誘導性負荷のスイッチングに 安全な消磁機能を適用する

誘導性負荷のスイッチングに 安全な消磁機能を適用する

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要約

本稿では、ハイサイド・スイッチ製品「MAX14912」、「MAX14913」が備える独自の機能について説明します。これらは、Maxim Integrated(現在はアナログ・デバイセズの一部門)が提供しているオクタル・チャンネルの製品です。いずれも、特許取得済みの技術を採用した SafeDemag 機能を搭載しています。この機能を使用すれば、インダクタンスの値に制限がない状態で、安全に負荷(電源電圧は 24V)を駆動することができます。

はじめに

本稿で注目する誘導性負荷とは、ワイヤ・コイルを備えたデバイスのことです。例えば、ソレノイド、モータ、アクチュエータなどがこれに相当します。これらのデバイスは、通電されると何らかの機械的な作業を行います。つまり、電流の流れによって生じる磁界を利用することで、リレーやコンタクタ(電磁接触器)のスイッチング接点を動かしたり、ソレノイド・バルブを作動させたり、モータのシャフトを回転させたりします。多くの場合、産業用アプリケーションではハイサイドのスイッチを使用して誘導性負荷を制御します。ただ、その際には 1 つの課題に直面します。それは、スイッチが開いて負荷に電流が供給されなくなったときに、インダクタに蓄積されたエネルギーをどのようにして放出させればよいのかというものです。このエネルギーの放出が適切に行われない場合、次のような悪影響が生じる可能性があります。例えば、リレーの接点にアーク放電が生じる、大きな負の電圧スパイクによって IC が損傷する、システムの性能に影響を及ぼす可能性のある高周波ノイズや電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)が発生するといった具合です。

ダイオードによる誘導性負荷の保護

インダクタに電流を流すと、エネルギーが蓄積されます。ここでは、インダクタと抵抗から成る誘導性負荷の DC 過渡応答について説明します。図 1 に示したのがそのような負荷を含む回路の例です。一方、図 2 は電流と電圧の過渡応答を表しています。

図 1. インダクタと抵抗から成る負荷を含む回路

図 1. インダクタと抵抗から成る負荷を含む回路

図 2. 誘導性負荷の過渡応答

図 2. 誘導性負荷の過渡応答

図1 の回路は、次のように動作します。

  1. スイッチが開いているときには電流は流れません。出力電圧(負荷電圧)は 0V です。
  2. スイッチが閉じると、電流が指数関数的に増加していき(インダクタによって生成される電源と逆極性の逆起電力[EMF:Electro-motive Force]によって制限されます)、定常状態に達します。このシステムの出力電圧は VOUT = I × RL + Ldi/dt で表されます。スイッチが閉じた瞬間に(電流はゼロ)、インダクタの両端の電圧 VL は電源電圧のレベルまで上昇します。電流量が増えていき、Is = VSUPPLY/R という定常電流(di/dt = 0)に達するまで、VLは低下していきます。
  3. スイッチが開くと、電流はゼロに向かって指数関数的に減少していきます。
  4. スイッチが開いた瞬間、電流の変化によって EMF が生じます。この EMF は、電流の流れとは逆の極性を示し、VL に負の電圧スパイクが生じます。電流がゼロまで減少すると、インダクタの両端の電圧は負の値からゼロに戻ります。

実際の回路では、誘導性負荷の放電を助ける最も一般的な解決策として、フリー・ホイール・ダイオードが使用されます。図 3 の回路では、スイッチが閉じている間、ダイオードは逆バイアスの状態になります。そのためダイオードには電流は流れません。スイッチが開くと、インダクタの両端に生じる負の電圧によって、ダイオードが順バイアスの状態になります。それにより、ダイオードに電流が流れます。この動作により、定常状態に達して電流がゼロになるまで、インダクタに蓄積されていたエネルギーが減少していきます。 

