要約
多くのアプリケーションにおいて、過電圧に対して保護手段を講じることは非常に重要です。本稿では、保護回路をどのように用いたら過電圧を解消できるかを説明します。
はじめに
過電圧は、例えば、配電システムにおいて高負荷を急にスイッチ・オフした場合などで生じます。同じ電源に接続されている他の負荷を保護するために、サージ保護を推奨します。図1に、保護対象となる電子回路の前段にLT4363を用いた保護回路の配置を示します。この例は、公称電源電圧が24Vの工業用アプリケーションのものです。
通常、保護対象の電子機器は、過電圧の間にも中断することなく動作し続けることが必要です。そのため、保護回路はサーキット・ブレーカ(図1のQ1)を線形の範囲で動作させる必要があります。MOSFETは、過電圧が発生している間中、スイッチ・オフされるわけでもスイッチ・オンされるわけでもなく、部分的にスイッチ・オンされます。この動作状態においては、MOSFETは過電圧を低下させる抵抗のように機能します。したがって、増加する電圧のエネルギーは、MOSFET Q1において熱に変換されます。MOSFETの選択に応じて、過剰な熱によって破壊されるまでの一定時間、この熱に耐えることができるだけです。
図2に、MOSFETの代表的な安全動作領域(SOA)曲線を示します。この曲線は、どれだけの電圧降下でどれだけの電流をどれだけ長い時間、デバイスが流すことができるかを示したものです。MOSFETを通じてより大きな電流をより長い時間流す必要があるならば、大きなSOA範囲を持つ大きなMOSFETを選択する必要があります。SOA範囲が大きいほど、MOSFETは大きくなります。これはコンポーネントのコストも増加させます。
コンポーネントのサイズを最適なものにするために、できる限り最小のMOSFETを安全に動作させるよう試行されます。つまり、MOSFETのサイズが大きくなりすぎずに、かつ、SOAの大部分をアプリケーションで用いることができるようにします。そのためには、コントローラICが動作状態を正しく認識し、動作がSOAの安全範囲で行われているかどうかを判定できることが必要です。しかし、多くのコントローラICはMOSFETを流れる電流を測定するだけです。MOSFETでの電圧降下についても知ることが望まれます。
LT4363サージ・プロテクタ・コンポーネントは、MOSFETを流れる電流のレベルだけでなく、ソース・ドレイン間に加わる電圧も考慮します。つまり、MOSFETは線形モードでより安全に動作できます。それにより、より小さなMOSFETを選択でき、システム・コストを削減できます。
この保護メカニズムは、図1のTMRピンにあるタイマー・コンデンサを、測定した電流および測定したドロップアウト電圧に応じて充電することで機能します。コンデンサの電圧が1.275Vを超えると、警告が発せられます。1.375Vを超えると、MOSFETは完全にオフに切り替わり保護されます。
図1のLT4363のタイマー・コンデンサの電圧が図1のMOSFETQ1のVDS電圧によってどのように増加するかを、図3に示します。MOSFET Q1を流れる電流に対しても同様の充電図があります。これらのパラメータにより、確実にMOSFETのSOA曲線を超えることのないようにできます。このようにして安全動作と同時に過電圧保護が実現できます。
まとめ
過電圧保護モジュールは極めて単純で地味なもののように思われます。しかし、過電圧保護の特性や適切なMOSFETの選択においては、わずかな特徴が大きな違いを生みだすことがあります。