質問:
オペアンプの入力容量を測定する際には、どのようなことに注意すればよいのでしょう?
回答:
プリント基板や測定環境には、容量やインダクタンスが寄生素子の形で存在しています。オペアンプの入力容量を測定する際には、それらによって誤差が生じてしまうことがあります。したがって、そのような問題が生じないように注意しなければなりません。低容量のプローブを使用する、基板上の配線を短くする、信号用のパターンの下には大きなグラウンド・プレーンを配置しないといったことに配慮すれば、そうした問題を緩和することができます。
オペアンプは、様々な電子回路で活用されています。最も基本的な使い方は、適切な信号処理を実施できるようにするために、小さな信号を増幅するというものです。アプリケーションの例としては、煙の感知器、フォトダイオード用のトランスインピーダンス・アンプ、医療用機器、産業用の制御システムなどがあります。そうした多種多様なアプリケーションに共通するのは、できるだけ入力容量が小さいオペアンプが求められるということです。その理由はいくつもがありますが、最も大きな理由は、入力容量によってノイズ成分に影響が及ぶことを避けたいというものです。そのことが原因で、特に周波数が高い領域やゲインの値が大きい場合には、システムの安定性に影響が及ぶことがあるからです。
対象とする回路でできるだけ高い精度を実現するには、オペアンプの入力容量を把握しておく必要があります。しかし、オペアンプ製品のデータシートを見ても、その情報が記載されていることは少ないはずです。したがって、入力容量の値はユーザ自身が測定しなければなりません。ほとんどの場合、入力容量の値はわずか数pF程度なので、測定作業の難易度は高くなります。
表1に、アナログ・デバイセズが提供する代表的なオペアンプ製品についてまとめました。それぞれの種類と入力容量の値を示してあります。
品番 | 種類 | 入力容量の値 |
LT1792 | JFET入力のオペアンプ | 14pF |
LT1813 | 低ノイズ・オペアンプ | 2pF |
AD826 | 高速なデュアルオペアンプ | 1.5pF |
ADA4097-1 | 入力バイアス電流の少ない高精度オペアンプ | 3pF |
AD8009 | 電流帰還型のオペアンプ | 2.6pF |
入力容量の測定方法
図1をご覧ください。これは、オペアンプの入力容量を測定する方法を示した概念図です。ご覧のように、オペアンプの入力部に直列抵抗RSERIESを配置しています。この抵抗とオペアンプの入力容量によって、1次のローパス・フィルタが形成されます。その周波数応答をネットワーク・アナライザで記録すれば、入力容量の値を逆算することができます。通常、RSERIESとしては10kΩ~100kΩの値を選択します。.
プリント回路基板や測定環境には、容量やインダクタンスが寄生素子の形で存在します。それらによって、オペアンプの入力容量の正確な計測が妨げられることがあります。周波数応答を記録する際には、そのような問題が生じないように注意を払わなければなりません。
寄生容量(浮遊容量)の影響を最小限に抑えるためには、高い測定分解能を得るための機材を使用する必要があります。特にプローブについては、低容量(1pF未満)のFETプローブを使用することをお勧めします。
グラウンドを基準とするプリント基板の容量も、最小限に抑えなければなりません。信号用のパターンと直列抵抗の下にグラウンド・プレーンを配置しないよう気を付けてください。
また、配線と(抵抗の)リードをできるだけ短くし、直列インダクタンスや寄生インダクタンスなどの誤差要因が追加されないように注意しなければなりません。
図2に測定環境の例を示しました。ご覧のように、ネットワーク・アナライザとパワー・スプリッタを使用しています。
パワー・スプリッタは、信号を1:1に分割するために使用します。分割された信号のうち、一方はそのままネットワーク・アナライザの入力に供給し、もう一方はローパス・フィルタを介してオペアンプの入力に供給します。ネットワーク・アナライザは、それら2つの信号の差を基にして周波数応答を生成します。
この測定を行うにあたっては、浮遊容量CSTRAYの影響を把握しておく必要があります。そこで、まずはオペアンプをボードから取り外した状態で信号を印加し、その状態でボーデ線図を取得します。この条件下では、CSTRAYの影響によって以下の式が成り立ちます。
ここで、f1(-3 dB)は、ネットワーク・アナライザを使用し、オペアンプがない状態で測定した-3dBのコーナー周波数です。RTH1の値は、直列抵抗RSERIES、入力部の終端抵抗(50Ω)、パワー・スプリッタの50Ωのソース・インピーダンス(テブナンの定理に基づく等価抵抗)を基にして、以下の式で求めることができます。
続いて、オペアンプをプリント基板に配置します。
ここで、プリント基板の浮遊容量はオペアンプの入力容量と並列に存在します。そこで、式(1)にCINを加えると以下の式が得られます。
ここで、f2(-3 dB)は、ネットワーク・アナライザを使用してオペアンプが存在する状態で測定した-3dBのコーナー周波数です。RTH2は、直列抵抗RSERIES、入力部の終端抵抗(50Ω)、パワー・スプリッタの出力インピーダンス(50Ω)、オペアンプのコモンモード入力インピーダンスRCMを基にして、以下の式で求めることができます。
一般に、CMOS入力のオペアンプではRSERIES << RCMが成立します。そのため、RTH2≒RTH1であると見なすことができます。したがって、式(3)は以下のように書き換えることができます。
式(1)と式(5)を使用することにより、オペアンプの入力容量を求めることができます。
まとめ
オペアンプの入力容量を測定するのは必ずしも容易だとは言えません。その値は数pF程度であり、測定環境の寄生成分によって測定結果に大きな誤差が含まれることが多いからです。ただ、ネットワーク・アナライザとパワー・スプリッタで構成される適切な測定機器や、配線長やグラウンド・パターンに十分に配慮したプリント基板を使用すれば、入力容量を正確に測定できるようになります。周波数応答を基にして、まずは浮遊容量(誤差の要因となる測定環境の寄生容量)を測定します。続いて、オペアンプ回路のトータルの容量(誤差容量と入力容量の和)を測定します。その上で、本稿で示した式を使用すれば、オペアンプの実際の入力容量を計算することができます。