低い入力電圧でも大電流でLEDを駆動できる同期整流方式の昇圧コンバータ

現在、照明システムの分野では、大出力のLEDの採用が急増しています。自動車のヘッドライト、産業用/商業用の標識、建設用の照明、家庭用照明器具など、LED照明は様々なアプリケーションで使用されるようになっています。LED照明は、動作寿命が長いことに加え、電気から光出力への変換効率が高いという点で、従来の光源よりも明らかに優れています。そのため、あらゆる分野でLED照明への移行が促進されているのです

LED照明を採用したアプリケーションが普及していることから、高い光出力を得るために、LEDにより多くの電流を流せるようにしたいというニーズが高まっています。大電流によってLEDストリングを駆動するには、十分に制御された状態で電力を供給するパワー・コンバータ段が必要になります。このパワー・コンバータ段における最大の課題は、高い効率を維持することです。パワー・コンバータの効率が低いと、電流レギュレータ回路のスイッチング素子において、不要な熱が発生するからです。

アナログ・デバイセズの「LT3762」は、LEDの駆動に使用する同期整流方式の昇圧コントローラです(図1)。大電力の供給が求められる昇圧型のLEDドライバ・システムにおいて、損失を削減できるように設計されています。非同期方式のDC/DCコンバータでは、キャッチ・ダイオード(フリーホイール・ダイオード)の順方向の電圧降下によって損失が生じます。LT3762は同期整流方式を採用しているので、そのような損失を最小限に抑えることができます。また、LT3762を使用すれば、入力電圧が低いときでも、同じ条件下で非同期方式のコントローラを使用する場合と比べて、はるかに多くの出力電流を供給することができます。LT3762は、入力電圧が低い場合の動作を改善するためにDC/DCレギュレータを内蔵しているからです。このDC/DCレギュレータは、入力電圧が7.5V以下に低下した場合でも、ゲート・ドライバ回路に7.5Vを供給するよう機能します。つまり、LT3762は、入力電圧が低いケースにも対応可能な強力なゲート・ドライバ段を備えているということです。このことから、入力電圧の低下によってパワーMOSFETで発生する熱を削減可能なので、最小3Vという入力電圧範囲を達成することができています。

図1. LT3762のデモ用回路(DC2342A)。LT3762は入力電圧範囲が広く、最大32V/2Aの出力でLEDを駆動することができます。このデモ用回路は、出力電力を増加させるために、パワーMOSFETとコンデンサを容易に追加できるようになっています。
図1. LT3762のデモ用回路(DC2342A)。LT3762は入力電圧範囲が広く、最大32V/2Aの出力でLEDを駆動することができます。このデモ用回路は、出力電力を増加させるために、パワーMOSFETとコンデンサを容易に追加できるようになっています。

LT3762は、100kHz~1MHzの固定スイッチング周波数で動作するように構成できます。また、-30%×fSWのスペクトラム拡散周波数変調(オプション)を適用すれば、スイッチングに伴うEMI(電磁干渉)のピーク値を低減することが可能です。LEDを駆動する際には、昇圧、降圧、または昇降圧のトポロジで動作させることができます。ハイサイドの遮断用PMOSスイッチによってPWM(パルス幅変調)調光が容易になることに加え、LEDが開放/短絡の状態になった場合に、デバイスが損傷するのを防止することが可能です。

LT3762は、PWMジェネレータを内蔵しています。1つのコンデンサと1つのDC電圧によって、最大250:1のPWM調光比が得られるように周波数とパルス幅を設定することができます。あるいは、外部からのPWM信号を使って、3000:1の調光比を実現することも可能です。図2に、図1のデモ用回路「DC2342A」の回路図を示しました。入力電圧範囲は4V~28Vで、最大32V/2Aの出力によってLEDを駆動するように構成されています。LT3762のパッケージは、28ピンのTSSOPまたは4mm×5mmのQFNです。

図2 . LT3762を使用して構成した32V/2A出力の昇圧型LEDドライバ
図2 . LT3762を使用して構成した32V/2A出力の昇圧型LEDドライバ

同期式のスイッチング

非同期方式のDC/DCコンバータでは、1つのMOSFETだけをPWMで制御するという簡素化された方法を実現するために、受動スイッチとしてキャッチ・ダイオード(ショットキー・ダイオード)が使用されます。確かに制御の観点からは簡素化されますが、この構成では供給できる出力電流の量が制限されてしまいます。ショットキー・ダイオードでは、PN接合型のデバイスと同様に、電流が流れる前に順方向の電圧降下が起こります。この順方向の電圧降下により、電流との積で決まる電力が消費されます。この損失は、出力電流が多い場合には数Wのレベルに達します。その結果、ショットキー・ダイオードに熱が発生し、DC/DCコンバータとしての効率が低下します。

