概要
設計リソース
設計/統合ファイル
- Schematic
- Bill of Materials
- Gerber Files
- Allegro Files
- Assembly Drawing
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-ADICUP360 ($52.97) Arduino Form Factor Compatible Development System
- EVAL-CN0411-ARDZ ($82.39) Total Dissolved Solids Measurement Board
デバイス・ドライバ
コンポーネントのデジタル・インターフェースとを介して通信するために使用されるCコードやFPGAコードなどのソフトウェアです。
AD5686 GitHub Linux Driver Source Code (SPI)
nanoDAC+ GitHub no-OS Driver Source Code
機能と利点
- 導電率を使用したTDS測定
- 1uS~1Sの測定範囲
- 標準的なBNCプローブ接続を使用
- Arduino(アルドゥイーノ)フォーム・ファクタ互換
マーケット & テクノロジー
使用されている製品
参考資料
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cn0411 User Guide2018/12/12WIKI
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CN0411: 水質モニタリングのためのTDS 測定システム (Rev. 0)2018/12/13PDF257K
回路機能とその特長
水システムに存在する総溶解固形分(TDS)は、水溶性の無機塩と少量の有機物質からなり、水質の重要な指標です。TDS は、イオンの性質、温度、数などに依存した要因で決まる、溶液の電気伝導度(導電率)から導くことができます。正確さでは重量法が勝りますが、溶液の導電率測定は、低コストで素早く容易にシステムのTDS を決めることができます。前者では、水を蒸発させ、残留物の重量を計測します。これは実験室の設備では可能ですが、現場では実用的ではありません。
図1 に示す回路は、溶液の導電率に基づくTDS 測定システムです。この設計は、単電源動作が可能な部品を組み合わせて回路の複雑さを最小限に抑えており、低消費電力の携帯型計測器アプリケーションに最適なものとなっています。
溶液の導電率測定を最も簡単に行う方法は、2 線式導電率セルです。導電率測定では、25°C(または他のリファレンス温度)以外の温度で測定した場合、温度補償が必要です。このシステムは、100Ω または1000Ω の2 線式測温抵抗体(RTD)を使用し、室温を基準として導電率測定を行うことができ、また、様々なセル定数と動作パラメータの2 線式導電率セルに適応できます。
導電率セルの電極に容量効果と分極効果があるため、励起信号は、分極効果を抑制できるだけの高周波でありながら、容量効果を抑制できるだけの長周期の両極性矩形波であることが必要です。導電性電極の損傷を防ぐため、信号のDC オフセットと振幅はゼロに近いくらい非常に小さいことが必要です。
この回路は、1µS~0.1S の範囲の導電率を測定できます。マルチプレクサが様々な値の7 個の高精度抵抗を切り替え、導電率プローブの信号を測定する際のゲインを設定します。このシステムは、ソフトウェアに実装された自動範囲設定プロシージャによって、導電率測定のゲイン設定を自動で決定することができます。更に、このシステムは、高導電率の範囲で補正することで、精度を向上させることもできます。
回路説明
導電率と総溶解固形分(TDS)の理論
溶液中のTDS は主に無機塩で構成されており、この無機塩は水などの極性溶媒が存在する場合にイオンに分離します。2 つの電極を通じて電位が溶液に印加されると、イオンの移動により電流が生じます。この電流は電気分解が無視できる場合、オームの法則に従います。従って、溶液の抵抗R は、式1 で計算できます
ここで、
V は2 つの電極に印加された電位差、
I は2 つの電極間を流れる電流の測定値、
ρ はΩ cm を単位とする物質の抵抗率、
L は2 つの電極間の距離、
A は電極の面積です。
