オートメーション分野で活用されるイーサネットPART 3

オートメーション分野で活用されるイーサネットPART 3

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本シリーズの Part 1 で説明したように、産業用オートメーション・システムや制御システムでイーサネットを利用すれば、従来のフィールドバスでは得られない多数のメリットがもたらされます。例えば、イーサネットをベースとするソリューションでは、非常に広い帯域幅とエネルギー効率が得られます。また、装置にかかるコストも低減されます。さらに、工場の製造フロアとエンタープライズ IT をつなぎ、プラント全体にわたる単一のネットワークとして拡張を図ることも可能です。Part 2 では、最後に挙げたメリットについて詳しく説明しました。なかでも、Cisco Systems と Rockwell Automation が共同開発したリファレンス・アーキテクチャ「Converged Plantwide Ethernet(CPwE)」1 について特に詳しく解説しました。CPwEは、標準規格であるイーサネットを IP(Internet Protocol)向けのスイートとともに利用することにより、IAC システムの刷新を促進する役割を果たします。

CPwE の概要

CPwE は、既存のシリアル・ネットワークに伴う複雑さからメーカーを解き放つためのものです。産業向け IoT(Internet of Things)などの導入に向けて、自社のプラントの準備を整えるには、サービスの統合、単純明快な保守、高い可用性が必要になります。CPwE は、それに向けた支援を提供する役割を担います。IT を担当する技術者と制御を担当する技術者(ならびにそれぞれが管理するシステム)を同一の環境下に置くことにより、CPwE は、生産工程を適切に最適化し、原材料を最大限に活用するとともに、計画どおりに製品/サービスを提供できるようにすることを保証します。

CPwE は、Cisco のフレームワーク「Ethernet-to-the-Factory」(セキュリティとネットワークのアーキテクチャを含みます)と、Rockwell Automation のプラットフォーム「LogixControl」、「FactoryTalk」を備える統合アーキテクチャの間のリンクとして利用されていました。それ以来、EtherNet/IP®は、その主要な媒体としての役割を担ってきました。CPwE の実装に含まれる産業用イーサネット・スイッチは、EtherNet/IP をネイティブにサポートしており、一般的な産業用プロトコルに対応します。

EtherNet/IP では、標準的なイーサネット技術に手を加えることなくそのまま利用します。それにより、専用のフィールドバスでは対応できない包括的かつエンド to エンドのネットワーク統合を実現します。Cisco と Rockwell は、Wi-Fi(IEEE 802.11)を基盤とする無線LANをサポートすることで、CPwE の実装全体の効率を高める取り組みを共同で行いました。それらの無線LANは、きめ細かいサービス品質を提供します。また、産業用ワイヤレス・ネットワークで生じがちな干渉やカバレッジの問題に対処するために、トラフィックに優先順位を付ける機能を備えています2

標準規格に基づいて設計された EtherNet/IP、Modbus® TCP、そして PROFINET® から派生した一部のプロトコルは、CPwE を介した相互作用に対応します。

本稿では、EtherNet/IP 以外で、標準的なネットワークを(程度の差はあれ)サポートする産業用イーサネット・プロトコルを紹介します。CPwE は、レイヤ 2 の LAN モデルで通信する IACネットワーク間の相互接続性と相互運用性の向上を促進する能力を備えています。この点に CPwE の 1 つの価値があります。EtherNet/IP、Modbus TCP、PROFINET から派生した一部のプロトコルは、標準規格に基づいて設計されています。そのため、いずれも CPwE が提供する上記のメリットを享受することができます。イーサネット、IP、TCP/UDP は、それぞれレイヤ2、レイヤ 3、レイヤ 4 において、標準プロトコルに対応するネットワーク機器間の通信に使用できます。

相互運用/相互接続が可能なネットワークを実現する Modbus TCP と PROFINET

ここからは、イーサネットをベースとする 2 つのソリューションとして、Modbus TCP と、PROFINET のいくつかのバージョンを紹介します。いずれを採用した場合も、標準規格に即していないネットワーク・インターフェース・カードやスイッチ・インフラを実装することなく、EtherNet/IP やその他のプロトコル(HTTP、FTP、Telnet など)と相互にやり取りすることができます。いずれもよく使用されている標準規格であり、2015 年1 月の時点で、産業用ネットワーク全体のうち、PROFINET は 8%、Modbus TCP は 3 % を占めています。