図 3. フリー・ホイール・ダイオードの使用例

図 3. フリー・ホイール・ダイオードの使用例

このダイオードは、ターン・オフの際の初期電流を処理しなければなりません。この初期電流の値は、スイッチが閉じているときにインダクタに流れる定常電流に等しくなります。また、ダイオードの定格電圧は、正と負の電圧レベルの間のスイングに対応している必要があります。このような理由から、ダイオードの選択については 1 つの経験則 1 が生まれます。それは、定格電流がインダクタのコイルが引き込む電流量以上で、定格電圧が負荷の動作電圧の 2 倍以上のものを選択すればよいというものです。ただ、産業用のアプリケーションなどでは、I/O カードごとに多くの出力チャンネルが必要になります。しかも、多くのアプリケーションでは、物理的にかなり大きいダイオードを選択しなければなりません。結果として、部品コストが大きく増加することになります。

単純なフリー・ホイール・ダイオードを使用する方法にはもう 1 つ大きな欠点があります。それは、インダクタを流れる電流の減少にかかる時間が長くなることです。稿末に示した参考資料 2「Coil Suppression Can Reduce Relay Life(コイルの抑制により、リレーの寿命は短くなり得る)」には、「電流の減少に時間がかかると、リレーの接点間に『固着』などの問題が生じる可能性がある」と記されています。そこで、電流を速く減少させなければならないアプリケーションでは別の解決策が講じられます。それは、図 4 に示すようにツェナー・ダイオードを使用するというものです。この方法を使えば、電流量は指数関数的に減少するのではなく、ランプ形状でより速く減少します。スイッチが開くと、電流は汎用ダイオードとツェナー・ダイオードのパスを介してシャントされます。そして、インダクタのエネルギーが完全に放出されるまでツェナー電圧(とダイオードの順方向電圧)に等しい電圧が維持されます。 

図 4. ツェナー・ダイオードを追加した回路。 より速く電流を減少させることができます。

図 4. ツェナー・ダイオードを追加した回路。 より速く電流を減少させることができます。

MOSFET によるアクティブ・クランプ

通常、産業用のアプリケーションでは、スイッチとして MOSFET が使用されます。ここで、誘導性負荷をスイッチング(駆動)している際に MOSFET がターン・オフしたとします。その場合、適切な保護機構が用意されていなければ、ソース‐ドレイン間の電圧 VDS は MOSFET が破壊されてしまうレベルまで上昇します。そこで、多くの場合、ハイサイド・スイッチにはアクティブ・クランプと呼ばれる技術が適用されます。この技術は、誘導性負荷をスイッチングする際に VDSを制限し、MOSFET を保護する役割を果たします。スイッチが閉じているということは、MOSFET が飽和モード(オン抵抗 RDS が小さい)で完全にオンになっているということを意味します。一方、スイッチが開いているということは、MOSFET が RDS の値が高い線形モードで動作しているということになります。アクティブ・クランプが機能している際には、より大きな電圧(VDD - VCLAMP)によって、蓄積されたエネルギーが消費されます。この処理を「消磁(demagnetization)」と呼びます。この方法であれば、負荷は急速に消磁されます。なお、これについては「DT99-4: Intelligent Power Switches (IPS): Basic Features & Protection( インテリジェント・パワー・スイッチ[ IPS ]:基本機能と保護 )」(http://www.irf.com/technical-info/designtp/dt99-4.pdf)をご覧ください。アクティブ・クランプに使われる電圧差が大きいほど、消磁の速度は速くなります。スイッチ IC のベンダーは、この機能を「高速消磁(Fast Demag)」と呼んでいます。 

図 5. アクティブ・クランプ回路を適用した ハイサイドのスイッチ(MOSFET)

図 5. アクティブ・クランプ回路を適用した ハイサイドのスイッチ(MOSFET)

