高電圧への耐性、柔軟性、精度に優れる電流検出アンプ
「LT6100」と「LTC6101」は、ハイサイドの電流検出向けに設計されたアンプ製品です。この種のICは、電流検出アンプと呼ばれています。高電圧に対応しつつ、高い精度を実現していることが両ICの最大の特徴です。綿密な設計により信頼性と堅牢性を高めている一方で、シンプルなアーキテクチャによって柔軟性と使いやすさも提供しています。
それ以外にも、電源電圧範囲が広い、ユーザがゲインを設定できる、入力電流が少ない、電源電圧変動除去比(PSRR)が高い、オフセット電圧が小さいといった特徴を備えています。そのため、産業分野や車載分野で必要になる高精度の電流検出回路や、過負荷への対処に向けた電流保護回路などの用途に最適です。
LT6100は、最大48Vの入力電圧(電流検出の対象)に対応します。LTC6101と比べると使いやすさに優れる製品だと言えます。外付け部品はほとんど必要なく、電力もほとんど消費しません。スプリット入力や電源の遮断、バッテリの逆接続といった異常に対する耐性も備えています。
一方のLTC6101は、電源電圧の絶対最大定格が70Vの製品です。LT6100と比べて高速に動作するという特徴も備えています。また、柔軟性が高く、外付け抵抗によってゲインを設定できます。両製品共に、各種の小型パッケージで提供されています。
電流検出の仕組み
一般に、電流検出は2つの方法のうちいずれかで行われます。1つは磁気を利用する方法です。その場合、透磁性材料を使って必要な構造を形成し、コイルやホール効果センサーに磁界を結合させます。コイルによるピックアップは、被測定回路に対して影響を及ぼすことはありません。しかし、本質的にDCの情報を取得できないという欠点があります(但し、特殊なフラックスゲート方式の検出方法であればDCにも対応できます)。また、ホール・センサーを使用する方法は、DC測定を必要とするほとんどのケースに対して十分な精度と感度を提供できません。
もう1つの方法は、値が既知の抵抗を使用するというものです。その種の抵抗は、電流検出抵抗あるいは単に検出抵抗と呼ばれます。検出抵抗は、負荷のパスに挿入して使用します(図1)。すると、負荷電流に比例して抵抗の部分でわずかな電圧降下が発生します。その電圧の値を測定し、検出抵抗の値で割ることによって電流値を算出することができます。一般に、検出抵抗は回路の電源側に挿入するのが望ましいと言えます。そうすることで、一般的な接地方法を維持しつつ負荷の異常を検出することが可能になります。正の電源電圧に対し、そのように検出抵抗を接続して電流を検出する場合、その測定方法はハイサイドの電流検出と呼ばれます。詳細は後述しますが、電流検出アンプに入力される小さな検出電圧は、大きな同相信号に重畳しているような状態になります。そのため、必要な精度とダイナミック・レンジを確保するには、実装において特殊な要件が発生することになります。
従来は、そうした実装として、オペアンプや計装アンプを使用し、独自の回路を構築するケースがほとんどでした。しかし、そうした回路の多くは動作電圧範囲の面で制約を抱えていました。また、電圧変換を行ってグラウンドを基準とする信号を取得するために、多くの部品を追加する必要がありました。それに対し、LT6100/LTC6101を採用すれば、そうした回路よりもはるかに優れたシンプルなソリューションを実現することができます。そのようにして構築したソリューションは、ハイサイドの電流検出に求められるほとんどの要件を満たすはずです。
表1は、電流検出に関連する製品をピックアップし、それぞれについて説明したドキュメントを一覧の形でまとめたものです。LT6100/LTC6101のデータシートも、非常に参考になります。また、電流検出専用のチップ/チップ・セットを利用するアプリケーションの詳細については、表2を参照してください。
ドキュメント | ハイサイド/ローサイド | 単方向/双方向 | VOS (CMRR) | 入力電圧/特徴 |
LT6100のデータシート | ハイサイド | 単方向 | 300 | 48V |
