低消費電力の携帯型機器に最適な小型の昇降圧コンバータ

低消費電力の携帯型機器に最適な小型の昇降圧コンバータ

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Eddy Wells

はじめに

バッテリ駆動の携帯型アプリケーションの多くは、共通する1つの課題を抱えています。バッテリなどから得られる電圧は、システムの動作に必要な電圧よりも高くなることもあれば低くなることもあります。そのどちらの状態においても、必要な電圧を得られるようにしたいというものです。つまり、バッテリなどの後段に配置するDC/DCコンバータとしては、昇降圧動作に対応できるものが望ましいということです。従来、昇圧と降圧の両方に対応するためには、2個のインダクタを使用するSEPIC(Single Ended Primary Inductor Converter)やカスケード接続されたレギュレータなどが使われていました。しかし、それらのソリューションはサイズが大きく効率が低いため、ほとんどの携帯型機器では使用できません。チャージポンプを集積したICソリューションであれば、それらよりも実装面積を抑えられます。ただ、降圧動作と昇圧動作の切り替えは可能ではあるものの、チャージポンプによって良好な効率が得られるのは、限られた動作電圧においてのみです。それ以外の電圧では、効率は50%以下にまで低下してしまいます。コンパクトかつシンプルな別の方法として、バッテリ容量の一部は無駄になるものの、降圧動作のみで対応するという設計も存在します。しかし、その方法では、ある種のリチウム・イオン電池で3.3Vを出力する場合や、2個のアルカリ電池で3.0V/2.5Vを出力する場合には、バッテリ容量のかなりの部分が無駄になってしまうことになります。そのようなケースを考えると、その設計の妥当性については疑問を感じざるを得ません。

LTC3531」は、上述した課題を解決する昇降圧コンバータICです。必要なインダクタの数は1個であり、200mAの電流を供給可能です。高い効率を維持しつつ、1.8V~5.5Vの広い入力電圧に対応して出力電圧をレギュレートすることができます。ソリューションのサイズが非常に小さいことが求められる低消費電力のアプリケーションに最適な製品です。出力電圧については、2つのバージョンが用意されています。1つは、3.0Vまたは3.3Vの固定出力のバージョンです。もう1つのバージョンでは、2.0V~5.0Vの範囲で出力値を設定することができます。固定出力のバージョンは、2種類のパッケージで提供されています。1つは6ピンのThinSOTパッケージ、もう1つは3mm×3mmの熱強化型DFNパッケージです。ThinSOTパッケージの製品と、2個の小さなセラミック・コンデンサ、1個の超小型インダクタを組み合わせれば、極めてサイズの小さいソリューションを実現できます。図1に示したのは、そのデモ用ボードの外観です。なお、可変出力のバージョンは、3mm×3mmの熱強化型DFNパッケージで提供されます。.

図1. 3.3V出力のコンパクトな昇降圧コンバータ

図1. 3.3V出力のコンパクトな昇降圧コンバータ

ノイズの大きいUSB入力からクリーンな5Vを生成

USBやACアダプタからケーブルを介して供給される電源を基に、クリーンな5Vの出力を生成するのは容易ではないケースがあります。ソース・インピーダンスと負荷トランジェントの組み合わせによっては、大きなノイズや電圧ドループが生じることがあるからです。実際、USBケーブルで供給される電圧は、5.25V~4.35Vの間で変動する可能性があります。それに対し、入力用のデカップリング・コンデンサとして許容できる値は最大で10µFとなっています。ここで、図2をご覧ください。図中のVINは、LTC3531の入力コンデンサが4.7µFで、負荷が100mA変化した場合の電圧波形を表しています。LTC3531の出力には、22µFのコンデンサを付加しています。図2を見ると、この状態で、リップルのピークtoピーク値が100mV未満の5Vの出力VOUTが生成されていることがわかります。図2において、VINとVOUTは500mV/divで表示されています。ご覧のように、VOUTとしては、ノイズと電圧ドループが大幅に改善されてクリーンなDC値が得られています。なお、図2には、昇圧モード(VIN < VOUT)と昇降圧モード(VIN≒VOUT)におけるインダクタの電流波形も示してあります。

図2. LTC3531を使用して構成したレギュレータの動作波形。USBケーブルを介して入力されたノイズの大きい電源を基に、クリーンな5Vの出力が生成されていることがわかります。

図2. LTC3531を使用して構成したレギュレータの動作波形。USBケーブルを介して入力されたノイズの大きい電源を基に、クリーンな5Vの出力が生成されていることがわかります。

図3(左)に示したのは、LTC3531を使用してUSB入力から5Vの出力を生成するアプリケーション回路です。同(右)には、負荷電流に対する効率と電力損失のグラフを示しています。LTC3531は、自己消費電流がわずか20µAのBurst Mode®で動作し、数ディケードにわたる負荷電流に対して高い効率を実現しています。入力電圧が5Vの場合、4つのスイッチのオン抵抗RDS(ON)は約0.5Ωであり、負荷電流が多い場合には90%を超える効率が得られます。

図3. LTC3531を使用して構成したレギュレータの回路と性能。USB入力から5Vの出力を生成する場合の例です。

図3. LTC3531を使用して構成したレギュレータの回路と性能。USB入力から5Vの出力を生成する場合の例です。

リチウム・イオン電池の容量を最大限に活かして3.3Vを生成

リチウム・イオン電池を入力源として3.3Vの出力を得たいケースを考えます。LTC3531を使用すれば、通常の降圧コンバータと比べてより低い入力電圧にも対応できます。図4は、それぞれコークと黒鉛を正極材料として使用するリチウム・イオン電池の一般的な容量曲線を示したものです。カットオフ電圧は正極材料がコークのものの方が低く、2.5Vとなっています。一方、正極材料が黒鉛のものは放電曲線が緩やかでカットオフ電圧は3.0Vです。なお、固体リチウム・ポリマー電池の放電曲線も、黒鉛ベースのリチウム・イオン電池に似た形状になります。

