質問:
負の電源電圧を生成する回路を使用したいと考えています。その構成要素である昇降圧回路にはレベル・シフト機能が必要だと聞きました。それはなぜですか?
回答:
一般に、反転昇降圧回路は正の電圧を基にして負の電源電圧を生成するために使用されます。最も重要なことは、負の電圧を正しい値で確実に生成することです。ただ、メインのアプリケーション回路によって電源が制御/管理されている場合には、昇降圧回路にレベル・シフト機能を追加しなければならないことがあります。メインのアプリケーション回路がグラウンドを基準にしているのに対し、反転昇降圧回路の GNDピンは、同回路自身が生成する負の電圧に接続されるからです。
はじめに
ここでは、反転昇降圧回路によって負の電圧を生成するケースを考えます。その場合、生成される負の電圧の大きさ(絶対値)は、入力である正の電圧より大きい場合も小さい場合もあります。例えば、12V の入力を基に-8V を生成することもできますし、-14V を生成することも可能だということです。反転昇降圧回路を備えるスイッチング・レギュレータIC を使用する場合、システム設計の都合上、通信用のピンが必要になるケースがあります。そのような場合には、同期信号やイネーブル信号をやり取りできるようにするために、適切なレベル・シフト回路が必要になるはずです。
レベル・シフタを設計する際に考慮すべき事柄
反転昇降圧というのは、スイッチング・レギュレータの基本的なトポロジの1つです。コントローラIC を使用する場合に外付け部品として必要になるのは、インダクタが 1個、コンデンサが 2 個、スイッチとして機能するMOSFET が 2 個です。この MOSFET は、あらゆる降圧コンバータ/降圧コントローラで駆動することが可能です。つまり、スイッチング・レギュレータを構成するために使用できる製品の候補は非常に広範だと言えます。図1に示したのは、上記の部品を使用して構成した反転トポロジの例です。
図2に示したのは、降圧コンバータIC「ADP2386」を使用して構成した昇降圧回路です。降圧コンバータICを使用して反転回路を構成する場合、同ICのグラウンドには自身が生成する負の電圧を接続することになります。一方、降圧コンバータICの本来の出力電圧は、システム・グラウンドに接続されます。つまり、反転トポロジにおいては降圧コンバータICの出力電圧をシステム・グラウンドに接続するので、同ICのグラウンドには自身が生成した負の電圧を使用するということです。実際、図2の回路において、ADP2386のグラウンド(GNDピン)はシステム・グラウンドには接続されていません。
つまり、2つのグラウンドは同じ電位にはなりません。繰り返しになりますが、降圧コンバータICのグラウンドは、自身が生成した負の電圧になります。つまり、同ICのすべてのピンは、システム・グラウンドではなく、その負の電圧を基準にするということになります。そのため、システムからICへの通信ラインの接続(あるいはその逆の接続)を行うにあたっては注意が必要です。すなわち、安全な通信を確保して部品の損傷を防ぐためにはレベル・シフトを実施しなければなりません。通常、該当する信号としては、SYNC、PGOOD、TRACKING、MODE、EN、UVLO、RESETなどが挙げられます。図2の回路には、上述した問題を回避するためのレベル・シフタが適用されています。この方法では、1つの信号に対して2個のバイポーラ・トランジスタと7個の抵抗で構成される回路(青色)を使用しています。このような回路を実装するにはある程度のスペースが必要です。また、回路が複雑になることに加え、コストも増加します。このようなレベル・シフタを、上述したすべての信号に対して個別に実装しなければならないのです。降圧コンバータICがPMBus®(Power Management Bus)などのデジタル・バスを採用している場合には特に複雑になります。そのような場合、現実的にはバスの接続全体にレベル・シフタまたはガルバニック絶縁を適用して動作させることになるでしょう。
このような外付け回路を不要にするにはどうすればよいのでしょうか。1つの方法は、電圧を反転させるために特別に設計されたスイッチング・レギュレータICを使用することです。アナログ・デバイセズは、スイッチング方式の降圧コンバータICとして様々な製品ファミリを提供しています。そうした製品の中には、システム(つまり電子回路全体)と反転トポロジを構成するコンバータICの間の通信を容易に実現できるように設計されているものがあります。つまり、図2に示したような外付けのレベル・シフタは必要ありません。
図3は、正の電圧から負の電圧を生成するためにスイッチング方式の反転型コンバータIC 「MAX17579」を使用した例です。図2の回路と比較すれば、はるかにコンパクトであることがわかります。
LTspice®やEE-SIM®といったシミュレーション・ツールや設計/評価環境を使えば、反転トポロジにおけるレギュレーションの動作や各ノードの電圧について把握することができます。これらのツールを使用すれば、外付けのレベル・シフト回路を設計して最適化することも可能です。MAX17579のようなICを使用する場合にも、EE-SIMを使用することで簡単にシミュレーションを実施することができます。