機能豊富なシステムに不可欠な柔軟でユーザ設定可能な20V大電流PMIC

2019年10月01日
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背景

技術の絶え間ない進歩により、あらゆる電子機器の機能の充実が図られるに伴い、空き領域は減少する一方です。携帯電話には、タッチ画面、フラッシュライト、パワーセーブ・モード、高機能カメラが備わっています。かつてはAMラジオと簡素な計器がいくつかあっただけの自動車のダッシュボードには、今、精巧な計測器、衛星ラジオ、Bluetooth®、GPSなどの携帯電話ベースのネットワーク接続、多色照明、多数のUSBポートがぎっしり組み込まれています。産業用の堅牢なコンピュータには、バーコード・リーダ、大画面モニタ、ハードドライブ、照明付きキーボードが、医療機器には、センサー、調光フラッシュライト、ゲージ、パワーセーブ・モードが装備されています。

変わっていないのは、電力に対するニーズだけです。ポータブル電子機器が多機能化するに伴い、とりわけ以下のような複雑なデジタルICが使用された場合、電力条件も増大します。

  • 画像処理装置(GPU)
  • フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)
  • マイクロコントローラおよびマイクロプロセッサ
  • プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)
  • デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)
  • 特定用途向け集積回路(ASIC)
  • プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)

こうした複雑なデジタル機器には、複数レールが必要で、大電流、低電圧で高速過渡応答性を備えた高電力密度の電源が求められます。このような厳しい要求は、低ノイズやデジタル制御といった特定の性能条件と共に、最先端ソリューションを生み出そうとする電源設計者にとって極めて大きな負担となります。どのような場合でも、電源設計者は上記のようなデバイスの進歩に追随しなくてはなりません。

電源システム設計の課題

今日の電子システム設計者には、厳しいスペース条件、限られた動作温度範囲、ノイズ仕様を満たすことが課せられています。PCBスペースを節約するために集積レベルが上がり、温度上昇抑制のため効率的な電力部品が必要となります。例えば、今日の自動車のダッシュボードは、周囲温度が高い状態で動作する電子機器が詰め込まれているため、温度のモニタリングとその伝達が、とりわけパワー・マネージメント部品にとって必要不可欠な条件となっています。システム・コントローラが、過温度(OT)警告に対し、重要度の低い機能を停止させたり、プロセッサ、ディスプレイ、ネットワーク通信の性能を低下させたりするなどして、システムの過熱を防止することもあります。

電源の観点から、ダッシュボードにある最も基本的な車載インフォテインメントでさえ、合計電流が数アンペアとなる複数の低電圧電源レール(出力レベル)を必要とし、高級なコンソールでは更に多くの電流が必要となります。従来、低電圧レールには、ポイント・オブ・ロード(POL)電源として小型のディスクリートのレギュレータICを複数配置するか、あるいは大規模な高集積パワー・マネージメント集積回路(PMIC)を使用してきました。多くのPMICでは、必要数以上のレールがあり、大きな回路フットプリントが必要で、一部のレールに対しては電力不足となることがあるため、更に集積化を図ることは困難でした。

また開発が進むにつれ、フィーチャ・クリープに対応するために、入出力電圧や出力電流を変更して製品仕様に徐々に変更を加えることが、設計上困難となる可能性があります。フィーチャ・クリープは、ICや関連のディスクリート部品の選択に大きな混乱をもたらす可能性があります。ボード・レイアウトの決定後にシステム仕様に変更が生じた場合、最良のシナリオでは、調整可能な出力コンバータの抵抗をいくつか交換して電圧を微調整できます。最も厳しいシナリオは、変更後の電流レベルが既存コンバータのスイッチ電流定格を超えてしまう状況で、この場合はいくつかのICをピン互換性のないICで置き換える必要が生じてしまいます。これによって、再度ICレベル、ボードレベル、システムレベルでの検証が必要となるため、極めてわずかな機能変更であってもコスト増加とスケジュールの遅延に繋がります。