LTC6101のデータシート | ハイサイド | 単方向 | 300 | 60V |
LT1787のデータシート | ハイサイド | 双方向 | 75µV | 60V, 70µA |
LT1990のデータシート、p.1、p.16 | 両方 | 双方向 | (80dB) | ±250V |
LT1991のデータシート、p.1、p.19~22 | 両方 | 双方向 | (80dB) | ±60V |
LT1995のデータシート、p.20 | 両方 | 双方向 | 高速 | |
LTC2054のデータシート、p.12 | ハイサイド | 双方向 | 3µV | 60V |
LTC2054のデータシート、p.1 | ローサイド | 単方向 | 3µV | –48V |
LT1494のデータシート、p.1、p.16 | ハイサイド | 単方向、双方向 | 約1mV | 36V |
LTC2053のデータシート、p.13 | ハイサイド(どちらにも対応) | 単方向 | 10µV | 5V |
LTC6800のデータシート、p.1 | ハイサイド(どちらにも対応) | 単方向 | 100µV | 5V |
LTC6943のデータシート、p.1 | 両方 | 単方向 | (120dB) | 18V |
LT1620のデータシート | 両方 | 単方向 | 5mV | 36V、電力 |
LT1366のデータシート、p.1 | ハイサイド | 単方向 | 200µV | 36V |
LT1797のデータシート、p.1 | ローサイド | 単方向 | 1mV | -48V、高速 |
InfoCard 27 | 各種の回路 | |||
LT1637のデータシート、p.13 | ハイサイド | 単方向 | 約1mV | 44V、Over-The-Top |
LT1490Aのデータシート、p.1 | ハイサイド | 双方向 | 約1mV | 12V、Over-The-Top |
デザイン・ノート341 | ローサイド | 単方向 | 約1µV | -48V、ADCで直接検出 |
Linear Technology Magazine Aug. 2004, p.33 | ローサイド | 双方向 | 2.5μV | ADCで直接検出 |
デザイン・ノート297 | ハイサイド | 単方向 | 2.5μV | ADCで直接検出 |
LTC1966のデータシート、p.29、p.32 | 両方(AC) | RMS電流 | ||
アプリケーション・ノート92 | ハイサイド | 単方向 | 各種 | アバランシェ・フォトダイオード |
ドキュメント | アプリケーション |
LTC4060のデータシート | NiMH/NiCd用のチャージャ |
Linear Technology Magazine Mar. 2003, p.24 | バッテリ・チャージャ |
Linear Technology Magazine May 2004, p.24 | バッテリ・ガス・ゲージ |
アプリケーション・ノート89 | 5V、TECコントローラ |
アプリケーション・ノート66/84 | スイッチング電源 |
LT Chronicle Jan. 2003, p.7 | 車載温度 |
デザイン・ノート1009 | カメラのフラッシュ |
デザイン・ノート312 | VRM9.x |
デザイン・ノート347 | ブリック |
LTC4259、 LTC4267のデータシート | PoE |
デザイン・ソリューション43 | Intel (Altera) のFPGA |
電流検出に関連する誤差の要因
センサーを使用するあらゆる設計と同様に、電流検出についてもいくつかの考慮すべき潜在的な誤差要因が存在します。まず、回路の精度は、検出抵抗の値をどれだけ正確に把握しているのかによって大きく左右されます。検出抵抗には、許容誤差と温度依存性が存在します。それらによって誤差が生じます。また、測定の対象となるパスの寄生抵抗や大きなdI/dtループによって誤差が加わる可能性もあります。そうした影響を最小限に抑えるためには、検出抵抗にケルビン接続を正しく適用することが重要です1。