コンダクタンスG は抵抗の逆数でジーメンス(S)を単位として測定され、導電率Y は抵抗率の逆数で、 S/cm、mS/cm、またはμS/cm を単位として測定されます。式1 を変形して、2 電極間の電位差とこの電極を流れる電流からコンダクタンスを求めることができます。導電率は、電極配置に関連する係数をコンダクタンスに乗じた値です(式2 参照)。
通常、導電率は、導電率プローブまたは導電率セルと呼ばれる2 電極センサーを使用して測定します。図2 に示すように、導電率セルを溶液に浸し、励起電圧をこのセルに印加します。
導電率セル定数、あるいは単にセル定数、KCELL は、2 つの電極間の距離と各電極面積との比で、これを用いて式2 は式3 のようにまとめられます。セル定数の単位はcm−1 ですが、導電率プローブのメーカーはこの単位を省略する場合があります。
通常の測定システムでは、電流と電圧の測定値からコンダクタンスを計算します。導電率の値の範囲は非常に広いため、通常の測定器では、極端な値(1µS 以下や0.1S 以上など)を持つコンダクタンスの測定が困難な場合があります。適切なセル定数の導電率セルを選択することで、導電率測定の範囲を広げることができます。0.1µS/cm 未満の導電率は、セル定数の小さい導電率セルを使用すれば、低いコンダクタンスで測定できます。これに対して、0.1S/cm を超える導電率は、セル定数の大きい導電率セルを使用すれば、高いコンダクタンスで測定できます。代表的なセル定数とこれに対応する導電率測定値の範囲を表1に示します。
Cell Constant | Range of Measured Conductivity |
0.01 | < 0.1 µS/cm |
0.1 | 0.1 µS/cm to 100 µS/cm |
1 | 100 µS/cm to 10 mS/cm |
10 | 10 mS/cm to 1 S/cm |
各導電率セルには定格励起電圧があり、電極を損傷しないよう、この値を超えてはいけません。いずれの電極にもDC 電圧は印加しないでください。
誘電特性
溶液の分極と誘電特性は、主として、導電率セルで測定される電圧信号と電流の精度に影響します。分極は、電極表面の近くで発生するイオンの蓄積と化学反応によって生じます。溶液の誘電特性は、周波数に依存するインピーダンスと電極間容量に影響します。コンダクタンスの測定精度を最大化するために使用する手法の1 つは、両極性パルス励起を用いるものです。励起電圧+VEXCが時間t1 の間印加され、次に逆の励起電圧−VEXCが時間t2 の間印加されます。更に、t1 とt2、+VEXC と−VEXCは共に、1%以内の誤差で等しい長さおよび大きさである必要があります。信号の周波数(t1 + t2)−1 は、コンダクタンス測定の範囲になるよう調整する必要があります。通常、µS の範囲では94Hz に、mS の範囲では2.4kHz にします。これらの周波数は、電極間容量の効果を抑制し、同時に電極表面のイオン蓄積も防止するものです。
導電率測定
導電率測定のフロントエンドは、図3 に示すような分圧器ネットワークに簡略化できます
RCONDで簡略化された導電率セルと溶液の電圧と電流の大きさは、RGAINで設定されます。
ノードB とノードC は定期的に切り替わり、RCONDの両端に両極性矩形波を発生させます。ノードA で、マルチプレクサが様々なゲイン抵抗を切り替えます。
ノードA で分圧器に印加される励起電圧は、16 ビットSPI 電圧D/A コンバータ(DAC)のAD5683R を使用して生成されます。これによって、分圧器に印加する矩形波信号の大きさは、ユーザ設定が可能となります。プローブの定格を超えない範囲で信号が最大となるよう励起電圧を選択します。ソフトウェアのデフォルトでは、0.4V の励起電圧を印加します。また、AD5683Rは、デフォルトでシステムに2.5V のリファレンス電圧を供給します。ただし、外部リファレンス電圧を使用するよう設定することも可能です。
図4 にゲイン設定用の抵抗とスイッチを示します。ここで、R1= 20Ω、R2 = 200Ω、R3 = 2kΩ、R4 = 20kΩ、R5 = 200kΩ、R6 =2MΩ、R7 = 20MΩ で、P1、P2、P3 は、AD7124-8 のGPIO 出力です。
