TNJ-098: 水晶振動子の微小な並列容量を容量デジタル・コンバータで測定してみる(中編)

TNJ-098: 水晶振動子の微小な並列容量を容量デジタル・コンバータで測定してみる(中編)

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石井 聡

はじめに

前回書き出しで、「ちょっとした家庭菜園にハマっています」というお話しをいたしました。妻はもともと花壇(花卉; かき)園芸をやっており、それに乗じてではありましたが、私は「食えるもの」という下卑な考えから始めた家庭菜園です。

その妻がある日、ハーブ(ミント)の苗を買ってきました。ひとつは「スペアミント」、もうひとつは「グレープフルーツミント」です。

購入したときはそれぞれ小さい苗でしたが、現在は図 1、図 2のようにかなり大きい株になりました(スペアミントは種からの育成もチャレンジしています)。これらの葉を使ってハーブ・ティーを楽しんでいますが、いくつか発見がありましたので、今回の出だしはこのお話をいたしましょう!

 

カフェで飲むハーブ・ティーより濃厚かつ香りが深い

これまでもカフェに入ると、時たまハーブ・ティーを頼んでいました。しかしどうも薄いというか、「こんなものか」という満足できない味と香りでした。ずっと「ハーブ・ティーとはこの程度のものか(『絞り出しが少ない』という意味で)」と思っていました。

しかし株から葉をちぎってすぐにティー・ポットに入れて熱いお湯を注いだ後、数分待ってから飲むハーブ・ティーの味は…、濃厚かつ、なんと香りが深いこと!これにはびっくりです。

カフェで飲むハーブ・ティーは、生産農場で収穫してから複雑な流通経路を経て店頭に到着し、そこでも保管されることになるわけですから、それは鮮度が劣化してしまうだろうこと、考えれば気がつきます。いかに「新鮮」というものが大切かというところでしょうか。

 

ふたつのハーブで味と香りが異なる

つづいて感じたことが、スペアミントとグレープフルーツミントで味と香りが異なることです。相対的にはスペアミントのほうが香りが強くかつ良い香りなのですが、「尖った」感じがします。一方でグレープフルーツミントのほうの香りは若干弱い感じがして、また香り自体もなんとなく「草っぽい香り」的な感じがします。葉の形状も違いますから、当然、味や香りが異なるだろうことは想定できますよね。

もし一種類単独で飲むなら、私としてはスペアミントをお勧めしたいと思います。

ここで「スペアミントとグレープフルーツミントの葉をブレンドしてティー・ポットに入れてみる」と、それぞれのデメリットというか、スペアミントの尖った香りとグレープフルーツミントの「草っぽい香り」が相殺され、なんと!まろやかな味と香りに仕上がることが分かりました!

以降はこの 3 種類の飲み方(個々とブレンド)でバリエーションを楽しみながらこれらの家庭ハーブと生活しています。

ネットで調べるとミントは生命力が強く、雑草も駆逐するほどの強靭さがあるそうです。種はホントに細かいので、種から発芽させての育成はちょっと手間がかかりますが、苗をホームセンターなどで購入して大きめの鉢に植え替えして育てていくと、ベランダなどでの育成も可能でしょう。ぜひご自身で育成してフレッシュなミントのハーブ・ティーをお楽しみいただければと思います。

そうそう、ベランダ育成などの場合の肥料は、[1]や[2]の液体肥料がお勧めです(私も使っています)。500~2000 倍に水で薄めて使用するものです。なお[1]は水耕栽培には適しませんので注意してください。他の植物も含めて水耕栽培をする場合は、[2]か[3]がお勧めです。[3]は粉末で、水に溶かして使います。

図 1. 大きく成長したスペアミントの株
図 1. 大きく成長したスペアミントの株
図 2. これまた大きく成長したグレープフルーツミントの株
図 2. これまた大きく成長したグレープフルーツミントの株

 

前回と今回は

さて、今回も、ここまでのマエフリと本題は全くもって関係ありません(笑)。前回(前編)も家庭菜園ネタということで、今回もそれに近い話題としてみました…。では今回も「閑話休題」ということで、本題に移っていってみましょう。