消磁の実行中は、MOSFET の両端の電圧が負荷の電圧よりも高くなります。そのため、MOSFET は負荷よりも多くの電力を消費します。各スイッチに対しては、対応可能な最大の誘導性負荷と負荷電流が存在することになります。その最大値を超えると、アクティブ・クランプ・モードの最中に MOSFETに熱的な問題が発生します。多くのスイッチ製品のデータシートには、安全に扱うことができる誘導性負荷の最大値と誘導電流の関係を表すグラフが掲載されています。

消磁されるエネルギー

以下に示す式をご覧ください。 

数式 01

これは、誘導性負荷に蓄積されるエネルギーを表しています。ここで、L はインダクタンス(単位は H)、ILは負荷電流(単位は A)です。 

続いて、以下の式をご覧ください。

数式 02

これは、ハイサイドのスイッチで消費されるエネルギーを表しています 3

MOSFET が誘導性負荷のエネルギーを放出している際、その等価回路は図 6 のようになります。この回路では、負荷電流に依存することなく、帰還ループが MOSFET のゲート‐ソース間電圧を制御し、ツェナー・ダイオードが VDS を効果的にクランプします。このように、(負荷ではなく)MOSFET の両端でより大きな電圧降下が生じます。そのため、MOSFETがより多くのエネルギー(と熱)を放散し、 高速消磁が実現されます。エネルギーが放散されると負荷電流はゼロに近づきます。また、MOSFETはカットオフ・モードになり、VSは 0V に向かいます。

図 6. ハイサイドのスイッチで高速消磁が行われる場合の等価回路

図 6. ハイサイドのスイッチで高速消磁が行われる場合の等価回路

システム設計者は、スイッチ(MOSFET)が、ターン・オフ動作の最中に放散される多くの電力を処理できるようにする必要があります。この要件を満たせない場合、ジャンクション温度の上昇によって熱ストレスが発生します。そうすると、スイッチが損傷してしまう可能性があります。産業分野の制御アプリケーションで一般的なマルチチャンネルのスイッチでは、この状況が更に悪化します。 

安全な消磁

通常、ハイサイドのスイッチには過電流と過熱の検出機能が適用されます。ただ、アクティブ・クランプ・モード(つまり、高速消磁のモード)では、電流が負荷に蓄積されたエネルギーによって制御されます。そのため、このモードでは、電流または温度に対する保護は有効に働きません。高速消磁を実行している際には、過剰なエネルギーの放散の問題と MOSFET の熱的な問題が生じます。それらを解決するために、MAX14912/MAX14913 には、安全な消磁を実現するための新たなアーキテクチャが適用されています。このアーキテクチャによって実現される機能は SafeDemag と呼ばれています。SafeDemag 機能は、高速消磁回路と連携して動作します。それにより、MAX14912/MAX14913 はインダクタンスの値に制限がない状態で負荷を安全にターン・オフできるようになります。通常、ハイサイドの MOSFET はターン・オフする際に線形モードで動作し、高速消磁の機能を使用してインダクタのエネルギーを放散します。インダクタに多くのエネルギーが蓄積されている場合、言い換えれば消磁電流が多すぎる場合には、ハイサイドの MOSFET の過熱が始まります。その時点で、オンチップの温度センサーが制御ロジックに対して警告を発します。それを受けて、ハイサイドの MOSFET がターン・オフし、ローサイドの MOSFET がターン・オンします。この動作により、消磁電流向けに低電圧(つまり低電力)の代替パスが提供されます。その結果、ハイサイドの MOSFET の温度が下がり、安全な動作条件に戻ります。

図 7. 安全な消磁を行うための電流パス。 ローサイドの MOSFET を利用します。

図 7. 安全な消磁を行うための電流パス。 ローサイドの MOSFET を利用します。

誘導性負荷のスイッチングのテスト

UL 508 は、産業用制御装置に求められる要件を定めた規格です。この規格では、最大負荷として 48Ωの抵抗と 1.15H のインダクタを想定しています。以下では、この負荷を前提として実施したテストの結果を示します。対象とするのは、ここまでに説明した様々な消磁方式を備える各種のハイサイド・スイッチ製品です。それらによって誘導性負荷をスイッチング(駆動)する場合の性能を検証/比較してみます。各スイッチ製品は、いずれも 8 個のチャンネルを備えていますが、まずは図 8 に示すように 1 つのチャンネルだけを使用してテストを実施します。それを通して、フリー・ホイール・ダイオードを使用した低速消磁に対し、より高いクランプ電圧を用いる高速消磁の効果を実証することにします。