この回路は1µS~1S の範囲のコンダクタンスに対応します。導電率セルの分圧器は、図4 に示すように、ADG1608 を使用して7 個のゲイン抵抗を切り替えることで、これらの範囲を適切な尺度で測定します。ADG1608 は、5V 単電源動作時に12.5Ω(代表値)のオン抵抗を持つ、8 チャンネルのマルチプレクサです。導電率測定が20Ω と200Ω のレンジで行われる場合、このオン抵抗は無視できない大きさです。20Ω の抵抗に接続するADG1608 のピンS2 と200Ω に接続するピンS3 は、A/D コンバータ(ADC)の2 つの入力チャンネルにも接続されています。システムは、20Ω と200Ω のレンジでの測定誤差に対して初期キャリブレーションを実行するようにも設定可能です。20Ω と200Ω の高精度抵抗に接続される3 オプション(6 ピン)のジャンパ選択ヘッダ(P5)を、図5 に示します。ピン1 とピン2 を短絡させると、システムが導電率セルに印加される信号を測定するよう設定され、ピン3 とピン4 またはピン5 とピン6 を短絡させると、システムが高精度抵抗に印加される信号を測定するよう設定されます。
図6 に示すように、ADG884 を使用して、セルに両極性信号が加わるよう導電率セルが切り替えられます。ADG884 のオン抵抗は0.5Ω(代表値)で、3.3V 単電源で動作します。切替えはマイクロコントローラ・ボードのPWM 信号で制御されます。この信号の周波数は、低導電率測定では94Hz、高導電率測定では2.4kHz となるよう、ユーザ設定が可能です。
導電率セルに印加される信号は、図7 に示すように、最大0.25Vの入力信号に対し5V 単電源で動作する低入力バイアス電流計装アンプ、AD8220 を使用して、10 倍のゲインで増幅されます。ユーザ設定可能なジャンパ・セレクタP6 もあり、システム・ゼロスケール・キャリブレーションが可能です。
この計装アンプの出力は2 つの並列なサンプル&ホールド回路に入力されます。図8 に示すように、AD8220 の出力のサンプリングは、チャージ・インジェクションが低く最大2.5V の入力信号に対し3.3V 単電源で動作する、デュアルSPDT スイッチのADG836 によって制御されます。
このスイッチは、メインのPWM1 の正と負のサイクルの中間でPWM1 とPWM2 を使用する、2 つの並列のサンプル&ホールド回路に接続されます。3 つのPWM 信号と導電率セル電圧のスイッチング図を図9 に示します。
このサンプリング手法によって、PWM1 の信号状態の変化が開始する時に発生する電極の容量による影響と、各状態が終了する時に発生する電極の分極による影響が抑制されます。これによって、サンプル&ホールド回路の出力は、導電率セルの正負それぞれの電圧の10倍に相当する2つのDCレベルとなります。
スイッチングによる最大のチャージ・インジェクションは40pCで、これにより40pC ÷ 47µF ≈ 851nV の誤差が生じます。最も厳しいケースの電圧降下は、低周波数スイッチングの周期の2 分の1 とドループ・レートとの積で、このドループ・レートは、ADG836 の最も厳しいケースのリーク電流とAD8628 の最も厳しいケースのバイアス電流を保持容量で割ったものです。式4 に示すように、この電圧降下は理論的には23nV となります。
A2 とA3 のAD8628 バッファ・アンプの出力は、シングルエンドADC のAD7124-8 の入力チャンネル、AIN7 およびAIN8 にそれぞれ印加されます。これらの入力チャンネルは、デフォルトでAD5683 のリファレンス電圧を参照します。AD7124-8 は、単一サンプリングを行うか連続サンプリングを行うかをユーザが設定できます。更に、ユーザ設定により、P5 の選択可能な高精度抵抗を使用してシステム・ゼロスケール・キャリブレーションを実行することや、20Ω や200Ω のゲイン抵抗からの入力チャンネルを使用してマルチプレクサのオン抵抗を読み出すことも、可能です。
正負の出力電圧は、式5 を用いて、24 ビット・ユニポーラADCのコードから計算できます。
ここで、
ADCCODE は、信号サンプリングの24 ビット・ユニポーラ・コード、
VREF はデフォルトの2.5V です。
式6 は、AD8628 の出力電圧から導電率セルのピークto ピーク電圧を求めるための計算式です。
導電率セルを流れる電流は、ピークto ピークのセル電圧、ゲイン抵抗、励起電圧すなわちDAC 電圧を用いて、式7 で計算できます。
溶液の導電率YSOL は式8 で与えられます。
ここで、KCELL は導電率セル定数です。