前回と今回(そして残念ながら「次回」も…)の WEB ラボは「水晶振動子の微小な並列容量を測定してみたい」と思い立ったことから、そこで使用する IC の原理の紹介、実験などをしてみたお話しです。まず前回は容量デジタル・コンバータ(Capacitance to Digital Converter; CDC)の動作を理解する前段として、CDC の原理的動作と同じであるΣΔADC(ΣΔAD コンバータ。ΣΔ = シグマ・デルタ。以降は AD コンバータを ADCとして表記します)の動作を説明しました。なおこの方式を「ΔΣ方式」と呼ぶ場合もありますが、アナログ・デバイセズでは「ΣΔ方式」と呼んでいます。実際はどちらも同じものです。

前回はΣΔADC の基本動作、とくに「ノイズ・シェーピング」について解説しました。z 変換を用いてそのうごきを解析していくと、数式と実態とが非常に明確に関係づけられることが分かりました。

今回以降はこのノイズ・シェーピングの動作を実際に観測し、数式との関係を考え、CDC の動作原理について言及し、本題のCDC での水晶振動子の並列容量の測定を行っていきたいと思います。

 

ノイズ・シェーピング・スペクトル実験で使ってみるボードとΣΔADC

図 3 は P 板.com サイトでのサービス、「パネル de ボード」[4]の仕様で製作した、アナログ・デバイセズの絶縁型ΣΔ変調器AD7401 によるノイズ・シェーピング特性観測基板 IEECCV001A です。ここでアナログ・デバイセズの AD7401 についてご紹介しておきましょう。

AD7401

https://www.analog.com/jp/AD7401

【概要】

AD7401は、2次のΣΔ変調器で、アナログ入力信号を高速の 1 ビット・データストリームに変換します。このデータストリームは、内蔵されたアナログ・デバイセズのiCoupler®技術を用いてデジタル絶縁されます。AD7401 は、5V 電源で動作し、最大±200mV(±320mV フルスケール)の差動入力信号に対応します。アナログ入力信号は、外付けのサンプル/ホールド(S/H)回路の必要性を排除し、アナログ変調器によって連続的にサンプリングされます。入力信号の情報は、最大 20MHz のデータレートを持つ 1ビット信号の密度として、出力のストリームに含まれます。オリジナルの情報は、適切なデジタル・フィルタによって、再構築することができます。シリアル I/O は、5V または3V 電源(VDD2)のどちらでも使えます。

IEEC-CV001Aのブロック図を図4に示します。図中にはAD7401自体の内部ブロックも示しています。AD7401はΣΔ変調器側とAD 変換出力側(これまで出力 Y と示してきたもの)は、「デジタル・アイソレータ」というもので直流的に分離されています。このデジタル・アイソレータについては本技術ノートの議論の対象外なので、興味のある方は [5]などを参照してください。なおこの基板では同じグラウンド電位となるように、アイソレーションされたグラウンド端子間同士を相互に接続しています。

IEEC-CV001A ではノイズ・シェーピング動作を目視するため、ΣΔ変調器出力(MDAT 出力。「出力 Y」と説明してきたもの)を、デジタル・フィルタによる LPF 処理を行わず、コンデンサと抵抗による RC アナログ LPF でフィルタリングをするという方法をとっています。これによりΣΔ変調器によるノイズ・シェーピングと、それをフィルタリングして SNR(Signal to Noise Ratio; SN 比)を向上させる振る舞いを目視で確認できます。

 

実際に波形を見てみる(波形はランダムに見える)

図 5 は AD7401 の MDAT 出力(1 ビット・データ出力)をそのままオシロスコープで見たようすです。基板上で入力電圧の 1Vが 1/10 に分圧されていますので、AD7401 の入力端子 VIN+, VIN-の端子間電圧は+100mV になります。出力波形は同図のように、ΣΔ変調によりランダム的な H/L になっており、何ら情報を持っていないように見えます。これは前回示したように、ΣΔ変調器での 1 回のサンプリングで得られた 1 ビット・データ(MDAT 出力)はほとんど意味を持たないからです。

図 3. パネル de ボード [4] の仕様で製作したノイズ・シェーピング特性観測基板 IEEC-CV001A
図 3. パネル de ボード [4] の仕様で製作したノイズ・シェーピング特性観測基板 IEEC-CV001A
図 4. IEEC-CV001A のブロック図(AD7401 自体の内部ブロックも示している)
図 4. IEEC-CV001A のブロック図(AD7401 自体の内部ブロックも示している)
図 5. AD7401 の MDAT 出力をそのまま見た波形。ランダム的なH/L になっている(サンプリング・クロック MCLK = 10MHz)
図 6. AD7401 の MDAT 出力をスペクトラム・アナライザで観測した。30kHz の入力信号のスペクトルが観測でき、量子化ノイズがシェーピングされている
図 6. AD7401 の MDAT 出力をスペクトラム・アナライザで観測した。30kHz の入力信号のスペクトルが観測でき、量子化ノイズがシェーピングされている