検出抵抗の次に大きな影響を及ぼす誤差要因は、電流検出アンプの電圧オフセットです。このオフセットにより、測定値に対し、レベルに依存しない不確定性が生じるからです。設計上の最大値を大きく下回る電流レベルで精度を維持する上では、オフセットの値が特に重要になります。アプリケーションによっては、この項の静的な成分をキャリブレーションによって除去する(ソフトウェアを使用するなど)ことが望ましいケースもあります。但し、そのような手法は必ずしも現実的ではありません。
もう1つ考慮すべき誤差要因があります。それは、スケール・ファクタの設定に必要な抵抗の許容誤差です。この許容誤差は、検出抵抗の許容誤差やケルビン接続に伴う許容誤差と共に、フルスケールに不確定性をもたらす一因になる可能性があります。LT6100の場合、スケーリング用の抵抗はすべて内蔵しています。また、それらの許容誤差は明確に定義されており、データシートにも記載されています。一方、LTC6101では、スケーリングの精度はユーザが選択する抵抗によって決まります。そのため、特定の要件に応じて最適化することが可能です。
LT6100の動作原理
図2に、LT6100のブロック図を示しました。100mΩの検出抵抗を使用し、その両端の電圧を測定する場合の接続方法も示しています。検出抵抗の両端の電圧は、オペアンプA1とトランジスタQ1のコレクタの作用によって内部抵抗RG2に印加されます。その結果、RG2を流れる電流I = VSENSE/RG2がQ1と抵抗ROに流れます。ROの両端の電圧は、RO×VSENSE/RG2になります。ここで、ROの値はRG2の値の10倍なので、この電圧は10×VSENSEとなります。つまり、LT6100に固有のゲインは10です。オペアンプA2を中心とする次段では、A2ピンとA4ピンの接続先に応じてゲインを選択できるようになっています。すなわち、それらのピンを、接地する、フロート状態にする、出力に接続するという3つの選択肢が提供されています。それにより、この段のゲインを1、1.25、2、2.5、4、5のうちいずれかに設定することが可能です。結果として、この回路全体のゲインは10、12.5、20、25、40、50のうちいずれかになります。このようにすることで、柔軟性が得られるようになっています。また、両オペアンプ回路の間には直列抵抗REが配置されています。そのため、FILピンにコンデンサを接続することによって簡単なローパス・フィルタを適用することができます。
LTC6101の動作原理
図3に、LTC6101のブロック図を示しました。基本的な電流検出回路を構成するための接続例も示しています。図2と同様に、検出抵抗RSENSEをシステムの電源の正側(ハイサイド)に直列に挿入しています。LTC6101が内蔵するアンプは、電圧フォロワとして機能します。つまり、反転入力(IN-ピン)の電圧が非反転入力(IN+)の電圧と等しくなるように動作します。それにより、抵抗RINの両端の電圧がRSENSEの両端の電圧と等しくなります(以下参照)。
したがって、RINに流れる電流は次式で表されます。
LTC6101が内蔵するアンプの入力はハイ・インピーダンスであり、電流が流入することはありません。そのため、電流は内蔵MOSFETを介してOUTピンに向かって流れます。同ピンから出力された電流は、抵抗ROUTを介してグラウンドに流れます。それにより、この回路の出力電圧は次式で表される値になります。
また、ゲインは次式で表されます。
ここで、上式に次の式を代入します。
そうすると、出力電圧と検出電流の関係として次式が得られます。
多くの電流検出用のソリューションと同様に、入出力電圧と出力電流については個々のアプリケーションの条件に応じて決定する必要があります。なるべく多くの回路に適用できるようにするために、LTC6101は0V~500mVの入力電圧に対応しています。そのため、値の小さい検出抵抗(またはシャント抵抗)を使用するほとんどのアプリケーションに適用できます。また、LTC6101の出力によってコンパレータ、A/Dコンバータ(ADC)などの回路を駆動したいケースもあるでしょう。LTC6101の出力はオープンドレインなので、出力電圧については0V~8Vまでスイングすることを許容できます。出力電流は1mAまでの範囲で設定可能であり、実用的な速度と駆動能力が得られます。更に、個々の回路の制約に応じ、RINとROUTによってゲインの値を広い範囲内で設定できるようになっています。
