Thought Leadership

Swarnab Banerjee
Swarnab Banerjee,

システム・エンジニアリング・マネージャ

著者について
Swarnab Banerjee
Swarnab Banerjeeは、アナログ・デバイセズのシステム・エンジニアリング・マネージャです。エネルギー・マネージメント製品グループに所属で、スマート・グリッド向けの電力供給/電力変換に関して高まる技術的なニーズに対応しています。以前は、Core Innovation、Boulder Wind Power、Princeton Power Systemsで技術管理職に従事。様々な送電/配電システムを開発した経験を持ちます。2件の特許を取得済みで、3件の特許を申請中。電気工学の学士号を取得しています。
詳細を閉じる

次世代の電力線センサー、電力ハーベスティングと接続性によりメンテナンス作業を軽減


現在のエネルギー情勢は刻々と変化しています。しかし、停電によって製造などの重要な作業が中断し、数百万米ドル(数億円)にも達する損害が発生するという状況は解消されていません。また、世界各地で稼働中の電力設備の中には、かなり老朽化が進んでいるものがあります。加えて、一部の地域では大規模な風雨災害が発生し、設備に影響が及ぶケースも増えています。電力会社は、このような深刻な課題に直面しています。そのため、将来の停電のリスクに備えて様々な対策を施さなければならなくなっています。例えば、配電網の近代化、樹木の枝葉の成長の管理、電線の修理を担う作業員の増員などを進めるといった具合です。それぞれの対策には、コスト、技術的なリスク、社会的な利益の大きさといった面で違いがあります。そのため、優先順位をつけるための評価などが複雑になる可能性があります。

最近、電力会社は次のようなことに注目しています。それは、停電時の対応力を向上し、顧客により良い結果をもたらすために、電線の修理を担う作業員の配置、雇用、訓練を強化するというものです。しかし、よく知られているように、世界の多くの地域では労働者の高齢化の影響が表面化しています。つまり、熟練の労働者を確保しつつ作業員を増やすことがますます難しくなっているのです。長時間にわたる停電、顧客の不満、政府の介入の可能性に直面した結果、電力会社はより優れたソリューションを求めるようになりました。作業員による活動内容を改善し、実際の修理や優先度の高いメンテナンスに、より多くの時間を割けるようにするにはどうすればよいでしょうか。この疑問に対する1つの答えは、断線個所を探し出すために費やす時間を削減することです。

電力網のノードからデータを取得する

ここ数年、多くの国では、問題の発生個所を特定するのが難しいという理由で、長時間にわたる停電が生じています。では、電力会社が送配電網のアーキテクチャを改善し、停電時の対応力を高めるにはどうすればよいのでしょうか。その答えは、より優れた電力線センサー(line sensor)を活用することです。そうすれば、電力インフラ内のより多くのノードにセンサー機能を持たせつつ、システム全体のコストを削減することが可能になります。この技術は、統合性が高いことを特徴とします。また、測定精度の向上、消費電力の削減に貢献すると共に、メンテナンスの必要性を軽減します。

新たな電力線センサーには、いくつかのユース・ケースがあります。最も一般的なものは、障害インジケータ(fault indicator)として知られるノードの監視システムです(図1)。このシステムは、何らかの問題が発生した際、それを検出して警告を発します。それにより、作業員は障害が発生した装置の修理に迅速に着手することができます。図1は、障害インジケータが配電線に適用されている状況を表しています。これと同様のシステムは、様々な地域で使われています。また、様々なサプライヤから必要な製品が提供されています。そうした地域、サプライヤでは、このシステムについて説明するために様々な名称が使われています。例えば、ライン・モニタ、障害モニタ、障害回路インジケータといった具合です。以下では、この種のシステムについて説明するにあたり、一般的な用語である障害インジケータを使用することにします。また、送電線/配電線の物理的な状態の検出に使用される基盤技術のことを、電力線センサーと呼ぶことにします。

Figure 1
図1. ノードの監視システム。障害インジケータとして働きます。
Figure 2
図2. 障害インジケータの構成。電力線の物理的な状態を検出するために電力線センサーを使用しています。

地中に電力線を設けるタイプのアプリケーションの場合、障害インジケータは各主電線の終端に配置されます。障害が発生した際、その上流に位置するインジケータはトリップ(経路を遮断)し、下流に位置するインジケータはトリップすることなくそのままの状態を維持します(図2)。そのため、作業員は問題の切り分けのプロセスに時間をかけることなく、ケーブルや装置における障害の発生個所を簡単に特定することができます。なお、地中に敷設された電力網の場合、変圧器、開閉器、キャビネット、ジャンクション・ボックス、スプライスなどが使われている可能性があります。