図4. 1Cのリチウム・イオン電池/リチウム・ポリマー電池の一般的な容量曲線

図4. 1Cのリチウム・イオン電池/リチウム・ポリマー電池の一般的な容量曲線

リチウム・イオン電池では、その等価直列抵抗(ESR)によって、負荷電流が多い場合にはより大きな電圧降下が生じます。しかも、通常、バッテリには保護用回路が適用されるので、直列抵抗が更に追加されることになります。バッテリが放電する際のシステムの効率は、そうした抵抗成分が原因となってより低下することになります。降圧コンバータだけを使用する設計で3.3Vの出力を保証するためには、カットオフ電圧は3.5Vないしは3.6Vでなければならない可能性があります。これは、正極材料がコークのリチウム・イオン電池においては約45%の容量が無駄になることに相当します。正極材料が黒鉛のリチウム・イオン電池の場合でも、約20%の容量が無駄になることになります。どちらの場合も、バッテリの容量を活かすことができず、システムの動作時間が大きく減少するということです。黒鉛ベースのリチウム・イオン電池やリチウム・ポリマー電池は、放電曲線の傾きが緩やかであることから広く利用されています。ただ、現在は、コークをベースとするリチウム・イオン電池に似た放電曲線を示し、体積あたりの容量がより大きくなることが期待される新たなケミストリが登場しつつあります。

LTC3531は入力電圧範囲が広いため、あらゆる種類のリチウム・イオン電池や、2個/3個のアルカリ電池、あるいはUSBなどの5Vの電源から、3.3Vの出力を生成することができます。同ICでは、VINとVOUTの電位差に基づいて、降圧モード、4スイッチ(昇降圧)モード、昇圧モードの切り替えが自動的に行われます。図5(左)に示したのは、3.3Vを生成する場合のアプリケーション回路の例です。同(右)には、負荷電流が100mAの場合の入力電圧と効率の関係を示しました。入力電圧と最大負荷電流の関係は、図6のようになります(VOUTは3.3V)。入力電圧の低下に伴って効率と最大負荷電流も低下します。

図5. LTC3531を使用してリチウム・イオン電池を基に3.3Vを生成する回路。負荷電流が100mAの場合の効率も示しています。

図5. LTC3531を使用してリチウム・イオン電池を基に3.3Vを生成する回路。負荷電流が100mAの場合の効率も示しています。

図6. 入力電圧と最大負荷電流の関係(VOUTは3.3V)

図6. 入力電圧と最大負荷電流の関係(VOUTは3.3V)

2個のアルカリ電池に対応して、フラッシュ・メモリに3.0Vを供給

携帯型機器の一例としては、安価なMP3プレーヤが挙げられます。データ容量が比較的少なく抑えられており、HDDではなくフラッシュ・メモリが使われるタイプのものなどです。そうした製品では、リチウム・イオン電池ではなく、使い捨てのアルカリ電池がよく使われます。LTC3531は、そのようなアプリケーションにも適しています。図7に示したのは、2個のアルカリ電池を基にフラッシュ・メモリに3Vを供給するための回路です。得られる効率は、新品のアルカリ電池を使用した場合で80%以上に達します。劣化したアルカリ電池を使用した場合でも、70%以上の効率が得られます。このアプリケーションでは、スイッチの駆動電圧が低いため、全体的な効率は(リチウム・イオン電池を使用する場合よりも)低くなることに注意してください。駆動電圧の低下に伴ってスイッチのRDS(ON)が増加するため、効率が低下するということです。先述したように、LTC3531には出力値を設定できるバージョンも用意されています。これを使用すれば、低電圧(2.5V)で動作するフラッシュ・メモリに給電することも可能です。その場合にも、同等の性能が得られます。

図7. 2個の単3/単4電池から3.0Vを生成するアプリケーション回路

図7. 2個の単3/単4電池から3.0Vを生成するアプリケーション回路

フラッシュ・メモリでは、HDDにおけるスピンアップのような状態は発生しません。そのため、通常、ピーク電流の要件はHDDと比べて緩くなります。但し、メモリにアクセスする際にはやはり負荷トランジェントが生じます。図8に、負荷が10mAから100mAに変化した場合のLTC3531の応答を示しました。Burst Modeの動作では、スルーのための補償ループを使わないので高速な過渡応答が得られます。ピークtoピークの電圧リップルに負荷の変化に伴う変動量を加えた値は、出力コンデンサが47µFの場合で50mV未満です。出力電圧リップルは、入力電圧に対してかなり一定に保たれます。出力容量の値を半分(22µF)にすると、電圧リップルに負荷による変動量を加えた値は約2倍(100mV)になります。

図8. 図7の回路の過渡応答

図8. 図7の回路の過渡応答

まとめ

LTC3531は、消費電力の少ない携帯型機器に最適なシンプルかつコンパクトな昇降圧ソリューションです。ソリューション全体で、実装面積は35mm2、高さは1mmに抑えられます。広範な入力電圧と負荷電流に対して高い効率を維持できるため、バッテリによる動作時間を延伸することができます。また、様々な設計に対応できるだけの高い柔軟性を備えています。具体的には、2個のアルカリ電池、USB電源、既存のリチウム・イオン電池や新たなケミストリを採用するリチウム・イオン電池などに対応可能です。

本稿で取り上げた製品の詳細については、https://www.analog.com/jp/products/ltc3531.htmlをご覧ください。