概要
設計リソース
設計/統合ファイル
- Schematic
- Bill of Materials
- Assembly Drawing
- Gerber Files
- Allegro Layout File
- LTspice Simulation Files
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-ADICUP3029 ($52.97) Ultra Low Power Arduino Form Factor Compatible Development Board
- EVAL-CN0536-ARDZ ($116.52) Geiger Counter
機能と利点
- 多くのガイガー・ミュラー計数管との互換性
- プログラマブルな高電圧電源
- 可聴および可視のアラート・インジケータ
マーケット & テクノロジー
使用されている製品
参考資料
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CN0536 User Guide2021/04/26WIKI
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ラピッド・プロトタイピングを実現するためのソリューション2024/04/15PDF4 M
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CN-0536: 調整可能な高電圧電源を備えたガイガー・カウンタ (Rev. 0)2024/07/31PDF459 K
回路機能とその特長
放射性物質が存在する可能性のある核エネルギー生産施設、船舶推進アプリケーション、汚染環境、医療施設、およびその他産業施設の内部やその周囲においては、放射線モニタリングが安全衛生を確保するために欠くことのできない要素です。
瞬時放射線強度や総放射線量を測定するには、様々な受動的方法および能動的方法があります。簡便かつロー・コストで信頼性の高いガイガー・ミュラー・カウンタは、主たる放射線測定装置として、あるいは、他の方法と併用する二次的な測定手段として、有力な候補の 1 つです。
図 1 に示す回路は、3V や 5V のプラットフォーム・ボードに対応したArduinoシールド・フォーム・ファクタでの低消費電力ガイガー・カウンタ放射線検出器です。この回路には小型ガイガー・ミュラー計数管が組み込まれており、280V~500Vの間で調整可能なバイアス電源を備えているため、回路を最大感度となるよう調整したり、別のガイガー・ミュラー計数管に適合させたりすることができます。
可聴のイベント・インジケータと発光ダイオード(LED)によるイベント・インジケータが放射線強度の定性的な測定結果を示し、条件設定されたイベント・パルスがArduino割込みピンに配信されて定量的な測定および長期のデータロギングが行われます。
このソリューションは、プラットフォーム・ボードのユニバーサル非同期レシーバー/トランシーバー(UART)インターフェースを用いて、ローカルな物理ディスプレイ(液晶ディスプレイ(LCD)、有機 LED(OLED)など)や有線データ接続に対応できます。Bluetooth や WiFiを介して無線接続を行えば、電気的なアイソレーションが可能になり、また、リモート・モニタリングや複数センサーからのデータを統合するアプリケーションを簡素化できます。
高電圧電源はリファレンスを内蔵したマイクロパワー・コンパレータを中心とする、独自のアーキテクチャです。レギュレーションにヒステリシスがあるため自己消費電流をマイクロアンペア・レベルに低減でき、また、二次のパワーグッド・コンパレータにより故障状態を検出するため、この回路はバッテリ駆動の長期モニタリング・アプリケーションに最適なものとなっています。
回路説明
ガイガー・ミュラー計数管の動作原理
ガイガー・ミュラー計数管は、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、X 線の放射に対して感度を持つイオン化放射線検出器です。放射線の種類は特定できないものの、感度、簡素さ、信頼性に優れているため、単独でも他のセンサーと併用しても、広い範囲の放射線モニタリング・アプリケーションにおける実用的な選択肢となっています。
ガイガー・ミュラー計数管は一般的に 250V~500V の電圧範囲にバイアスされ、放射イベントが発生していない場合の電流はほぼゼロです。図 2 にいくつかのタイプのガイガー・ミュラー計数管を示します。
イオン化粒子が計数管に入ると、自由電子と正に帯電したガス分子からなるイオン対が生成されます。電子はアノードに向かって加速し、更にイオン対を生成するため、アバランシェによって電子が追加されます。電気的には、この効果は、アノードとカソード間に一時的に低インピーダンスのパスを生成し、外部抵抗の両端に生じる電圧パルスとして検出できます。外部抵抗は、アノードとカソードの間の電圧がアバランシェが終了する電圧まで低下できるようにするためにも必要です。
出力信号は、カソード(図3参照)またはアノード(図4参照)で測定できます。
カソードから信号を取り出す場合は高電圧のレベル・シフト・コンデンサが必要となることはありませんが、カソードとグラウンドの間のインピーダンスが比較的大きいため、電気ノイズの影響を受けやすくなります。CN-0536 では、カソードを接地してノイズの影響を受けにくくし、アノードから信号を取り出しています(図 4 参照)。
ガイガー・パルス検出
図 5 に、ガイガー・ミュラー・パルス・レベル・シフトおよび検出回路の LTspice®回路図を示します。
放射イベントが発生していない場合、アノードは 400Vにバイアスされます。C28 と C26 が容量性分圧器を形成し、その出力はR21 を介して IO_VREF にバイアスされています。イベントが発生すると、アノードは一時的にグラウンド電位にプルダウンされ、400V の負方向ステップが生じます。アッテネータの出力がR27 と R28 で設定された閾値である 1.98V 未満に低下すると、LTC1441 コンパレータの出力がハイに駆動されます。コンパレータ出力はプラットフォーム・ボードの割込みピンに送られ、それによってソフトウェアがイベントに応答できるようになります。図 6 に代表的な放射イベントのアッテネータおよびコンパレータ出力を示します。
高電圧電源
