ミリ波レーダーを使用した非接触型状態基準保全/振動センサー

ミリ波レーダーを使用した非接触型状態基準保全/振動センサー

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高松 創

はじめに

本稿では、ミリ波レーダー技術を採用した新しい振動センシングのアイデアを紹介します。これにより、RF信号による非接触式の振動センシングが可能になります。

マシン・メンテナンスの現状と将来

効果的なマシン・メンテナンスまたはアセット・メンテナンスは、最近では重要な省力化作業となっており、現在、マシン・メンテナンスでは次の2つの方法が用いられています。

TbM:時間基準のメンテナンス

TbM(Time-based-Maintenance)は、今日主流のメンテナンス法で、事前に定めたワークフローに容易に組み込めます。経験のあるスタッフが定期的にあるいは随時、劣化状態を確認するための検査を行います。検査結果で継続使用ができるほど状態が良い場合でも、ユニットがあらかじめ設定された期間を経過した場合には、メンテナンスをより確実なものにするために、ユニット全体またはユニット内の部品を交換する場合があります。

CbM:状態基準のメンテナンス

CbM(Condition-base-Maintenance)は、最近用いられるようになった新しい方法で、いくつかのセンサーを使用した状態監視システムにより、機械の健全性を常に監視し、獲得されたセンシング・データを基に、機械の状態が事前に定めた劣化レベルに達した場合にのみ、その部品が交換され、より実際的で効率的なメンテナンスとなります。

振動モニタリング

CbMアプリケーションの場合、モニタ対象の状態として最も一般的なのは振動センシングです。基本的に、振動の周波数プロファイルは、次に示す例のような劣化の特徴を示します。

  • バランスの低下または軸ずれの場合1kHz未満の振動
  • ベアリングまたは歯車のひび割れの場合1kHz~数10kHzの振動

後者の周波数の高い振動はより早期の劣化フェーズで現れ、これがCbMアプリケーションでの重要な特徴です。図1では横軸にマシンの動作経過時間、縦軸に劣化状態とそこで出現する状態の例を示したP-Fカーブで、モーター内のベアリング故障などで出現する高周波振動が最初の予兆として出現しています。

図1.P-Fカーブ
図1.P-Fカーブ

振動センシング法

振動センシングにおいて、加速度センサーが、今日一般的に使用されるセンサーですが、その測定条件・環境により次のような、いくつかの課題があります。

  • 振動数が高くなると(10kHz超)、機械の共振が顕著になります。
  • センサーユニットにおける、バッテリや配線ケーブルも共振に影響する場合があります。
  • 振動数の高いセンサーの場合、高額(数1000米ドル)になります。
  • 機械自身が125°Cを超えるような高温ではセンサーを取り付けることはできません。

そこで、ミリ波レーダーを使用する新しい振動センシング法を提供できるようになりました。このソリューションには、いくつかの新しい特長が備わっています。

  • いかなる機械的な共振にも影響されない非接触式の測定
  • 広帯域(最大40kHz)の振動測定
  • 非接触のため高温の機械も測定可能
図2.ミリ波レーダーによる振動センサー
図2.ミリ波レーダーによる振動センサー

測定原理

機械の振動から生じる微小な変位を検出するために、FMCWレーダーを採用しました。図3で示すように、レーダーセンサーから見て、モーターは振動によりごくわずか前後に移動(微小変位)しています。

FMCWレーダーにおける、送信Tx信号と受信Rx信号は、レーダーMMIC内でミキシングされて、送受信信号の周波数差によるビート周波数を求めます。ビート周波数の位相を調べると、機械振動による微小変位のために、その位相が変化します。これはドップラー効果によるものです。

位相データを継続して取得し、そのデータにFFT処理を施すと、振動周波数スペクトルが得られます。ここで、振動センシングのサンプルレートは、連続するFMCW送信信号のランプ(チャープ)間隔に等しくなります。高周波振動まで測定するために、ミリ波MMICは、10µsあたり数GHzで掃引するような高速ランプ・ジェネレータ回路が必要です。この性能は振動センシングには極めて重要です。

図3.レーダーによる振動センシング
図3.レーダーによる振動センシング

システム全体のデータ処理フローを図4に示します。ミリ波レーダーのよる振動センシングは変位量が得られますが、既存の振動試験データは、加速度が多く使われるので、レーダーで得られた変位量から、速度と加速度のデータも計算されています。

図4.システムレベルのデータ処理フロー
図4.システムレベルのデータ処理フロー

非接触型CbMセンサー製品

このソリューションは、アナログ・デバイセズのアライアンス・パートナーであるサクラテック株式会社との共同開発によって生まれたものです。

  • 製品名は「miRadar CbM」でシステム・ソリューションとして提供
  • 広帯域ミリ波レーダーは最大4GHzの帯域幅を持ち、数cmの高距離分解能を実現
  • ±3°という狭いFoV(視野角)を持つアンテナを新規開発し、機械の局所的な振動センシングが可能

✓例:5m先で、50cm x 50cmの領域をモニタ可能

  • アナログ・デバイセズの新しいミリ波レーダー・トランシーバー、ADAR690xを採用

✓高速かつ高精度ランプ・シグナル・ジェネレータを使用してクラス最高の振動精度を実現

✓SDRフレームワークを採用し、APIベースのソフトウェア制御により、将来のアップグレードやカスタマイズが容易

✓専用のレーダー・プロセッシングIPをオンボードSoC FPGAに実装し、高速データスループットが可能

  • 高精度振動測定性能を実現(数値は片振幅時)

✓変位量の分解能は0.5ミクロンオーダーを実現

✓振動周波数応答のピーク検知能力は0.05ミクロンオーダーまで可能

  • 振動モニタリングソフトウェアはPC上で動作可能

✓変位、速度、加速度(ピーク、RMSおよびクレスト・ファクタ)

✓振動シビアリティ(プログラマブルな閾値)

✓時間応答波形および周波数応答のリアルタイム波形

  • ソリューション価格は約2k米ドル
図5.製品画像(ハードウェア)
図5.製品画像(ハードウェア)
図6.製品画像(ソフトウェア)
図6.製品画像(ソフトウェア)

まとめ

  • ミリ波レーダーによる非接触型振動センサーは、CbMに関心を持つカスタマにより多くのオプションを提供します。
  • アナログ・デバイセズのミリ波レーダー・トランシーバーADAR690xは、極めて小さな振動を高い精度で検出するのに役立ちました。
  • レーダーベースの振動センシングは「変位」を検出するもので、加速度センサーとは異なります。また変位量を正確に測定できるため、速度や加速度も正確に算出が可能です。
  • 精度は、絶対変位量で0.5ミクロン、周波数応答時のピーク検知能力では0.05ミクロンの振幅振動を検出できます。(数値はいずれも片振幅)
  • 製品は、アナログ・デバイセズのアライアンス・パートナーであるサクラテック株式会社で生産され提供されています。