一方、地上に電力線を設けるタイプのアプリケーション(架空送電)の場合、障害インジケータの表示を視認するのは比較的容易です。そのため、作業員は電線における問題の発生個所により簡単にたどり着くことができます。架空送電の場合、ヒューズのないタップ、再閉路器を備える長いフィーダ、区分開閉器、異種接続ボックス、フィーダなどが使われている可能性があります。既存の障害インジケータについては、以下に示す2つの大きな課題があります。

  1. 大量に導入しようとすると、多大な費用がかかる可能性がある
  2. 継続的に正常な機能が得られるようにするためには、定期的にメンテナンスを行う必要がある

電力会社は、限られた予算とリソースを効果的に活用しなければなりません。製品の導入コストと定期メンテナンスが理由となり、広大な電力インフラを対象として障害インジケータを配備するのは難しいケースがあり得るということです。

より高度なパワー・マネージメント・システムによる障害インジケータの改善

上述した課題に対処するために、アナログ・デバイセズは障害インジケータ向けのものとして、新たな電力線センサーのアーキテクチャを開発しました。図3に示したように、そのアーキテクチャでは高い効率で電力のハーベスティングを行います。それにより、メンテナンスの必要性を低減することが可能になります。

Figure 3
図3. 電力ハーベスティングを採用した障害インジケータのアーキテクチャ

図3を見ると、このシステムの基本的な機能は単純なものだと感じられるかもしれません。しかし、障害インジケータに電力ハーベスティングを適用するためには複雑な設計が必要になります。特に、電源のアーキテクチャは複雑になります。まず、3つの独立した電源(電力線センサー、充電式バッテリ、スーパー・キャパシタ)が存在することが複雑さの原因になります。また、変動する電源の供給条件と変動する負荷条件のバランスをとる方法を備えた制御アルゴリズムが必要です。しかも、システムを常時稼働させられることを保証しなければなりません。鍵になるのは、複数の電源パスの設計に関する革新的な手法です。それにより、システムの高速な起動、消費電力の削減、円滑な運用が可能になります。より優れたパワー・マネージメント手法を採用すれば、障害インジケータのメンテナンスの頻度を抑えられます。なぜなら、作業員がバッテリを交換する回数やシステムをチェックする回数が少なく抑えられるからです。

収集機能とより堅牢性の高いワイヤレス通信機能を活用することで性能を向上させることができます。高速、高精度のコンバータを使用し、電力の周波数よりもはるかに高いデータ・レートで電力線の情報を収集すれば、より詳細なデータを取得することが可能になります。また、短波無線やGSM(Global System for Mobile Communications)によるワイヤレス通信機能を組み込めば、デバイスからより遠い位置でも情報を取得できるようになります。障害インジケータは、データを無線で送信することによってステータス情報を通知するように設計することができます(図4)。そうすれば、作業員が障害の発生個所を探すために費やす時間を削減し、トラブルシューティングに時間をかけられるようになります。

Figure 4
図4. 地中に配備される障害インジケータ。地上の車にステータス情報を無線で通知します。

ビッグ・データの分析で、エネルギー・インテリジェンスを高める

高度な電力線センサー技術を適用した障害インジケータは、電力会社の運用方法を変革する機会を提供します。接続性が高く、メンテナンス費用の少ないノードからより詳細なデータを収集することで、電力会社は、より迅速に、より高い信頼性で停電の原因を特定して対応を図ることが可能になります。ただ、この手法についてはより発展した形を想定することもできます。例えば、すべての障害インジケータから履歴データや警告の情報を取得し、機械学習のアルゴリズムと分析を適用するといった具合です。そうすれば、作業員の活動の効率化、運用コストの削減、業績の向上を図ることが可能になります。

まとめ

電力会社は、障害の発生個所を特定することが困難なために、顧客が長時間の停電に見舞われるという問題に直面しています。この課題を克服する方法の1つは、障害インジケータを広範に配備することです。しかし、従来の障害インジケータには、大量に導入した場合に多大なコストがかかると共に、高い頻度でメンテナンスを行わなければならないという欠点がありました。

本稿では、これらの課題を克服することが可能な障害インジケータ向けの新たな電力線センサー技術を紹介しました。その特徴は、高い効率で電力ハーベスティングを実施できるようにすることで、メンテナンスの頻度を抑えられる点にあります。そうした次世代の障害インジケータを導入することで、電力会社は、停電時間の短縮、運用コストの削減、顧客満足度の向上というメリットを享受することができます。