質問:
4象限動作に対応する電源とは、どのようなものですか?
回答:
正と負の出力電圧、電流のシンク/ソースの全組み合わせに対応できる電源のことです。
最もシンプルな電圧コンバータは、入力電圧を基に固定の出力電圧を生成します。しかし、この動作だけでは不十分なアプリケーションが存在します。例えば、コンデンサが接続された電圧ノードを制御するケースがそれにあたります。その場合、コンデンサは任意の電圧に充電されます。コンデンサの電圧を下げなければならない場合には、電荷の一部を放電する必要があります。そのため、このようなアプリケーションで使用する電源は、必要に応じて電流のソース、シンクが行えるものでなければなりません。4象限動作に対応可能なDC/DCコンバータであれば、このような動作を実現できます。電流のシンクも行えるので、出力コンデンサの急速放電に対応できます。図1に、そのような機能を備えるスイッチング方式の降圧レギュレータの例を示しました。この回路において、スイッチS2は、降圧コンバータがオフになって出力コンデンサの放電が行われる際、長い期間オンの状態で維持されます。
4象限動作に対応可能なDC/DCコンバータ(以下、4象限コンバータ)は、電圧と電流を制御するための洗練された手段となります。一般的な降圧コンバータは、1つの象限でしか動作しません。つまり、正の電圧を出力すると共に、正の電流(DC/DCコンバータから負荷に対して流れる電流)を供給するだけです。それに対し、4象限コンバータであれば、電圧を生成するだけでなく、出力コンデンサの放電にも対応できます。負荷に対して電流を供給することも、負荷から電流を取り出すことも可能だということです。出力コンデンサの急速放電の例がこれに当たります。4象限コンバータを使えば、それ以外の機能も実現できます。例えば、電圧を生成するだけでなく、電流を任意のレベルに設定することが可能です。電流の向きについても、ソース、シンクの両方に設定できます。
このような4象限コンバータは、汎用の実験装置でよく使われます。例えば、電流の値を固定してLEDのテストを実施するといった具合です。また、4象限コンバータを、あらかじめ設定された値の電流をシンクする負荷として使用し、太陽電池を動作させるといったことも可能です。興味深いアプリケーションの例としては、液晶ディスプレイにおけるウィンドウ・ペインのティント(色合い)調整が挙げられます。これを行うには、室内の自然光と所望の明るさに応じた適切なティント・レベルを生成するために、正確に制御された正負の電圧が必要になります。
図2は、4象限コンバータで生成される電圧/電流についてまとめたものです。ご覧のように、電圧をX軸、電流をY軸とした座標系には4つの象限が存在します。電流と電圧はいずれも正になることもあれば負になることもあります。
つまり、4象限コンバータはエネルギー・ソースとしてもエネルギー・シンクとしても使用できます。言い換えると、4象限コンバータは電源または電気的負荷として機能させることが可能です。
アナログ・デバイセズは、4象限コンバータ向けのコントローラIC「LT8714」を提供しています。この製品は、4象限コンバータに必要なすべての機能を備えています。例えば、このICを使えば、0Vの電圧を正確に維持することができます。図3は、このコントローラICとパワー段から成る回路を簡略化して示したものです。パワー段は、2つのインダクタ(L1とL2)、2つのスイッチ(Q1とQ2)、カップリング・コンデンサCCで構成されています。各象限における動作と、ある象限から別の象限へと遷移する際の動作については、同製品のデータシートをご覧ください。
4象限動作に対応する電源を使用するアプリケーションは、LT8714のような最適化されたコントローラを採用することによって簡単に実現できます。回路の設計は非常にシンプルです。特に、重要になるケースが多い0Vのクロスオーバー・ポイントの周辺において、クリーンで信頼できる動作が得られます。
4象限動作は、4象限コンバータを使用しなければ実現できないというわけではありません。例えば、複数の象限に対応するために、複数のスイッチング・レギュレータを並列に接続するといった方法も考えられます。しかし、そのような方法では、4象限専用のソリューションを使用する場合と比べてコストが増大することになるでしょう。