 

実際にノイズ・シェーピングされたスペクトルを見てみる

つづいて ICの端子間電圧を 1mVrms(AD7401フル・スケールの-43dB)、30kHz の交流電圧にして、スペクトラム・アナライザで MDAT 出力を観測したようすを図 6 に示します。観測帯域は 1MHz です。さきのオシロスコープによる時間軸波形では、何ら情報を持っていないように見えましたが、スペクトラムを観測してみると、加えた交流電圧の成分が 30kHz のところに立っており、また量子化ノイズが高域周波数に押しやられ、整形つまりノイズ・シェーピングされていることが分かります。「なるほど、納得」ですね。

スペクトラム・アナライザの観測帯域を IEEC-CV001A で用いたサンプリング・クロック周波数 MCLK = 10MHzの倍の 20MHzまで広げてみると(図 7)、デジタル信号処理の教科書で見る、「5MHz を中心とした対称の折り返し」になっていません。5MHz を越えていくあたりからスペクトルのレベルが低下しています。デジタル信号処理理論やここまでの数式による理論検討と若干の差異があることに気がつきます。

この理由は、デジタル信号処理理論の視点では信号を「インパルス」(幅がなく、大きさが 1 のパルス)として取り扱う一方、AD7401 の出力は 1 サンプルあたり 0.1μsec の台形波である、という違いによるものです。この台形波形状を「ゼロ次ホールド」といい、[6]や[7]に説明があります。

 

アナログ LPF でノイズ・シェーピングされたスペクトルを取り去る(デジタル・フィルタでの処理も全く同じ)

つづいて基板上に用意してある 1 次の RC アナログ LPF をオンして、-3dBカットオフ周波数 100kHzの設定での MDAT出力スペクトルを観測してみます。結果を図 8 に示します。高域周波数に存在していたノイズ・シェーピングされた量子化ノイズがLPFのフィルタリングにより低減し(1次 LPFなので高域のノイズ低減度は限定的)、SNR が大きく向上しており、分解能を高められるようすが分かります。これがΣΔADC のうごきなのです。

図 7. スペクトラム・アナライザの観測帯域をサンプリング・クロック周波数 MCLK = 10MHz の倍の 20MHz まで広げてみた
図 7. スペクトラム・アナライザの観測帯域をサンプリング・クロック周波数 MCLK = 10MHz の倍の 20MHz まで広げてみた
図 8. ノイズ・シェーピングされた量子化ノイズを RC アナログLPF でフィルタリングすれば SNR が向上する(これがΣΔADCのうごき。1 次 LPF なので高域のノイズ低減度は限定的)
図 8. ノイズ・シェーピングされた量子化ノイズを RC アナログLPF でフィルタリングすれば SNR が向上する(これがΣΔADCのうごき。1 次 LPF なので高域のノイズ低減度は限定的)

実際のΣΔADC では、ΣΔ変調器からの 1 ビット・データのシリアル・ビット列を(デジタル数値として)ビット拡張しデジタル LPF で処理しますが、その基本動作は図 8 のアナログ LPFと全く変わりません。

 

いよいよ CDC に踏み込んでみる

この技術ノートの目的は、水晶振動子の等価電子回路パラメータのうち、端子間並列容量を測定しようというものでした。この並列容量は非常に微小な容量(1pF から数 pF のオーダ)であることから、簡易的な測定器では測定ができません。

微小な容量はそれだけでも測定はタイヘンです。ここではアナログ・デバイセズの容量測定 IC、AD7150という容量デジタル・コンバータ(Capacitance to Digital Converter, CDC)を用いてみたいと思います。以降では CDC という用語を用いて述べていきます。まず AD7150 をご紹介しておくと、

AD7150

https://www.analog.com/jp/ad7150

【概要】

AD7150 は容量近接センサ用の完全な信号処理ソリューションを実現しており、超低消費電力、高速応答時間などの特長を備えています。AD7151 は AD7150 より消費電力が低い 1 チャンネル・バージョンです。

AD7150 はアナログ・デバイセズの容量デジタル・コンバータ(CDC)技術を採用しています。この CDC 技術は、真のセンサとのインターフェースに重要な機能(高い入力感度および入力寄生グラウンド容量とリーク電流に対する高い耐性など)を結集しています。