図 8. 誘導性負荷のスイッチングのテストに使用する回路。 1 つのチャンネルだけを使用します。

図 8. 誘導性負荷のスイッチングのテストに使用する回路。 1 つのチャンネルだけを使用します。

消磁中に 1 つの出力チャンネルで放散されるエネルギーは、以下に列挙する式によって導出できます。

数式 03.

数式 04.

数式 05.

数式 06.

ここでは、スイッチの開閉時間は tDEMAG と比べてはるかに長いと仮定します。つまり、インダクタに蓄積されたエネルギーが放散してスイッチが再度ターン・オンする前に、定常状態(オフの状態)に達することができるという意味です。

表1は、テストの対象とする製品についてまとめたものです。MAX14912だけでなく、「MAX14900E」や他社が提供しているハイサイド・スイッチ IC も取り上げています。

表 1. テストの対象とする IC 製品
テスト スイッチ・デバイス テストのモード
フリー・ホイール・ダイオード MAX14900E 低速消磁
内蔵アクティブ・クランプ MAX14912 高速消磁
  ITS4880R 高速消磁
  VNI8200XP-32 高速消磁

【テスト 1】フリー・ホイール・ダイオードによる低速消磁


ここでは、MAX14900E の評価用ボードをパラレル・モードで動作させます。また、ダイオード「MURA205T3G」(onsemi 製)を 2 個使用します。それにより、各 OUTPUT チャンネルから VDDと GND への接続を行い、フリー・ホイール・ダイオードによる方式を実現しました。入力としては周波数が 1Hz の方形波を使用します。ここで図 9 に示した各波形をご覧ください。チャンネル 1(黄)は入力信号、チャンネル 2(赤)は出力電圧、チャンネル 4(緑)は誘導性負荷に流れる電流を表しています。想定のとおり、ダイオードによって、電圧のスイングはグラウンドより低いものの-1V 未満に制限されています。ただ、消磁には 94 ミリ秒を要しています。これは比較的低速だと言えます。 

図 9. フリー・ホイール・ダイオードを付加した場合の MAX14900E の動作

図 9. フリー・ホイール・ダイオードを付加した場合の MAX14900E の動作

【テスト 2】高速消磁


続いて、高速消磁に対応する製品のテスト結果を示します。対象製品としては、MAX14912 に加え、Infineon Technologiesの「ITS4880R」とSTMicroelectronics(STM)の「VNI8200XP」を取り上げました。スイッチはすべてパラレル・モードで動作させ、入力信号としては周波数が 1Hz の方形波を使用しました。図 10、図 11、図 12 は、それぞれ MAX14912、ITS4880、VNI8200 のテスト結果です。いずれも、チャンネル1(黄)は入力信号、チャンネル2(赤)は出力電圧、チャンネル4(緑)は誘導性負荷に流れる電流を表しています。いずれの結果も、左はクランプ電圧、右は消磁時間に注目したものです。

図 10. MAX14912 の高速消磁(A - VCLAMP、B - tDEMAG)

図 10. MAX14912 の高速消磁(A - VCLAMP、B - tDEMAG

図 11. ITS4880 の高速消磁(A - VCLAMP、B - tDEMAG)

図 11. ITS4880 の高速消磁(A - VCLAMP、B - tDEMAG

図 12. VNI8200 の高速消磁(A - VCLAMP、B - tDEMAG)

