要約
このアプリケーションノートは、設計者が正しい外付け部品を選択し、自動車用アンテナ検出回路の性能目標を満たす上で役立ちます。文中の計算式では、MAX16913/MAX16913Aリモートアンテナ電流検出アンプおよびスイッチに重要な外付け部品の指定方法について詳しく説明しています。文中の計算式を利用する事により、デバイスの動作範囲とアナログ出力電圧の精度も算定することができます。計算例を示して説明します。
はじめに
MAX16913/MAX16913A (図1)は、車載アプリケーションでリモート無線アンテナにファントム電源を供給する、高精度な電流検出アンプ(CSA)およびスイッチです。さらに、MAX16913/MAX16913Aは、短絡保護、電流制限保護、オープン負荷検出の各機能を提供します。設計技術者は、これらのアンテナ検出回路が性能目標を満たすように、設計時に正しい外付け部品を選択する必要があります。
アンテナアプリケーションでCSAおよびスイッチを利用する場合、設計者は、オープン負荷、正常動作、短絡、電流制限の動作範囲を算定しなければならないことがよくあります(図2)。さらに、CSAのアナログ出力電圧の精度も検証する必要があります。
図1. MAX16913AリモートアンテナCSAおよびスイッチの標準動作回路
図2. これらのCSAの動作範囲
このアプリケーションノートでは、オープン負荷スレッショルド(検出範囲)の許容誤差を設定するため、検出抵抗と抵抗分圧器の計算式を説明します。外付け部品とMAX16913/MAX16913Aの両方の許容誤差を考慮した上で、性能を最大限に引き出すため適切な許容誤差範囲を計算します。計算式はこちらで入手できます。以下に計算例を説明します。
必要な検出抵抗の計算
理論的には、最大動作電流によって電流検出抵抗RSENSの両端にフルスケール検出電圧が生じます(図1)。INとSENS間の差動電圧が最小フルスケール検出電圧(87mV)*を超えないように、RSENSの最大値を計算します。
ここで、最大保証出力電流ILOAD(FULL-SCALE) (図2)のときにVDIFF(MIN) = VIN - VSENSE = 87mV (min)です。
しかし、抵抗には必ず許容誤差があるため、実際の抵抗値が定格許容誤差だけ高くなり、デバイスが短絡を誤検出する可能性があります。抵抗の定格許容誤差を考慮に入れて、公称最大抵抗値を次のように計算することができます。
ここで、RSENS(MAX)は上で計算した最大検出抵抗で、RSENS-TOLERANCEは抵抗器の定格許容誤差です。検出抵抗の厳密な計算値は利用できない場合があります。その場合、RSENS(MAX)(NOM)よりも小さな値で最も近いものを選択し、それを使用してRSENS_P(NOM)を計算します。また、基準の抵抗器を直列または並列に組み合わせて、最適な検出抵抗を実現することもできます。
短絡電流検出範囲の計算
公称検出抵抗を選択しました。次に、短絡検出時の検出抵抗を流れる電流の標準値は、次のように計算することができます。
ここで、VSC(TYP)は短絡電圧スレッショルドの標準値(100mV)*で、RSENS_P(NOM)は上で選択した検出抵抗です。
しかし、VSCとRSENSが相関関係のない(最小値と最大値が互いに無関係に変化する)許容誤差を持つため、追加的な誤差を考慮する必要があります。そのため、ワーストケースの短絡電流検出範囲は、次のとおりです。
および
ここで、VSC(MIN)は短絡電圧スレッショルドの最小値(87mV)*で、VSC(MAX)は最大値(110mV)*です。したがって、次の結果が得られます。
RSENS_P(MAX) | = RSENS_P(NOM) + its tolerance rating + RSENS_P(MIN) |
= RSENS_P(NOM) - its tolerance rating |
したがって、電流がISC(MIN)とISC(MAX)の間にあるときに、短絡フラグ(アクティブローSC)がローになります。
電流制限範囲の計算
短絡電流検出範囲の場合と同様、電流制限範囲の標準値は、次のとおりです。
ここで、VLIM(TYP)はINとSENS間の電流制限スレッショルド電圧の標準値(200mV)*で、RSENS_P(NOM)は選択した検出抵抗です。
VLIMとRSENSの許容誤差に相関関係がないことを考慮して、検出抵抗を通じたワーストケースの電圧制限範囲は、次のように計算することができます。
および
ここで、VLIM(MIN)はINとSENS間の電圧の最小値(173mV)*で、VLIM(MAX)は最大値(225mV)*です。
オープン負荷検出範囲の計算
