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閉じるサステナビリティへの道を切り拓くのは、半導体とソフトウェア
サステナビリティに関する課題
昨今、サステナビリティ(持続可能性)という言葉を非常に頻繁に耳にするようになりました。ただ、実際のところ、この言葉はどのような意味で使われているのでしょうか。オックスフォード英語辞典を見ると、サステナビリティという言葉の最近の意味が示されています。それによれば、サステナビリティとは「環境的に持続可能である性質。プロセスまたは企業が、天然資源の長期的な減少を避けつつ、どれだけ維持/継続できるのか、その程度を表す」ものだと説明されています。この定義を見ればわかるように、サステナビリティというのは非常に複雑な概念です。ここでは、3つの側面からサステナビリティについて考えてみることにしましょう。
1つ目は「影響」という側面です。サステナビリティは、私たちの子供や孫の世代、あるいは私たちが彼らに残す世界に関する概念です1。なぜ環境が重要なのかと言えば、私たちがそれを共有しているからです。ただ、私たちが環境について語る際には、その観点が抜け落ちてしまうことがよくあります。影響の度合いという意味で、環境よりも重要なものを挙げるのは簡単ではないのにもかかわらずです。私たちが技術を開発する理由は、ここにあるのではないでしょうか。つまり、世界をより良い場所にするために技術を開発しているということです。この説明が綺麗ごとに聞こえるとしたら、残る2つの側面について考えが及んでいないのかもしれません。
2つ目の側面は「範囲」です。間違いなく、サステナビリティが関連する範囲は地球全体に及びます。局所的に環境を改善するのは不可能なことではないでしょう。とはいえ、世界を本当により良い場所にするためには、グローバルなレベルの考察と行動が必要になります。新たな技術は、国境や政治を超える形で開発できるかもしれません。しかし、その技術を活用する事業は、社会で共有されている価値構造の枠組みの中で推進されなければなりません。技術者は、自分たちが開発した技術がグローバルに利用されることを望みます。そのためには、技術だけではなく、ビジネスについても理解しておかなければなりません。
以上のことから、3つ目の側面が導き出されます。それは「バランス」です。サステナビリティを実現するためには、環境、社会的な公正、経済の間のバランスをとらなければなりません1。私たちの技術は、人々が利用することによって初めて価値のあるものになります。また、経済的な観点から見ると、消費者の購買動向には変化が現れています。現在では、「環境に優しい」とされる製品は、それと同じ機能を備える「環境に優しくない」製品と比べて大きな価値を持つと言えます。食料品の業界には、その典型的な例が存在します。例えば、Whole Foods Marketなどの企業は、環境に優しく、なおかつ利益を生み出せる事業を確立しています。これは、同業界でしか実現できないことではありません。サステナビリティの実現を目指せば、私たちの技術によって生み出せる価値はより大きくなります。自動車、半導体、ソフトウェアの業界も、食料品の業界に続くことができるのです。
かつてないほど高まった、半導体/ソフトウェアの重要性
半導体は、私たちが生活する上で極めて重要なものです。このことは、最近になって、より広く認識されるようになったようです。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは、世界中で多くの業界に打撃を与えました。再建に向けて世界中の企業が立ち上がるなか、民生、自動車をはじめとする多くの分野では、消費者の需要が急速に高まっています。供給量の不足やコストの上昇が原因となって、市場は不安定な状態に陥っています。ただ、逆の見方をすれば、半導体業界は大幅な回復を示しているとも言えます。実際、2021年の半導体売上高は、前年比で26%増の6000億米ドル(約79兆円)に達しました2。世界レベルで見て、1人あたり年間100米ドル近くの売り上げを記録しているということです。

この目覚ましい成長は、実は後退の前兆なのでしょうか。それについてはまだ何とも言えません。しかし、半導体の業界は、これまでに何度も景気のサイクルを経験し、高い回復力を備えていることを実証してきました。実際、過去30年の間に半導体業界は8.5%を超えるCAGR(年平均成長率)を達成しています。この回復力の背景には、電動化、エクスペリエンス、オートメーション、通信といった主要なメガトレンドが存在します。それぞれにおいて、半導体の利用範囲は広範囲に拡大し続けてきたのです。