図 12. VNI8200 の高速消磁(A - VCLAMP、B - tDEMAG


高速消磁についてのまとめ


図 10~図 12 の結果を見ると、単純なフリー・ホイール・ダイオード方式と比べて高速な消磁が実現されていることがわかります。測定値についても、前掲の式を用いた計算結果と相関が取れています。特に MAX14912 の場合、クランプ電圧が高いことから、他社製品と比べて約 20%高速な消磁が実現されています。

表 2. 高速消磁のテスト結果
ベンダー デバイス VCLAMP (V) TDEMAG (ms)
Maxim Integrated MAX14912 57 15.4
Infineon Technologies ITS4880 52 18.4
STM VNI8200 48 19.6

【テスト 3】MAX14912 による安全な消磁


続いては、スイッチにストレスを与えるために、8 つの出力チャンネルすべてを同時にスイッチングする形でテストを実施しました。各出力の負荷は、抵抗が 27Ω、インダクタが 1.5H です。共通の入力信号として周波数が 2Hz の方形波を使用しました。図 13 に示したのがテスト用の回路です。

図 13. 8 チャンネルを同時に動作させるテスト用の回路。 全チャンネルが誘導性負荷を同時にスイッチングします。

図 13. 8 チャンネルを同時に動作させるテスト用の回路。 全チャンネルが誘導性負荷を同時にスイッチングします。

すべてのテストは、24V の電源を使用し、室温で実施しました。図 14(a)、(b)は ITS4880R のテスト結果です。チャンネル 1(黄)は入力信号、チャンネル 2(赤)は出力電圧、チャンネル 3(青)は過熱警告ピンの信号、チャンネル 4(緑)は誘導性負荷を流れる電流を表しています。

図 14(a). ITS4880R のテスト結果(その 1)。8 つのチャンネルですべて同時に 誘導性負荷をスイッチングしています。動作を開始して数秒後の結果です。

図 14(a). ITS4880R のテスト結果(その 1)。8 つのチャンネルですべて同時に 誘導性負荷をスイッチングしています。動作を開始して数秒後の結果です。

動作を始めて数秒が経過すると、ITS4880R の過熱が始まります。その結果、入力がハイで出力がローの期間に過熱警告ピンがハイに駆動されます。同デバイスが過熱すると保護機能が作動します。数ミリ秒の冷却期間をおいた後、デバイスが再び動作します。 

図14(b). ITS4880R のテスト結果(その2)。8 つのチャンネルですべて同時に誘導性負荷をスイッチングしています。図14(a)の状態から更に数秒経過したときの結果です

図14(b). ITS4880R のテスト結果(その2)。8 つのチャンネルですべて同時に誘導性負荷をスイッチングしています。図14(a)の状態から更に数秒経過したときの結果です。

図 14(b)は更に数秒経過した後の状態を表しています。インダクタの電流波形には、過熱保護の影響がより明確に現れています。過熱保護のために出力スイッチがターン・オフすると、2 つの問題が生じます。1 つは、消磁の時間が短くなることです(インダクタのエネルギーを完全に放出できない可能性があります)。もう 1 つは、インダクタを完全に充電するための時間が不足することです(ソレノイドやリレーが正しく動作しなくなる可能性があります)。

図 15(a)、(b)、(c)は MAX14912 のテスト結果です。チャンネル 1(黄)は入力信号、チャンネル 2(赤)は出力電圧、チャンネル 4(緑)は誘導性負荷を流れる電流を表しています。

図 15(a). MAX14912 のテスト結果(その 1)。8 つのチャンネルですべて同時に 誘導性負荷をスイッチングしています。SafeDemag 機能が働いています。

図 15(a). MAX14912 のテスト結果(その 1)。8 つのチャンネルですべて同時に 誘導性負荷をスイッチングしています。SafeDemag 機能が働いています。