内蔵のアダプティブ・スレッショールド・アルゴリズムにより、湿度や温度などの環境要因や誘電体の経時変化に起因するセンサの容量変動が補償されています。

 

ΣΔADC と CDC の構成を比較する

 

ΣΔADC と CDC の同じところ

前回、CDC の動作はΣΔADC の動作とほぼ同じ、と説明しました。ΣΔADC は電圧値をΣΔ変調により 1 ビット・データのシリアル・ビット列に変換するものですが、CDC は容量(実際は容量に蓄積される電荷)をΣΔ変調により 1 ビット・データのシリアル・ビット列に変換するものです。そしてそれぞれ、それをデジタル・フィルタで平滑することで複数ビット(ΣΔADC では 16 ビットから 24 ビット。AD7150 では有効ビット数12 ビット)の AD 変換値、つまり電圧値や容量値の測定デジタル値を得ることになります。

ここでは CDC の動作を理解するために、まずはΣΔADC とCDC が同じところのしくみを理解してみましょう。

図 9 はΣΔ変調器の基本回路です。この回路を「チャージ・バランシング回路」とも呼びます。CDC も同じになります。サンプル・ホールド動作はコンデンサ𝐶𝑆Hの充放電により行われます。この図はサンプル動作の状態を示しています。入力信号𝑉𝐼Nはサンプル・ホールド・コンデンサ𝐶𝑆Hに充電されます。またリファレンス電圧用コンデンサ𝐶𝑅EFにはリファレンス電圧𝑉𝑅EF(+)(もしくは𝑉𝑅EF(−))が充電されます。積分器出力にはこれまでの経過の積分結果𝐶 [V]が現れています。

つづいて図 10 はサンプル状態からホールド状態に変化した瞬間の状態のものです。各部のスイッチが赤のように切り替わり、サンプル状態が終了します。

図 11 はホールド状態に変化してから十分時間が経過したときの状態と電圧です。積分器は十分にゲインが大きいため、積分器の入力端子がグラウンド・レベルと同一になるように、各コンデンサの電荷が移動します。ホールド動作で定常状態に達したときには𝐶𝑅EFと𝐶𝑆Hの電圧がゼロになり、それらの電荷分が𝐶𝐼NTに充電されることになります。

これにより積分器出力𝑉𝐼NTOUTは同図 11 のように

数式 1

が得られるようになります。これが今回の積分結果 C [V]となり、次の積分動作(ホールド動作)では、ここにさらに次の𝑉𝑅EF(+) − 𝑉𝐼Nが積分されることになります。

ΣΔADCと CDCで同じところは、この回路全般での動作になります。以降に違うところを示しますが、その部分だけで、他の部分の動作はそれぞれ同じです。

 

ΣΔADC と CDC の違うところ

ΣΔADCと CDCで違うところは、入力のサンプル・ホールド・コンデンサ𝐶𝑆Hとそのスイッチ部分です。CDC ではΣΔADC の𝐶𝑆Hが被測定コンデンサ CDUT になります。このようすを図 12 に示します。ΣΔADCと CDCでは、この部分だけしか違いが無いのです。図 12 は CDC がサンプル状態になっているときのものです。ここでΣΔADC と CDC それぞれの測定方法としては

● ΣΔADCはサンプル・ホールド・コンデンサ𝐶𝑆Hの容量が既知で、入力電圧(測定電圧)𝑉𝐼N未知

● CDC は被測定コンデンサ𝐶𝐷UT(DUT = Device Under Test)の容量が未知で、𝑉𝐸XC(Excitation = 励起)の電圧が既知

という違いだけになります。

図 9. ΣΔADC のうごき ①。サンプル状態とそのときの電圧
図 9. ΣΔADC のうごき ①。サンプル状態とそのときの電圧
図 10. ΣΔADC のうごき ②。サンプル状態からホールド状態に変化した瞬間の状態と電圧
図 10. ΣΔADC のうごき ②。サンプル状態からホールド状態に変化した瞬間の状態と電圧
図 11. ΣΔADC のうごき ③。ホールド状態に変化してから十分時間が経過したときの状態と電圧(𝐶𝑅EF = 𝐶𝑆H = 𝐶𝐼NTと仮定している)
図 11. ΣΔADC のうごき ③。ホールド状態に変化してから十分時間が経過したときの状態と電圧(𝐶𝑅EF = 𝐶𝑆H = 𝐶𝐼NTと仮定している)

