUMOは様々な分野に向けて、物理量/化学量を計測、制御、分析するための製品やシステム・ソリューションを開発/製造しています。対象とする分野には、食品、空調、機械、化学品、医薬品、包装、上下水道などがあります。これらの分野では、大規模なネットワーク上で様々なプロセス・データをやりとりする必要があります。fido5000は、このようなアプリケーションにとって理想的な製品です。JUMOは、fido5000を採用して同社の最新製品「DICON touch」を開発しました。

DICON Touchの概要

DICON touchは、2つのチャンネルを備えるプロセス/プログラム・コントローラです。TFT液晶のカラー画面に視覚情報が表示され、直感的なタッチ操作が行えます。従来の製品では、RS422/RS-485をベースとするMODBUS®のRTU、イーサネット、PROFIBUS® DPのインターフェースを提供していました。それに加え、最新のDICON touchでは、PROFINETに対応するコントローラとの接続、通信が可能になります。この接続/通信は、fido5000に集積されている2ポートのスイッチによって実現され、シンプルなネットワーク・トポロジを構築することができます。DICON touchを使用したネットワーク・アプリケーションには、登録データの評価、構成/セットアップ、オンラインでの可視化用のウェブ・サーバといった機能が統合されます。それらの機能は、PROFINETによるリアルタイムのデータ交換機能と共に利用可能です。また、DICON touchはPROFINETの規格に準拠し、様々なメーカーのアプリケーションに対して互換性を有することが認定/保証されています。

図3. DICON touchの外観。2チャンネルを備えるプロセス/プログラム・コントローラです。JUMOの製品としては初めてPROFINETのインターフェースに対応しました。

図3. DICON touchの外観。2チャンネルを備えるプロセス/プログラム・コントローラです。JUMOの製品としては初めてPROFINETのインターフェースに対応しました。

アナログ・デバイセズとJUMOは、長年にわたってパートナーシップを築いてきました。アナログ・デバイセズは、2016年にInnovasicを買収したことから、産業用イーサネット向けの製品ラインアップを拡張することができました。その結果、産業用イーサネット向けの一連のアプリケーションを利用する機会をお客様に提供できるようになりました。このことは、JUMOとの協業によって既に実証されています。また、両社の関係にもプラスの影響がもたらされました。JUMOとの関係において、アナログ・デバイセズは、単なる部品メーカーという枠を越え、真の設計パートナーとしての役割を果たしました。JUMOでプロダクト・マネージャを務めるKlaus Otto氏は「DICON touchの製品化に向けては、PROFINETに対応するインターフェースを開発する必要がありました。それにあたり、アナログ・デバイセズは極めて高い専門性で当社をサポートしてくれる優れたパートナーとして貢献してくれました」と述べています。

このようなパートナーシップは、アナログ・デバイセズが最重視しているものです。今後は、パートナー企業としての関係を更に拡大していきたいと考えています。アナログ・デバイセズは、それぞれの強みをどのように活かし、どのように協力すればよいのかということを深く理解して協業を進めます。アナログ・デバイセズの場合、最新の技術に取り組み、早い段階で難易度の高い課題に対処します。そのため、インダストリ4.0のような新しい分野でも、パートナーに対して広範な専門知識を提供することができるのです。

このような取り組みにより、アナログ・デバイセズは、従来の半導体メーカーとは異なる立ち位置を確立しました。実際、IC技術だけでなく、ソフトウェアやシステム・レベルの技術にも重点を置いて投資を行っています。そのようにして得た知識は、センサーからクラウドに至るシグナル・チェーンの全体を網羅する比類のない製品群と組み合わせられます。また、課題が見つかれば、システム・レベルで対処します。このようにすることで、開発プロセスを加速し、製品化に必要な時間を短縮することができます。結果として、次世代製品の開発を早期に開始することが可能になり、競争力が高まります。アナログ・デバイセズは、あるときは従順なパートナーとして、またあるときは技術、経験、能力の面で貢献する積極的なパートナーとして協業先の企業が必要とするものを提供します。

