数オクターブの周波数範囲と優れた位相ノイズ性能を実現するマイクロ波シンセサイザ
はじめに
システムの周波数と変調レートに関する条件は、より広い帯域幅とより高いデータ・レートに対するニーズと共に、ますます厳しさを増しています。防衛分野に限定されていたアプリケーションが民生分野で使われるようになると共に、低消費電力であることが極めて重要な要素となってきています。これらの要求には、電気的な性能や機能を犠牲にしてはならないという制約が伴います。このような条件を満たすには、S/N比(SNR)とビット・エラー・レート(BER)の改善、そしてユーザーが享受してきた高いサービス品質(QoS)の維持に加えて、ローカル発振器(LO)の位相ノイズを改善することも必要となります。
新たに発売されたADF5610はフェーズ・ロック・ループ(PLL)と電圧制御発振器(VCO)を集積したデバイスで、これらの問題を始めとする様々な課題を解決するソリューションを提供しようとするアナログ・デバイセズの取り組みのハイライトとなる製品です。
周波数範囲
ADF5610は、3.65GHz~7.3GHzのVCO基本周波範囲に対して合計8オクターブに対応しており、これがPLLにフィードバックされて位相ノイズを最小限に抑えます。シングルエンド出力(RFOUT)は基本周波数を2逓倍して7.3GHz~14.6GHzの周波数を生成し、同時に差動出力の場合は、1/2/4/8/16/32/64/128分周設定を通じて57MHz~14.6GHzの全動作範囲を使用することができます。
ADF5610 VCOのアーキテクチャは、10GHzにおける公称オープンループ位相ノイズが100kHzオフセットで–114dBc/Hzという業界で最も優れた位相ノイズ性能を維持しながら、広帯域のシンセサイザ性能の実現を可能にします。内部ステート・マシンは、パッシブ・ループ・フィルタを使用するだけで40μs未満という周波数セトリング・タイムを実現します。更に短いセトリング・タイムが求められない限り、回路やルックアップ・テーブル(LUT)を追加する必要はありません。
コンバータ・クロックとして最先端のPLL性能
ADF5610内部のフェーズ・ロック・ループ(PLL)は–229dBc/Hz(高電流モードで–232dBc/Hz)というまずまずの性能指数(FOM)を誇り、群を抜く1/fノイズ性能(–129dBc/Hz)と最先端技術による低VCO位相ノイズの組み合わせによって、RMSジッタ値を38fs未満(積分範囲1kHz~100MHz)に抑えることを可能にしています。このためADF5610は、条件の厳しいほとんどのコンバータ・クロック・アプリケーションに使用することができます。ループ・フィルタ抵抗の値は、その熱ノイズと高周波(100MHz)を緩和するため最小に抑える必要があります。このレベルの性能を実現するには、超低ノイズのリファレンス源が不可欠です。
通信用および計測用のLO
ADF5610は広い周波数範囲、業界をリードする位相ノイズ、群を抜いて短いロック時間の他に、ワイヤレス・アプリケーションや計測アプリケーションに最適な機能を備えています。これらは、ADF5610をローカル発振器として使用する機会が最も多いアプリケーションです。
24ビットの分数分解能は控えめな値ですが、ADF5610の精密周波数モード機能と組み合わせることにより、誤差0Hzで周波数を生成することができます。ADF5610をローカル発振器として使用すれば、公称5dBmの出力によってRFOUTポートからアクティブ・ミキサーを駆動することができ、それ以上、増幅の必要がなくなると共に、貴重なボード・スペースを節約することができます。差動分周器の出力(PDIVOUT/NDIVOUT)はシングルエンドとして使用した場合で公称2dBmですが、狭帯域アプリケーション用の低損失バランやハイブリッド・カプラと組み合わせて使えば、dB値をさらに大きくしたり、出力を2つにしたりできます。
今日、低消費電力は欠かすことができない要素であり、ADF5610は、消費電力を700mW未満(出力分周器をディスエーブルした低電流モード)から最も厳しい条件下(出力分周器を128分周に設定した高性能モード)において1ワットをわずかに超える程度までの範囲に抑えることによって、消費電力の削減を図っています。低電流モードにおいてもADF5610の位相ノイズ性能はこのクラスをリードするもので、増加値は2dBc/Hzにすぎません。
ADF5610は良好なスプリアス性能を備えており、PFDスプリアスはわずか–105dBc、帯域内のフィルタなし整数境界スプリアスの公称値は–45dBcです。
小型
ADF5610 PLL/VCOは、7mm×7mmの48ピン・ランド・グリッド・アレイ(LGA)パッケージを採用しています。必要なデカップリングが最小限に抑えられ、小フットプリントのソリューションとして比類のない性能を実現しています。最大限の性能を実現するには、ADM7150、LT3045/LT3042、あるいはHMC1060といった高品質の低ドロップアウト(LDO)レギュレータを使用することを推奨します。VCOには5V電源が必要ですが、他の回路は3.3Vレールから電源を取ることができます。ADF5610はADIsimPLL™でシミュレーション可能なので、PLLシンセサイザの実装に必要となる適切な外付け部品回路を容易に設計できます。
まとめ
業界をリードする周波数範囲と位相ノイズ性能、そして高出力と低消費電力の組み合わせを小型のパッケージに組み込んだADF5610は、新しい通信システムと計測システムにおける厳しい要求を満たします。