半導体の市場は上記のような規模を誇ります。そして、半導体によって生み出される価値はそれをはるかに上回り、数十兆米ドルの規模に達すると推定されています3。なぜなら、各種のICはそれぞれ非常に大きな役割を果たしているからです。例えば、ICは私たちの身の回りに存在する物理量の測定に使用されます。また、信号の処理や、クラウドへの電力供給にもICが使われます。更に、コンピュータ、携帯端末、自動車、工場などで使われるソフトウェアは、すべてIC上で実行されます。私たちの暮らしは、技術に大きく依存しています。そして、ICがなければ、それらの技術の大半は存在していないということになります。IC上で実行されるソフトウェアは大きな価値をもたらします。また、先述したとおり、環境に対する取り組みによって新たな付加価値が生み出されています。このように考えれば、私たちが提供する技術によって、従来と比べてより大きなインパクトがもたらされることは明らかです。
アナログ・デバイセズの技術がもたらすインパクト
サステナビリティに対して好影響を与える取り組みを推進する上では、その影響の大きさを測定する方法を理解する必要があります。例えば、アナログ・デバイセズが自社の技術を利用して何らかの取り組みを行えば、サステナビリティに対して良い影響がもたらされます。ただ、それだけでなく、お客様が当社の技術を利用することにより、環境に対してどのような好影響が及ぶのかということも考慮する必要があります。例えば、温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出量は影響の大きさを測定するための1つの手段になり得ます。実際、世界におけるGHGの総排出量を分析すると、輸送、ビル/製造、電力の分野が占める割合が74%に達するといったことがわかります4。

アナログ・デバイセズは、当社の技術を利用するお客様がGHGの排出量をどれだけ削減しているのかを算出するためのモデルを開発しました。上のグラフはその結果を示したものです。ご覧のように、当社の技術を利用するお客様は、GHGの排出量を、2025年には2億5000万t、2030年には6億t弱削減できるようになる見込みです。GHGの排出量を「ネットゼロ」の状態にするには、世界で年間510億tの削減が必要になると推定されています4。このことから、6億tという数字がどれほどの規模に相当するのかを理解することができるでしょう。現時点で、このモデルは、環境に対して好影響を与え得る当社の技術をすべて網羅しているわけではありません。もちろん、今後、それらの技術による効果をモデルに反映させていくことは可能です。
半導体と電動化の成長
ここで、電動化について少し説明を加えたいと思います。電動化というのは、あらゆる種類の電動自動車(EV)に適用できる概念です。ただ、実際にはEVだけでなく、電源プラグを備えるあらゆるものを対象とすることが可能な概念だと言えます。また、あらゆる電源プラグの接続先となる送電網も電動化の概念の対象になり得ます。経済的な観点からは、自動車の業界は送電網に非常に大きな影響を与える要因になりつつあると言えます。実際、自動車の業界は、その歴史上、非常に重大な転換期に差し掛かっています。現在、すべての主要な自動車メーカーは、ガソリン車ではなくEVに対して重点的に投資を振り分けることを明らかにしています。このことは、半導体とソフトウェアを提供する企業にとって喜ばしいことだと言えます。


今日の内燃エンジン車は、平均で450米ドル(約6万円)相当の半導体製品を搭載しています。注目すべきは、同等レベルのEVはその約3倍の半導体製品を搭載することになるという事実です5。現在、路上を走行しているEVの数は1600万台ほどです6。その数は、今後5年間で1億2500万台まで増加すると予想されています。これは、今後5~10年の間に車載半導体製品のうち約半分はEVで使用されるようになるということを意味します。
自動車が搭載するハードウェアの数は大きく増加しています。それだけでなく、自動車に適用されるソフトウェアの量も大幅に増えています。2030年までに、ソフトウェアは自動車業界に対する最大の収益源となり、その売上高は自動車そのものの売上高を超えると推定されています7。この構造的転換は、アナログ・デバイセズのような企業に対して、半導体の付加価値を大きく高める機会をもたらします。実際、当社はそのような価値を拡大するための取り組みを進めています。例えば、当社が最近発表したワイヤレス・バッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システム(BMS)技術は、一から構築した完全なプラットフォームをベースとしています。そのプラットフォームはハードウェアだけでなく、完全に新規のワイヤレス・プロトコル・スタックを搭載しています8。このBMSは、OTA(Over The Air)によるアップデートをサポートしつつ、業界で最高レベルのセキュリティを実現しています。

バッテリは、技術的な観点からはEVを実現するための必須のシステムだと言えます。EV用のバッテリは、充電を実施するために送電網に接続する必要があります。その一方で、EV用のバッテリは送電網に電力を送り返すための蓄電要素としての役割を果たすことも可能です。消費者、充電を担う企業、自動車メーカーは、そうした電力の売買を行うことになります。この領域のビジネス・モデルは進化の途上にあります。また、このエコシステムは今後も継続的に変化していくことが予想されます。
