概要
プロトタイピングを実施している際、予期せぬ過電圧/逆電圧を生じさせてしまうことがあります。そのような事態は、集中力が一瞬途切れたりすることが原因で、誤った電源を回路に接続してしまった場合などに発生します。本稿では、ロード・ダンプに対する保護用回路を利用することで、その種の問題を回避する方法を紹介します。そのシンプルな回路を使用すれば、何時間にも及ぶ作業をやり直したりする必要がなくなります。
はじめに
フィールド・アプリケーション・エンジニアは、多くの異なる回路をすべて同時に扱わなければならないことがあります。それは、この仕事に就いている人にとっての醍醐味だと言えるかもしれません。確かにその状況は楽しいのですが、大きな問題を生じさせてしまう可能性もあります。例として、既存の回路を物理的に構成し直し、別の回路を組み上げるケースについて考えます。その場合、スパゲッティ状に絡まったプローブ線やリード線を接続し直さなければならないでしょう。配線の数が増えれば、どこかでミスをしてしまう可能性が非常に高くなります。最も基本的な事柄を見落としてしまったというのはよくあることです。プローブ線やリード線を何度もチェックし、すべてが正しく接続されていることが確認できたとします。その場合でも、電源装置の電圧が正しく設定されておらず、壊滅的な被害が生じてしまう可能性があります。そうすると、何時間もかけて一から作業をやり直さなければなりません。
そのような窮地を救うために役立つのが本稿で紹介する回路です。フィールド・アプリケーション・エンジニアの中には、改変を加えた無数の評価用ボードを収集している人がいます。それらのボードの中には、何らかの状況で役に立つものが含まれていることがあるからです。本稿で紹介するのは、「MAX16126」をベースとする回路です。同ICは、過電圧/逆電圧に対する保護機能を提供します。本来の用途は、車載回路の電源回路に誤った電圧が印加された場合に、その電源回路と下流の電子回路を保護することです。そのような危険な状況が生じるのは、車載バッテリの接続が誤っている場合や、バッテリからオルタネータが切り離されたためにロード・ダンプが発生した場合です。その結果、電子回路に過大な電圧や逆電圧が印加されることになります。本稿で紹介するのは、MAX16126の評価用キット「MAX16126EVKIT」にわずかな変更を加えた回路です。その回路は、実験室でプロトタイピングなどを行う際、非常に役に立ちます。
評価用キットの回路
図1に示したのは、MAX16126の評価用キットの回路です。この回路は、ロード・ダンプに対する保護を実現します。つまり、車載システムに印加される過電圧/逆電圧から電源回路とその下流の電子回路を保護するために設計されています。MAX16126は、チャージ・ポンプを内蔵しています。それによって、バック・ツー・バック接続された2つのNチャンネルMOSFET(Q1とQ2)が駆動されます。大元の入力電圧が所定の範囲(外付け抵抗によって設定)内にある場合、MOSFETが配置されたパスは損失の少ないフォワード・パスとして機能します。一方、入力電圧が高すぎるか低すぎる場合には、MOSFETのゲートが駆動されなくなります。MOSFETがオフになることでパスが遮断されるため、負荷(DC/DCコンバータなど)に対する給電が停止します。また、入力に逆電圧が印加された場合には、MAX16126のGATEピンとSRCピンの間の1MΩの内部抵抗により、Q1とQ2が確実にオフの状態になります。そのため、負の電圧がこの回路の出力に達することはありません。2つのMOSFETをバック・ツー・バック接続しているのは、ボディ・ダイオードに電流が流れないようにするためです。なお、MAX16126に似た製品として「MAX16127」も提供されています。MAX16127は、過電圧が生じた場合、MOSFETをスイッチングすることによって負荷に供給される電圧を維持します。その点がMAX16126とは異なります。
MAX16126のUVSETピンは、低電圧側の閾値(回路の最小トリップ閾値)を設定するために使用します。一方、同ICのOVSETピンは過電圧側の閾値(回路の最大トリップ閾値)を設定するために使用されます。同ICの内部では、TERMピンとINピンの間にスイッチが配置されています。同ICがシャットダウンの状態になると、そのスイッチはオープンになります。それにより、UVSETピンとOVSETピンに接続された抵抗分圧回路に入力電圧が印加されないようにすることができます。
