要約
再生可能エネルギー源は、社会におけるエネルギー生成の方法を変革する、途方もない可能性を秘めています。これらのエネルギー源の統合が現在、政府や公益事業体によって推し進められています。再生可能エネルギー源を円滑に統合するには、生成に続いて、測定や送配電網に適したACへの効率的変換が極めて重要です。そうした利用可能なエネルギーの伝達も必要です。この記事では、大規模および小規模エネルギー源の統合に利用可能な技術について検討します。
同様の記事が「Power Systems Design」誌の2012年3月/4月号に掲載され、ドイツでは、「Elektronik Industrie」誌の2012年6月号に掲載されています。
はじめに
> すべての電気が再生可能エネルギー源から生み出される世界を想像してみてください。2011年に出された欧州委員会のエネルギーロードマップ2050¹が、将来的に消費電力の97%を実際に再生可能エネルギー源から生み出すシナリオを提案したことを考えてみましょう。そう、目標は97%です。そういう世界はどのようなものでしょうか。目を閉じて、きれいな空気、青い空、そして緑の広がる牧草地の風景を想像してください。確かにすばらしいものです。しかし、そこに行き着くまでには、相当な仕事をなしとげなくてはなりません。私たち技術者にとって、「グリーン」な新しい世界の構想や夢は、たちまち困難な超大規模エンジニアリングプロジェクトに取って代わられます。果たして、再生可能資源が実質的にすべての必要な電気エネルギーを提供するところまで、十分な再生可能エネルギーを取り出し、まとめて送り届けることができるでしょうか。それは間違いなく難題です。
主な再生可能エネルギー源の利用
再生可能資源は、エネルギーを生成する上で疑いなく非常に魅力的な選択肢です。日光や風は無料で、豊富で永続的です。立ち上げ時の初期投資の後、クリーンで、安価で信頼性の高いエネルギーを何年にもわたって生み出すことができます。同時に、銅・インジウム・ガリウム・セレン化合物(CIGS)やナノ粒子のような新しい化学が太陽電池技術を変革し、生産コストの削減や柔軟な寸法・形状を可能にしています。さらに、大量生産によって従来のシリコンパネルやポリシリコンパネルのコストが下がり続けています。
しかし、再生可能エネルギー源の統合にはなお別のステップもあります。太陽電池から電気を生み出した後、そのエネルギーを送配電網に乗せるためにAC電力に変換する必要があります。コスト効率を引き上げるには、この転換ステップを効率化する必要があります。今日の完備した太陽光発電システムでは、現在、「システムの残り」(パネル以外のすべての構成要素)がシステムコストの44.8%を占めています。その割合は2012年に増大します²。したがって、これらの電子機器に効率的で信頼性の高い動作が求められることは疑う余地がありません。
事業者がエネルギーの大部分を再生可能資源から生み出すことを望むとすれば、太陽光、風力、および水力発電の大量導入を進める必要があります。さらに、送配電網ではこれら大規模分散型の断続的なエネルギー源を伝送し、またおそらくは蓄積することができる必要があります。そのうえ、節約と効率も重要な役割を果たさなければなりません。LED照明のような技術を大規模に採用することが求められます。
小規模化したエナジーハーベスティングをもう1つの選択肢として活用
もう1つ取り上げるに値する魅力的な代替エネルギー源があります。エナジーハーベスティングです。ここで必要なのは、エネルギー源の違いを超えて、これらのエネルギー源の規模を考えることです。砂漠に設置された大型の風力発電所やエーカー規模の太陽光発電所は、途方もない量の電気を生み出します。しかし、落ち葉を散らすそよ風や窓から差し込む太陽の光はどうでしょうか。これらのエネルギー源の規模を考えると、新たなアプリケーションやアイデアの可能性が開かれます。実のところ、再生可能エネルギーの適用範囲を大きく拡大することができます。
それにはある種の創造性が必要です。空中の電波から自動的に充電する携帯電話、路上を走行する自動車の重量のみによって給電され、交通状況を報告する道路センサー、特定の量の太陽光で建物の照明や暖房をまかなうとともに、残りの太陽光で電気を生み出すことができる太陽電池でコーティングした窓を想像してください。エナジーハーベスティングと呼ばれるこうした小規模なアプリケーションは、可能なだけでなく、想像以上に実現に近付いています。これらの再生可能資源には、わずかな量の風、振動、太陽光を有用なものに変えるインテリジェントなエネルギー処理が必要です。
相当な電力をまかなう
小規模なエネルギー生成
再生可能エネルギー源とその規模、それがまさにこの記事のテーマです。ここまでは、ある意味で「明らかなこと」を説明してきました。ここからは、すでに起きていることについて説明します。マキシム・インテグレーテッドは、小規模なエナジーハーベスティングから大規模な太陽光発電の実装まで、幅広い代替エネルギーソリューションにわたって多数の製品を提供しています。超小規模なエネルギー生成用には、MAX17710 (図1)が1µWを超えるエネルギーを生成するあらゆるエネルギー源のインテリジェントな変換を実現します。このICは、熱、光、振動、および磁気源からエネルギーを引き出すため、エネルギー源に依存しないと考えられます。その結果、センサーを動作させつつマイクロセルバッテリを充電することができる有用な電圧が得られます。