入力部の精度の比較
LT6100とLTC6101はどちらも高い精度を誇ります。両製品の最大入力オフセット電圧は300µVです(全温度範囲では、それぞれ500µVと535µV)。いずれの製品も、検出用の入力ピンに電源電流が流れ込むことはありません。LT6100の場合、Over-The-Top®入力において5µAの電流が流れ込みます。一方、LTC6101は検出の対象となる電源に直接接続することが可能な独立した電源ピンV+を備えています。入力ピンには、わずか100nAのバイアス電流しか流れません。そのため、LTC6101は非常に値の小さい電流の監視に最適です。また、LTC6101の検出入力部の電流値はマッチングがとれているので、もう1つの入力抵抗RIN+を追加することにより、入力バイアス電流の影響を相殺することができます。つまり、図4のように回路を構成することで、LTC6101の実効的な入力バイアス誤差を15nA未満に抑えられます。なお、LT6100もマッチングのとれた抵抗を内蔵しているので、実効的な入力バイアス電流の誤差を1µA未満に抑えられます。
LT6100/LTC6101の特徴
基本的な事柄を押さえたところで、ここからはLT6100、LTC6101の特徴についてより詳しく解説していきます。
LT6100:堅牢性が高く、使いやすいLT6100:堅牢性が高く、使いやすい
LT6100は、バッテリの逆接続に対応できます。具体的には、-50Vまでの低電圧が入力に印加されても耐えられます。その結果として生じるフォルト電流も100µA未満に抑えられます。加えて、図5に示すように、ヒューズやMOSFETの両端を対象とした電圧の検出にも使用することが可能です。ヒューズやMOSFETがオープンの状態になったとしても問題はありません。なぜなら、LT6100は高電圧に対応するPNPトランジスタと独自の入力トポロジを備えているからです。そのハイ・インピーダンスの差動入力部は、フル・スイングの電圧として最大±48Vまで対応できるようになっています。そのため、ヒューズやMOSFETがオープン・サーキットの状態になった場合について懸念することなく、それぞれの電圧降下を直接検出することができます。
LT6100は、もう1つ独自の長所を備えています。それは、電力を供給していない場合でも、バッテリに接続したままにしておいて構わないというものです。LT6100の両検出入力部は、意図的であるか否かに関わらず、電源が切断された場合でもハイ・インピーダンスのままです(図6)。これは、フロント・エンド部にOver-TheTopという入力トポロジを採用していることで実現されます。実際、電源の切断時には、LT6100の入力部に流れる電流は通電時よりも少なくなります。つまり、LT6100は、電源が投入されていても切断されていても、無害な負荷として振る舞うということです。
LTC6101:高電圧に対応しつつ、高い精度と高速性を実現
LTC6101は、4V~60Vの動作電源電圧、70Vの絶対最大定格を誇ります。このような仕様を実現しているため、モータの制御や通信用の電源の監視といった高い動作電圧が必要なアプリケーションにも対応できます。あるいは、自動車で負荷ダンプが発生した際など、一時的に高電圧が持続する場合にも力を発揮します。PSRRは140dB(公称値)にも達するため、このような電源電圧範囲の全体で精度が維持されます。
LTC6101は高速に応答するので、過電流保護回路での利用にも適しています。出力が5Vに遷移する際、2.5Vに達するまでにかかる応答時間は1マイクロ秒未満(公称値)です。LTC6101は、負荷の異常を検出すると、それに対応する信号をコンパレータやマイクロプロセッサに送信します。それにより、電源や負荷、スイッチが損傷する前に、負荷に直列に挿入されたスイッチをオープンにするという制御が行えます。
