幅広い電力源に対応する、入力電圧範囲が1.8V~5.5Vの1A低ノイズ昇降圧コンバータ

幅広い電力源に対応する、入力電圧範囲が1.8V~5.5Vの1A低ノイズ昇降圧コンバータ

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Genesia Bertelle

ユーザは、所有している携帯機器がUSB、ACアダプタ、各種の電池(アルカリ、リチウムイオン、LiFePO4)など、さまざまな電源で動作することを期待しています。モノリシックの同期整流式昇降圧コンバータであるLTC3536は、1.8V~5.5Vの入力電圧範囲において降圧と昇圧の両方のモードで効率的に動作することにより、さまざまな電源に容易に順応します。電源の入力電圧が出力電圧と比べて高い、低い、同じのいずれの場合でも、順応するのに複雑な回路構成は必要ありません。

LTC3536は、降圧モードと昇圧モードとの間の継ぎ目のない遷移を実現する一方、それに並行して効率を最適化し、すべての動作条件にわたってノイズを最小限に抑える独自のスイッチング・アルゴリズムを採用しています。この先進の制御アルゴリズムで使用されるのは1個のインダクタのみなので、これによって電源の設計が大幅に簡素化され、プリント回路基板の総占有面積が最小限に抑えられます。その結果、LTC3536はリチウムイオン/ポリマー電池、2~3本のアルカリ/NiMH電池、リン酸リチウム電池などのアプリケーションに容易に適合します。これらはバッテリ電圧範囲の中央付近の電源電圧が必要になることが多いアプリケーションです。こうした場合には、LTC3536の高い効率と幅広い入力動作範囲により、バッテリの動作時間と設計の汎用性が大幅に向上します。

設計の汎用性

3.3V出力では、リチウムイオン電池の入力電圧範囲全体にわたって1Aまでの負荷電流をサポートできます。入力電圧が1.8Vのときは300mAの負荷電流がサポートされます。外付けの抵抗分割器により、1.8V~5.5Vの範囲で1%精度の出力電圧を設定できます。

LTC3536のスイッチング周波数は、1本の外付け抵抗によって300kHz~2MHzの範囲で設定できるので、LTC3536は、特定の各アプリケーションのスペースおよび効率の要件を満たすように最適化することができます。デフォルトの周波数は、RTピンをVIN に接続することにより、1.2MHz に設定されます。このスイッチング周波数は、MODE/SYNCピンに入力されている外部クロックに同期させることもできます。同期させる場合、発振器の自走周波数は、外部クロックの周波数より低く設定しても高く設定してもかまいません。

外付けの抵抗とコンデンサによって帰還ループの補償機能が得られるので、周波数応答を調整して、広範囲の外付け部品に適合させることができます。この柔軟性により、インダクタの値や出力コンデンサのサイズに関係なく、急速な出力電圧トランジェント応答が可能です。

アプリケーションの要件によっては、次の2つの動作モードから選択することにより、設計者が軽負荷時の効率を優先するか、電源ノイズを最小限に抑えることができます。それはBurstMode® 動作とPWM動作で、専用のピンによってイネーブルすることができます。

Burst Mode 動作は、低電流状態では効率の良い解決策です。この動作では、負荷をサポートするのに必要な最小レベルまでスイッチングの回数が減少するので、電源のスイッチング損失が最小になります。時としてノイズの抑制が重要になることがあるので、その場合にはPWM動作にすると(軽負荷時のBurst Mode 動作ほど効率的ではないものの)、安定した周波数が維持されてノイズとRF干渉を簡単に低減できます。Burst Mode 動作での出力電流能力はPWMモードの場合より低くなります。したがって、負荷電流の多いアプリケーションでは、MODE/SYNCピンを外部から駆動してPWMモード動作に入ることが必要です。

LTC3536は、堅牢なVOUT 短絡保護回路を内蔵しています。VOUT がグランドに短絡すると、インダクタ電流は1回のスイッチング・サイクルの間にきわめて緩やかに減衰します。短絡状態の間、LTC3536 はそのピーク電流制限値を安全なレベルまで減少させ、デバイス自体を強制的にPWMモードに移行して、出力短絡状態が解放されたときに円滑に回復することを保証します。

ノイズ性能

多くのアプリケーションは、スイッチング・コンバータから発生するノイズの影響を受けやすくなっています。LTC3536は低ノイズのスイッチング・アーキテクチャを採用して、不要な低調波周波数を低減しています。低調波ノイズやジッタはフィルタで除去するのが困難で、影響を受けやすい他の回路に干渉することがあり、VINとVOUT の値がほぼ等しいときに最も顕著です。この領域で動作する競合他社の昇降圧コンバータは、パルス幅および周波数のジッタを発生します。LTC3536は、リニアテクノロジーの最新世代の昇降圧PWM変調回路を採用していますが、この回路によってジッタが飛躍的に小さく抑えられ、ノイズの影響を受けやすいRFアプリケーションの厳しい要求を満たしています。

LTC3536(スイッチング周波数:1MHz)と、(LTC3536の低ノイズ・アーキテクチャを備えていない)競合製品の昇降圧コンバータ(スイッチング周波数:1.3MHz)のワーストケースでのスペクトルを比較した結果を図1に示します。

