4スイッチ昇降圧コントローラで省スペースと効率向上を実現

4スイッチ昇降圧コントローラで省スペースと効率向上を実現

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Xu Zhang

Xu Zhang

要約

新世代の4スイッチ昇降圧コントローラは、インダクタDC抵抗(DCR)電流検出手法を使用することによって、非常に高効率で電力密度の高い電源システムの設計を可能にします。本稿では、インダクタDCR電流検出ソリューションを従来型ソリューションと比較した場合の利点を説明します。

はじめに

4スイッチ昇降圧コンバータは広く使われており、入力電圧より高い、あるいは低い、もしくは等しいレギュレーション出力電圧を生成するデバイスとしてよく知られています。また、入力短絡状態や出力短絡状態などの深刻な異常の発生時には入出力(I/O)を遮断します。4スイッチ昇降圧コンバータは、過電流および過電圧保護と共に、バッテリ駆動デバイスやオートモーティブ・システム、および汎用産業アプリケーションに広く使われています。

新技術:DCRインダクタ電流検出

これまでの4スイッチ昇降圧コントローラは外付けの電流検出抵抗を使用して電流を検出していましたが、LTC7878は、インダクタDCRを使ってインダクタ電流を検出するように設計された初の4スイッチ昇降圧コントローラです。新しいピーク電流モード制御方式を使って実装されたこのデバイスには、レギュレータが降圧、昇圧、昇降圧のどの動作をしているかに関わらず、サイクルごとにピーク電流を制限する機能が組み込まれています。5V~70Vという広い範囲の入力電圧を、範囲1V~70V、精度±1%の出力にレギュレーションすることができます。電流検出抵抗が不要になったことで、この新しい昇降圧コンバータは電力損失をなくし、ソリューション・サイズを小さくします。同時に、高価で消費電力の多い電流検出抵抗を不要にすることで、システム・コストを削減します。インダクタDCR電流検出はインダクタ電流情報を連続的に提供するため、統一的なピーク電流モード制御が可能であり、多相マルチIC構成での並列動作も容易です。

4スイッチ昇降圧コンバータによるインダクタ電流検出

 

図1 4スイッチ昇降圧コンバータによるグラウンド基準の電流検出
図1 4スイッチ昇降圧コンバータによるグラウンド基準の電流検出

多くの4スイッチ昇降圧コントローラには、閉ループ動作時のI/O電流とインダクタ電流を検出するために、2つないし3つの電流検出抵抗が必要です。アナログ・デバイセズには、電流モード制御ループ内で使われる電流を検出するために使用する電流検出抵抗を1つしか必要としない、独自の昇降圧コントローラがあります。多くの従来製品に使われているグラウンド基準の電流検出方法を図1に示します。これは、シンプルな方法で容易にIC内に実装できます。ただし、この方法でインダクタ電流を検出できるのは、スイッチBまたはスイッチCがオンになっているときに限ります。これはそれぞれ、降圧領域におけるインダクタのバレー電流、あるいは昇圧領域におけるピーク電流にあたります。2つのMOSFET(BとC)は共に電流検出抵抗に接続されていて、互いに近い位置に置く必要があるため、PCBレイアウトのオプションは限られます。

 

図2 4スイッチ昇降圧コンバータによるスイッチング・ノード基準の電流検出
図2 4スイッチ昇降圧コンバータによるスイッチング・ノード基準の電流検出

図2は、その他いくつかの昇降圧コントローラに使われている、スイッチング・ノード基準の電流検出方法です。電流検出抵抗はインダクタと直列に置かれており、継続的にインダクタ電流を検出することができます。ただし、スイッチング・ノードにある検出抵抗の電圧は、スイッチAとBのオン/オフに伴い入力電圧とグラウンドの間を上下します。このため電流検出回路は、同相ノイズを最小限に抑えるために、非常に高い同相モード除去比(CMRR)を備えている必要があります。数十ボルトの同相電圧に対し、検出されるインダクタ電流信号は50mV~100mVの範囲に過ぎないため、電源段のスイッチング時に簡単に歪んでしまう可能性があります。図2に示すように、ノイズを回避するために電流コンパレータの接続が遮断されて、その入力がオフになります。信号の検出は続きますが、短いブランキング時間が生じて、わずかの間ですがインダクタ電流情報が途切れます。

図3 4スイッチ昇降圧コンバータによるインダクタDCR電流検出
図3 4スイッチ昇降圧コンバータによるインダクタDCR電流検出

図3に、LTC7878で使用されているインダクタDCR電流検出方法を示します。RC検出回路の時定数を、インダクタンスおよびDCRとマッチングさせることにより(L/DCR = Rs × Cs)、インダクタ電流が検出回路の電圧信号に変換されます(Cs)。そのゲインはインダクタのDCRです。電流コンパレータはBST1/SW1回路の下に構成され、動作時はVIN-GNDスイッチング・ノードと共に変化します。電流コンパレータとスイッチング・ノードは同相電圧が共通であるため、SW1の切り替え時に電流コンパレータの入力をDCR検出信号から遮断する必要はありません。このようにしてインダクタ電流はサイクルごとにレギュレーションされ、継続的に制限されます。スイッチング・ノード基準の電流検出と比較すると、BST1/SW1の下で必要になるコンパレータは1つだけです。更に、異なるDCR値を選択できるほか、様々なインダクタを使用することができます。DCRが小さいインダクタの場合は、信号を増幅するようにISNSDピンを設定して、S/N比(SNR)を従来のDCR検出方式の4倍に改善することができます。高S/N比設計はシステムの信頼性を大幅に改善して、様々なデューティ・サイクルで安定したスイッチング動作を実現します。

多相並列動作

インダクタDCR電流検出と継続的なインダクタ電流情報の組み合わせは、LTC7878内に統一的なピーク電流モード制御方式を実装することを可能にします。この方式は、多くの電流モード降圧DC/DCコントローラや昇圧DC/DCコントローラを使用した場合と同様に、多相動作を可能にします。すべてのITHピンを共有し、すべてのCLKOUTピンをデイジー・チェーン接続することによって複数のLTC7878デバイスを並列接続し、より多くの電流を負荷に供給することもできます。すべてのチャンネルに均等に負荷電流が分配され、複数のインダクタ間で電流が分担されることにより、熱的なバランスと高い効率が確保されます。サイクルごとにインダクタ電流を分担するというユニークな方式は、スタートアップ時のインダクタの過電流ストレスとロード・トランジェントを軽減し、システムの信頼性を向上させます。

その他の機能

スイッチング周波数は100kHz~600kHzの範囲にプログラムするか、外部クロックに同期させることができます。また、内蔵の7V NMOSゲート・ドライバは、ロジック・レベルまたは非ロジック・レベルのMOSFETを駆動できます。更にその他にも、スマート外部VCCバイアス・ピン、PGOODインジケータ・ピン、様々な電流限界設定が可能な選択式の不連続導通モード/連続導通モード(DCM/CCM)動作などの機能を備えています。LTC7878は、70Vまでの入力および1V~70Vでプログラム可能な出力で使用でき、5 mm × 5 mmのQFNパッケージで提供されます。

まとめ

LTC7878は、インダクタDCR電流検出を採用した高性能の4スイッチ昇降圧コントローラです。このデバイスは、降圧、昇圧、または昇降圧領域でピーク電流モード制御を使用し、常にサイクルごとのピーク電流制限と保護を行います。インダクタDCR電流検出を使用することにより、このソリューションは、コンポーネントのコストを削減しながら高い効率を実現します。出力を最大限まで引き上げるために、複数のデバイスを並列にして多相アーキテクチャを構成することが可能です。