自動車用、産業用、分散型の各アプリケーションでは、降圧DC/DCコンバータがあらゆる種類の電源電圧トランジェントにさらされることになります。高電圧の電源スパイクや入力電圧の一時的な低下があると、それらによって弱い部品が破壊し、システムの信頼性が損なわれる恐れがあります。損傷を回避するため、大半のアプリケーションでは、TransZorbに頼るか、またはMOSFETをパス・エレメントとして使用する保護回路を組み込むことで、入力電圧トランジェントを抑制しています。この目的でNチャネルMOSFETを使用する場合は、バイアスを加えてMOSFETをオン状態にするために、入力レールより高い電圧にゲートを駆動する何らかの方法が必要です。このバイアスを発生させることは、ほとんどのエンジニアが出来れば避けたい面倒な問題です。
LT3504は、100%のデューティ・サイクルで動作するよう設計された、4チャネルのモノリシック降圧レギュレータです。その独自のアーキテクチャによってバイアス電圧が生成されるので、Nチャネルトランジスタによる保護回路を容易に実現できます。これにより、LT3504は過電圧過渡や3.2Vまでのドロップアウトが生じても継続して動作することが可能です。LT3504は、その多くの機能の中で、出力電圧のトラッキングおよびシーケンシング、設定可能な周波数、設定可能な低電圧ロックアウトを備えています。また、すべての出力がレギュレーション状態のときにそれを通知するためのパワーグッド・ピンもあります。
1Aのクワッド降圧レギュレータ
3.2V~30Vの範囲で動作する4出力、1A降圧レギュレータの完全なアプリケーション回路例を図1に示します。Q1は180Vまでのサージ保護の役割を果たします。内蔵の昇圧レギュレータにより、入力電圧VINより5V高い電圧レール(VSKY)が生成されます。通常の動作条件(VIN< 33V)では、VSKYレールがMOSFET Q1のゲート駆動電圧を供給するので、これによってLT3504にはVSUPPLY への低抵抗パスが提供されます。さらに、VSKYピンは降圧コンバータ各チャネルのスイッチのベース駆動電圧を供給するので、これによって100%のデューティ・サイクルが可能になり、降圧コンバータで通常必要な昇圧コンデンサが不要になります。
起動のようすを図2に示します。抵抗R2はQ1のゲートをプルアップし、ソースと接続されているVINがVSUPPLYより約3V低い電圧に追従するようにします。VINがLT3504 の最小起動電圧である3.2Vに達すると、内蔵の昇圧コンバータがVSKYレールをVINより5V高い電圧に昇圧します。ダイオードD3および抵抗R3により、Q1のゲート電圧はVSKY近くまで上がるので、Q1は完全にオンします。これにより、VINはQ1のドレイン-ソース間の低抵抗パスを経由してVSUPPLYに直接接続されます。VSKYが発生する直前の最小入力電圧は約6.2Vであることにご注意ください。ただし、VSKYがレギュレーション状態になり、Q1が導通すると、最小動作電圧は3.2Vまで下がるので、入力電圧が一時的に大きく低下してもLT3504はレギュレーションを維持できます。LT3504の最小入力電圧である3.2Vまで電圧が低下した場合の全てのチャネルの動作を図3に示します。
複数出力に対する過電圧トランジェント保護
180Vのサージが加わっても中断することなく全4チャネルを1A負荷で安定化しているLT3504のようすを図4に示します。電源電圧が上昇すると、ツェナー・ダイオードD1 がQ1のゲート電圧を36Vにクランプします。ソースフォロワ構成により、VINが約33Vを超えて上昇することを防ぎます。この電圧はLT3504の入力電圧の最大定格である40Vより十分に低い値です。LT3504は、サイクルごとのピーク電流制限だけでなく、キャッチ・ダイオードの電流制限検出も利用して、過負荷状態時にデバイスと外付けのパス・デバイスに過剰な電流が流れないよう保護します。
過電圧発生時はQ1で電力が大量に消費されることにご注意ください。MOSFETの接合部温度は絶対最大定格より低い温度に保つ必要があります。図4に示す過電圧トランジェントでは、MOSFET Q1はVSUPPLY(180V)とVIN(33V)の電圧が掛かっており、更に0.5A(降圧チャネルの負荷はすべて1A)の電流が流れています。この結果、Q1が消費するピークの電力は74Wになります。図4の過電圧パルスはほぼ三角波なので、トランジェント発生時の平均電力損失はピーク電力の約半分です。したがって、平均電力は次式で与えられます。
過電圧トランジェントによるMOSFETの接合部温度上昇を概算するには、MOSFETの過渡熱応答のほかにMOSFETの電力損失を求める必要があります。幸いにも、ほとんどのMOSFETの過渡熱応答曲線は、メーカから提供されています(図5)。パルス持続時間が400ms の場合、FQB34N20L(MOSFET)の熱応答ZθJC(t) は0.65°C/Wです。MOSFETの接合部温度上昇は次式で与えられます。
MOSFET Q1を適切に選択すれば、さらに高い入力電圧サージにも耐えることができます。メーカのデータシートを調べて、MOSFETがその最大安全動作領域内で動作していることを確認してください。
誘導性スパイクからの保護
入力電圧トランジェントが低ESRの入力コンデンサに加わると、大きな誘導性スパイクが発生して、降圧コンバータに損傷を与える可能性があります。こうしたdV/dt の高い状況が発生すると、特に、寄生インダクタンスと寄生抵抗が小さい場合、電源との接続部分とフィルタ・コンデンサに大量の突入電流が流れます。外付けのゲート回路網C1およびD2は、Q1のゲート電圧のスルーレートを制御することにより、これらの突入電流を小さくします。VINはQ1のゲート電圧に従って変化するので、図6に示すように、VSUPPLYに発生する急激な入力電圧トランジェントと比較して、VINの電圧は外付けのゲート回路網によってゆるやかに増加するように制御できます。
まとめ
直列に接続されたMOSFETの高電圧分離機能により、危険なスパイクがLT3504まで届くことを防ぐことができます。LT3504 に内蔵されている昇圧レギュレータは、通常動作時にデューティ・サイクル100%のスイッチ動作が可能であり、優れたMOSFETゲート・ドライバとして機能します。LT3504は、MOSFETやゲート・クランプ回路と組み合わせることにより、トランジェント耐性が高い小型の多出力ソリューションを実現します。
データシート、デモ基板、その他のアプリケーション情報については、www.analog.com/LT3504をご覧ください。