こうした課題に対応するソリューションとして登場したのが、純粋なディスクリートやシングルまたはデュアル出力ICより多くの出力を備えながら、フル機能PMICよりも省スペースで低コストのパワーICです。この中間レギュレータは複数出力のパワーICで、レールの消費電力が中程度でレール数を設定可能な小型フットプリントのソリューションです。このようなICは、開発中に生じる電力条件の変更に対応できるように幅広い電圧および電流を出力するよう構成可能で、再検証サイクルを省き、市場投入時間を短縮できることから理想的と言えます。更に、5Vを上回る入力電圧で効率よく動作可能なため、12V~18Vの電源アダプタなど様々なアプリケーションで使用できます。安全機能とモニタリング機能を内蔵し、広い温度範囲で動作すると共に、熱性能の高い革新的なパッケージ設計であることも必要な特長です。

柔軟で設定可能な20Vマルチ出力パワーIC

アナログ・デバイセズのPower by Linear LTC3376は、複数の低電圧電源レールを必要とするシステム向けの高集積汎用パワー・マネージメント・ソリューションです。このデバイスは、最大20Vの入力から1~4個の独立したレギュレーション出力が得られるよう構成でき、15通りの出力電流構成が可能で、合計出力電流は最大12Aです(図1参照)。LTC3376はこうした柔軟性により、テレコム、産業、オートモーティブ、通信システムなど、多様なマルチチャンネル・アプリケーションに最適なものとなっています。

図1 LTC3376の簡略化したブロック図

図1 LTC3376の簡略化したブロック図

LTC3376は4個の独立した降圧レギュレータ・チャンネルの他に、柔軟なシーケンシングと故障モニタリングを備えた8個の設定可能な1.5A電力段を組み合わせ、合計12Aの電流を出力可能です。また、全チャンネルで96%のピーク降圧効率と±1%の出力電圧精度を備えています。各チャンネルは、3V~20Vの個別の入力電源から給電され、出力電圧範囲の下限は0.4Vです。隣接する出力は、1個の共有インダクタで並列接続が可能なため、回路を簡素化できます。DC/DCコンバータは、ピン接続可能なCFG0~CFG3の各ピンを介して15通りの電力構成のいずれかに割り当てられます。BSTコンデンサは、パッケージに内蔵されているため、外付けする必要はありません。

LTC3376のスイッチング・レギュレータは、次の2つのモードのいずれかで動作します。Burst Mode®動作(パワーアップ・デフォルト・モード)は、軽負荷時の高効率用で、強制連続パルス幅変調(PWM)モードは、軽負荷時の低ノイズ用です。スイッチング・レギュレータは内部で補償されており、外部フィードバック抵抗が必要となるのは出力電圧を設定する場合のみです。降圧コンバータには、入力電流制限、起動時の突入電流を制限するソフト・スタート、差動出力検出、短絡保護が備わっています。デバイスは、プログラマブルで同期可能な1MHz~3MHzの発振器を備えており、デフォルトのスイッチング周波数は2MHzです。

4個のコンバータすべてをイネーブルにした場合の自己消費電流は、わずか42µAです。他の特長として、以下が挙げられます。イネーブルされたDC/DCコンバータが目的出力値の指定された比率内にあることを示す4本のパワー・グッド・ピン、各降圧コンバータの負荷を外部モニタリングするための電流モニタ、効率向上のためのEXTVCCピン、パワーアップ・シーケンス用の高精度RUNピン閾値、内部のダイ温度を示すダイ温度モニタ出力(TEMPピンのアナログ出力から読出し可能)、過負荷状態でダイ温度が高温となったときに降圧コンバータをディスエーブルする過熱防止機能。

LTC3376は、コンパクトな64ピン7mm × 7mmのフリップ・チップ・ボール・グリッド・アレイ(BGA)パッケージを採用しています。EグレードおよびIグレードが、–40°C~+125°Cの動作ジャンクション温度範囲全体にわたって仕様規定されています。

柔軟性と多くの出力構成

LTC3376固有の柔軟性により、15種類の出力構成が可能です。

  • 単一インダクタ、単一出力の12A降圧コンバータ。すべての電力段が内部で一緒に編成され、最大の出力電流を生成。
  • 2個のインダクタを備えたデュアル降圧コンバータによる4通りの組み合わせ。合計出力電流は12A。
  • トリプル降圧コンバータによる5通りの組み合わせ。それぞれ3個のインダクタを備え、合計で12Aの出力電流。
  • クワッド降圧コンバータによる5通りの組み合わせ。それぞれ4個のインダクタを備え、最大12Aの出力電流(図2参照)。
図2 代表的なクワッド出力のアプリケーション回路