アナログ・デバイセズは、その充電ケーブルの各端で使われる技術の両方をサポートしています。自動車側について言えば、バッテリ/車体の駆動システム/送電網の間のやり取りを管理するBMS向けの半導体とソフトウェアを提供しています。当社は、この分野の市場を牽引する役割を担っています。
EVの普及は、送電網の管理方法に関する要件に大きな影響を与えます。ここでは、まず電気的な負荷について考えてみましょう。1億2500万台のEVが存在する場合、最大負荷は約10TWhに達します。一方、世界全体の発電量は2万5000TWhから2万8000TWhに増加すると見込まれています9。それと比べれば、10TWhというのは大きな数字ではありません。しかし、この負荷はEVがインフラ内を移動することに伴って、時間的にも空間的にも他の機器とは異なるダイナミックな性質を示します。つまり、そのトータルの負荷の値に対応できるというだけでは十分ではありません。リアルタイムに管理を行い、送電網に接続された他の機器の稼働を中断させることなく、シームレスに電力が供給されるようにする必要があります。
一方、充電ケーブルの送電網側については、高精度の測定、制御、リアルタイムの信号処理に必要な技術を提供しています。実際、アナログ・デバイセズの技術は、世界で最も高度な2次変電所に組み込まれています。送電網のエッジに対し、信頼性の高い配電と送電網の管理を維持するためのインテリジェントな機能を提供しています10。送電網の分散化が更に進み、新たな新力源と新たな負荷が追加されれば、それに伴って更にノイズが増加するはずです。そうした状況下では、上記のような種類の機器が新たな基準になると当社は考えています。
ここで、クリーン・エネルギーの話題にも触れておきましょう。世界の電力需要の一部は、今後も化石燃料によってまかなわれるはずです。しかし、今後の需要増の大部分を支えるのはクリーン・エネルギーです。この動きは世界レベルで加速しています。その背景には、気候に関する条約だけでなく、経済的な側面も存在します。太陽光や風力は石油よりも安価です。また、EVの利用者は、ガソリン・スタンドで料金を支払う代わりに、充電用の装置をプラグでつなぎ走行距離に応じた料金を支払うことになります。つまり、利便性が高まることに加え、コストを節減できるようになるということです。
但し、クリーン・エネルギーは断続的な性質を持つ資源です。そのため、蓄電システムを構築して適切な管理を行うことで、送電網に対して円滑に電力を供給できるようにする必要があります。蓄電市場の規模は、EVの市場と比べればはるかに小さいものだと言えます。とはいえ、蓄電システムの市場は、EVの市場と比較しても急速に成長しています。また、その種の用途に適切に対応できるように設計された高精度なBMSを必要とします。この課題は、アナログ・デバイセズが携わる高精度のプロセッシング技術の領域に対して多大な機会をもたらします。
The Electric Grid in 10 Years

- EV Chargers
- Ubiquitous AC & DC charging will stress grid
- Emerging vehicle to grid applications
- New energy markets will enable demand response
- Grid Automation
- Electrification means increase in grid loading
- Technologies needed to monitor and optimize power flows
- Emerging demand response applications will reduce stress on grid
- Rapid and accurate fault location needed
- Smart Meters
- More data being generated to monitor energy flow
- Leading to more processing and insights at the edge
- Enabling better fault identification and location
- Enabling better utilization of the grid
- Distributed Renewables
- Power quality issues as more renewables are deployed
- Less inertia leading to grid frequency instability
- Leading to advanced smart inverters needs
未来に向けた動きを加速する