式6 と式7 を式8 に代入して、次式が得られます。
式9 は、導電率セル定数、励起電圧、使用するゲイン抵抗、各サンプル&ホールド・チャンネルの2 つの電圧出力の和によって、導電率の測定値が決まることを示しています。
温度補償
温度補償導電率測定は温度にも依存し、コンダクタンスは温度上昇と共に増加します。市販のほとんどの導電率プローブはRTD を内蔵しており、温度補償が容易になっています。
導電率測定値を標準のリファレンス温度に補償する代表的な方法は、式10 に示すように、温度係数α に依存する線形関数を使用するもので、この方法は、溶液中のイオン種に基づきます。通常、リファレンス温度は25°C に設定されます。
ここで、
YREF はTREF を基準とする導電率、
Y は温度T での導電率、
TREF はリファレンス温度、
T は溶液の温度、
α は温度係数です。
一般的な塩溶液のα の代表値を表2 に示します。
Salt Solution | Temperature Coefficient (α) |
Potassium Chloride (KCl) | 1.88 |
Sodium Chloride (NaCl) | 2.14 |
mg/L を単位とする溶液のTDS は、式11 を用いてリファレンスを基準とした導電率測定から計算できます。
ここでke はTDS の係数です。
このTDS 係数は、式12 に示すように、TDS が既知の溶液の導電率を、リファレンスを基準として測定することで計算できます。
ここで、
TDSREF,STDはTREF における溶液の既知のTDS 値、YREF,STDはTREF における溶液の導電率の測定値です。
導電率の測定では、イオンの組成や個々の種類を識別することはできません。従って、TDS の係数は、溶液の種類による固有の範囲で変動します。一般的な塩溶液について、TDS 係数の代表的な範囲を表3 に示します。
Salt Solution | Range of TDS Factor (ke) |
Potassium Chloride (KCl) | 0.50 to 0.57 |
Sodium Chloride (NaCl) | 0.47 to 0.50 |
温度測定
導電率は溶液の温度に応じて著しく変動し、また、温度係数も溶液の種類によって大きく異なります。溶液の温度測定を最も簡単に行う方法は、2 線式RTD です。図10 に、このフロントエンドの簡略化した回路図を示します。
AD7124-8 には、ソフトウェア設定可能な2 個の整合された定電流源があります。この電流源は8 通りの電流出力値が選択可能で、いずれのアナログ入力チャンネルにも使用可能です。RTD抵抗ネットワークの励起電流は250µA に設定され、AIN0 チャンネルから供給されます。ノードA とノードB はAD7124-8 の外部リファレンス入力に接続されます。ノードB とノードC は差動RTD 信号を構成し、AD7124-8 のアナログ入力チャンネルに接続されていることに注意してください。両差動入力は、図11に示すように、一般的な2 個の同一のRC ローパス・フィルタに送られます。
このローパス・フィルタ回路によって、差動とコモンモードの両方のノイズ信号を減衰できます。図11 に示す大きな値のR1とR2 も、30V の誤配線からの保護に有効です。C1 とC2 は、コモンモード・コンデンサで、差動モード・コンデンサC3 の10分の1 に設定されています。これはコモンモード・コンデンサ間の不整合によるノイズの影響を削減します。コモンモード・カットオフ周波数(fCM)は、差動モード・カットオフ周波数(fDM)のおよそ20 倍の大きさで、それぞれ53kHz と2.5kHz です。計算式を式13 に示します。
ここで、
fCM はコモンモード・カットオフ周波数、
fDM は差動モード・カットオフ周波数です。
RTD の全抵抗値は4.02kΩ を基準とするかこれを上限とし、リファレンス電圧は250µA × 4.02kΩ = 1.005V となります
更に、システムはPt100 RTD とPt1000 RTD の両方に対応します。RTD の抵抗値(RRTD)は、式14を用いて、24ビット・ユニポーラADCのコードから計算できます。
ここで、
ADCCODE は、信号サンプリングの24 ビット・ユニポーラ・コード、RREF はリファレンス抵抗で、RREF = 4.02kΩ です