図2 代表的なクワッド出力のアプリケーション回路

表1に、15通りの出力構成を一覧で示します。このような柔軟性によって、設計プロセスで条件が変更されても容易に調整が可能となります。LTC3376が使用できる限り、新しいICを評価する必要はありません。

表1 LTC3376:合計電流出力12Aの15通りの構成例較
トポロジ 出力電流の組み合わせ
クワッド降圧コンバータ5 個 3 A, 3 A, 3 A, 3 A, 4.5 A, 3 A, 3 A, 1.5 A, 4.5 A, 4.5 A, 1.5 A,
1.5 A, 6 A, 1.5 A, 3 A, 1.5 A, 7.5 A, 1.5 A, 1.5 A, 1.5 A
トリプル降圧コンバータ5個 3 A, 4.5 A, 4.5 A, 6 A, 3 A, 3 A, 4.5 A, 6 A, 1.5 A, 7.5 A, 3 A,
1.5 A, 9 A, 1.5 A, 1.5 A
デュアル降圧コンバータ4個 6 A, 6 A, 7.5 A, 4.5 A, 9 A, 3 A, 10.5 A, 1.5 A
シングル降圧コンバータ1個 12 A

優れた熱設計とコンパクトなソリューション

LTC3376は、パッケージング技術を独自に組み合わせ、小型の64ピン、7mm × 7mmフリップ・チップ・ボール・グリッド・アレイ・パッケージの採用により、コンパクトで熱効率の高いソリューションを実現しました。内部パッケージ構造には、ボンディング・ワイヤの代わりに銅のピラーが用いられています。EMIは、PCBレイアウトによる影響は受けにくいものの、内蔵の昇圧コンデンサと基板グランド・プレーンによって一層改善されているため、設計が簡素化され性能リスクが低減されます(図3参照)。更に、ダイ内部では、電力消費の大きいデバイスは熱性能が最大になるよう配置され、消費電力が均等に発散されます。

図3 (a)ボール・グリッド・アレイ、(b)ダイの下の銅ピラー、(c)内蔵バイパス・コンデンサを備えたLTC3376フリップ・チップ・パッケージ

(a)

図3 (a)ボール・グリッド・アレイ、(b)ダイの下の銅ピラー、(c)内蔵バイパス・コンデンサを備えたLTC3376フリップ・チップ・パッケージ

(b)

図3 (a)ボール・グリッド・アレイ、(b)ダイの下の銅ピラー、(c)内蔵バイパス・コンデンサを備えたLTC3376フリップ・チップ・パッケージ

(c)

図3 (a)ボール・グリッド・アレイ、(b)ダイの下の銅ピラー、(c)内蔵バイパス・コンデンサを備えたLTC3376フリップ・チップ・パッケージ

図4に、クワッドの4 × 3A降圧コンバータ(合計出力電流12A)による全機能内蔵型のLTC3376ソリューションを示します。このソリューションは非常にコンパクトで、実効面積はわずか約1.5cm × 2.9cm、4.4cm2未満です。

図4 5V、3.3V、2.5V、1.8Vを出力する4 × 3A降圧ソリューションのLTC3376デモ・ボード

図4 5V、3.3V、2.5V、1.8Vを出力する4 × 3A降圧ソリューションのLTC3376デモ・ボード

追加されたシステム・モニタリング、安全性、保護

LTC3376は設定可能であることに加え、電力供給するシステムを監視、保護するための安全機能をいくつか備えています。停電状態は、各降圧コンバータに関連するPGOODピンから伝達されます。降圧レギュレータごとに、平均の降圧負荷電流に比例した電流をIMONピンで生成する電流モニタ機能があります。

また、LTC3376や周囲の部品の熱損傷を防止するために、過熱防止機能も備わっています。LTC3376のダイ温度が165°C(代表値)を超えると、イネーブルされているすべての降圧スイッチング・レギュレータはシャットダウンし、ダイ温度が155°C(代表値)を下回るまで停止状態を維持します。

また、温度モニタも搭載し、アナログのTEMPピンの電圧をサンプリングして、ダイ温度を読み取ることができます。温度TはTEMPピンで示され、次式で表されます。

数式 1

ここで、VTEMPはTEMPピンの電圧です。

設定可能な降圧レギュレータ・ファミリ

表2に、設定可能なクワッドおよびオクタル降圧レギュレータの全ファミリを示します。このうち、LTC3376が最新製品です。LTC3376は、合計出力電流(最大12A)と入力許容電圧(最大20V)が最大です。