将来に目を向けると、半導体が創出する二酸化炭素の削減効果は、ある影響を及ぼすようになるのではないかと当社は考えています。それは、上流のサプライ・チェーンに対し、より環境に優しくならなければならないという圧力を与えることになるというものです。半導体企業にとって、材料や部品に関する面で真のゼロ・カーボンを達成するのは非常に難しいことです。ただ、その目標を最初に達成した企業は大きなメリットを享受することになります。今日の消費者は、環境に優しい製品に対してであれば、より多くの金銭を支払ってもよいと考える傾向があります。半導体についても、同じ傾向が見られるようになると予想されます。したがって、ゼロ・カーボンは積極的に目指すべき目標だと言えます。果たして、ゼロ・カーボンの工場はいつ誕生するのでしょうか。また、ゼロ・カーボンのパッケージはいつ完成するのでしょう。
この領域では、新たなイニシアチブも生まれています。例えば、アナログ・デバイセズは、BMSの分野で業界を牽引する立場にあります。それを基盤として、サステナブルなバッテリを実現するための大規模なイニシアチブを新たに立ち上げました。そこでは、パートナーと協力し、バッテリのライフサイクルに関する洞察を創出すべく取り組みを進めています。そうした洞察を、バッテリの異常の検出や状態の監視、更には自動車での使用を終えたセカンド・ライフのバッテリを利用するアプリケーションの価値の評価に役立てようと考えています。業界にとって、また当社にとって、胸躍る新たな動きが進行しているのです。その成果は、サステナビリティの実現に向けた道のりにおいて重要な意味を持つことになるでしょう。

アナログ・デバイセズが地球環境に与えるインパクトは非常に大きくなってきました。かつて、当社がもたらす影響がここまで重要だったことはなかったかもしれません。そうしたインパクトこそが、業界の先陣を切って革新を続ける当社の原動力になっています。世界をよりサステナブルな場所にするための当社の取り組みは、まだ始まったばかりです。半導体による電動化は、ネットゼロの未来に向けた動きを加速するための主要な要素だと言えます。
参考資料
1 「What is Sustainability?(サステナビリティとは何か?)」UCLA
2 「Gartner Says Worldwide Semiconductor Revenue Grew 26% in 2021(世界の半導体売上高は2021年に26%増を記録、ガートナーが発表)」Gartner, Inc.、2022年4月
3 George Calhoun「Which Companies Add the Most Value in the Semiconductor Industry? (Part 1)(半導体業界で最も時価総額を増やしたのはどの企業か? 【Part 1】)」Forbes、2021年9月
4 Bill Gates「How to Avoid a Climate Disaster(気候大災害は防げる)」Alfred A. Knopf、 2021年2月
5 Peter Brown「Semiconductor Spending in Cars to Rise by 55.6% by 2026(自動車業界の半導体支出は2026年までに55.6%増加)」Electronics360、2021年9月
6 Fred Lambert「Global Market Share of Electric Cars More Than Doubled in 2021 as the EV Revolution Gains Steam(EV革命の加速に伴い、2021年の世界市場における電動自動車のシェアは2倍以上に)」Electrek、2022年2月
7「How Supply-Chain Turmoil Is Remaking the Car Industry(サプライ・チェーンの混乱により、自動車産業はどう変わるのか)」The Economist、2022年6月12日
8「Analog Devices Introduces Automotive Industry’s First Wireless Battery Management System for Electric Vehicles(アナログ・デバイセズ、自動車業界向けに業界初の電気自動車用ワイヤレス・バッテリ管理システムを発表)」Business Wire、2020年9月
9 「Key World Energy Statistics 2021(主要なエネルギーの世界統計 2021年版)」 International Energy Agency、2021年9月
10 「Analog Devices and Gridspertise Join Forces to Advance Smart Grid Resiliency and Electrification Worldwide(アナログ・デバイセズとGridspertise、スマートグリッドの強靭性と世界的な配電の高度化推進を目指して提携)」Analog Devices, Inc.、2022年3月