ほぼ全面的に再生可能エネルギーに依存した世界では、こうした微小な電源がエネルギー構成の必要な一部になります。それだけに、MAX17710のようなエナジーハーベスティングツールも将来、同じように必要になります。
中規模から大規模なエネルギー生成
中規模から大規模な太陽光発電設備では、生み出したエネルギーを測定することでシステムの動作状態に関する情報を得ることができます。エネルギー測定チップの78M6613は、2000:1のダイナミックレンジにわたってDCまたはACエネルギーを0.5%まで正確に測定します。実際のデータを図2に示します。この精度とレンジによって、電力生産者は朝や夕方、日差しが極めて弱い中でもエネルギーを生み出している屋上設置型太陽電池パネルのシステム性能を監視し、評価することができます。
また、78M6613は4象限測定を使用して正確な力率を提供します。この値によって、送電の効率や電力が送配電に適しているかどうかが決まります。8チャネルのエネルギー測定ICである78M6618は、複数の測定点を必要とするアプリケーションに同様な機能を提供します。そのため、78M6631は大規模な3相商用システムで機能します。送配電される電力に占める再生可能電力の割合が増えるにしたがって、電力事業者はこうしたエネルギー測定の精度と速度に依拠して、電力供給を維持しつつ変動性のある電源を円滑に統合することになります。
電力の測定、計量、伝達
再生可能エネルギー源は概して断続的です。風はいつも吹いているとはかぎらず、太陽はいつもさんさんと輝いているとはかぎりません。したがって、ユーザーが望むときに十分なエネルギー供給を確保するには、大量の再生可能発電が必要です。エネルギー源と需要の変動性を吸収するために、送配電網上のエネルギー貯蔵も必要になります。そのうえ、これらのシステムの多くは完全に送配電網の外で動作します。
再生可能エネルギーによる発電を取り上げる場合、通常、バッテリ管理については考えません。しかし、エネルギー貯蔵の問題を考える際は、バッテリ管理方式が極めて重要になります。バッテリの化学は用途や技術に基づいて発展していますが、安全性や継続的なバッテリ動作が最も重要な要件であることに変わりはありません。これらの性能要件を満たすため、マキシムはさまざまな12セルバッテリ管理製品を提供しています。MAX11068は最大12個までのバッテリセルのエネルギーを管理し、セルバランシングや過電圧/低電圧(OV/UV)検出機能を内蔵しています。高電圧アプリケーションでは、この製品を最大31モジュールまでデイジーチェーン構成で接続し、最大372セルまで管理することができます。このデバイスは-40℃~+105℃の温度範囲で動作するように設計されているため、冬や夏の最も苛酷な条件下でもバッテリ動作が中断することはありません。
太陽電池パネルからの電力は、DCからACに変換することも必要です。この変換には一連の周波数切替えが要求されます。MAX15024やMAX5048のような堅牢で信頼性の高いMOSFETドライバが効率的な信号を供給して、電力を反転させるMOSFETを駆動します。
インバータが電力を送配電網に適したACに変換したら、そのインバータでは送配電網上での通信も必要になります。この通信では、電力事業者に対してそのインバータが最も効率的にエネルギーを伝送可能であることを通知します。マキシムのG3-PLC™ チップセット、MAX2991とMAX2992は、ノイズが多い状況下でも電力線を介して通信を行います。図3は、G3-PLCが低電圧と中電圧の電力線間でトランスを経由して通信することによって、電力線ネットワーク内で必要なアクセスポイントの数を削減する様子を模式的に示しています。この通信方式は、フランスにおけるElectricité Réseau Distribution France (ERDF)の試験を含む複数のスマートメーター試験ですでに使用されています³。さらに、G3-PLCは太陽光発電システム内の通信でも有効に機能します。太陽光発電システム内の通信や太陽光発電システムと送配電網との通信の形態としては、ほかにもRS-485、CANバス、RFなどがあります。マキシムは、これらすべてのインタフェースにソリューションを提供しています。
現在の状況
データが示すところでは、再生可能エネルギーで相当な電力をまかなうことができます。再生可能エネルギーの統合と節約に伴う環境上の利点に疑問を差し挟む人はいません。ただし、明らかなことが1つあります。これらの利点は、入念に管理された再生可能エネルギー源と技術的に優れた送配電網なくして実現不可能です。
欧州委員会のエネルギーロードマップ2050が提案する再生可能エネルギー97%のシナリオは、明らかに野心的なものです。これに近い成果を上げるのは、途方もない技術的偉業であり、おそらく今後50年を要するでしょう。再生可能エネルギーで相当な電力をまかなうには、技術的な創造性、野心的な電力会社、エネルギー源の節約、測定、および伝達用に最適化された回路を組み合わせる必要があります。それが現実になったとき、私たちの誰もが成功を収めるのです。