ΣΔADC はサンプル・ホールド・コンデンサが内蔵(容量が既知)になっている

ΣΔADCの説明では、「入力電圧値𝑉𝐼Nが積分器出力に現れる」と説明しました。しかしこの図 9 の回路はチャージ・バランシング回路ということで、「チャージされた電荷量が積分器出力に現れる」という表現のほうが正しくなります。これは図 9 において入力電圧𝑉𝐼Nでサンプル・ホールド・コンデンサ𝐶𝑆Hに電荷

数式 2

がチャージされ、図 10、図 11のホールド動作においてチャージされた𝑄が積分器のコンデンサ𝐶𝐼NTに転送されることになります。それが積分器出力のもともとの電圧𝐶 [V]に足し合わされる電圧𝑉𝐼NTとして

数式 3

となり、ここで𝐶𝑆Hと𝐶𝐼NTはそれぞれ既知、またここで𝐶𝑆H =𝐶𝐼NTと仮定すると、積分器出力で足し合わされる電圧𝑉𝐼NTと入力信号𝑉𝐼Nとの関係が

数式 4

となり、積分器出力

数式1-2

が得られます[これが式(1)です]。実際は一回のサンプル・ホールド動作で AD 変換ができるわけではなく、これまで説明してきたようにΣΔADC では𝑉𝐼NOUTが 2 値化されますので、ビット・ストリームとなる連続する複数ビットの平均値として AD変換結果が得られることになります。

 

CDC は被測定コンデンサが外付け(容量が未知)になっている

さきに示したように CDC では「被測定コンデンサ𝐶𝐷UTの容量が未知で、𝑉𝐸XC(Excitation = 励起)の電圧が既知」となります。図 12 を使って説明してみると、まず被測定コンデンサ𝐶𝐷UTに励起電圧𝑉𝐸X𝐸が加わることにより電荷

数式5

がチャージされます。つづいて図 13 に示すようにホールド動作においてチャージされた𝑄が積分器のコンデンサ𝐶𝐼NTに転送されることになります。それが積分器出力のもともとの電圧𝐶 [V]に足し合わされる電圧𝑉𝐼NTとして

数式 6

数式 7

となり、ここで𝑉𝐸XCと𝐶𝐼NTはそれぞれ既知なので、積分器出力と被測定コンデンサ𝐶𝐷UTとの関係を得ることができるわけです。

このようにホントにΣΔADCと CDCは構成が同じ(測定方法のみが異なる)ということが分かりますね。

図 12. CDC のブロック図とそのうごき ①。ΣΔADC と異なる部分を赤枠で表記した。赤枠内だけしか違いはない。赤字表記はサンプル状態のときの電圧
図 12. CDC のブロック図とそのうごき ①。ΣΔADC と異なる部分を赤枠で表記した。赤枠内だけしか違いはない。赤字表記はサンプル状態のときの電圧
図 13. CDC のブロック図とそのうごき ②。サンプル状態からホールド状態に変化した瞬間の状態と電圧
図 13. CDC のブロック図とそのうごき ②。サンプル状態からホールド状態に変化した瞬間の状態と電圧
図 14. CDC のブロック図とそのうごき ③。ホールド状態に変化してから十分時間が経過したときの状態と電圧
図 14. CDC のブロック図とそのうごき ③。ホールド状態に変化してから十分時間が経過したときの状態と電圧

 

さいごに

この 2 冊目のノートで容量デジタル・コンバータ・シリーズを終わりにしようと思っていましたが、あっという間にノートのページが埋まってしまいました…。

今回の前半では、前回の続きで容量デジタル・コンバータ(Capacitance to Digital Converter, CDC)と同じ動作原理であるΣΔADコンバータのノイズ・シェーピング動作の実際を見てきました。

つづいてΣΔAD コンバータと CDC の同じところと違うところを説明しました。ΣΔADコンバータと CDCの差異はΣΔADコンバータでのサンプル・ホールド・コンデンサが CDC では被測定コンデンサであるということです。最終的に電圧や容量を得るというゴールは異なりますが、その他の過程はほぼ同じといってよいでしょう。

この WEBラボ、探求していけばいくほど、「なるほどなぁ」と書いている本人も学びの連続です。

そして次回はいよいよこのシリーズの最終回。被測定対象の水晶振動子の容量と測定上の注意点について説明し、実際にAD7150の評価ボードを使用して水晶振動子の並列容量を測定してみたいと思います。