DC/DCレギュレータのインダクタで生じる電流リップル、その許容値はどのようにして決めればよいのか?

DC/DCレギュレータのインダクタで生じる電流リップル、その許容値はどのようにして決めればよいのか?

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Frederik Dostal

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はじめに

スイッチング方式のDC/DCレギュレータは、入力電圧をそれより高い電圧または低い電圧に変換して出力します。その処理において、インダクタはエネルギーを一時的に蓄積する役割を果たします。その値は、主にレギュレータのスイッチング周波数と出力電流の想定値を基にして決定することになります。ただ、その決定に必要なパラメータはそれら2つだけではありません。実は、インダクタで生じる電流リップルの値についても考慮する必要があります。ほとんどのDC/DCレギュレータのデータシートやアプリケーション・ノートなどを見ると、動作時の負荷が公称値である場合、電流リップルの推奨値としては30%という値が使用されていることがわかります。この値は、電流リップル比(CR:Current Ripple Ratio)と呼ばれます。このCRの値が30%だということは、次のようなことを意味します。すなわち、負荷電流の値としてある公称値を想定した場合に、インダクタに流れる電流の最大値が負荷電流の平均値よりも15%高く、最小値が平均値よりも15%低いということです。では、CRの推奨値としては、なぜ30%という値が一般的に用いられるのでしょうか。

例として、図1に示した降圧コンバータを考えます。その場合、インダクタの値を決定する際には、以下の式が使用されることになるでしょう。

図1. 降圧コンバータの概念図。インダクタには電流リップルが現れます。

図1. 降圧コンバータの概念図。インダクタには電流リップルが現れます。

数式 1

この式において、Dはデューティ・サイクル、Tはスイッチング周波数によって決まるサイクル時間です。加えて、電流リップル比であるCRが変数として使用されていることがわかります。この式を使えば、その降圧コンバータにおいて採用すべきインダクタの値Lを計算することができます。ここで、CRとしては一般的に0.3という値が使われます。つまり、上述したようにピークtoピークのリップルが30%だと考えるということです。

インダクタの電流リップルを比較する

ここで図2をご覧ください。各プロットは、出力電流が3Aのレギュレータで使用するインダクタに現れる電流リップルを表しています。赤色のプロットが、CRが30%の場合の例にあたります。つまり、DC/DCレギュレータの一般的な設計に相当します。青色のプロットはCRが133%の場合の例であり、緑色のプロットは同7%の場合の例です。CRが30%の場合に対し、それぞれインダクタの値がより小さい場合とより大きい場合に相当します。

図2. インダクタに生じる電流リップル。赤色はCRが30%の場合の例です。青色はより値の小さいインダクタを使用した場合、緑色はより値の大きいインダクタを使用した場合に相当します。

図2. インダクタに生じる電流リップル。赤色はCRが30%の場合の例です。青色はより値の小さいインダクタを使用した場合、緑色はより値の大きいインダクタを使用した場合に相当します。

続いて図3をご覧ください。これは、全負荷ではなく、部分負荷(partial load)の条件における電流リップルの例です。具体的には、出力電流が1Aという条件で回路を動作させると、リップルがどのように現れるのかを表しています。青色のプロットのように、非常に大きなリップルが生じている場合には、インダクタに蓄積されたエネルギーがサイクルごとに完全に放出されていることになります。このような動作を不連続導通モード(DCM:Discontinuous Conduction Mode)と呼びます。DCMでは、制御ループの安定性に変化が生じ、出力電圧にも大きなリップルが生じる可能性があります。

図3. 部分負荷の条件下でインダクタに生じる電流リップル。赤色はCRが30%の場合の例です。青色はより値の小さいインダクタを使用した場合、緑色はより値の大きいインダクタを使用した場合に相当します。

図3. 部分負荷の条件下でインダクタに生じる電流リップル。赤色はCRが30%の場合の例です。青色はより値の小さいインダクタを使用した場合、緑色はより値の大きいインダクタを使用した場合に相当します。

このDCMを回避するには、CRの値を制限しなければなりません。この観点からCRを30%に設定すると、折り合いのつく妥当な結果が得られるということです。CRの値が小さければ、レギュレータは部分負荷の条件下においても主に連続導通モード(CCM:Continuous Conduction Mode)で動作します。言い換えれば、CRの値を設定することにより、CCMの動作を対象として回路を最適化することができます。

CRが高すぎるとどうなるのか?

CRが30%よりも高いということは、インダクタの値がより小さいということを意味します。その場合、コストを抑えられることになります。但し、電流リップルのピークは非常に大きくなります。その結果、標準的な回路では許容できないレベルの電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)が生じます。また、負荷電流が多いときにしかCCMの動作が得られなくなります。このことは、必ずしも問題になるというわけではありません。しかし、CCMの動作にも違いが生じるので、それを考慮してレギュレータ回路を設計する必要があります。

更に、インダクタの電流リップルが小さい場合と比べて出力電圧のリップルも大きくなります。

CRが低すぎるとどうなるのか?

CRの値が30%よりも低い場合、インダクタの値は大きくなります。それに応じてコストも増大することになります。また、エネルギーを蓄積するデバイスのサイズが大きくなるということは、負荷過渡応答が遅くなるということを意味します。例えば、大きな負荷電流を突然停止する場合には、インダクタに蓄積されているエネルギーをどこかに放出しなければなりません。結果として、出力コンデンサCOUTの電圧が上昇します。インダクタに蓄積されているエネルギーが非常に多い場合、出力電圧が高くなりすぎることになります。その過大な電圧が原因となって、供給先の回路に損傷が生じるおそれがあります。

インダクタの電流リップルが大きい場合にも小さい場合にも、メリットとデメリットがあります。これについて検討を行うと、ほとんどのアプリケーションではCRの値は30%程度が望ましいという結論に至るようです。もちろん、CRの値に応じて生じる影響を許容できるアプリケーションでは、30%以外の値を選択することも可能です。