RTD の抵抗と温度の関係を求めるには、Callendar-Van Dusen の式を用います。温度が0°C 以上または抵抗がR0 以上の場合、摂氏単位の温度は、Callendar-Van Dusen の式から直接導かれる式15 で計算できます。
ここで、
A = 3.9083 ×10−3、
B = −5.775 ×10−7、
C = −4.183 × 10−12、
R0 は0°C でのRTD の抵抗、
RRTDはTRTDでのRTD の抵抗、
TRTDは摂氏単位の温度です。
0°C 未満の温度またはR0未満の抵抗の場合は、式16 に示す最適近似多項式を使用します。
ここで、
C1 = -242.02、
C2 = 2.2228、
C3 = 2.589 ×10−3、
C4 = 48.26 × 10−3、
C5 = 1.5243 × 10-10、
RRTDはTRTDでのRTD 抵抗、
TRTDは摂氏単位の温度です。
ソフトウェア操作の設定
提供されるソフトウェアでは、TDS 測定用に次の6 個のパラメータを設定します。
- 導電率セルの励起電圧
- マルチプレクサが選択するゲイン抵抗
- 使用するRTD の値
- 導電率セルのスイッチング周波数
- 導電率プローブのセル定数
- 測定対象の溶液の種類
DAC の電圧は0V~2.5V の任意の値に設定できます。起動時はDAC の電圧は400mV に設定されます。
選択するゲイン抵抗は、オープンまたは、20Ω、200Ω、2kΩ、20kΩ、200kΩ、2MΩ、20MΩ の7 通りの抵抗値のいずれかに設定できます。初期値として、ゲイン抵抗はオープンに設定されます。
使用するRTD の種類は、Pt100 またはPt1000 のいずれかに設定できます。初期値として、温度測定に使用するRTD の種類はPt100 に設定されます。
PWM 信号の周波数で、導電率セルに印加される両極性パルスの周波数が設定されます。ソフトウェアでは、94Hz および2.4kHzの2 通りのPWM 周波数オプション切替えだけができます。初期値として、PWM 周波数は94Hz に設定されます。
導電率プローブのセル定数には、0.1、1.0、10 の3 通りの固定オプションがあります。4 番目のオプションでは、セル定数が0.1、1.0、10 以外のプローブ用にユーザがカスタマイズした値を入力できます。デフォルトでは、セル定数は1.0 に設定されています。
溶液の種類によって、TDS と温度補償を計算するために使用するTDS 係数と温度係数が決まります。ソフトウェアに組み込まれているのは、塩化ナトリウム(NaCl)と塩化カリウム(KCl)の溶液用の設定だけです。ただし、ユーザは、その他の溶液のために、TDS 係数と温度係数のカスタム値を別個に設定できます。初期値として、溶液の種類はNaCl に設定されています。
これらのパラメータ以外に、ソフトウェアによって、単一変換モードのADC で測定するか、連続変換モードのADC で測定するかを切り替えることもできます。単一変換モードでは、導電率の読出しコマンドが発行されない場合、常にADC はアイドル・モードに入ります。このため、アクティブでない場合にボードの消費電力を抑えることができます。更に、この間DAC の電圧値をゼロに設定可能で、ボードの消費電力を一層抑制できます。連続変換モードでは、ADC は常に導電率セル信号をサンプリングします。このため、各サンプリングの測定時間が短縮でき、溶液の導電率を連続的にモニタリングする場合に効果を発揮します。
導電率測定レンジの自動設定
目的の溶液タイプと使用する導電率プローブに対し、導電率測定レンジの広がりによって複数のゲイン抵抗の設定が必要となります。更に、励起電圧が導電率セルの定格電圧を超えることのないよう、励起電圧値をゲイン抵抗に応じて変化させる必要があります。ソフトウェアには、ゲイン抵抗と励起電圧を自動的に溶液の導電率の範囲に設定する機能があります。これによって確実に、最も信頼し得る設定で導電率が測定できます。図12 に、導電率測定レンジの自動設定の概要を示します。
キャリブレーションの手順
このシステムでは、ゼロ・スケール・キャリブレーションとリファレンスの高精度抵抗を使用する方法の2 通りのキャリブレーション方法があります。図15 に示す測定値を得るために使用したキャリブレーション方法では、リファレンスの高精度抵抗を使用しており、これは図5 に示した20Ω または200Ω の抵抗です。マルチプレクサのオン抵抗が導電率測定に著しい影響を及ぼすのは、これらの抵抗レンジです。このキャリブレーションの出力は、オフセット抵抗値で、これが導電率の計算に使用するゲイン抵抗に加算されます。このキャリブレーションを実行する手順を図13 に示します。
