デュアル出力、差動出力の水晶発振器

デュアル出力、差動出力の水晶発振器

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各種のアプリケーションでは、周波数発生回路(発振器)として高品位なものが必要となります。たとえば無線装置の局部発振器(LO)やフェーズロックLOの周波数リファレンス、マイクロプロセッサやデータ・アクイジション・システムのマスタクロック用としては、良質な発振器がないと設計できません。

設計者にとって、信号源のパラメータで重要なのは、周波数精度と安定性です。周波数精度は初期値、また周波数安定性は周波数の位相ノイズ(短時間の場合)やドリフト(長時間の場合)との関係ですが、これらは温度やエージングによって変化します。また水晶発振器の設計者にとっての重要パラメータは発振子そのもの、すなわち共振周波数、リアクタンス、Qファクタです。位相ノイズを除外すれば、問題となるパラメータはほとんど水晶の性能によって決まります。

位相ノイズの低下は、発振子および回路の能動素子にかかっています。発振子としてはQが高いのものが必要となります(水晶のQは極めて高く、10,000~50,000)。能動素子はフリッカノイズやノイズ指数が低いばかりでなく、発振子への負荷が小さなものを使用する必要があります。MAX2620内部の能動素子は、これに必要な特性を満たしています。高周波バイポーラ用プロセスによってフリッカノイズが低くし、低ノイズ指数、低寄生抵抗rbという特長を与えています。さらに能動素子負荷を低くしたことにより、負荷時のQが高く保たれ、発振回路に必要な値を得ています。図1に簡単な水晶発振回路を示します。

図1. IC1個による簡単な水晶発振器。水晶発振子(X1)使用の回路は、(b)で示す。
図1. IC1個による簡単な水晶発振器。水晶発振子(X1)使用の回路は、(b)で示す。

MAX2620のその他の特長として、内蔵の発振関係回路には高機能のものを用いています。たとえば内蔵のバッファ増幅器は負荷による発振周波数の引込みが抑制できるほか、+2.7Vから+5.25Vの電源電圧で動作できるようにしてあります。また内部バイアスに影響されない電源回路、シャットダウン機能のほか、オープンコレクタ出力は2出力を備え、これをシングルエンドの2出力、あるいは1差動出力として構成することも可能としています。

水晶発振子を選択する際の条件は、主として発振周波数、初期周波数精度、対温度周波数安定性、ならびに経年変化です。実際に設計者が注目するのは水晶発振子の中心周波数、Q、動抵抗、負荷容量などです。これらのパラメータがわかれば、設計者は発振回路の外部容量を計算することができます。

図1bに示す水晶(X1)はStatek社の表面実装タイプの基本波モード発振子です。動抵抗は図1aのC3およびC4を計算する際に必要となりますが、標準値より最悪値を使用してください。Statek社はこの場合の最大動抵抗として、150Ωと指定しています。発振始動時には、動抵抗値が能動素子の入力負性抵抗(RIN = -gmXC3XC4)より小さくなくてはなりません。詳しくは、図1aを参照して下さい。 実際には、この値は半分以下とすることが必要です。従って、下式のようになります。

gmXC3XC4 > 2R1MAX

ただし、

gmは能動素子の伝達コンダクタンス。ここでは、18mS (18ミリ・シーメンス)。

XC3はコンデンサC3のリアクタンス(1/2πfC3)

XC4はコンデンサC4のリアクタンス(1/2πfC4)

R1MAX (150Ω)水晶発振子の最大動抵抗です。

ここで、XC3 = XC4とすると、

また、10MHzではC3とC4の値(等しいとすると)は、

C3 = C4 = 1/2πfXC4 = 123.3pF

通常の標準コンデンサでその値を120pFとすると、水晶発振子両端の負荷容量はC3とC4の直列接続であることから、1/(1/C3 + 1/C4) = 60pFとなります。しかし目的周波数で確実に発振させるには、水晶発振子の負荷は指定負荷容量(20pF)とする必要があります。これにはC3とC4をそれぞれ40pFとすれば良いのですが、ゲインが大きくなり過ぎ(RIN + R1MAX)てしまい、発振回路のノイズ性能に悪影響を与えてしまいます。そこで負荷容量を20pFとし、30pFコンデンサを直列に挿入するのが良い方法です(完成回路、図1bのC5)。

オープンコレクタの出力ピンアクティブローOUTおよびOUT (ピン5および8)は、差動出力あるいは2つのシングルエンド出力とすることができます。各ピンは静止電流の2.5mAをシンクできますがVCCへのプルアップが必要です。プルアップにはRFチョーク、または抵抗を使用できますが、差動出力とする場合には同一種類を用いるようにして下さい。抵抗によるプルアップの場合、100Ω以上とすると電圧降下が大きくなりすぎるので、注意が必要です。50Ω負荷とすると、シングルエンドでの出力レベルは、RFチョークによるプルアップでは約-6dBm (320mVP-P)、50Ω抵抗プルアップで約-13dBm (140mVP-P)となります。

同様のアイデアが「Microwaves and RF」の1998年4月号に掲載されました。