図1.LTC3536と標準的な競合製品のワーストケースでのスペクトル比較。LTC3536が示すノイズフロアの方がかなり低いことと、積算低調波ノイズが低いことに注意。

図1.LTC3536と標準的な競合製品のワーストケースでのスペクトル比較。LTC3536が示すノイズフロアの方がかなり低いことと、積算低調波ノイズが低いことに注意。

ワーストケースの状態は、出力に1A固定負荷を配置し、コンバータのスペクトルに最も高い高調波成分が観測されるまで入力電圧を緩やかに増加または減少させることによって作り出します。

LTC3536は、そのスイッチング周波数である1MHzで、予想どおり大きさの大きいトーンが1つありますが、全積算ノイズは競合製品と比較すると非常に低くなっています。

このテストは、LTC3536 の絶対的なワーストケースの低調波ピークを作り出すことを目的にしていることを忘れないでください。入力周波数がわずかに高いか低い場合、低調波の大きさは相当に小さくなります。対照的に、競合他社の昇降圧コンバータでは、大幅に広い入力周波数範囲にわたって低調波成分の減少量が少なくなっています。また、競合品はLTC3536よりかなり高いノイズフロア特性も示しており、大きなパルス幅ジッタと潜在的なノイズ干渉の問題があることを示唆しています。

スーパーキャパシタによるバックアップ電源

LTC3536は、起動時の突入電流トランジェントを最小限に抑えるためのソフトスタート回路を内蔵しています。起動時に出力電圧が事前充電されている場合、内部のソフトスタート回路動作はスキップされ、LTC3536はMODEピンで設定されている動作モードに即座に移行します。MODEピンが“H” に接続されてBurst Mode動作が選択されると、出力電圧は目標の電圧値までスムーズに安定化され、出力が放電されることはありません。

この機能により、LTC3536は、図2に示すようにスーパーキャパシタを電源とするバックアップ電源システムに最適です。このアプリケーションでは、一次電源が故障した場合に必要なバックアップ・エネルギーを供給するために、直列に接続された2つのスーパーキャパシタが通常動作時に5Vまで充電されます。一次電源が存在する限り、LTC3536は静止電流の非常に少ないBurst Mode 動作を維持し、バックアップ蓄積コンデンサからの放電を最小限に抑えます。MODEピンは、一次電源が遮断されたときにBurst Mode 動作からPWMモード動作に変更するために使用されます。

図2.スーパーキャパシタ・ベースのバックアップ電源

図2.スーパーキャパシタ・ベースのバックアップ電源

バックアップ・モードでのLTC3536は、入力電圧が3Vより高く負荷が1A一定の場合は安定化した3.3Vを供給できます。さらに、300mA一定の場合は、VIN が1.8Vになるまで動作できると上に、VOUTを3.3Vに維持します。スーパーキャパシタの電圧範囲をカバーすることにより、電源の動作時間は最大限まで延長されるので、シャットダウンする前にハウスキーピング・タスクを実行するかシステムが回復するのに十分な時間がシステムに与えられます。

太陽電池式のLEDドライバ

太陽電池によって発電される電力は、照光条件によって大きく変動します。このため、太陽電池への照光量が不十分な場合に連続した電力を供給するには、スーパーキャパシタなどの再充電可能な蓄電デバイスが必要です。スーパーキャパシタの電荷蓄積容量はバッテリと比較するとかなり小さいですが、スーパーキャパシタは保守の必要性がきわめて少なく、充電が容易であり、そのサイクル寿命はバッテリより数桁長いことが分かっています。

この蓄電デバイスは昇降圧DC/DCコンバータであるLTC3536と組み合わせることができます。LTC3536は、光電池などの低い入力電圧からエネルギーを取り込んで管理する作業を簡素化する目的で設計されています。LTC3536は最低1.8Vの入力電圧まで動作し、出力電圧より高いまたは低い広範な入力電圧にわたって高い効率を実現します。

非常用LED電灯向けで太陽電池に接続して使用されるLEDドライバのアプリケーションを図3 に示します。電灯が消灯しているとき、LTC3536はシャットダウン状態です。静止電流が1µAより少ないので、周辺光がなくなったときにスーパーキャパシタの放電を最小限に抑えることができます。

図3.太陽電池パネル・アプリケーション

図3.太陽電池パネル・アプリケーション

LED電灯が点灯すると、LTC3536 はSHDNピンによってオンになり、105mAの固定負荷電流をLEDに供給します。この電源の高い効率を図4に示します。これにより、2つの直列コンデンサ(容量:60F)が1.8Vまで緩やかに放電できることが分かります。LTC3536は出力電圧とLED電流を安定化し、スーパーキャパシタが5Vまで充電されている場合、14分間の点灯を保証します。スーパーキャパシタの値を大きくするか、適切な充電回路を持ったバッテリを使用すれば、この時間を長くすることができます。

図4.図3の太陽電池パネル・アプリケーションの効率

図4.図3の太陽電池パネル・アプリケーションの効率

まとめ

LTC3536は、出力電圧より高いまたは低い入力電圧で正確な出力電圧を維持します。その設定可能なスイッチング周波数と低RDS(ON)の内蔵パワー・スイッチを低ノイズ・アーキテクチャと組み合わせることにより、LTC3536は高性能で小型の高効率ソリューションを実現できます。