ゼロ・スケール・キャリブレーションでは、サンプル&ホールド回路の出力バイアス電圧を除去する、AD7124-8 のゼロ・スケール・キャリブレーションを実行します。これによって、確実に導電率セルへのゼロ入力がADC のゼロ・コードに対応するようになります。CN-0411 ボードのジャンパ・ヘッダP6 のPin2 とPin3 にシャントを設置します。AD7124-8 には、導電率信号の正負両電圧についてシステム・ゼロスケール・キャリブレーションを実行するようコマンドが送られます。これによって、ADCのオフセット・レジスタにゼロ入力電圧レベルが保存され、サンプリングの読出しごとに自動的に補正されます。
これら2 つのキャリブレーション方法を実行する必要があるのは、どちらも各ボードについて一度だけです。ソフトウェアがキャリブレーション手順の出力を保存するためです。
システムの精度
式9 から、導電率の計算は、サンプル&ホールド回路の2 つの出力電圧、RGAIN、DAC の出力電圧によって決まることが分かります。MΩ未満のレンジのRGAINの許容誤差は0.1%ですが、2MΩと20MΩ の抵抗の許容誤差は1%です。図3 に示す単純な分圧器ネットワークの抵抗に、マルチプレクサADG1608 と導電率セル・スイッチADG884 のオン抵抗が加わります。これらは、それぞれ最大で17.4Ω と0.96Ω です。計装アンプからの入力バイアス電流と入力オフセット電流によって、ゲイン抵抗と溶液の抵抗に比例する電圧が生じます。B グレードのAD8220 には、各入力に対し最大10pA の入力バイアス電流と0.6pA の最大入力オフセット電流があり、合計の入力バイアス電流は20.6pA になります。20MΩ の場合、これによって入力バイアス電圧は、20.6pA × 20MΩ = 412µV になります。更に、ゲインが10 のAD8220 には、最大0.2%のゲイン誤差があります。既知の高精度抵抗から直接導電率を計算するには、システムの精度を測定し、式4 の電圧降下などのサンプル&ホールド回路で発生する要因も含め、これらの要因をすべて考慮することが必要です。
図14 に、導電率測定の精度を測定した結果を示します。これは1µS~0.1Sの導電率に対応する、1MΩ~10Ωの高精度抵抗を使用して取得したものです。10mS~100mS の範囲でシステム誤差が明らかに増加しています。この範囲では、オンボードの高精度抵抗(図5 参照)に対するキャリブレーション方法が必要です。.
キャリブレーションは各ボードで一度だけ実行され、オフセット抵抗が取得されます。これによってマルチプレクサのオン抵抗が分かります。ソフトウェア・システムはこのオフセット抵抗値を保存し、キャリブレーションが再度実行されるまで、この後の導電率測定のすべてにおいて、この値を使用します。図5 に示す20Ω 高精度抵抗に対してキャリブレーションを行った場合の高導電率の誤差を、図15 に示します。
システム・ノイズ性能
図16 に示すように、システムのノイズ・レベルは、100µS のコンダクタンスに対応する10kΩ 高精度抵抗に対して、わずか15.99nS です。
バリエーション回路
ADG884 アナログ・スイッチを使用して、導電率セルの両端子を駆動する両極性励起信号をセルに供給できます。この他、セルの1 端子をグラウンド電位に保持する方法もあります。これにより、接地された端子ではリークの影響を抑制できます。ただし、このような設計には、より複雑な励起回路が必要です。CN-0411 は、導電率セルの電圧信号だけを測定するようにすることで更に簡素化できます。セルを流れる電流を測定するためにトランスインピーダンス・アンプを使用すれば、ゲイン抵抗から電流値を計算する必要がなくなります。更に、可変ゲイン・アンプ(VGA)を使用すれば、マルチプレクサが分圧器ネットワークのゲイン抵抗を選択する必要がなくなります。CN-0359 は、より高性能な導電率測定ソリューションの一例です。
回路の評価とテスト