同期整流方式を採用しているLT3762は、出力電流について、非同期方式のDC/DCコンバータと同じような制限を受けることはありません。その理由は、ショットキー・ダイオードを第2 のMOSFETで置き換えているからです。MOSFETでは、ショットキー・ダイオードと同じように順方向の電圧降下が発生するわけではありません。その代わり、MOSFETが完全にオンになった状態では、ドレインとソースの間に値の小さい抵抗が形成されます。MOSFETの場合、このドレイン‐ソース間の抵抗値とMOSFETを流れる電流値の2乗の積に比例して電力損失が生じます。ドレイン‐ソース間の抵抗値が小さければ、MOSFETで生じる損失は電流量が多い場合でも、ショットキー・ダイオードと比べてかなり少なくなります。フル・パワー動作の最小入力電圧である7Vの場合でも、図3に示すようにMOSFETの温度は約30 °Cしか上昇しません。

図3 . 熱性能の比較結果。左の回路は同期整流方式のLT3762 、右の回路は非同期方式の「LT3755-2」を使用して構成しています。いずれの回路でも同等の部品を使用し、同じ条件下でテストを行いました。32V/2Aの出力でLEDストリングを駆動していますが、LT3762を使用した回路の方が、はるかに低い温度に収まっていることがわかります。この熱性能の差は、LT3762を使用した回路ではショットキー・ダイオードをMOSFETに置き換えて同期制御を行っていることから生じています。ショットキー・ダイオードにおける順方向の電圧降下によって生じる損失が削減されているということです。
図3 . 熱性能の比較結果。左の回路は同期整流方式のLT3762 、右の回路は非同期方式の「LT3755-2」を使用して構成しています。いずれの回路でも同等の部品を使用し、同じ条件下でテストを行いました。32V/2Aの出力でLEDストリングを駆動していますが、LT3762を使用した回路の方が、はるかに低い温度に収まっていることがわかります。この熱性能の差は、LT3762を使用した回路ではショットキー・ダイオードをMOSFETに置き換えて同期制御を行っていることから生じています。ショットキー・ダイオードにおける順方向の電圧降下によって生じる損失が削減されているということです。

低い入力電圧に対する動作

大出力に対応する一般的な昇圧コントローラには、もう1つの弱点があります。その問題は、入力電圧が低いときに露呈します。昇圧型のDC/DCレギュレータICの大半は、入力電圧から電力を得る内蔵LDO(低ドロップアウト)レギュレータを使って、IC内部のアナログ回路やデジタル回路に低い電圧で電力を供給します。内蔵LDOレギュレータが電力を供給する回路の中で、最も多くの電力を消費するのは、ゲート・ドライバです。LDOレギュレータの出力が変動すると、そのゲート・ドライバの性能に影響が及びます。入力電圧がLDOの本来の出力電圧より低くなると、LDOの出力が低下します。その結果、ゲート・ドライバの能力も低下し、MOSFETを適切にオンにすることができなくなります。MOSFETが完全にオンになっていない場合、ソース‐ドレイン間の抵抗値が高い状態で動作することになります。その結果、MOSFETに電流が流れることで多くの電力が消費され、熱の問題が発生してしまいます。

昇圧コンバータのトポロジでは、入力電圧が低い場合、抵抗値が大きいMOSFETに多くの電流が流れることになり、多大な損失が発生します。レギュレータICのゲート駆動電圧にもよりますが、このことは、デバイスが過熱することを避けるために、入力電圧範囲が厳しく制限される理由になる可能性があります。つまり、低い入力電圧に対する動作は保証の範囲外になるということです。