LTC6101の柔軟性の鍵を握っているのは、そのアーキテクチャです。例えば、ゲインは、外付けの抵抗(図3のRINとROUT)によって完全に制御することが可能です。これは非常に便利な機能です。というのも、ほとんどのアプリケーションでは、(電力損失を最小限に抑えるために)最大シャント電圧としては小さな値が規定されます。また、その値は特定のコンパレータの閾値や所望のADCの分解能に合致させる必要があります。その際、性能を維持するにはゲインを慎重に設定しなければなりません。なかには、ゲインを設定する抵抗の値をユーザが選択できないソリューションも存在します(図7a)。その場合、ゲインは固定値となり、適切な回路を構成できないかもしれません。また、図7bのように入力抵抗だけを内蔵するソリューションもあります。これであれば、ゲインはユーザが設定できます。但し、ゲインを高く設定する(10~100、あるいはそれ以上)には、非常に大きな出力抵抗を使用しなければならないかもしれません。出力抵抗の値が大きいと、出力の応答速度が低下すると共に、システムのノイズからの影響を受けやすくなります。また、インピーダンスが高くなりすぎて、所望のADCを駆動することができなくなるかもしれません。こうした問題を回避するために、LTC6101では、RINとROUTの両方の値をユーザが選択できるようにしています。RINとしては、非常に値の小さいものを選択することが可能です。その値を制限する要素は、基板の寄生抵抗によるゲイン誤差と、1mAという最大出力電流の仕様だけです。そのため、VSENSEやROUTの値を小さく抑えることが要件になっている場合でも、高いゲインや高い速度を得ることができます。ゲインの精度は、外付け抵抗の精度だけによって決まります。
また、オープンドレイン出力のアーキテクチャは、リモート・センシング・アプリケーションにメリットをもたらします。例えば、LTC6101の出力により、離れたところにあるADCなどの回路を駆動する必要があるとします。その場合、出力抵抗はADCの近くに配置することができます。オープンドレイン出力は、ハイ・インピーダンスの電流源です。そのため、出力部の配線の抵抗による電圧降下がADCに対して影響を及ぼすことはありません。また、長い配線にはシステムのノイズが混入する可能性があります。しかし、そうしたノイズは、ROUTの前段にフィルタを直列に配置したり、ROUTと並列にコンデンサを付加したりすることで、DC精度を損なうことなく、簡単に低減することができます(図8)。更に、ROUTによる出力をV-よりも高い電圧に終端することで、V-よりも高いレベルに出力をシフトすることも可能です(図9)。なお、その場合には、VOUTとV-の差の最大値がLTC6101の仕様で規定された最大出力を超えないように注意しなければなりません。
アプリケーションの例
ここからは、具体的なアプリケーションの例を紹介しながら、LT6100/LTC6101について更に深く掘り下げていきます。
マイクロホットプレートの電流の監視
材料に関する研究では、温度を様々な値に変化させながら物質の特性や相互作用についての評価を行います。例えば、ナノテクノロジーの分野では、ヒータで加熱することによって局所的に物質を励起し、薄膜との間の相互作用の有無を監視することで興味深い特性を検出するといったことが行われます。その検出の方法は非常に複雑で、かなり独特なものです。その一方で、局所的に熱を発生させる手段としては、電球と同じくらいの歴史を持つ古典的な方法が使われています。
図10に示すのは、マイクロホットプレート(Boston MicroSystems製)のヒータ・エレメント部の回路です。同エレメントはSiCを微細加工したものであり、数十µmのレベルの寸法で実現されています。単純にDC電力で加熱した場合、損傷することなく1000℃に達する温度が得られます。
