CCFLプッシュ/プルスナバ回路
要約
DS3984、DS3988、DS3881、DS3882、DS3992、およびDS3994は、プッシュ/プルアーキテクチャによってランプの駆動に必要な高電圧AC波形を生成する冷陰極蛍光管(CCFL)コントローラです。プッシュ/プル駆動方式では、nチャネルパワーMOSFETの出力の寄生容量がステップアップトランスの寄生インダクタンスと組み合わされて、不必要な電圧スパイクを生成するおそれがある共振回路を形成します。高電圧スパイクはパワーMOSFETに対するストレスを増大し、システムが生成する電磁干渉(EMI)も増大させるおそれがあります。このアプリケーションノートは、単純な抵抗-コンデンサ(RC)ネットワークによる電圧スパイクの抑制方法について説明します。
抑制されないドレイン電圧
図1は、15V DC電源を使ったプッシュ/プル駆動方式の標準的なゲート駆動とドレイン波形を詳細に示しています。プッシュ/プル駆動方式では、相補MOSFETがオンにされると、ドレイン電圧は通常、DC電源の2倍に上昇します(この例では30V)。ただし、図1に示すように、最大54Vもの電圧スパイクが発生します。MOSFETのゲートがオフにされたときと、相補MOSFETのゲートがオンにされたときに、電圧スパイクがnチャネルパワーMOSFETのドレインに発生します。
ドレイン電圧スパイクの抑制用の回路および手順
図2に示すように、各ドレインに追加された単純なRCネットワークによって、ドレイン電圧スパイクを抑制することができます。抵抗(R)とコンデンサ(C)ネットワークの適正値を以下の抑制手順によって求めることができます。図1に示される電圧スパイクの低減方法を示す例を、手順の後で詳述します。
スナバ回路に適したRC値の算出手順
- スパイク共振の周波数を測定してください。例として図3を参照してください。
- MOSFETのドレイン-ソース間にシャントコンデンサを追加して(抵抗ではなく、コンデンサのみ)、スパイク共振の周波数が2分の1に下がるまで、このコンデンサの値を調整してください。この得られたコンデンサの値は、電圧スパイクを生成している寄生容量の値の3倍になります。
- 寄生容量の値が分かったため、次の式を使って寄生インダクタンスを求めることができます。
L = 1 / [(2πF)2 x C]、ここで、F = 共振周波数、C = 寄生容量です。
- このようにして寄生容量と寄生インダクタンスがともに既知となったため、共振の特性インピーダンスを次の式を使って求めることができます。
Z = SQRT(L/C)、ここでL = 寄生インダクタンス、C = 寄生容量です。
- RCスナバ回路の抵抗の大きさを特性インピーダンスの値と同じにし、コンデンサの大きさを寄生容量の4倍~10倍に変更してください。これよりさらに大容量のコンデンサを使用すると、電力損失の増大とインバータ効率の低下という犠牲を払って、電圧オーバシュートがわずかに低減します。
適正なRCスナバ値の算出方法の例
この項では、先に概説した5ステップの手順を使って、図1の電圧スパイクを低減するのに適した抵抗(R)およびコンデンサ(C)スナバ回路の適正値を求めます。
- 共振スパイク電圧の周波数を求めてください。図3は、それが約35MHzであることを示しています。
- 共振周波数を約半分、すなわち17.5MHzに下げるために、ドレインとグランドの間にシャントコンデンサを追加してください。図4に示すように、330pFのシャントコンデンサは共振周波数を約17.5MHzに下げます。適切なコンデンサ値は、シャント容量にさまざまな値を試すことによって求められました。小さな値(100pFなど)から開始し、その値から大きくしていくのが良い方法です。
- 寄生インダクタンスを計算してください。
- 特性インピーダンスを計算してください。
- 抵抗およびコンデンサの適正値を選択してください。スナバ回路のRは41Ωに近い値、Cは110pFの寄生容量の4~10倍にする必要があります。この例では、Cは1000pFが選ばれました。この値は寄生容量の約9倍です。
330pFのシャントコンデンサが共振周波数を2分の1に下げるため、寄生容量はこの値の3分の1すなわち約110pFと推定されます。
寄生インダクタンス = L = 1 / [(2 x 3.14 x 35MHz)2 * 110pF] = 0.188μH
特性インピーダンス = Z = SQRT (0.188μH / 110pF) = 41
図5は、39ΩのRと1000pFのCを備えるスナバ回路を追加した結果を示しています。
結論
このアプリケーションノートは、プッシュ/プル駆動方式においてパワーMOSFETのドレインに発生するおそれがある不必要な電圧スパイクを大幅に低減する抵抗とコンデンサからなるスナバ回路に適した値は幾つかの簡単な実験測定によって決定することができることを示しています。