LT3762は、LDOレギュレータではなく昇降圧型のDC/DCレギュレータを内蔵しています。そのため、入力電圧が低いときでも、内部回路に7.5Vの電圧を供給することができます。この昇降圧レギュレータ用に使用されるピンは3本のみで、必要な外部部品は2個で済みます。LDOを内蔵する一般的なコントローラの場合、最小入力電圧は4.5Vや6Vといったレベルに制限されます。それに対し、LT3762の最小入力電圧は3Vです。昇降圧レギュレータによってゲート・ドライバには7.5Vが供給されるので、6V/7Vでゲートを駆動するMOSFETを使うことが可能です。ゲート駆動電圧の高いMOSFETはドレイン‐ ソース間の抵抗値が小さく抑えられる傾向があります。そのため、スイッチング損失を低減でき、ゲート駆動電圧の低いMOSFETを使う場合よりも高い効率が得られます(図4)。

図4 . LT3762を使用して構成したLEDドライバの効率。32V/2Aの出力時に、広い入力範囲の全体で高い効率を維持していることがわかります。入力電圧が低いときには、フォールドバックによって、スイッチ/インダクタに過電流が流れることを効果的に防止しています。入力電圧が24V以上になると、非同期でスイッチングが行われます。
図4 . LT3762を使用して構成したLEDドライバの効率。32V/2Aの出力時に、広い入力範囲の全体で高い効率を維持していることがわかります。入力電圧が低いときには、フォールドバックによって、スイッチ/インダクタに過電流が流れることを効果的に防止しています。入力電圧が24V以上になると、非同期でスイッチングが行われます。

柔軟なトポロジ

アナログ・デバイセズの他の昇圧型LEDドライバと同様に、LT3762はLEDを駆動するために、昇圧、降圧、昇降圧、降昇圧のいずれかで機能するように再構成することができます。これらのトポロジの中で、アナログ・デバイセズが特許を保有する昇降圧( ブースト‐バック)モードでは、EMIを低く抑えつつ、昇降圧コンバータとして機能させることができます。このトポロジでは、2つのインダクタを使用します。1つは入力側、もう1つは出力側に付加し、スイッチングによって発生するノイズのフィルタ処理を支援します。これら2つのインダクタは、負荷であるLEDだけでなく、入力源や、LT3762に接続される他のデバイスとカップリングすることによってEMIを低減します。

図5に、昇降圧モードで使用する場合の回路例を示しました。この例では、LED-のノードがグラウンドに対して短絡した状況に対応するための保護回路を追加しています。この保護回路は、LED-がグラウンドに短絡したらM4を強制的にターン・オフし、インダクタを介して入力までの導通パスが形成されることを防ぎます。それにより、過電流を防止します。M4が強制的にターン・オフされると、D3はEN/UVLOピンをローに引き下げ、短絡が解消されるまでスイッチング動作を停止します。LT3762が備える開放/短絡検出機能と組み合わせて使用する保護回路を追加することによって、過酷な環境における様々な故障に対応できる堅牢なソリューションを実現することが可能になります。

図5 . LT3762を使用して構成した25V/1.5V出力の昇降圧型LEDドライバ。LED-とグラウンドの間に短絡保護回路を付加しています。
図5 . LT3762を使用して構成した25V/1.5V出力の昇降圧型LEDドライバ。LED-とグラウンドの間に短絡保護回路を付加しています。

まとめ

非同期方式の昇圧コンバータでは、多大な電力損失やキャッチ・ダイオードの発熱を回避しつつ、多くの出力電流を供給するのは容易なことではありません。また、入力電圧が低い場合に最大の電力出力を維持することが難しく、入力電圧範囲や出力電力が制限されることになります。つまり、非同期方式のDC/DCコンバータは、LED照明のように大電力の供給が求められるアプリケーションには適していません。したがって、そうしたアプリケーションでは、同期整流方式のコンバータを選択すべきです。LT3762は、このような用途に適した同期整流方式の昇圧コントローラです。大電流の出力という問題には、同期式のスイッチング動作によって対処します。また、DC/DCレギュレータを内蔵していることから、同ICは非常に低い入力電圧でも動作します。更には、様々なトポロジを構成可能な柔軟性も備えています。

著者

Kyle Lawrence

Kyle Lawrence

Kyle Lawrenceは、アナログ・デバイセズのアソシエート・アプリケーション・エンジニアです。4スイッチの昇降圧レギュレータや、EMIの少ない車載アプリケーション向けのLEDドライバなど、様々なDC/DCコンバータの設計/テストを担当しています。2014年にサンタクルーズにあるカリフォルニア大学で電気工学の学士号を取得しました。