低消費電力で高速の多重化が可能な高精度オペアンプ
はじめに
複数のアナログ電圧を測定するシステムを設計する場合、全ての電圧を同時に測定する必要がなければ、測定値を多重化して1つの出力信号にまとめ、元の電圧レベルを共有部品で逐次処理してデジタル化することで、下流の回路を削減できます。この方法の利点は、信号チェーンの部品の数とサイズが、チャネル単位での設計回路で必要になる部品の数分の1になることです。多重化ソリューションを適切に実装するには、特にチャネルの素早い切り替えと電圧の正確な測定を低消費電力で実行する場合、いくつか細かい点に注意を払う必要があります。
迅速な応答
マルチプレクサがチャネルを切り替えるたびに、多重化信号の値は変化するため、多重化によって合成信号の周波数成分は増加します。入力信号が高速で変化することがない場合でも、多重化信号は高速で変化するので、マルチプレクサの出力側の回路は、これらの遷移に対して素早く応答する必要があります。例えば、出力信号が目標の精度で完全に安定する前に次のチャネルが読み出されると、あるチャネルの測定値が前のチャネルの値に依存する可能性があるため、これはチャネル間クロストークが生じたのと同じことになります。
マルチプレクサはオン抵抗がゼロではないため、多くの場合、オペアンプを使用して出力をバッファ処理する必要があります。多重化回路を図1に示します。MUXの入力側にはチャネルごとにオペアンプがあり、出力側には1つの共有オペアンプがあります。ここで検討するのは、下流の共有オペアンプの性能です。
多重化システム。入力のLT6011バッファは入力インピーダンスが高い。MUXの出力側のLT6020は、MUXがチャネルを切り替えたとき高スルーレートで応答できる。LT6020の特殊な入力回路により、MUX入力での電圧グリッチが防止される。
低消費電力のオペアンプは、動作が低速になる傾向があります。特に、オペアンプのスルーレートは、概してオペアンプの電源電流と密接に関連しています。この理由は、オペアンプの全電源電流のうち、内部コンデンサの充電に振り向けられる電流の割合が決まっているからです。
これに対して、LT6020オペアンプのスルーレートは、その電源電流が少ないことから予想される値よりはるかに高い値を実現しています。このオペアンプは、入力ステップのサイズに基づいてスルーレートを調整することにより、このような高性能を実現しているので、大きな入力ステップが小さな入力ステップと同じくらい高速で処理されます。
図2aおよび2bは、LT6020のトランジェント・ステップ応答への影響を、同等の消費電力性能を持つ従来のオペアンプと比較して示したものです。従来のオペアンプでは、大信号応答は小信号応答よりはるかに低速です。しかし、LT6020は、10Vステップに対して、±200mVステップの場合と同じようにきれいに応答します。LT6020はスルーレートが高速で新しい値に素早く安定化する性能を備えていながら、流れる電源電流はわずか100μAなので、マルチプレクサ出力側のバッファとして十分な選択肢となります。
小出力信号の場合、LT6020は同じ消費電力レベルの他のオペアンプと同様の特性を示す。応答は利得帯域幅によって決まる。
大出力信号の場合、LT6020は同様な消費電力レベルの他のオペアンプと比較して、高い信号忠実度を維持する。応答はスルーレートによって決まる。
グリッチ発生の防止
オペアンプがマルチプレクサに十分高速に追従している場合でも、見落とされがちで重要な細かい点がもう1つあります。ほとんどの高精度オペアンプは、入力段の高感度バイポーラ・トランジスタに逆バイアスがかからないように、入力段の両端に内部保護ダイオードを設けています。
マルチプレクサがチャネルを切り替えたとき、ある端子の入力電圧は急速に変化しますが、出力は(したがって帰還ノードも)まだ変化していません。これにより、内部保護ダイオードに大きな電流スパイクが流れます。この電流はどこから発生するのでしょうか。この電流の発生源は、間違いなく、マルチプレクサの入力に接続された回路です。この回路が高インピーダンス(つまり低速)である場合、この電流スパイクによって電圧グリッチが発生します。システムの出力はこの入力電圧グリッチに追従しようとするため、電圧グリッチがおさまるまでは、出力が正確に安定化することはできません。
LT6020オペアンプは、この問題に対する独自の解決策を備えています。LT6020の入力素子は非常に高精度ですが、5Vを超える逆バイアスに耐えられるほど堅牢でもあります。したがって、内部保護ダイオードの代わりに、一対のバック・トゥ・バック・ツェナー・ダイオードで入力を保護しています。その結果、5V以下の入力ステップでは電流スパイクが発生しません。図3aおよび3bは、LT6020オペアンプではセンサの出力側に電圧グリッチがほとんど発生しないのに対して、従来の高精度オペアンプ(この例ではLT6011)では大きな電圧グリッチが発生することを示しています。
制御信号(上のトレース)がMUXチャネルを切り替えるとすぐに、LT6020の出力(下のトレース)は前のチャネルの電圧から次のチャネルの電圧に遷移する。中間のトレースはマルチプレクサへの入力を示し、電圧グリッチはほとんど認められない。
3aと同じ構成で、マルチプレクサの出力側に従来のオペアンプ(LT6011)を使用。マルチプレクサの入力側の信号(中間のトレース)には、マルチプレクサからオペアンプの保護ダイオードに流れる電流に起因する顕著なグリッチが認められる。
まとめ
高精度の信号を1つの出力信号に正確に多重化するには、細心の注意が必要です。LT6020オペアンプは、一連の独自機能により、多重化ソリューションの設計を簡略化します。例えば、このように電源電流レベルの低い部類のオペアンプとしては、他のオペアンプよりスルーレートがはるかに高いので、チャネルの切り替えに対して素早く応答できます。また、その独自の入力保護方式により、電流スパイクの発生が抑えられるので、チャネルの切り替え時に、従来の高精度オペアンプを使用した場合に発生する上流のグリッチが発生しません。
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