スーパーキャパシタなどの部品追加なしで重要な回路に電力を供給する、60V入力モノリシック・コンバータ
LTC3649は、モノリシック降圧レギュレータで、3.1V~60Vの入力電圧範囲で動作し、1本の抵抗で設定可能な出力電圧を最大4Aの出力電流で効率的に生成することができます。これらの機能だけで、このデバイスは、出力電圧範囲が(VIN – 0.5V)からグラウンドまでの工業用電源またはオートモーティブ用電源として有効に機能します。LTC3649の独自の機能の1つは、電源停止時に外部部品がなくても重要なシステムに電力を供給できることです。
ホールドアップ回路は主電源レールの喪失時に重要なシステムに電力を供給するため、使用可能な電力量がすべて失われる前ににデータ保持などの重要な維持管理タスクを短時間で実行することができます。代表的なホールドアップ・ソリューションは、LTC3310やLTC3643を用いる場合のように、専用のコントローラや大きなストレージ・コンデンサを使用しています1,2。したがって、重要な回路が大きな電力と長いホールドアップ時間を必要とする場合は、コストと複雑さが増すことになります。しかし、必要なホールドアップ・エネルギーが比較的小さい場合は、LTC3649を使用すれば、回路の追加なしで容易にこのタスクを実行できます。
ここで説明するデュアル出力コンバータは、通常の動作条件では従来型の降圧電源として機能しますが、電力遮断時にはこのコンバータ自体がエネルギー源となり、重要な回路に対してプログラムされた出力電圧を維持します。このタスクを実行するためには、入力電圧が切断された場合に、U1が昇圧コンバータとなり、出力コンデンサを放電してホールドアップ・エネルギーを供給します。
デュアル出力コンバータとホールドアップ回路
LTC3649を使用したホールドアップ設計を図1に示します。通常の条件では、調整前のレールVIN(ブロッキング・ダイオードを介したVINS)がU1ベースのコンバータ(コンバータA)に電力を供給します。このコンバータは降圧モードで動作し、VOUT1 に安定した5Vを生成します。VINSはU2ベースの第2のコンバータ(コンバータB)に接続され、重要な負荷に対しVOUT2で3.3Vを供給します。VINが遮断された場合、コンバータAは昇圧モードになり、出力フィルタのコンデンサC01とC02を放電してプログラムされている出力電圧(VINS)を維持します。この電圧レベルは、RITとRIBの抵抗器によって決まります。U1が生成するPGOOD(PG)信号は、システムに電源異常を伝達するために使用され、それによって重要でない回路を切断して電力量を保持することができます。MODE/SYNCピンは、LTC3649が昇圧モードに入れるよう、フロート状態のままにしておきます。
図2に、昇圧モードでのLTC3649の特性を示します。データ取得の最初の7msは、すべての電圧が安定しています。7msの時点で電源がオフになり、VINとVINSは低下し始めます。VINSは8Vに達すると安定し、PG信号は状態を変え、VOUT1が低下し始めたことを伝えます。VINSは、C01とC02に電荷がある限り、8Vを維持します。VOUT2は、このプロセスの間一定値を維持し、電源が停止した後も長時間にわたって重要な負荷に電力を供給します。アナログ・デバイセズからLTspice®モデルを入手可能です。
まとめ
LTC3649は、パワーMOSFETを内蔵したモノリシック降圧レギュレータです。効率が高く静止電流が低いため、多くのバッテリ駆動システムで重要な役割を果たします。また、プログラマブルな周波数、最大60Vまでの広いVIN範囲、グラウンドまでの出力電圧範囲といった特長を備え、幅広い用途に使用可能です。また、ホールドアップ回路としての本来の機能を考慮した場合、オートモーティブ用や工業用の電源設計を簡素化することができます。