この手順は、MAX16913とMAX16913Aで異なります。
MAX16913の場合
MAX16913のオープン負荷検出スレッショルド(アクティブローOL)は、内部的にVOLT = 0.66Vに設定されます*。1Ωの抵抗器を使用した場合の対応する電流範囲は、10mA (min)、20mA (typ)、30mA (max)とデータシートに規定されています。これらの値には、オープン負荷コンパレータ、ゲインアンプ、および外付け検出抵抗(1Ω)の許容誤差が含まれています。
別の検出抵抗を使用してオープン負荷検出範囲を算定するには、まず与えられた電流レベルを電圧に変換する必要があります。
次に、上で計算した値を使用して、オープン負荷電流検出スレッショルドの標準値を計算します。
ここで、VOLT(TYP)は上で計算したオープン負荷検出スレッショルド電圧の標準値で、RSENS_P(NOM)は選択した検出抵抗です。
オープン負荷電流スレッショルドの許容誤差と検出抵抗の許容誤差も考慮して、オープン負荷検出の電流範囲を計算します。
および
ここで、VOLT(MIN)とVOLT(MAX)は、オープン負荷検出スレッショルド電圧の最小値と最大値です。RSENS_P(MIN)とRSENS_P(MAX)は、上で計算した検出抵抗の最小値と最大値です。
ワーストケースのオープン負荷検出範囲は、IOL(MIN)とIOL(MAX)の間になります。
MAX16913Aの場合
MAX16913Aのオープン負荷スレッショルドは、REF、OLT、GND間の抵抗分圧器を使用して、外部で調整することができます。そのため、最初の作業は、外付け抵抗分圧器を指定することです。
外付け抵抗分圧器の指定
まず、次の式を使用して、OLTピンで必要とされる電圧を選択し、目的の公称OLスレッショルドを設定します(OLTピン位置、図1)。
VOLT(V) = IOLT(A) × RSENS(Ω) × AV(V/V) + 0.133 × VREFここで、AVは(VIN - VSENS)からVAOUTの利得(13V/V)で、VREFはREFピンの電圧(3V)です*。さらに、OLTピンにおける外付け抵抗の比は、次の式を使用して計算することができます。
R2/R1 = VOLT/(VREF × (1 - VOLT/VREF))ここで、VREFはREFピンの電圧(3V)です。これで、R1またはR2に任意の基準値を選択すれば、もう一方の抵抗値を計算することができます(図1)。ただし、抵抗分圧器のインピーダンスが内部リファレンス電圧に過負荷とならないようにしてください。
オープン負荷スレッショルド電圧範囲の算定
R1とR2の基準抵抗値を定義しました。次に、VREFと抵抗R1およびR2の許容誤差に相関関係がないことを考慮して、オープン負荷ピンのワーストケースの電圧範囲VOLTwは、次のように計算することができます。
および
ここで、R2(MIN)はR2の公称値から許容誤差値を引いたものです。これは、R2(MIN) = R2 - (R2 × (R2TOL[%]/100%))と書くこともできます。R1(MAX)はR1の公称値に許容誤差を加えたものです。
ワーストケースのオープン負荷電流検出範囲の算定
これまでに、VOLTw(MIN)とVOLTw(MAX)を計算しました。次に、REF出力電圧VREF、検出抵抗RSENS_P(NOM)、および利得AVの許容誤差を考慮して、オープン負荷検出(アクティブローOL)時のワーストケースの電流範囲は、次のように計算することができます。
および
ここで、VOLTw(MIN)、VOLTw(MAX)、RSENS_P(MIN)、RSENS_P(MAX)は、上で計算しました。AVは、(VIN - VSENS)からVAOUTの利得で、最小値と最大値がそれぞれ12.87と13.13です*。VREF(MIN)とVREF(MAX)は、REFピン電圧の最小値と最大値(2.7Vと3.3V)です*。
AOUT電圧測定によるRSENS電流の評価
AOUTの精度
特定の検出抵抗RSENSと、それを流れる一定の電流ISENSを使用して、電流検出アンプの出力AOUT (マイクロコントローラのアナログ-デジタルコンバータ(ADC)など)で測定したワーストケースの電圧値範囲を計算することができます。AOUT_Zと検出抵抗RSENSの相関関係のない許容誤差も考慮します。したがって、次の結果が得られます。
VAOUT(MIN)(V) = AOUT_Z(MIN)(V) + AV(MIN)(V/V) × RSENS(MIN)(Ω) × ISENS(A)および