図1の設計では、UVSETピンが抵抗を介してTERMピンに接続されています。そのため、MAX16126に入力される電圧が最小値である3Vに達すると、MOSFETがオンの状態になります。一方、OVSETピンはポテンショメータに接続されています。このポテンショメータを調整することで、過電圧側のトリップ閾値を変更できます。例えば、トリップ閾値を最大電圧に設定するには、ポテンショメータを最小値に調整します。トリップ閾値を最小電圧に設定するには、ポテンショメータを最大値に調整します。OVSETピンの電圧が1.225Vを上回ると、MAX16126はMOSFETをオフにします。また、過電圧のクランプ範囲は5V~30Vに制限する必要があります。上限の閾値と下限の閾値を設定するために、ポテンショメータの上と下には抵抗(R2とR3)を配置しています。更に、UVSETピンとOVSETピンのそれぞれにはツェナー・ダイオードを接続しています。その目的は各ピンの電圧を5.1V未満に制限することです。
ここでは、図1に示したように、R4の値を47kΩに設定すると仮定します。その場合のR2、R3の値を計算してみましょう。
まず、トリップ閾値を30Vにする場合には以下の式が成り立ちます。
また、トリップ閾値を5Vにする場合には以下の式が成り立ちます。
これら2つの式の左辺を等号で結ぶと、以下の式が得られます。
両辺の分母を消去すると、次の式が得られます。
上の式で得られたR3の値を使用すれば、R2の値を求められます(以下参照)。
標準品を使用できるように、ここではR3を10kΩ、R2を180kΩに設定することにします。それに応じて、上限の閾値は29V、下限の閾値は5.09Vになります。これらの値は、30Vの電源装置に対して非常に適切なものだと言えます。
テストの結果
図2に示したのは、改変済みの評価用キットの回路です。トリップ閾値の値を12.0Vに調整し、この回路のテストを実施しました。
実測を行った結果、下限の閾値は5.06V、上限の閾値は28.5Vとなりました。また、入力電圧を10V、負荷電流を1Aとすると、入力と出力の間の電圧は19mVになりました。この結果は、MOSFETのデータシートに記載されているオン抵抗の値(約10mΩ)と整合しています。
図3に示したのは、10Vのステップ状の電圧を入力した場合の回路の応答です。黄色のトレースは入力電圧、青色のトレースは出力電圧を表しています。ここで、トリップ閾値は12Vに設定されています。そのため、入力電圧はそのまま出力に引き渡されます。電圧降下はほとんど生じません。
次に、入力電圧を15Vに引き上げて、再度テストを実施しました。この場合、出力電圧は0Vのままです(図4)。
続いて、入力電圧の極性を逆にしてみます。-7Vのステップ状の電圧を入力すると、図5の結果が得られました。
更に、-15Vの電圧を回路に入力しました。その結果は図6のようになりました。
なお、入力電圧が負になる場合、MOSFETのゲート端子をプローブするに当たっては注意すべきことがあります。ここでもう一度、図1をご覧ください。2つのトランジスタのソース端子はQ1のボディ・ダイオードによってVINの方向に引っ張られます。ここでVINが負の電圧であるとしたら何が起きるでしょうか。MAX16126のGATEピンとSRCピンの間には1MΩの内部抵抗が存在します。ここで、オシロスコープを使用し、グラウンドを基準とする1MΩのプローブをMOSFETのゲート端子に接続したとします。すると、オシロスコープのプローブは0Vに対する1MΩのプルアップ抵抗のように機能します。入力電圧が負の値である場合、0V(ゲート電圧)とQ2のソース(Q1のボディ・ダイオードによって負に引き下げられている)の間に、抵抗分圧回路が形成されます。ここで、入力電圧がQ2のターンオン電圧の2倍よりも更に低い値まで引き下げられると、Q2がオンの状態になります。その結果、出力は負の方向に変化し始めます。この問題を回避するためには、オシロスコープのプローブとしてインピーダンスの高いものを使用してください。
まとめ
実験室で回路のテストを実施する際には、集中力が一瞬途切れたりすることによってロード・ダンプの状態を生じさせてしまうことがあります。本稿では、そのようなケースに対応するための方法を紹介しました。具体的には、MAX16126の評価用キット(MAX16126EVKIT)に簡単な変更を加えることで心強い保護機能を得ることができます。MAX16126EVKITのコンポーネントを使用する場合、損失を少なく抑えつつ、定格電圧が90V、負荷電流が最大50Aの保護用回路を実現することが可能です。