Modbus TCP

Modbus は 1979 年に策定されたプロトコルです。ベンダー非依存であることも理由となり、広く使われています。このModbus から派生したものが、Modbus TCP です。Modbus ではシリアル接続を利用します。それに対し、Modbus TCP ではイーサネットを物理的なネットワークとして利用します。また、IP ネットワークを介したデータ交換用に TCP/IP のスタックをサポートします。Modbus TCP は 1999 年に標準化されました。現在では、TCP/IP ソケットを備える任意のデバイス上に実装できるようになりました3

Modbus TCP は標準化されたオープンな規格です。そのため、相互運用性を求められる環境に非常に適しています。PC 用のイーサネット・カードで使用でき、502 番のポートが明示的に割り当てられています。つまり、将来性も保証されているということです。Modbus は、(2004 年からは)Modbus Organizationにより、オープン・プロジェクトとして管理されています。ベンダーで構成されるさまざまなコミュニティにより、費用対効果をさらに高めたソリューションが開発されています。

Modbus TCP では、UDP ではなく TCP/IP を使用します。それにより、データのトランザクション管理を最小限に抑えつつ、多くの同時接続を実現します。従来、Modbus から派生したプロトコルは、ステートレスなトランザクションを採用していました。それに対し、Modbus TCP は WWW(World Wide Web)のミニマリズムを踏襲したものになっています。

Modbus TCP のリアルタイム・オートメーション・ガイド4 には「(Modbus TCP で TCP/IP を使用する)主な理由は、クライアント/サーバー・アプリケーションにおいて特定の処理を必要とすることなく、識別、監視、キャンセルが可能な接続の範囲内に個々のトランザクションを封じ込めることで、その制御を維持することにあります。それにより、ネットワーク性能の変化を許容する能力が高まり、ファイアウォールやプロキシなどのセキュリティ機能を容易に追加可能なメカニズムが実現されます」と記されています。

PROFINET

PROFINET については、これまでに複数の記事で取り上げてきました5。したがって、同プロトコルの機能に関する詳細な説明は割愛します。ここでは、その設計について 1 つだけ指摘しておきます。PROFINETでは、標準技術である TCP/IP に加えて、PROFINET IO と IRT(Isochronous Real-time)においてデータをリアルタイムに伝送するために TCP/IP をバイパスする特殊なスタックをサポートしています。このことが、オフィスにおけるイーサネットの利便性と産業用ネットワークに対する要求の間のバランスをとるうえで大いに役立ちます。

Modbus TCP と同様に、PROFINET は主に産業用オートメーションのプロセス制御に使用されています。また、効率的なケーブル配線(Siemens の「FastConnect」など)に対応し、無線LAN を介した確定的な性能を備え、(フィールドバスの直線的なレイアウトに加えて)スター型/ツリー型/リング型のトポロジとの互換性を確保できます。このことから、最新の IAC システムのレイアウトを簡素化し、性能を向上させるための手段として採用が拡大しています6。また、現在はフィールドバス/産業用ネットワークとしては、PROFIBUS が最も広く使用されています。この PROFIBUS からの移行が容易なので、多くのメーカーにとって PROFINET を統合するという決断を下すのは難しいことではありません。

PROFINET、Modbus TCP、EtherNet/IP は、いずれもイーサネットなどの普遍的な技術を、厳格でスケーラブルな産業用オートメーションの基盤として利用できることを示す良い例です。柔軟性が高く、馴染み深いという特徴は、工場でイーサネットを利用するメリットとしてこれまで常に取り上げられてきたことです。帯域幅が広いことや、TCP/IP を直接サポートすることなど、フィールドバスを上回る主要な能力を発揮しつつ、産業用のネットワークとオフィスのネットワークを統合することができます。


オートメーション分野で活用されるイーサネットPART 1: 産業用途向けのイーサネット・ソリューションが求められる理由、その活用形態

オートメーション分野で活用されるイーサネットPART 2: プラント規模のオートメーションにETHERNET/IP を適用する