VAOUT(MAX)(V) = AOUT_Z(MAX)(V) + AV(MAX)(V/V) × RSENS(MAX)(Ω) × ISENS(A)ここで、AV(MIN)は12.87V、AV(MAX)は13.13Vです*。AOUT_Z(MIN)とAOUT_Z(MAX)は、AOUTゼロ電流出力電圧の最小値(340mV)*と最大値(460mV)*です。RSENS(MIN)とRSENS(MAX)は、それぞれ検出抵抗から許容誤差を引いたものと、検出抵抗に許容誤差を加えたものです。
言い換えると、検出した電流から、VAOUT(MIN)とVAOUT(MAX)間におけるワーストケースのAOUT電圧の変化が求められます。
上記のワーストケースの電圧レベルを選択し、それらの電圧から電流を逆算するマイクロコントローラのソフトウェアを使用して、次のように計算することができます。
および
ここで、VAOUT(MIN)とVAOUT(MAX)は上で計算しました。AVは(VIN - VSENS)からVAOUTの利得(13V/V)*です。AOUT_Z(TYP)は、AOUTゼロ電流出力電圧の標準値(400mV)*です。RSENSは検出抵抗の公称値です。
したがって、アナログ出力電圧を使用して、検出抵抗を流れる特定の電流を測定すると、マイクロコントローラのADCでは、IEVALUATED(MIN)とIEVALUATED(MAX)の間で電流値が得られます。
電流測定の許容誤差ITOLは、次のとおりです。
計算例
これらの計算例では、正常動作範囲(ILOAD(FULL-SCALE))の上端が100mAであるアンテナのファントム電源アプリケーションを仮定しています。その場合、必要な検出抵抗の最大値は、次のとおりです。
許容誤差1%の抵抗器を使用した場合、選択可能な最大検出抵抗は、次のとおりです。
0.861Ωの抵抗は基準値として提供されていないため、E96シリーズから、次に小さな値であるRSENS-P(NOM) = 0.845Ωを選択します。以下の計算には、この値を使用します。
次に、短絡検出の標準電流値は、次のように計算することができます。
前に示したとおり、短絡電流検出範囲の最小値と最大値は、ISC(MIN)とISC(MAX)の間になります。これらの値を計算するには、まず選択した検出抵抗の最小値と最大値が必要です。
これによって、短絡電流検出範囲の限度を導くことができます。
および
短絡電流検出範囲の場合と同様、電流制限範囲の標準値は、次のとおりです。
許容誤差を考慮して、電流制限範囲の最小値と最大値は、ILIM(MIN)とILIM(MAX)の間になります。
および
MAX16913の場合、オープン負荷検出スレッショルドの標準値は、次のとおりです。
許容誤差を含めて、最小値と最小値は次のとおりです。
および
MAX16913Aの場合は、オープン負荷検出範囲の最大電流値が30mAであるアプリケーションを仮定します。そのため、抵抗分圧器の中心点の最大電圧値は、次のとおりです。
次に、R2としてE96シリーズの基準抵抗である90.9kΩ (1%)を選択し、その最大値を計算します。
分圧器の高い方の抵抗の最小抵抗値は、次のとおりです。
公称値は、こちらも許容誤差1%を仮定すると、次のとおりです。
より高い基準値のうち、同じ許容誤差で選択可能な最も近い値は、R1 = 392kΩです。同様に許容誤差を考慮して、次のように計算します。
R2の最小値は次のとおりです。
これらの値で計算を進めると、オープン負荷スレッショルド電圧範囲は、次のとおりです。
および
次に、MAX16913Aのオープン負荷検出に関するワーストケースの電流範囲は、次のとおりです。
および
アナログ出力AOUTの精度を評価するために、上で選択したのと同じ検出抵抗(0.845Ω)を仮定して、100mAの負荷電流で精度を評価します。この電流では、AOUT電圧の最小値と最大値は、次の2つの値の間になります。
VAOUT(MIN)(V) = AOUT_Z(MIN)(V) + AV(MIN)(V/V) × RSENS(MIN)(Ω) × ISENS(A) = 340mV + 12.87(V/V) × 0.837Ω × 100mA = 1.417Vおよび
VAOUT(MAX)(V) = AOUT_Z(MAX)(V) + AV(MAX)(V/V) × RSENS(MAX)(Ω) × ISENS(A) = 460mV + 13.13(V/V) × 0.853Ω × 100mA = 1.58Vこれらの電圧を使用し、マイクロコントローラのソフトウェアと同様に(データシートの標準値を使用して)逆算すると、次の2つの値の間で評価電流が導かれます。
および
そこで、測定電流のワーストケースの許容誤差は、次のように計算することができます。
*これらの計算の詳細については、MAX16913/MAX16913Aのデータシートを参照してください。