要約
過電圧保護(OVP)デバイスは、下流回路をロードダンプイベントや過渡時に発生する過電圧状態から保護します。多くの場合、OVPデバイス用の基本的なアプリケーション回路は、特定のアプリケーションに適していません。2つの一般的なバリエーションがあります。1つは、この回路の最大入力電圧を増大することができます。もう1つは、この回路は出力コンデンサを過電圧または不足電圧状態時にエネルギーを保持するリザーバとして使用するように変更可能です。このアプリケーションノートは、これらの2つの設計の変更を行う方法について検討します。これら方法の例としてOVPデバイスのMAX6495~MAX6499/MAX6397/MAX6398が使用されます。
はじめに
過電圧保護(OVP)デバイスのMAX6495~MAX6499/MAX6397/MAX6398は、下流回路を負荷ダンプイベントまたは過渡時に発生する過電圧状態から保護します。これらの部品は、電源ラインと直列配線されたnチャネルMOSFETを制御して動作します。電圧がユーザ指定の過電圧スレッショルドを超えると、ゲートがローに移行し、MOSFETがシャットオフし、電源ラインの接続を切断します。
データシートにこれらのOVPデバイス用として示された標準回路は、大部分のアプリケーションに最適です(図1を参照)。ただし、アプリケーションによっては基本回路に一部変更が必要な場合もあります。この記事では、このような2つのアプリケーションが検討されます。1つは、最大入力電圧の増大、もう1つは、出力コンデンサを過電圧イベント時にリザーバとして使用するアプリケーションです。
図1. 基本的な過電圧保護回路
最大入力電圧の増大
図1の回路は最大72Vの入力電圧過渡用として機能しますが、一部のアプリケーションではさらに保護が必要です。したがって、OVPデバイスの最大入力電圧を増大させる方法を理解することは有利です。図2は、追加の抵抗とIN電圧をクランプするツェナーダイオードを備えた回路を示しています。トランジスタバッファ(図3)を追加すると、シャントレギュレータの電流要件が低減しますが、設計コストが増大します。
図2. 最大入力電圧を増大させる過電圧保護回路
図3. この過電圧保護回路は、トランジスタバッファを使用して最大入力電圧を増大させます。
ツェナー電圧を選択して通常動作時の電力浪費を回避するには、最大標準入力電圧を上回る電圧を選択します。さらに、ツェナー電圧は、ツェナー電流が最大となる過渡状態時のOVP回路(72V)の最大動作電圧より低くする必要があります。
直列抵抗のR3は、過電圧状態時のツェナーダイオードの消費電力を制限するのに十分な大きい値にする必要がありますが、最小入力電圧でOVP ICへのパワーを維持するのに十分な小さい値にする必要があります。
図2のR3抵抗値の計算は、D1のツェナー電圧が54V、電圧ピークが150V、およびツェナーのパワーが3W以下の各値を指定して開始します。このデータから、ツェナーから流れる最大電流は次のようになります。
3W/54V = 56mA
この電流の場合、R3の下限値は次のようになります。
(150V - 54V)/56mA = 1.7kΩ
したがって、R3のピーク消費電力は次のようになります。
(56mA)² × 1.7kΩ = 5.3W
この5.3Wよりも小さい抵抗値は、抵抗およびツェナーダイオードで大きな電力消費を引き起こします。
抵抗の上限値を計算するには、必要な最小電源電圧がわかっている必要があります。MAX6495は、最低5.5Vの入力電圧が必要です。この例では、最小電源電圧は6Vであるため、通常動作時の抵抗器R3における許容可能な電圧降下は500mVです。MAX6495の消費電流は150µA (max)であるため、対応する最大抵抗値は次のようになります。
500mV/150µA = 3.3kΩ
図2の回路の抵抗R3は2kΩに設定され、OVPデバイスが6Vを少し下回る入力電圧で動作するように保証しています。
過電圧状態時にR3 とD1 (図2)で大きな電力が浪費されることに注意してください。過電圧過渡が持続している(数十ミリ秒以上)場合、図3の回路がこのアプリケーションにより適している可能性があります。このエミッタフォロワ回路は、R3とD1間のノードから取り出される電流を低減することによってR3の最大許容値を大幅に増大させます。100のトランジスタβでは、150µAの消費電流が1.5µAになります。このとき、ダイオードの5µAの逆リーク電流は無視することができません。R3は10kΩに設定されるため、リーク電流によって引き起こされたR3の電圧降下を50mVに制限します。
INからGNDへの1µF (min)セラミックコンデンサを使用します。部品の電圧定格が入力電圧要件に適合するように確保します。直列MOSFETのVDS_MAX定格に注意してください。
出力コンデンサをリザーバとして使用
過電圧状態時、標準アプリケーション回路は、出力コンデンサを自動的に放電し、ダウンストリーム回路構成を保護します(図4)。多くの場合、アプリケーションは、エネルギーを蓄電して過渡過電圧状態時にダウンストリーム回路構成へのパワーを維持するための出力コンデンサを必要とします。図5の回路はこの動作を実装しています。
図4. 出力コンデンサの放電パスを示す標準的な過電圧リミッタ回路
MAX6495~MAX6499/MAX6397/MAX6398は、GATE出力に接続された内蔵100mA電流シンク(図4を参照)を使用し、ゲート容量を放電し、出力コンデンサを放電します。この電流シンクは、GATEの電圧がOUTFBの電圧と等しくなるまで、ゲートを放電します(緑色の矢印で示した電流I1を参照)。これで、FETがオフになります。電流シンクは、GATEの電圧を下げ続け、最終的に、内部クランプダイオードを順バイアスし、出力容量を放電します(赤色表示の電流I2)。
図5. リザーバコンデンサ回路付き過電圧リミッタ
OUTFBが切断され、クランプダイオードを通じた電流パスを除去すると、出力コンデンサはもはや放電しなくなります。ただし、MOSFETのゲートは、もはや保護用のクランプダイオードを持っていないため、VGS_MAX定格を上回る可能性があります。
外付けクランプダイオード(図5のD1)をMOSFETのソースからMOSFETのゲートに追加すると、出力から100mAの電流シンクへの電流パスが再度誘導されます。GATEとゲートピンの間に直列抵抗(図5のR3)を追加すると、この電流が制限され、出力コンデンサの電流ドレインが低減されます。電流の制限は、ターンオフ時間も増大させ、急激な過電圧過渡への回路の応答を遅くします。直列抵抗に対してコンデンサ(図5のC4)を追加すると、応答時間が短くなります。オプションの抵抗のR4は、OUTFBの浮遊を阻止します。
MAX6495~MAX6499/MAX6397/MAX6398は、SET抵抗分配器を入力の代わりに出力接続に接続する(上掲の図を参照)ことによって、リミッタモードで動作する場合、回路は出力コンデンサにチャージを定期的に追加します。コンデンサの電圧が過電圧スレッショルドのヒステリシス電圧よりも降下すると、直列MOSFETがターンオンし、コンデンサをチャージし、電圧スレッショルドを上回るとターンオフします。
図6は、過電圧監視モードで動作するように接続されたMAX6495~MAX6499/MAX6397/MAX6398を示しています。SET抵抗分配器を入力接続に接続すると、入力過電圧時にMOSFETがシャットオフし、過電圧状態が除去されるまでオフのままになります。
図6. 過電圧監視モードに設定された過電圧コンパレータ