今後の半導体業界では、新興企業が保有する技術が重要な役割を果たすようになる可能性があります。そこで、アナログ・デバイセズは、そうした新たな技術の開発を支援するために、「Analog Garage」というプログラムを開設しました。本稿では、アナログ・デバイセズで新興ビジネス/テクノロジ・グループのバイス・プレジデントを務めるPat O'Dohertyが、同プログラムについてQ&A形式で詳しく説明します。
Analog Garageとは何ですか?
Analog Garageは、新興企業を主な対象とするインキュベータ・プログラムです。画期的な新技術やビジネス・モデルの提案、探求、拡大を図るための道筋を提供することを目的としています。新興企業だけでなく、起業家精神を持つアナログ・デバイセズの社員に対する支援も行います。このプログラムにAnalog Garageという名前を付けたことには、2つの理由があります。1つは、あらゆる世界を対象とした計測を伴うアプリケーションでは、アナログ技術に関するノウハウが重要な意味を持つということを広く認識してもらうためです。もう1つの理由は、ガレージや地下室など、技術革新の歴史の中で多くの出発点となった、何の変哲もないすべての場所に対して謝意を示すことです。Analog Garageにより、新興企業や大学、研究センター、そして当社の従業員は、難易度の高い課題の解決に必要なサポートを得ることができます。リスクに対する耐性を持った環境で協力しながら、実験などに集中して取り組み、迅速に開発を進めることが可能になります。
Analog Garageは、4年前に、マサチューセッツ州ケンブリッジで約20名の技術者が参集して始動しました。その後、規模が拡大したことから、当初のオフィスが手狭になったので、1年前にボストンに移転しました。現在、ボストンのオフィスには、信号処理、機械学習、AI(人工知能)、材料科学、システム・エンジニアリング、セキュリティ、ソフトウェア/クラウドといったバックグラウンドを持つ約70名の技術者が在籍しています。これらの技術を専門とする技術者は、従来の典型的な半導体企業にはあまり存在しないでしょう。こうしたスキルセットを有する技術者で構成されていることが、Analog Garageの大きな特徴です。
本拠地はボストンにありますが、Analog Garageの活動はそこだけで行われているわけではありません。Analog Garageの名の下、世界中で様々な取り組みが行われています。その取り組みとは、私たちの未来の構築につながる画期的な新技術やビジネス・モデルを見出すことです。インド、中国、アイルランド、ドイツ、米国など、どの国/地域に勤務していても、アナログ・デバイセズの従業員であれば、新たなアイデアを提案することができます。Analog Garageのチームは、プロジェクトの推進者らと協力してそのアイデアを練り上げます。その結果、一定の基準が満たされたなら、その時点でベンチャー委員会に対して提案が行われます。提案を受けた委員会は、出資するか否かの判断を行います。出資が決まった場合、プロジェクト・チームは、本業と並行してプロジェクトに取り組むことができます。あるいは、本業を一定の期間休んでプロジェクトに専念することも可能です。プロジェクトは、ベンチャー・キャピタルからの出資を受ける新興企業と全く同じように管理されます。つまり、エンジェル、シード、シリーズA、シリーズBというステージが設定され、プロジェクトのマイルストーン、資金、進捗といった観点から達成度が厳しく問われることになります。
Analog Garageは、アナログ・デバイセズの中でどのような位置づけにありますか? Analog GarageとR&D部門の違いは何ですか? また、どのような点で重複していますか?
Analog Garageは、アナログ・デバイセズのCTO(最高技術責任者)直属の部署である新興ビジネス/テクノロジ・グループの一部門です。60億米ドル(約6480億円)の売上高を誇るその他の事業部門とは切り離して管理されており、物理的にも独立した場所に拠点を構えています。Analog Garageでは、5~10年以内に大きな収益を生み出す可能性を秘めたハイリスク、ハイリターンのビジネス・チャンスに焦点を絞っています。一方、アナログ・デバイセズの事業部門に所属するR&Dグループは通常、5年以内に製品としての収益化が期待できる技術を対象としています。このような違いはありますが、事業部門もAnalog Garageも、アナログ・デバイセズの最優先事項である多くのプロジェクトで密接に連携を図っています。
従業員はどのようなことをモチベーションとしてAnalog Garageのプロジェクトに取り組んでいるのですか?
Analog Garageに所属する従業員の多くは、信号処理、機械学習、材料科学などの博士号を取得しています。また、世界中の主要な大学や、ディープ・テック分野の多種多様な新興企業の出身者が多くを占めています。アナログ・デバイセズが有する広範な基礎技術に支えられながら、実世界の信号のセンシング、シグナル・コンディショニング、解釈、接続、解析にまたがる画期的な新技術を生み出す大きな機会が得られることが、彼らにとっての動機づけとなっています。
Analog Garageと社内の他部門の間では、どのようなコミュニケーションが図られていますか?
事業部門や製造グループとは、顔と顔を突き合わせての経営監査、テクニカル・レビュー、プロジェクトのコラボレーションなどを通して常にコミュニケーションをとるようにしています。プロジェクトに関する情報は、社内のウェブ・サイトも使って共有されます。どのようなプロジェクトが提案されたのか、資金を得たのか、取りやめになったのか、新ビジネスのシードとしてAnalog Garageから事業部門に引き渡されたのかといったことを、すべての従業員が確認できるようになっています。
Analog Garageのプロジェクトならびにその成果は、どのように活用されるのですか? Analog Garageに所属する従業員は、プロジェクトの成果が活用されたら、どのようなメリットを得ることができるのですか?
Analog Garageのイニシアチブは、一般的には新ビジネスのシードとして事業部門に移管されます。それ以外にも、新たな事業部門が立ち上げられるケースや、スピンアウトの形でアナログ・デバイセズから独立して成長を目指すケースがあります。そうした判断は、主に戦略的な整合性や適合性に基づいて事業部門が行います。
Analog Garageに所属する従業員と、Analog Garageに参加する世界中の従業員には、自らが情熱を注ぐ画期的なプロジェクトに取り組む機会が与えられます。これは、アナログ・デバイセズだけでなく、彼ら従業員にとっても大きなメリットになることがわかっています。当社が優秀な人材を雇用して維持する上でもプラスに作用します。
アナログ・デバイセズは、Analog Garageにどのようなことを期待しているのですか? また、今後どのように発展していくべきだと考えていますか?
Analog Garageが成長を続け、より画期的な技術を見出し、開発していくことを期待しています。その結果、アナログ・デバイセズの長期的な成長と多角化に大きく貢献してくれると考えています。