LTspice:指数関数に対応する電圧源を使用して、トランジェントをモデル化する

LTspice:指数関数に対応する電圧源を使用して、トランジェントをモデル化する

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Mitchell Lee

Gabino-Alonso

Gabino Alonso

本稿では、サージ・ストッパICホット・スワップ・コントローラICについて検討する際に必要となるシミュレーション手法を紹介します。その手法は、特定の電圧トランジェントや電流トランジェントが生じた場合の回路の動作を把握するために使用されます。通常、それらのトランジェントは二重指数波形を使用してモデル化されます。その際には、ピーク電圧、立上がり時間(通常は10%~90%)、ピーク電圧の50%に戻るまでの立下がり時間、直列抵抗などの値を使用することになります。

一般化された指数波形

一般化された指数波形

LTspice®では、二重指数関数(EXP)を使用できます。これは、電圧源を用いたトランジェントのモデル化に理想的なものです。但し、tRISE、tFALL、VPEAKといったパラメータの値を代入するだけでモデルを実現できるといった単純な話ではありません。EXP関数では、VINITIAL、VPULSED、Rise Delay、Fall Delay、Raise Tau、Fall Tauというパラメータが標準的に使用されます。

EXPベースの電圧源で使用するパラメータ

EXPベースの電圧源で使用するパラメータ

tFALL:tRISE > 50:1の場合のシンプルなモデル

ここでは、tFALLは100%から50%に降下するまでの立下がり時間、tRISEは10%から90%に達するまでの立上がり時間であるとします。その場合、tFALL:tRISE > 50:1の条件に当てはまる波形については、以下のような変換を行うことによってEXP関数で使用するパラメータの値を得ることができます。

VINITAL = 0
VPULSED = VPEAK × 1.01
Rise Delay = 0 (遅延なし)
Rise Tau = tRISE/2.2
Fall Delay = tRISE
Fall Tau = tFALL × 1.443

このような変換を行った上で、電圧源の「Parasitic Properties」の下の「Series Resistance」フィールドに適切な値を入力してください。あるいは、独立した部品として直列抵抗を回路図に追加してください。

以下に示すのは、EXP関数を使用して非反復パルス波形を生成する場合の設定例です。立上がり時間は10マイクロ秒、立下がり時間は1000マイクロ秒、ピーク電圧は600V、直列抵抗は50Ωであるとしています。

EXPベースの電圧源の設定例(立上がり時間は10マイクロ秒、立下がり時間は1000マイクロ秒、ピーク電圧は600V)

EXPベースの電圧源の設定例(立上がり時間は10マイクロ秒、立下がり時間は1000マイクロ秒、ピーク電圧は600V)

EXPベースの電圧源の記述例(立上がり時間は10マイクロ秒、立下がり時間は1000マイクロ秒、ピーク電圧は600V)

EXPベースの電圧源の記述例(立上がり時間は10マイクロ秒、立下がり時間は1000マイクロ秒、ピーク電圧は600V)

上記のEXPベースの電圧源を使用すると、以下に示すような波形が得られます。

EXPベースの電圧源によって得られる波形

EXPベースの電圧源によって得られる波形

2つの波形は、それぞれ上記のEXP電圧源をオープン・サーキットに接続した場合(VGEN)とTVS(Transient Voltage Suppressor)でクランプした場合(VIN)に対応しています。また、TVSの瞬時消費電力も表示されています(「Alt」キー+左クリックで表示)。以下に示す波形は、立上がり時間の部分を表しています。

EXPベースの電圧源によって得られる波形の立上がり部分

EXPベースの電圧源によって得られる波形の立上がり部分

トランジェントのバーストを繰り返す

電気的高速トランジェント(EFT:Electrical Fast Transient)のシミュレーションを実施したい場合には、どのようにすればよいのでしょうか。つまり、トランジェントのバーストが繰り返し生じる状態を表現したい場合です。LTspiceのEXP関数には、それを実現するための拡張構文が用意されています。ただ、これについてはドキュメントに記載はなく、標準のコンポーネント・エディタで使用することもできません。例えば、以下のような記述を行うことで使用できます。

EXP(V1 V2 Td1 Tau1 Td2 Tau2 Tpulse Npulse Tburst)

ここで、Tpulseはパルスの期間、Npulseはバーストあたりのパルスの数、Tburstはバーストの繰り返し周期です。これらを既存のEXP関数に追加するには、回路図中のEXPの文字列を右クリックして直接編集します。

以下に示すのは、10マイクロ秒のトランジェントが75回続くバースト信号の記述例です。

EXP(0 1.10 0 1.16n 1n 63.5n 10u 75)

トランジェントのバースト

トランジェントのバースト

EXPの式にTburstを追加すれば、トランジェントのバーストを設定した周期(以下の例では300ミリ秒)で繰り返すことができます。

EXP(0 1.10 0 1.16n 1n 63.5n 10u 75 300m)

トランジェントのバーストの繰り返し

トランジェントのバーストの繰り返し

tFALL:tRISE < 50:1の場合に対応する2つの電圧源を使用したモデル

tFALL:tRISE < 50:1の条件に当てはまる波形については、1つのEXP関数によって立上がりエッジと立下がりエッジの両方を記述するのは困難です。そこで、以下に示す2つの電圧源を直列に接続して使用します。

  • 立上がりエッジ用のPWL関数(各パラメータは以下のとおり)

time1 = 0
value1 = 0
time2 = tRISE (tRISEは0%から100%まで)
value2 = VPEAK

  • 立下がりエッジ用のEXP関数(各パラメータは以下のとおり)

VINITIAL = 0
VPULSED = −VPEAK
Rise Delay = tRISE
Rise Tau = (tFALL − tRISE) ×1.443(波形の立下がりエッジ)
Fall Delay = 1K (2つ目の指数曲線をシミュレーション時間の範囲外に配置)

以下に示すのは、EXP関数とPWL関数を使用して非反復パルス波形を生成する場合の例です(立上がり時間は8マイクロ秒、立下がり時間は20マイクロ秒、ピーク電圧は600V、直列抵抗は50Ωとします)。

EXP/PWLをベースとする電圧源(立上がり時間は8マイクロ秒、立下がり時間は20マイクロ秒、ピーク電圧は600V)

EXP/PWLをベースとする電圧源(立上がり時間は8マイクロ秒、立下がり時間は20マイクロ秒、ピーク電圧は600V)

EXP関数とPWL関数の詳細については、LTspiceのブログやヘルプ・ファイル(「F1」キー)を参照してください。