製品ビデオをanalog.com/ltc3376でご覧いただけます。

表2 アナログ・デバイセズの設定可能なクワッドおよびオクタル降圧レギュレータのPower by Linearファミリ
アナログ・デバイセズ/LTC アナログ・デバイセズ/LTC Linear Linear Linear Linear
パラメータ LTC3376 LTC3374A LTC3374 LTC3375 LTC3371 LTC3370
トポロジ クワッド降圧 オクタル降圧 オクタル降圧 オクタル降圧 クワッド降圧 クワッド降圧
チャンネル数 4 8 8 8 + 外部HVコントローラ 4 4
合計出力電流 8 × 1.5 A = 12 A 8 × 1 A = 8 A 8 × 1 A = 8 A 8 × 1 A = 8 A 最大8A 最大8A
出力電圧 VOUT:0.4V~0.83 × VIN VOUT:0.8V~VIN VOUT:0.8V~VIN VOUT:0.425V~VIN VOUT:0.8V~VIN VOUT:0.8V~VIN
構成数 15 15 15 15 8 8
並列可能降圧スイッチャ(単一インダクタ) 可能、最大4 可能、最大4 可能、最大4 可能、最大4 可能、最大4 可能、最大4
入力電圧 3V~20V 2.25V~5.5V 2.25V~5.5V 2.25V~5.5V 2.25V~5.5VDC/DCコンバータ2.7V~5.5V Vcc 2.25V~5.5VDC/DCコンバータ2.7V~5.5V Vcc
動作自己消費電流 28µA(1チャンネル) 63µA(1チャンネル) 63µA(1チャンネル) 68µA(1チャンネル) 68µA(1チャンネル) 63µA(1チャンネル)
同期周波数 1MHz~3MHz 1MHz~3MHz 1MHz~3MHz 1MHz~3MHz 1MHz~3MHz 1MHz~3MHz
I2C /通常のインターフェース 通常 通常 通常 I2C 通常 通常
パッケージ(mm) 7 × 7 FC、64ボールBGA 5 × 7、38ピンQFN、38ピンTSSOP-E 5 × 7、38ピンQFN、38ピンTSSOP-E 7 × 7、48ピンQFN 5 × 7、38ピンQFN、38ピンTSSOP-E 5 × 5、32ピンQFN

まとめ

技術の進歩により、車載インフォテインメント機器をはじめ、民生用携帯機器、産業用、医療用機器に組み込まれる部品の高機能化は拍車がかかる一方です。このようなシステムの入力電圧は5Vを超えることがほとんどで、固有の電力条件を持った、高性能な低電圧、大電流のデジタルICにより給電されます。従来、電圧レールと電流レベルには、多数のディスクリートであるレギュレータICを使うか、あるいは比較的大型で高集積のパワー・マネージメント集積回路(PMIC)を使用するかのどちらかで対応してきました。しかし、どちらも柔軟性に欠け、サイズもコンパクトになりません。

このようなソリューションをシングル、クワッド、またはオクタルのマルチ出力パワーICに置き換えることは、賢明な選択と言えます。ピン設定可能なPMIC、LTC3376は、新世代のマルチ出力パワーICの好例です。これは、20V入力でデジタル・プログラム可能な高効率、多出力の電源ICで、4個の同期整流式降圧コンバータおよび8個の内蔵電力段(合計IOUT は最大12A)を備え、低電圧出力が可能です。最大で15通りの出力電流構成が可能なため、システム設計者はこの柔軟性を活かして、已む得ない電力ブロックのシステム変更やフィーチャ・クリープの影響を軽減できます。コストと時間のかかるボードやシステム・レベルの検証を再度行わずに済み、アップグレードの時間とコストだけでなく、製品の市場投入までの時間と開発コストを削減できます。

著者について

Steve Knoth
Steve Knothは、アナログ・デバイセズの 電源 グループに所属するシニア製品マーケティング・マネージャーです。すべての電源管理 IC(PMIC) 、LDO( 低ドロップアウト) レギュレータ、バッテリ・チャージャ、チャージ・ポンプ、チャージ・ポンプを用いた LED ドライバ、スーパーキャパシタ用のチャージャ、低電圧対応のモノリシック型スイッチング・レギュレータを担当しています。2004 年に アナログ・デバイセズに入社しました。19...

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