ガイガー・ミュラーのバイアスは、図 7 に示すように、マイクロパワーの高電圧電源によって供給されます。この回路は、ヒステリシスのある電圧モード制御を備えた、固定周波数、50%固定デューティ・サイクルの非同期整流式昇圧コンバータで、後段にはクッククロフト・ウォルトン逓倍器が配置されています。
LTC6906 抵抗プログラマブル発振器は、50%のデューティ・サイクルで 250kHz の矩形波を発生するよう構成されています。AND ゲートはこのクロック信号をバッファし、昇圧のパワーMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)のゲート・ドライバとして機能します。LTC6906 は電力が供給されているときは常に 12.5µA の電源電流を流すため、LTC6906 の V+電源を単にオン/オフするだけで、コンバータのイネーブルとディスエーブルを切り替えることができます。LTC6906 の電源電圧がランプアップ中またはランプダウン中であっても、ANDゲートにより、スイッチング FET をオフまたは完全にエンハンス状態にすることができます。
電圧帰還は、逓倍器の初段の出力で行われます。これにより、帰還分圧器の消費電力は大幅に低減できますが、負荷レギュレーションを若干低下します。図 7 に、設計支援パッケージ含まれる高電圧電源の LTspice回路図シミュレーションを示します。
高電圧生成(280V~500V)
最初の電源投入時、帰還電圧はグラウンド電位となっており、U1の出力はハイに駆動され、それによって LTC6906がパワーアップし、昇圧段は 350kHz、50%デューティ・サイクルでスイッチングを開始します。L1、Q2、D1、C5 は、一般的な非同期整流式昇圧コンバータを形成し、C5 の電圧が 64V に達すると U1がオフになります。出力電圧は、U2 のヒステリシスによって定まる電圧である 55V に緩やかに低下し、再度サイクルが開始されます。最初のターンオン・トランジェントを図8および図9に示します。
出力電圧は 400V(公称値)に設定され、390V~410V に維持されています。デューティ・サイクルは約 0.1%と低く、600ms ごとに 200μs のバーストがあります。その結果、平均消費電流は33μA となっています。代表的なオシロスコープのプローブ・インピーダンスは 10MΩですが、それでも回路動作に影響を及ぼす可能性があるため、逓倍器の出力をプローブ測定することは困難です。しかし、これよりも前の段をプローブ測定することで原理を実証できます。図 10 と図 11 は、2 段目の逓倍器の出力部にある C11 の電圧を示すものです。一方、図 12 と図 13 は、100V、N チャンネルのエンハンスメント・モード MOSFET Q2のパルス・スイッチングを示しています。このパルスは、ANDゲートと LTC6906 周波数クロック・ジェネレータを組み合わせて生成した 350kHz のスイッチング周波数でゲート端子に印加されています。
ガイガー・パルス可視/可聴インジケータ
ガイガー・ミュラー・イベント検出器からの出力パルスは 18µsと非常に短いため、視覚的な指示(LED)やブザーからの可聴クリックを確実に発生することはできません。LTC6994 プログラマブル遅延ブロック/デバウンサは、マスタ・タイムベース(tMASTER)が2.5μs、N分周比が512、遅延立下がりエッジ(POL)が 1 に設定されています。そのため、LED インジケータおよびブザー用に 1.28ms のパルスを生成し、容易に視認可能な発光と容易に聴くことができるクリック音を発生することができます。図 14 に、タイマ・ブロック遅延の詳細な回路図を示します。
tDELAY = (NDIV × RSET)/50 kΩ × 1 µs
ここで、
NDIV = 1, 8, 64, …, 221、
RSETは R6 です(図 14 参照)。
高電圧パワーグッド
LTC1441 コンパレータの後半部分は、高電圧パワーグッド・インジケータとして機能します(図 15 参照)。
この回路は LTC1540 の REF 出力(VREF)をリファレンスとして使用します。これはレギュレーション電圧を設定するために使用するリファレンスと同じです。ポテンショメータのワイパーがリファレンス電圧よりも低くなった場合、コンパレータの出力がアサートされ、レギュレーション不能となったことを通知します。
バリエーション回路
ガイガー・ミュラー計数管の出力パルスをカソード(外側シェル)から取り出すことにより、高電圧コンデンサが必要なくなります。ただし、このように出力パルスを取り出すと、カソードがアンテナとして作用するため、電気的な干渉の影響を受けやすくなります。
長期的なバッテリ駆動アプリケーションでは、LTC6994 およびパワーLED を回路から省いて静止電流を抑えることができます。
回路の評価とテスト
以下のセクションでは、CN-0536 を構成するための手順の概略を説明します。ハードウェアとソフトウェアのセットアップの詳細については、CN0536 ユーザ・ガイドを参照してください。
必要な装置
以下の装置類が必要になります。
- EVAL-CN0536-ARDZ
- EVAL-ADICUP3029
- microUSB ケーブル
- TeraTerm や PuTTY などのシリアル端末プログラムを備えたホスト・コンピュータ
- Flinn Scientific AP8795 1µCi Cobalt-60 ガンマ線源などの安全な放射線源
- ADuCM3029_demo_cn0536_uart.hex ソフトウェア・ファイル
システム・ブロック図
図 16 にシステムのブロック図を示します。
開始にあたって
EVAL-CN0536-ARDZと関連ソフトウェアのセットアップを行うには、次の手順に従います。
- 図17 に示すように、EVAL-CN0536-ARDZ を EVAL-ADICUP3029 プラットフォーム・ボードの上に接続します。
- 用意した microUSB ケーブルで EVAL-ADICUP3029 を PC に接続します。
- PC 上で、事前構築した ADuCM3029_demo_cn0536_uart.hex ファイルを DAPLINKドライブにドラッグ・アンド・ドロップします。
- シリアル端末プログラム(Tera Term や Putty など)を開きます。
- ボー・レートを 115200 に設定するよう割り当てられたCOM ポートを使用して EVAL-ADICUP3029 を接続します(図 18 参照)。
- 放射線源をガイガー・ミュラー計数管の近くに置き、端末を観察します。