概要
スイッチング電源(SMPS:Switch-mode Power Supply)では、窒化ガリウム(GaN)をベースとするパワー・スイッチが使用されるケースが増えてきました。GaNスイッチ(GaNFET)を使用すれば、効率と電力密度を高められるからです。実際、GaNスイッチについては、シリコン・ベースのパワー・スイッチ(パワーMOSFET)の代替品としての期待が高まっています。本稿では、SMPSで使用されるGaNスイッチの現状について説明します。その上で、GaNスイッチを使用する場合の課題を指摘し、その対策方法や今後の見通しを示します。
GaNスイッチが備える魅力
「シリコン・ベースのパワー・スイッチからGaNスイッチに移行するべき時が来たのだろうか?」――。この疑問については、パワー・マネージメント分野の設計技術者の間で広く議論が交わされています。GaNスイッチは、シリコン・ベースのパワーMOSFETに勝る多くの長所を備えています。ワイド・バンド・ギャップ半導体であるGaNをベースとしているので、より高い温度でも動作します。そのため、電力密度を高められます。また、ブレークダウン電圧が高いので、100V以上の電圧を扱うアプリケーションでも使用できます。100V未満の電圧しか扱わないアプリケーションでも、GaNスイッチを使用すれば電力密度を高められます。更に、GaNスイッチは高速なスイッチングが可能なので、様々な電源の設計において電力変換効率が向上します。このように、GaNスイッチは大きな魅力を秘めています。
GaNスイッチが抱える課題
当然のことながら、シリコン・ベースのMOSFETをGaNスイッチに置き換えるためには、いくつかの課題を解消しなければなりません。まず、シリコン・ベースのMOSFETと比べると、一般的にGaNスイッチの方が定格ゲート電圧が低くなります。したがって、GaNスイッチの損傷を防ぐために、最大電圧を超えないようドライバ段で厳格な制御を行わなければなりません。
また、電源のスイッチ・ノードで生じる高速な電圧の変化(dv/dt)に対処する必要があります。この電圧の変化により、ボトム側のスイッチが誤ってターンオンしてしまうかもしれないからです。この問題を解消するには、プルアップ・ピンとプルダウン・ピンを個別に用意すると共に、プリント回路基板のレイアウトを慎重に設計する必要があります。
更に、シリコン・ベースのMOSFETと比べると、GaNスイッチの方がデッド・タイムにおける伝導損失が多くなります。この問題を解消するための1つの方法は、デッド・タイムをできるだけ短くすることです。その際には、グラウンドへの短絡を防ぐために、ハイサイドとローサイドのスイッチが同時にオンになる時間が生じないよう十分に配慮しなければなりません。
設計を行う際の出発点
GaNスイッチは、電源の設計に対して魅力的なメリットをもたらします。では、その種の電源を設計する際には何から始めればよいのでしょうか。お勧めの方法は、まずGaN専用のコントローラICを選択することです。例えば、アナログ・デバイセズはGaN専用のコントローラ製品として「LTC7891」を提供しています。これは、シングルフェーズで動作する降圧コントローラです。当然のことながら、GaN専用のコントローラを選択すれば、GaNベースの電源回路はシンプルかつ堅牢性の高いものになります。なぜなら、GaN専用のコントローラは、先述したすべての課題を解消した状態で製品化されているからです。図1に、LTC7891とGaNスイッチを使用して構成した降圧レギュレータの例を示しました。ご覧のように、GaN専用のコントローラを使用すれば、設計が非常に簡素化されます。
任意のコントローラICの再利用
任意のコントローラICを使用して構成した既存の電源回路があったとします。それをなるべく再利用しつつ、GaNスイッチへの移行を図りたい場合にはどうすればよいのでしょうか。その場合、GaN専用のドライバICを導入する方法がお勧めです。そうすれば、GaNスイッチの制御に伴う課題を解消しつつ、シンプルかつ堅牢性の高い設計が得られます。図2の回路は、GaN専用のドライバICとして「LT8418」を使用した例です。そのようにして実装した降圧レギュレータのパワー段だけを示してあります。
最初の一歩
ハードウェア、コントローラIC、GaNスイッチを選択し終えたとしましょう。続いて行うべきことは評価です。最初に実施する評価方法としては、詳細な回路シミュレーションをお勧めします。アナログ・デバイセズは、無償のシミュレーション・ツールとしてLTspice®を提供しています。また、同ツール上でシミュレーションを行うための完全な回路モデルも無償提供しています。これらは、GaNスイッチの使用方法を学ぶための便利な手段になります。図3に、LTspiceでシミュレーションを実施するための回路例を示しました。この例では、LTC7891のデュアルチャンネル版である「LTC7890」を使用しています。
まとめ
SMPSでGaNスイッチを使用するための技術は、確実に進化しています。既に、多くの電源アプリケーションの設計に導入できる状況を迎えていると言えるでしょう。また、そうした技術は、新世代のGaNスイッチが登場するたびに更に進化していくはずです。アナログ・デバイセズは、既にGaN専用のコントローラICやドライバICを提供しています。それらは、高い信頼性と柔軟性を兼ね備えています。そのため、多くのベンダーが現在/将来提供する様々なGaNスイッチに対応できます。