CN-0411 の回路セットアップは、EVAL-CN0411-ARDZ 評価用ボードとEVAL-ADICUP360 ボードで構成されています。EVALCN0411-ARDZ は Arduino シールドのフォーム・ファクタで提供されるので、評価とプロトタイピングにピン互換の開発ボードを追加使用することが可能です。CN-0411 デモ・ソフトウェア(詳細はCN-0411 ソフトウェア・ユーザ・ガイドを参照)を使用すれば、EVAL-ADICUP360 ボードによりEVAL-CN0411-ARDZ 評価用ボードを設定し、そこからデータを読み出すことができます。このデータは、シリアル・ポート・ターミナル・プログラムを使用してPC 上に表示することができます。
必要な装置
T以下の装置類が必要になります。
- USB ポート付きでWindows® 7(32 ビット)以降を搭載のPC
- EVAL-CN0411-ARDZ 回路評価用ボード
- EVAL-ADICUP360 開発ボード
- CrossCore Embedded Studio
- マイクロUSB-USB 変換コネクタ
- RTD 付き2 線式導電率セル
設計の開始にあたって
- EVAL-CN0411-ARDZ の詳細なユーザ・ガイドはwww.analog.com/jp/CN0411-UserGuide で入手できます。ハードウェアおよびソフトウェア動作のあらゆる細部や側面に関して、このユーザ・ガイドを参照してください。
- EVAL-ADICUP360 の詳細なユーザ・ガイドも、www.analog.com/jp/EVAL-ADICUP360 で入手できます。
- EVAL-ADICUP360 ボードとEVAL-CN0411-ARDZ ボードのジャンパを、CN-0411 ユーザ・ガイドに示されている位置にセットします。
- CrossCore Embedded Studio とDEBUG USB 接続を使い、CN-0411デモ・コードをEVAL-ADICUP360 ボードにダウンロードします。
- コネクタを使って、EVAL-CN0411-ARDZ ボードをEVAL-ADICUP360に接続します。導電率セルとRTD をEVAL-CN0411-ARDZ ボードに備わっているBNC コネクタや端子ブロックに接続します。
- EVAL-ADICUP360 のUSER USB ポートをPC に接続します。PC上で適当なシリアル・ターミナル・ソフトウェアを起動してEVAL-ADICUP360 のシリアル・ポートに接続し、データの読出しを開始します。
- 他のArduinoフォーム・ファクタ・プラットフォームも、EVAL-CN0411-ARDZ ボードのテストと評価に使用できます。ただし、ソフトウェアを新しいプロセッサやプラットフォームに移植する必要があります。
テスト・セットアップの機能ブロック図
図17 に、EVAL-CN0411-ARDZ 回路ボードとEVAL-ADICUP360ボードを使用したTDS と導電率の測定用テスト・セットアップの例を写真で示します。
図18 にテスト・セットアップの機能ブロック図を示します。CN-0411 Design Support Package には、レイアウト、ガーバ・ファイル、部品表など、評価用ボードのすべての回路図が含まれています。
テスト・セットアップ
溶液サンプルの導電率とTDS を測定するには、次の手順を実行します。
- センサー・プローブを、可能ならばBNC コネクタを使用して、さもなければ端子ブロックP2 に配線して、CN-0411システムに接続します。導電率プローブのRTD ワイヤを端子ブロックP3 に接続します。
- プローブを、導電率セルの精度が最大となるように、できるだけ溶液サンプルの容器中央に浸します。
- 端子ソフトウェアのシリアル・コマンドを使用して、セルの励起電圧と動作周波数を設定します。
- 導電率プローブのセル定数を設定し、溶液の種類とADCの変換モードを選択します。これらの設定の詳細については、CN-0411 ユーザ・ガイドを参照してください。
- シリアル端子の指示に従い、導電率またはTDS の測定を実行します。更に、いずれの測定前にもキャリブレーション・ルーチンを実行することができます。キャリブレーション手順の詳細については、CN-0411 ユーザ・ガイドを参照してください。
また、値が既知の高精度抵抗を使用すれば、導電率セルやサンプル溶液を使用しなくても、回路の性能を評価することができます。
ハードウェアとソフトウェアの動作の詳細情報は、www.analog.com/jp/CN0411-UserGuide にあるCN-0411 ユーザ・ガイドで入手できます。