アナログ・デバイセズは、イーサネットをベースとするPROFINETに基づいて、あらゆるデバイスを設計するという要件に対応可能なソリューションを有していました。そのため、DICON touchの開発に対応することができました。課題だったのは、お客様により多くの可能性を提供するために、できるだけ汎用性が高いデバイスを開発することでした。DICON touchは、モジュール方式の採用という強力なコンセプトに基づいて開発される予定でした。例えば、簡単なプラグイン・カードや、標準のイーサネットに対応する統合型のPHY、PROFINETに対応する機能を備えた拡張プラグイン・カードなどを使用できるようにするということです。Otto氏は「DICON touchの開発では、PROFINETに対応する個々のソリューションに特に重点を置きました。そのような機能をカバーする製品は、その時点では市場に存在していませんでした」と語ります。

DICON touchの開発には、REMスイッチICのfido5000だけでなく、統合型のプラットフォーム「RapID」も使用されました。このプラットフォームは、fido5000をベースとする理想的な組み込み設計ソリューションです。fido5000、通信用のプロセッサ、JTAGインターフェース、PHYに加え、Flash®、SDRAM、EEPROMなどのメモリが1枚の基板上に統合されています(図4)。次世代のRapIDでは、通信用のプロセッサとして、より強力で低消費電力のARM® Cortex®-M4を採用する予定です。それにより、要件に応じて追加の処理を実装できるようになります。RapIDでは、事前認証が行われた一般的な産業用イーサネット・プロトコルを利用できます。そのため、JUMOがDICON touchを開発する際には、RapIDに関する既存の資産が非常に役に立ちました。回路図やレイアウトのデータなど、RapIDに関するあらゆる情報はダウンロードによって入手できます。そのため、開発時間を大幅に短縮することができます。もう1つDICON touchの開発に役立ったのが、RapIDの統合型ウェブ・サーバ機能です。これを使用すれば、ネットワークのパラメータや入出力データを非常に簡単に読み出し/変更することができます。これもRapIDが備える重要な特徴の1つです。また、RMII(Reduced Media Independent Interface)やI2Cのインターフェースを介してPHYの構成を実施することも可能です。更に、DICON touch上にファームウェアがミラーリングされるため、PROFINETに対応するモジュールは、起動時に更新できます。

RapIDは高い柔軟性で構成できるため、DICON touchのファームウェアの更新やネットワークへのアクセスも実現できます。また、DICON touchの開発では、限りない創造性が発揮されました。例えば、PROFINETではLEDを点灯する機能が標準的に使用されます。ただ、DICON touchにはLEDは実装されませんでした。その代わりに、DICON touchでは液晶ディスプレイが点滅します。

DICON touchの開発では、サイバー・セキュリティ機能も重要な役割を果たしました。産業用コントローラのサイバー・セキュリティについては、汎用的なソリューションでは対処できません。システムのリスク評価に基づいて、既存のソリューションよりも広い範囲をカバーするアプローチを採用する必要があります。アナログ・デバイセズは、セキュリティ戦略の一環として、イーサネット向けの全コンポーネントを可能な限りセキュアなものにすることに注力しています。産業用イーサネット向けのソリューションやTSN対応のソリューションについても、セキュリティ対策に重点を置いて開発を行っています。fido5000をベースとするRapIDにも、サイバー攻撃に対処するためのセキュリティ機能が追加されました。キーの管理、セキュア・ブート、セキュア・アップデート、セキュア・メモリ・アクセスといった機能です。

図4. fido5000をベースとするRapID。このプラットフォームは評価キットとして利用できます。

図4. fido5000をベースとするRapID。このプラットフォームは評価キットとして利用できます。

まとめ

アナログ・デバイセズは、fido5000とRapIDによって、パートナー企業がリアルタイム機能、信頼性、セキュリティなどの面で将来の要求事項にも対応できる理想的なソリューションを提供します。また、単に製品を提供するだけではなく、開発協力やサポートといった形でも貢献します。このような協力によって大きなメリットがもたらされることは、JUMOの新たなDICON touchの例で実証されています。この協業プロジェクトにより、セキュアで信頼性が高く、将来を見据えたソリューションが、従来よりも短期間のうちに実現されました。

Thomas Brand

Thomas Brand

Thomas Brand。2015年、修士論文作成の一環で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始。卒業後、アナログ・デバイセズのトレイニー・プログラムを受講。2017年、フィールド・アプリケーション・エンジニアとなる。中央ヨーロッパの産業分野の大型顧客をサポートすると共に、工業用イーサネットの分野を専門とする。モースバッハ産学連携州立大学で電気工学を専攻後、コンスタンツ応用科学大学で国際セールスの修士課程を修了。