ヒータ・エレメントに印加された電力とそれによって発生する温度は、電圧と電流の積を基にして把握することができます。図10の例では、LT6100を使って電流を測定し、ゲインを選択可能なアンプ製品 「LT1991」を使って電圧を測定します。LT6100では、10Ωの検出抵抗を使用して電流を検出します。LT6100はゲイン(値は50)を適用し、グラウンドを基準とする出力を提供します。ヒータのフルスケールの電流が10mA、LT6100の出力振幅が5Vなので、電流から電圧への変換ゲインは500mV/mAとなります。LT1991の役割は増幅ではなく、高い精度で減衰を実現します。ここで、ヒータのフルスケール電圧は40V(±20V)です。それを超えると、一部の雰囲気中ではヒータの寿命が短くなる可能性があります。この例では、LT1991の減衰係数は10に設定されています。そのため、40V(フルスケール)の差動入力電圧が1/10に減衰されます。つまり、LT1991からはグラウンドを基準とする4Vの信号が出力されます。両ICの出力電圧は、0V~5Vに対応するPC用のI/Oカードで簡単に読み取ることができます。また、システムはソフトウェアによって容易に制御することが可能です。
白色LED用の電流コントローラ
図11に示したのは、白色LEDを定電流で駆動する回路です。スイッチング方式のDC/DCコンバータ「LT3436」と共にLT6100を使用することで、高い効率を実現しています。LT6100のA2ピンに接続されたスイッチを開閉することにより、ゲインを40(開)または50(閉)に切り替えることができます。
LT3436のFBピンは、1.2V(設定値)を基準とする制御ピンです。同ICは、FBピンの電圧が1.2Vを超えると動作を停止し、1.2Vを下回ると動作を継続します。通常、DC/DCコンバータでは、出力電圧を抵抗分圧回路によって分圧し、FBピンにフィードバックするという構成をとります。それにより、出力電圧(LT3436では1.2V以上)をレギュレートします。ここでは、LEDを駆動するので、一定の出力電圧ではなく一定の出力電流を得る必要があります。そのために、フィードバック・ループによって負荷電流を電圧に変換します。
LT6100は、30mΩの検出抵抗を使ってLEDを駆動する電流の値を検出します。その値にゲインを適用し、得られた電圧をFBピンにフィードバックします。
LT3436の1.2Vという設定値を、LT6100のゲイン(40または50)で割ると、検出抵抗の両端の電圧になります。つまり、30mV/24mVという値が得られます。これを検出抵抗の値である30mΩで割ることで、1A/800mAという電流値が決まります。
車載用負荷スイッチの電流の監視
LTC6101は、車載電源システムの電流を直接監視する用途に最適な製品です。最大電源電圧が60Vなので、電源電圧の調整用の部品やサージ保護用の部品を追加する必要はありません。
図12の回路は、ゲート・ドライバ「LT1910」を利用したインテリジェントな車載用ハイサイド・スイッチです。LTC6101は、電流値を外部に提供する機能を実現するために使用しています。LT1910は、負荷の駆動に使用するNチャンネルのMOSFETを制御します。また、検出抵抗を使用して過負荷の検出も行います(但し、ランプのフィラメントのサージ電流は保護トリップを引き起こす可能性があるので、LT1910に対する負荷としては推奨できません)。LTC6101と共有している検出抵抗を使うことにより、電流の値を取得します。
LTC6101は、電圧出力を得るためというよりも、検出抵抗における電圧降下に比例した電流を得るために使用しています。同ICの負荷抵抗は、任意の長さの配線の遠端に配置することができます。グラウンド・ループの電圧が存在していても精度を確保することができます。
まとめ
LT6100/LTC6101は、ハイサイドの電流検出を高い精度で実現するソリューションです。両者には似ている点もありますが、それぞれ固有の長所を備えています。LT6100は消費電力が非常に少なく、電源を遮断しても入力のインピーダンスを高く維持することができます。その入力部が損傷してしまうことはほぼありません。一方、LTC6101は最大70Vという絶対最大定格を実現しています。ゲインの設定に制限がないことに加え、オープンドレイン出力を備えていることも特徴の1つです。