図 15(a)、(b)によって、SafeDemag 機能の動作を確認できます。高速消磁に伴うクランプ動作が働いている際に過熱が生じると、SafeDemag 機能の動作が開始します。それにより、ローサイドのスイッチがインダクタに蓄積されたエネルギーを放出する間、出力電圧が 0V に戻ります。MAX14912の温度が下がると、ハイサイドの高速消磁の機能が復帰し、出力電圧がクランプ電圧として規定された負の値に戻ります。トータルの消磁時間は長くなりますが、インダクタに流れる電流はエネルギーが放散することに伴い滑らかに減少します。その後、MAX14912 は図 15(c)に示すように動作し続けます。ご覧のように、過剰な誘導性負荷による過熱の問題は発生しません。

図 15(b). MAX14912 のテスト結果(その 2)。8 つのチャンネルですべて同時に 誘導性負荷をスイッチングしています。図 15(a)を一部拡大しています。

図 15(b). MAX14912 のテスト結果(その 2)。8 つのチャンネルですべて同時に 誘導性負荷をスイッチングしています。図 15(a)を一部拡大しています。

図 15(c). MAX14912 のテスト結果(その 3)。8 つのチャンネルですべて同時に 誘導性負荷をスイッチングしています。図 15(a)、(b)の状態から更に時間が経過したときの結果です。

図 15(c). MAX14912 のテスト結果(その 3)。8 つのチャンネルですべて同時に 誘導性負荷をスイッチングしています。図 15(a)、(b)の状態から更に時間が経過したときの結果です。

これらのテストは、室温で実施しました。多くの産業用アプリケーションは、より温度の高い環境で稼働します。そうすると、SafeDemag 機能を備えていないデバイスの性能は更に悪化すると考えられます。

MAX14912/MAX14913 と他社製品の比較

本稿では、MAX14912/MAX14913 と MAX14900、ITS4880R、VNI8200 の比較を行いました。MAX14912/MAX14913 は、設計技術者に対して重要なメリットをもたらす重要な機能を備えていることをご理解いただけたでしょう。MAX14912 ではより高いクランプ電圧を使用します。そのため、誘導性負荷の消磁をより高速に実現できます。他のスイッチ製品は、スイッチング(駆動)できるインダクタンスの大きさに制限があります。それに対し、MAX14912/MAX14913 では SafeDemag 機能を使用できるため、負荷となるインダクタンスの値には制限はありません。どのような値であっても、安全にスイッチングすることができます。また、SafeDemag 機能の効果により、MAX14912 /MAX14913 ではパッケージとしてより小型のものを採用できています。競合製品を使用する場合と比べて、実装面積を最大 66%削減することが可能です(表 3)。 

表 3. 各製品の仕様の比較
仕様 単位 MAX14900 MAX14912 ITS4880R VNI8200XP-32
ハイサイド・スイッチ・モードの出力電流 A 0.85 0.5 0.625 1
ターン・オン時間 マイクロ秒 1 0.1(代表値) 50(代表値) 100(代表値)
ターン・オフ時間 マイクロ秒 2 0.1(代表値) 75(代表値) 150(代表値)
プッシュプル・ スイッチ・モードの 出力電流(ハイ/ロー) mA 500 / 300 1200/810 非該当 非該当
プッシュプル出力の スイッチング・レート (最大) kHz 100 200 非該当 非該当
高速消磁   なし あり あり あり
VCLAMPの範囲  V 非該当 49~65.5 45~52 47~60
VCLAMPの代表値 V 非該当 56 50 53
SafeDemag   なし あり なし なし
パッケージ   48 ピンTQFN 56 ピン QFN 36 ピン SSO 36 ピン SSO
パッケージの面積  mm2 7 × 7 = 49 8 × 8 = 64 14 × 16 = 224 10 × 10 = 100 

まとめ

産業用のアプリケーションでは、誘導性負荷を安全にスイッチングする機能が非常に重要な意味を持ちます。本稿で紹介したように、この問題の解決策はいくつか存在します。例えば、フリー・ホイール・ダイオードは低速消磁に適しています。また、アクティブ・クランプを使用すれば高速消磁を実現できます。しかし、この問題に対しては、本稿で示したとおり、SafeDemag 機能を採用した製品が最良の解決策となります。